第14話

「……改めて見ても、別段変わったところは無いな……。206号室の扉が壊れている事ぐらいか」

 二階の廊下をうろつきながら、正樹は肩を竦めた。後で適当にあちらこちらを眺めながら、泉が「そりゃあな」と頷いている。

「よっぽど大幅に変わってでもねぇと、気付かねぇんじゃねぇの? 人間の記憶なんてあやふやなモンだしさ。……そういや、学校の怪談に夜中に一段増えている階段ってあったけどさ、アレって実際にそうなったところで、誰か気付くのかな? 教室が一つ増えてる、とかなら気付きそうなもんだけどさ」

「階段や教室がなぁ……」

 泉の軽口に気を取られ、そこで正樹はふと、眉根を寄せた。ぐるりと廊下を見渡し、そして泉の方を見る。

「……泉、お前、ちょっとこの階の扉を数えてみろ」

 言われて、軽口を叩いた当の本人である泉は嫌そうな顔をした。「えー?」という声まで漏れ出てくる。

「何だよ、それ? 霧の女神様に取り憑かれて、頭でもおかしくなったのか?」

「良いから。数えてみろ」

 有無を言わさぬ正樹の言葉に、泉は不満そうに頬を膨らませた。そして、渋々と廊下の客室が並ぶ面を見る。

「何考えてんだよ。まさか、十部屋のはずの客室が、十一室に増えてるとか?」

 呆れた様子で、「一、二、三……」と数え始める。そして、指が最後の部屋――正樹と泉が泊まっている部屋を指差したところで、「え?」と顔を強張らせた。

「……おい正樹、これってどういう……!?」

 泉の問いに、正樹は答えない。ただ「なるほどな……」と腕を組んで納得するばかりだ。

「……見えてきたぞ、犯人がどんなトリックを使ったのか。けど、まだわからない点はある……。犯人はどうやって……おい、泉」

「今度は何だよ?」

 うんざりした様子で問う泉に、正樹は「思い出せ」と言う。

「お前、食事をしていた時なんかに気付いた事は無いか? 例えば、最後にお茶を飲んでいた時とか……」

「茶ぁ?」

 怪訝な顔をして、泉は眉根を寄せた。少し考えてから、口を開く。

「……あの時は確か、全員が砂糖を入れてたんだよな。正樹と奈緒さんがコーヒーで、俺と勇作さんはミルクティー。和島さんと南さんはレモンティーにしてたっけ」

「……そうだったな。……他には?」

 正樹は頷き、続きを促す。泉は「他……他なぁ……」と呟いた。

「……あぁ、そう言えば。一人変わった飲み方してるのがいたぜ」

「変わった飲み方?」

 首を傾げる正樹に、泉は「そうそう」と頷いて見せる。

「その飲み方、意味あんのー? みたいな?」

 よし、と、正樹は呟いた。右手が、微かにガッツポーズを作っている。そして、真剣そのものな顔で泉に言った。

「詳しく教えてくれ。それが、犯人を特定するヒントになるかもしれない」

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