第13話

「勇作さんが調べたところ、鬼頭の死亡推定時刻は深夜二時頃。……俺達が寝こけてた頃だな。死因は絞殺。殺害現場は206号室内で、備え付けのドライヤーのコードを使ったんじゃないかって事だ。詳しい事は警察や鑑識が到着してから調べてみないとわからないだろうが、まぁ、俺が見た感じではこんな所かな」

 210号室のベッドに腰掛け、正樹は手帳に書き記された情報を頭の中でまとめながら口にした。納得した様子で、泉が頷く。

「ベッドのシーツはぐっちゃぐちゃだったし、横にドライヤーが転がってたもんなー。……他には?」

「調べてみたが、206号室は窓も全部鍵がかかっていた。人が通れるサイズの通気口のような物も無い」

 そう聞いて、泉はため息を吐く。「やっぱりな……」と呟いた。

「つまり、現場は密室だったってわけだ。……あ、けどわかんねぇぞ? 犯人は俺達が食事をしている間にスペアキーを盗んで206号室に侵入して、ベッドの下かどこかで鬼頭が戻ってくるのを待ち伏せしてたのかも……」

 すかさず、正樹が首を振った。

「スペアキーをどうやって戻したんだ? 昨日の夜はスペアキーで扉を開けただろうが。客室の扉は全てオートロックだから、鍵を戻してから206号室へ行っても、扉は再び閉まってる」

「……ドアストッパーをかませておいたとか……」

「それも無いな。開けている間、誰が通るかわからないんだぞ。事実、昨日鬼頭が部屋を離れ、再び戻るまでの間に和島さんと南さんが2階の廊下を通ってる。勇作さんだって、一服ついでに部屋に寄るぐらいはしたかもしれない」

 正樹に言われ、泉が「えーっと……」と考え出した。机の上に置かれた館内案内図を見ながら、必死に思い出そうとしている。

「……富田さん達が201号室で、南さんが203号室なんだっけ? んで、鬼頭が206号室で、俺らが210号室。でもって、和島さんが予備の蛍光灯を取りに行ったっつー倉庫が、俺らの部屋の真ん前っと。……俺らの部屋、本気で条件悪いんじゃね?」

「文句を言うな。俺達は寝れればどこでも良かったんだから」

 車中泊に比べたら天国だろうと言われても、泉は引き下がらない。違和感がある、という顔だ。

「……って言うかさ、部屋の振り分け方、おかしくね? 富田さん達の部屋から一部屋挟んで、南さんの部屋。そこから二部屋挟んで鬼頭の部屋。更に三部屋挟んで俺達って……俺達は部外者だから一番遠くの部屋に追いやったのかもしれねぇけどさ。あの人ら、同窓会だろ? なら、201から203の三部屋の並びで良いじゃねぇか」

「あの嫌われっぷりだからな。鬼頭の部屋をなるべく富田さん達と南さんから離したかったのかもしれない」

 その推測に、泉は納得したのか頷いた。ぽん、と手まで叩いている。

「あ、なーる。かと言って、富田さん達と南さんの部屋だけ隣同士にして、鬼頭の部屋だけ離したら、それはそれで荒れそうだもんな、アイツ」

 正樹が、同意するように頷いた。

「それは充分に考えられる。あとは、ひょっとしたら207か208号室には、例のイワラって人物が泊まる予定だったのかもしれない」

「あぁ、現在絶賛犯人扱い中の幻のイワラね。イワラ、イワラ……イワララ、イワラララ……なーんか、俺、この名前に聞き覚えがある気がするんだよな……」

 何故かゴジラのメインテーマのリズムで呟く泉の発言に、正樹は怪訝な顔をした。

「お前もか?」

「え、正樹も? イワラの名前を聞いた覚えあんの? ……うわー、マジで何者なんだよ、幻のイワラ。ちょっと気になってきちゃったじゃねぇか」

 頭を抱えて悶える泉を眺めながら、正樹はため息を吐いた。

「……考えても埒が明かないな。もう一度現場を調べてみるか」

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