2018年5月 第2週―②

 ――目的の広場の一角で、踊っているのと脇で演奏をしているのが二人。三人とも男性アバターの悪魔で、当然ながら自分は見覚えがない。天使が乗り込んでくることに対しても警戒していないようで、用心棒のような仲間もいる様子はなかった。


「……【ブエル】に男のプレイヤーなんているのか?」

「んー。男性アバターはパッとしないからなぁ_(:3 」∠)_」


 仮に【ブエル】だったとしても、そのスコアの動きで[ブエル]が気付く……だろう、たぶん。仮にも第一位なのだから。


「いったい、どの悪魔グループが……」


 とりあえず、話を聞いてみないことには分からない。いきなり割り込むのも気が引けたので、踊りと演奏が終わるまで待つことにする。あまり[ブエル]のライブをじっくりと観たことがないので、明確に比較はできないけれども――確かに、NPCの集まり具合が違うような気もした。






「……ちょっといいですか?」


 たとえ観客全員がNPCだろうとしても、ライブ中に乗り込むほど鬼じゃない。NPCもそこに四六時中釘づけになっているわけでもなく、バラバラと離れていくのを確認してから男たちに声をかけた。


「なんです?」


『【ブエル】のシマでなにしとんじゃ、おぉん?」って言ってよ(๑•̀ㅂ•́)و✧』

『うるせぇ』


 個人チャットひそひそで無茶振りすな。


「見たところ【ブエル】じゃないようですけど……なんでここでこんな活動を?」


 アホなことを言っている[ブエル]は置いて話を続ける。とりあえず向こうも悪人ではないようで、いきなり斬りかかってくることもなかった。


「あの……僕たち【デカラビア】なんですけど――」

「……【デカラビア】?◟( ˘•ω•˘ )◞」


 ――五芒星の形をした悪魔だったか。


 ソロモン七十二柱序列六十九位【デカラビア】。


 どんな性質で、どういったことをする悪魔なのかってのは不明、もともとその見た目に関しての情報しかない奴だったような覚えがある。


「今月のボーナスがこのアイドル活動なんです」

「あぁ……確か毎月ランダムでボーナスが変わるんだったか」


「スターを目指してるわけね……五芒星だけに!(・ω<)☆」

「つまんねぇぞ、それ」


 ……なんにせよ、【ブエル】のスコアの集まりが悪いのは、この【デカラビア】たちによるものだってのは間違いないだろう。


「……それでも、今月から始めてこのスコアはおかしくないか?」


 スコアは月ごとにリセットされるわけで。そこから装備の充実や場所の確保を考えると、それなりに時間を要するはずなんだが。


「それが……もともとのアバター効果もあるんですが……。街中で≪演奏≫を行っているところで≪踊る≫と、上昇にさらにボーナスが付くっぽいんです」


 ……初耳だった。


「……知ってたか?」

「も、もちろん( ᵅั ᴈ ᵅั;)~♬」


「嘘つけぇ!」


 知っていたならとうに行っていただろう。思えば、街の喧噪の中で黙々と踊っているのは、見ていてシュールなものだった。


 基本的に客の取り合いになる【ブエル】だからこそ、他のグループと組んでスコア稼ぎをすることはないのだろう。よくて他の悪魔は、ボディーガード役ぐらい。


「……これだけ稼げるなら、【ブエル】に移ってもいい線行きそうだけどな」

「え゛(๑°⌓°๑)」


 実質、この三人で【ブエル】全体のスコアに影響を与えていたようなものだ。このままメインで“仕事”をしても上位に上がれるだろう。しかし、彼らにはそういうつもりは無いようだった。


「なんだかんだで、この【デカラビア】のスタンスが気に入ってるんですよ。今回はたまたま自分が一位になっただけで、別の月で≪演奏≫がボーナスになれば、別の誰かが一位になるでしょうし」


 ≪回復≫がボーナスになるのならば、今度はそれに向けてアイテムやらスキルやらをいろいろ準備するらしい。


 彼らが言うには――毎月変わる目標に向けて頑張るのが楽しいようで。それは今までの自分にはない発想だった。


「とりあえず――今月いっぱいはこのまま活動してもいいでしょうか……」


 恐る恐る、【デカラビア】の一人が訪ねてくる。一応、新参という立ち位置になるためか――対立するような形になってまで、前面に出て活動するつもりはないようだった。


「いいよいいよー。いいこと教えてもらったし(*´艸`)」

「…………?」






 これで今回の事件(?)は、一応の解決を迎えたといったところだろうか?


 最初に捕まったロビー、≪カイーナ≫に戻ったところで[ブエル]から多少の礼を受け取る。……そんなもの期待してなかったのに律儀なことで。


「それじゃあ、私は演奏してくれる人を募集してくるから! 今日はありがと!」


「えげつないな。さっそく実践に移すのかよ」

「有益な情報はすぐに取り入れないと!(屮゜Д゜)屮」


 ≪演奏≫がメインの“仕事”となっている【アムドゥスキアス】から、ライブメンバーの募集をかけ始めようとしたのは言うまでもない。さて、止める気もさらさらないけど、ここはどうしたものか。


「今回の件は俺からダンタリオンに報告しとけばいいんだな?」

「……やっぱり?(๑•́‧̫•̀๑)」


「後で隠してたのがバレて困るのはお前だろうが。実力で居座ってる第一位の席なんだから、つまらないことして汚すのも馬鹿らしいだろ?」


 ここで[ブエル]だけに留めておいたところで、得をするのは彼女とさっきの【デカラビア】たちぐらいのもの。個人戦がメインのゲームならともかく、陣営で動くゲームで情報の秘匿はメリットよりデメリットの方がデカいし。


 その『知らなかった』で出る損害が大きくなった時――真っ先に槍玉に挙げられるのは『知っていた』ごく一部の者である。


「分かってる、うん。フェアにいかないと(๑•﹏•)」


 ……今回のボーナスの件は、間違いなくwikiに載せられる。[ダンタリオン]なら広く、公平に情報を提供したうえで、わだかまりもないよう上手く繕ってくれるだろう。


「それでも一番乗りはここまで調べた私の特権だよね!」

「人の手柄を無かったことにするな」


 とは言っても、報酬も受け取ってた後だけど。蓋を開けてみれば二人して街の中をだらだらと回っただけだし。


「グラたんの言うように、私だけが極端に早く動いても怪しまれるから。[ダンタリオン]への報告はなるべく早くお願いします(人◕ω◕)」

「そんなに急ぐ必要もないだろうに」


 今回の件で陣営全体が得る利益は大きい。今後、グループの組み合わせでボーナスを得る“仕事”を探す者も出てくるかもしれない。そんな中でただ一つ言えるのは――


「時勢というのは常に激しく移り変わるものなのだよ!(-□д□-)✧」

「……お前は企業家か」


 これからの【ブエル】内の順位争いが激しくなるであろう、ということだった。


「もうちょっとこう、のんびりとしたさ」

「(´・ω・`)?」


「和気藹々なグループだと思っていたんだがなぁ」


 戦闘行為が絡まないだけで、利用できるものは利用して、頂点を奪い合う様は――他のグループとなんら変わりがない。……結局のところ、どこもいろいろと苦労しているらしい。


 地獄界のトップオブトップ。頂点で輝く一番星は――


「ハングリーでないとアイドルは務まりませんから!(๑˃̵ᴗ˂̵)و 」


 ――そう言って、自慢げにガッツポーズをしていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る