第5話

「へぇ。勇作さんと奈緒さんは、高校生の時からずっと付き合ってたんだ」

 肉を口に運びながら、泉は興味津々といった顔で勇作を見た。勇作は、ワインを口に運びつつ苦笑する。

「あぁ。今思い返すと、青臭い思い出ばかりだよ。……そうそう、和島が好きな女の子に告白できるように二人で発破をかけたり、南が出版社に持ち込みをするのに付き添っていった事もあったな」

「そんな事もありましたね」

「あったあった」

 南と奈緒が、楽しそうに頷く。すると、ビールで顔を赤くした鬼頭が嘗め回すように和島の方を見る。

「何だぁ? 和島に好きな女なんていたのかよ。……まぁ、和島は昔っから愚図でヘタレだったからな。どうせその女とは、結局何ともなってねぇんだろ? 女なんざ、一回押し倒しゃあテメェのモンになるってのによ」

 ひゃひゃひゃ、と品の無い笑い声を発する鬼頭に、富田夫妻が押し黙る。南が、居心地悪そうに「あの……」と声を発するも、その後に言葉が続かない。

「まぁまぁ、そんな昔の事は忘れて、今は飲もうよ。ほら鬼頭、グラス出してよ」

 そう言って、和島はワインの瓶を鬼頭に差し出した。しかし、鬼頭はグラスを出しながらも、ニヤニヤと笑っている。

「おいおい、昔の事語るのが同窓会だろうがよ。それを忘れてどうすんだよ。お前本当に愚図だなぁ。お前みてぇな愚図が作った飯なんか食って、本当に大丈夫か? あとで食中毒にでもなったりしねぇだろうな? 俺が酒のアテに持ってきた缶詰の方がまだ美味いんじゃねぇのか?」

「……」

 和島は、何も言わない。それを良い事に、鬼頭はどんどん言葉を並べていく。

「まぁ、富田達よりゃマシか。何せ、ホチキスで自分の指も綴じちまうような不器用男と、金魚の水槽に花生けちまうような大雑把女が外科医とナースだっつーんだからな。マジで世も末だよ」

 富田夫妻も、何も言わない。諦めているのか、鬼頭の言うに任せている。

「マトモなのは南ぐらいか? まぁ、南だって大人しそうな顔して、仕事取るために何回違う男と寝てるかわかったもんじゃねぇけどな」

「な……そんな事はしてません!」

 顔を真っ赤にして抗議する南に、鬼頭は「どうだか」と鼻で笑った。その様子に、ついに奈緒がテーブルを叩いて立ち上がる。

「ったく、さっきからうるさいわね。アンタは酒でも飲んでなさいよ! ほら、お酌してあげるから!」

 そう言ってビールの缶を一つ手に取ると、鬼頭が乾したグラスに一気に注ぎ込む。その様子に、鬼頭が顔を顰めた。

「酌っつーなら、もっと色っぽくやれよ! 何だよ、その注ぎ方」

「うるさい! 飲めれば良いでしょ、飲めれば!」

 怒鳴り合い始めた二人を遠巻きに見詰めながら、泉がぼそりと呟いた。

「……正樹。俺、帰りたい……」

「帰れなかったから、今ここにいさせてもらってるんだろ。我慢しろ」

 そう言う正樹も、帰りたそうな顔だ。最も、彼が道に迷ったりしなければ、このような事にはなっていないのだが。泉はため息を吐き、天井を仰いだ。

「……マジで恨むぞ、霧の女神様……」

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