第26話 決着

アンナ・ルイスが撃った風切鳥の羽の矢が、陰陽師の左足、太腿を射抜いた。地面に転がるように倒れた陰陽師の身柄を、岩倉尾田兵を蹴散らしたグウィン・ケレルが取り押さえた。彼を援護するように、マハウス・バリッシュと兵達が陰陽師を救おうとする敵兵を打ち払う。


「おのれ! おのれええええええ!」

「はいはい、ちょっと黙ってよね」


掌底で陰陽師の顎を打ち抜き、意識を刈り取る。

何とか召喚儀式は直前で阻止できた。岩倉尾田兵も、もはや勝機が無いと悟ったのだろう。マハウス・バリッシュの降伏勧告に応じ、武器を捨て始めた。


「しっかし、どうしてこう簡単に同胞を殺せるってのさ」

「時々思うけど、大和人の愛国心って、度が過ぎてない?。あたしには、狂ってるようにみえるわ」

「その狂気が強さなのだろう。大戦において、大和人の抵抗は凄まじかったと学んだ。武士もまた、死を厭わぬ勇猛な戦士なのだ」

「......やっぱ、無理なのかなぁ。異邦人おれたち大和人こいつらが肩を並べて生きていくっつうのは」


三人の胸中に、言いようのない思いが蘇る。

まだ幼く、無邪気だった頃、遊んだ大和人の友達がいた。自分たちの違いなど気にも止めず、ただ楽しく遊んだ日々だ。

けれど、成長していくと共に、立場、民族、思想の違いから自然と距離が遠くなり、友達という縁はあっさりと切れた。

すれ違うように再会したことがあるかつての友達は、嫉妬、媚、嫌悪。その殆どが負の感情を宿して自分達を見た。

あまりに複雑すぎる世界に生きている事を、嫌という程、味わった。


「俺は諦めない」


らしくなく弱音を口にしたグウィン・ケレルに、マハウス・バリッシュは強い口調で呟いた。


「王が道を示される限り、俺は王の旗下のもと、戦い続ける」

「......そうよ。あたしたちは友達がいなくなっちゃったけど、あたしたちの子供にはそんな思いをしてほしくない。だから、戦ってるんじゃない。アンタらしくないわよ、グウィン。大和人の女性は大好きなんでしょ? なら諦めるのはナシ」

「そうだね......そうだよね。未来で僕に抱かれることを待ってる女性が何人いることか。期待を裏切るわけにはいかないよね」

「....................動機が極めて不純だけど、そうなったらあたしがちゃんと泣かされた子に代わって天罰を下してやるわ」

「俺も手伝おう。さすがに見逃せない」

「ええええええええええええ!!!? 僕を励ましてくれたんじゃないの!?。なんで死の宣告を突きつけられるわけ!?」

「「当たり前よ(だ)」」


表情に乏しいマハウス・バリッシュ。快活な笑顔のアンナ・ルイス。

二人が居れば、僕は立ち止まらない。二人が立ち止まらせてくれない。グウィン・ケレルはいつだって、二人がいれば強くなれる。


「よし、ゴーヴァン様の方も決着がついたみたいだし、後はまだ抵抗してる奴らを掃討するだけだ」

「それに村の人も救出しないと。助けを求めてる人はまだいるはずだから」

「勿論さ。マハウス、手伝ってくれ。こいつと、降伏した連中を縛り上げてからじゃないと動けないからさ」

「任せろ」

「じゃ、急ぐわよ!」


三人は突き出した拳を軽く突き合わせて、迷わず動き出したのだった。




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