第15話

 正樹達が泊まる210号室の真正面にある倉庫。その中で、正樹と泉はごそごそとあちらこちらを漁っている。

「誰が犯人か、目星はついた。……あとは……」

「物的証拠か? そのために、倉庫に侵入とか……」

「鍵を盗ってきたのはお前だろ。……というか、よく倉庫の鍵の場所がわかったな」

 感心しているような呆れているような声と顔で正樹が言えば、泉は何故か表情を無にして目を逸らす。

「べっつにぃ? 昨日スペアキーを取りに行ったキーボックスに、倉庫の鍵も一緒に入れてあっただけだしぃ?」

「……妙にひっかかる言い方だが、まぁ、良い。大体、乱闘以上に慣れてるだろ? 侵入」

 物騒な発言にも、泉は「まぁなぁ……」としか言わない。そして、目を逸らしたままで「ん?」と呟いた。

「正樹、コレ何だ?」

 泉の視線の先には、白い布張りの大きな箱が置かれていた。底にはキャスターも取り付けられているらしい。中には、シーツのような白い布が入れられている。

「……あぁ、リネンカートだな。客室からベッドのシーツを回収する時に使うんだよ」

 説明しながら、正樹は首を傾げた。

「……シーツが入ってる。もう何処かの部屋のシーツを回収したのか? それとも、昨日の朝回収した物……?」

 ぶつぶつと呟いている間に泉は早速中に入ったシーツを取り出している。そして、顔を顰めた。

「……うわ、くっせー。このシーツ使ったベッドで寝てた奴、どんな体臭してんだよ? シュールストレミングみてぇな臭いがするぞ。……うわ、よく見りゃ汚ぇシミまである」

「シュールストレミング? ……あぁ、あの有名な、スウェーデンの缶詰か」

 正樹の言葉に、泉は何故か楽しそうに頷いた。

「そうそう。世界一臭い食い物って言われてる、あれ」

「缶詰……缶詰か」

 そこで、正樹はハッと目を見開いた。

「……そうか!」

「お、何なに? これ、証拠品になりそうか?」

 嬉しそうに問う泉に、正樹は「あぁ」と、力強く頷いた。

「大手柄だぞ、泉。……手柄ついでに、一つ頼みたい事がある」

 そう言われて、泉は興奮で目を輝かせた。

「おぉっ! ついに俺の出番?」

「あぁ。怪しまれないよう、スマートにな?」

 すると、泉はニヤリと笑って見せる。

「誰に向かって言ってんだよ? 任せろってんだ」

「頼んだ」

 正樹が頷くと同時に、泉は颯爽と倉庫から飛び出して行く。その後ろ姿を眺めてから、正樹はリネンカートに視線を落とした。

(トリックはわかった。物的証拠も、何とかなりそうだ。あとは……泉の働き次第か……)

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