2018年 4月末 アルマゲドン―④
『さて、どうしたもんかねぇ。向こうの体力は減っちゃあいるが』
それまでの悪魔達との戦闘が響いているのだろう。特に[バアル=ゼブル]の存在が大きい。……せめて残っている間に援護に付くことができれば、大きく違っていたはずだけど――後悔をしている暇なんてないよなぁ……。
「別に回復するまで待ってやってもいいんだぞ?」
『いやいやいやいや』何言ってんだこの人。
「こちらとしては、一秒も早く君たちを倒さないといけないんでね」
向こうにも確かにある焦り。悪魔陣営が優勢ってのを向こうの二人も把握してるのだろう。現に、溜めもなく真っ直ぐにこちらへ突っ込んできたのだし。
『――片方は任せたぞ』
そう言って――
『――――』
戦闘中ならともかく、相手に先手を取らせることなんて初めて見たかもしれない。相手が四大天使――そのトップだからなのだろう。【シトリー】でもないのに、まるで相手の実力を見定める目が備わっているようだった。
――[ケルベロス]がそう動くのならと、合わせて自分も反対方向へ下がる。
『ただの脳筋じゃないってのが怖いところだよなぁ……』
『……何か言ったか?』
『いえ、なんでも』
多分、ちゃんと聞こえてんだろうなぁ……。そう内心で苦笑いしながら、相手の出方を待つ。二手に分かれて来るのなら、[ガブリエル]・[ラファエル]の時のように戦うしかないのだけれど――
『そうきたか――!』
二人とも[ケルベロス]の方へと向かった!?
『おいおい、舐められてんぞ第一位』
牽制に放った《影縫い》すらも無視されて。[ウリエル]どころか、攻撃が当たった[ミカエル]すらも足を止めることはない。そもそも数に入ってないってことかよ!
『クソッたれめ!』
背を向ける余裕なんて無いって、嫌でも分からせてやるよ――
[ミカエル]は[ケルベロス]を挟んで向こう側、ぐるりと回り込む形で移動していた。それならばと、[ウリエル]に向かって《影縫い》を当てる。更に割り込む形で大技を打ち込むも、依然としてこちらのことを気にも留めない様子で。
ようやく二発目が当たって[ウリエル]に≪バインド≫がかかり、完全に足が鈍ったところで、これでもかと大技を叩き込んだ。――が、持っているその盾に、半分以上防がれてしまう。
所々に赤いルビーの装飾の入った金の鎧を纏い、右手に長剣を、そして象徴とも言える盾を左手に構えて。ボブカットの内側から、ギラギラとした目つきでこちらを捉えながら。天使はこちらの攻撃を耐え続ける。
『チッ――』
完全に標的は[ケルベロス]から自分へと移って。そこまでは狙い通りだったのだけれど、しばらく耐えられているうちに≪バインド≫の効果も切れてしまうだろう。今もなお、ジリジリとこちらとの距離を詰めてくる。
さぁて、どう相手したもんか――
先ほどのようなヘマは犯さないと、ちらりと向こうの様子を見るのだけれど。向こうは両手に拳銃を持った[ミカエル]と、両手に
かたや天使陣営のトップ、かたや悪魔陣営の自由人。対照的ながらも実力は共にトップクラス。激しい戦闘になるのは目に見えていて。
両方がキンキンと音を立てながら、赤や青などのバフエフェクトを重ねていく。そして――[ケルベロス]の
『こっちまで巻まないでくださいよ――おっと』
咄嗟にスキルを使って[ウリエル]の攻撃を回避する。[ガブリエル]の時のように間合いに気を付ける必要もなく、[ラファエル]のような大ダメージを受ける攻撃も放ってこない。――ただ、ひたすらに硬い。
『やらしい戦い方してんじゃねぇよ!』
ひたすらに盾で身を固めながら、地道に攻撃を重ねてくる[ウリエル]。攻撃の基礎値が低く手数で戦う自分にとっては、まるで大山のような不動さで。こちらのやり方も把握されているのか、数を重ねるタイプのスキルを中心に攻めていた。
これまた厄介なことに、[ミカエル]の得物は二丁拳銃。その射程は広く、当然自分もその範囲内に入っている。さっきからチクチクとHPが減っているのは、どこからどうみてもそのせいで。長髪眼鏡の優男、温厚なリーダーという印象だったのだけれど、やることはなかなかどうしてえげつない。
『こっちにミカエルの攻撃が飛んできてませんか!?』
『知るかよ。てめぇでなんとかしろ』
アンタ、前の戦闘の時になんて言ってたっけ!?
自分の時は補助させないように足止めしておけとか言ってたくせに、そんなぞんざいな扱い酷過ぎるんじゃないでしょうか。
『なっ――なに邪魔してくれてんだコイツ!』
間に表れた他の天使――ここで割り込んでくるかよ普通! 更に遠方から手痛い攻撃を受ける。このエフェクトは銃スキル――[ミカエル]からの攻撃で。完全に不意をつかれたおかげで、回避もままならず大ダメージを受けてしまう。
『こんにゃろうめ……!』
「馬鹿だねぇ。だーれも二対二だとすら言ってないってのに」
『……ミカエルはもうすぐ落ちる、まだ耐えられるか?』
『いやーきついっす。流石にダメージを受け過ぎましたんで』
『……確実に倒せるようにはしときます。すいません』
最後の最後、己の身を投げ打って放った《影縫い》が[ミカエル]に命中する。……これで二発目。足元の黒い渦を確認してリタイアすることとなった。
『まぁ、頑張った方――なわけあるかよ馬鹿が』
早々に厳しいお言葉を頂いた。はぁー! やってらんねぇ! いや、頑張ったよな? [ケルベロス]と組んであそこまでやれるのって、俺ぐらいのものだよな?
『あれで結構ベストを尽くしたんですがね……』
どうやら、自分が落ちた後は[バアル=ゼブル]と同じ状況になったらしくて。とはいえ、自分がリタイアする段階では[ミカエル]も既に瀕死な上に《バインド》状態。当然、倒した後に[ウリエル]の方へ向かっていったらしいのだけれど――
相変わらずの雑魚プレイヤーたちの妨害によって、そのまま押し切られてしまったらしい。実に不満そうにしていたのだけれど、四大天使のうち三人を落としたのだ。一矢報いる、というより
長を失いつつも勝ち残った[ウリエル]が自陣に攻め込んで来るも――それは既に、こちらの攻撃部隊がほぼ天使陣営を制圧した後。タイムアップにより、悪魔側の勝利で終わったのだし万々歳である。
[ミカエル]も[ウリエル]も全体で見ればスコアトップだっただろうが、個人の実力だけで勝敗が決まるわけではない。ってことがよく分かる戦いだったんじゃなかろうか。
『さて、んじゃ一旦グループの変更でもしてくるかね』
『自分はこれで落ちます。メンテ明け……向こうに行く前に一日だけいいですか』
既に[ケルベロス]は別のエリアに移動していて、目の前に姿はないがVCで話を続ける。
『……あぁ、私もいろいろやることがあるからな』
『わかりました。では、また』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます