第12話

 ダイニングルーム兼リビングで顔を強張らせたまま、和島は電話の受話器を置いた。暗い面持ちで、皆に向かって口を開く。

「駄目です……。霧で視界が悪くて……元々町から離れた場所でもありますし、警察が到着するのは、早くても二時間後になりそうです」

「そう、ですか……」

 南が俯き、勇作は顔を歪めてテーブルを叩く。

「くそっ! 何でこんな事になったんだ。一体誰が、何のために鬼頭を!?」

「まぁ、何のためにってのは考えるまでも無さそうだけどな。随分な人数に恨まれてそうだし。それよりも俺はどうやって、ってのが気になるな」

 妙に落ち着いた様子で言う泉に、奈緒が首を傾げた。

「どうやって、って……?」

 すると泉は、「だって、そうだろ?」と眉根を寄せる。

「昨日の夜、鬼頭は206号室の鍵を、スペアキーも併せて二つとも持って部屋に入っちまった。部屋はオートロック。……和島さん、スペアキーって、あれ一つだけ? それとも、他にあったりすんの?」

「いえ、あれ一つだけですが……」

 困惑した顔で和島が言えば、その困惑顔は次第に周りに伝播していく。

「……ちょっと待ってよ。じゃあ、これってまさか……」

「密室殺人……って事ですか……!?」

「そうなりますね」

 頷く正樹に、一同は息を呑んだ。

「密室だなんて……一体どうやってそんな……?」

「それを、今から調べるんです」

 落ち着いた声で言う正樹に、勇作が首を傾げる。その目は、まじまじと正樹を見ていた。

「調べる? ……君が?」

「あ、いえ。今のは、警察が来次第、という意味で……」

 正樹の言葉に、一同は納得したように頷いた。和島は「……そうか。そうですよね……」とぶつぶつつぶやいている。

「……あ、あの……」

 南が、遠慮がちに手を上げた。奈緒が、首を傾げる。

「何? どうしたの、詩織?」

「殺人……という事は、この辺りのどこかに鬼頭さんを殺した犯人がいるって事ですよね? じゃあまさか、昨日イワラさんが来なかったのって、ひょっとして……」

 南の言葉に、辺りがざわついた。そうだ、そう言えばまだ、昨日来るはずだったイワラなる人物が来ていない。

「……まさか。イワラも殺人犯に襲われたかも……!?」

「いや、それはわからないな。ひょっとしたら、イワラ自身が鬼頭を殺した犯人なのかもしれない」

「そんな……イワラさんがどうして? いつも鬼頭さんと一緒だったのに……」

「あいつは鬼頭の腰巾着だったけど、調子の良い奴だからね。実際はそれほど仲が良くなかったのかもしれないわ。自分の都合で、鬼頭の悪さに平気で手を貸すような奴だし……あいつが鬼頭を殺したとしても、何も不思議じゃないわ」

「イワラが……いや、そんなまさか……けど……」

 皆がざわめいている様子を、泉は詰まらなそうな顔で見詰めている。そして、面白くなさそうな顔で、正樹を見た。

「なぁ、正樹。何かそのイワラって奴が犯人だって方向で話が固まってるみてぇだけど……」

「イワラって奴と直接会った事の無い俺達には、口を挟める話題じゃないな。とりあえず、一旦部屋に戻るぞ。事の顛末を整理したい」

 正樹に言われて、泉は頷く。そして二人は、部屋に戻るべく、ダイニングルームを後にした。

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