第11話
どこかから、強く扉を叩く音が聞こえてくる。この部屋ではない、どこかの扉の。
遠くから聞こえるその音に、正樹は目を覚ました。「うー……」と唸りながら、上体を起こす。
「……今、何時だ……?」
「んぁ……? あー……6時半……。……なぁ、正樹ぃ、あの音、何だと思う?」
同じように目を覚ました泉が、ぼんやりと時計を眺めながら問う。扉の音は、いつまでも聞こえ続けている。
正樹と泉は顔を見合わせ、素早く着替えると部屋の外へと出た。
「鬼頭! おい、鬼頭!?」
勇作が、必死の形相で扉を叩いていた。その横では不安げな顔で、和島、奈緒、南が様子を伺っている。
「おはようございます。何かあったんですか?」
正樹が声をかけると、和島が視線を寄越し、困ったような顔で「おはようございます」と言った。
「その……鬼頭が部屋から出てこないんです。今日の午後に用事があるから、6時に起こせと言われていたんですが……」
「じゃあ、スペアキーで開けて入れば良いんじゃねぇの?」
事も無げに言う泉に、正樹は呆れた顔をした。
「スペアキーは昨日、お前が奪い取られて部屋の中だろう?」
「あ、そっか……」
申し訳なさそうな様子で頭を掻く泉を余所に、勇作達は扉を叩き、声をかけ続ける。
「鬼頭さん? 起きて下さい。鬼頭さん!?」
「鬼頭、アンタいい加減にしなさいよ! 昨日からアンタ一人にみんなが迷惑してるんだから!」
ドンドンドン! ドンドンドン! ドンドンドン!
扉を叩く音が響き続ける。しかし、どれだけ叩いても、鬼頭の部屋からは何も聞こえてこない。
「駄目か……」
手が痛くなったのだろう。叩くのをやめ、疲れた様子で勇作が呟いた。その横で、泉が目を眇める。
「……なぁ、正樹。これってまさか……」
正樹が、「あぁ」と頷いた。
「……和島さん」
「……はい?」
和島が振り向いた時には、もう正樹は後ろに下がって扉を睨み付けている。
「済みません。ドア、壊します!」
「えっ……?」
和島がそれ以上何か言う前に、正樹は扉に向かって突き進んだ。和島、勇作が思わず体を逸らし、正樹は誰にぶつかる事も無く扉に体当たる。
ドン! という大きな音がするが、扉は壊れない。中から誰かが起きてくる気配も無い。
「そうするしかないか……私も!」
勇作も、正樹と交代で扉にぶつかり始めた。和島も、顔を曇らせて頷く。
「……そう、ですね……」
そして、和島も扉への体当たりに参加する。三人が交代でぶつかり続け、遂に蝶番がミシリと音を立てた。やがて、メリメリと音がして、扉が部屋の向こう側へと勢いよく倒れる。男三人は上手い事バランスを取り、部屋に倒れ込む事を防いだ。
最初に部屋に突入したのは、勇作だ。
「鬼頭!」
そこで、彼は目を見開いた。廊下で成り行きを見守っていた女性二人が、首を傾げる。
「何? あなた、どうしたの?」
「鬼頭さん、どうかしたんですか?」
部屋の中を覗き込もうとする二人に、正樹がハッと顔を強張らせた。
「駄目だ、見るな!」
しかし、時は既に遅かった。
「……っ!」
「あ、鬼頭、さ……? え!?」
奈緒と南の顔が、呆け、そして引き攣った。和島は顔を青くし、やっとの事で声を絞り出す。
「き、きき……鬼頭? おい、鬼頭!?」
部屋の隅、ベッドの上で、鬼頭は倒れ伏していた。顔は土気色、どれだけ呼んでも、ぴくりとも動かない。医者である勇作が、鬼頭の手首を持ち上げ、脈を取った。
「……駄目だ。もう死んでる……」
「……おい、正樹……」
青褪める一同を横目に眺めながら、泉は相棒の名を呼ぶ。正樹は、険しい顔をして頷いた。
「あぁ……どうやら、霧の女神様はこれを見越して、俺達をここへ導いたらしいな……」
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