2018年 10月末 アルマゲドン―②
自陣から様子を見ていた[シトリー]が、声を荒げる。
『どうしたの!?』
『まさか――』
嫌な予感がする。
こういう時は、決まってあの人が――
『[カマエル]が直接陣地に乗り込んできた!』
『――!』
案の定だった。
このMAPだからこそ、起こり得た事態。
このMAPだからこそ、起こしてはならなかった事態。
チェックしていた上で、ここまで慌てているのだ。
予想以上に速度で突っ込んできたのだろう。
道中の
『こっちはもういいけど、そっちは――』
『いいわけ無いだろ!』
『グラたん……こっちもマズいことになってるかも』
『なっ――』
そして――
この後に起こる参事は、類を見ないものだった。
焦って自陣に戻ろうとした
後ろに任せておけばいいものを、中盤より前の奴まで動き始めていた。
当然そこから薄くなっていき、次第に戦線が崩れ始める。
『
――
混ざって乱れてどころではない。
混乱と呼ぶのも生ぬるい。
むしろ混沌と呼ぶしかない。
目の前から、横から。
『[シトリー]! まだリタイアしてないよね!?』
『“まだ”、だけどねぇ。
装備を揃えた甲斐もなく。
仕方のないことだろう、今回は相手が悪すぎだ。
『あらら……。これは酷い。もう今回は完敗だねぇ』
ため息交じりに出たその言葉は――
アルマゲドンの敗北を、[シトリー]の諦めを表していた。
『もたないのか!? 今向かうから――』
…………
それっきりで[シトリー]からの返答はない。
恐らく、[ダンタリオン]も――
『…………』
暫く言葉が出なかった。
指揮系統の喪失。
これまでアルマゲドンを経験してきた中で、初めてなのではないだろうか。
何とか立ちふさがっていた天使たちを倒し、周りの状況を確認する。
ここはもう、他の奴に任せていても大丈夫だろう。
……既に勝ちの目が無いのは明らかだった。
『自陣に戻るぞっ』
『ちょっと! 準備をしてから――』
このままだと、中盤にいる味方も喰い尽くされてしまう。
少しでも被害を抑えようと、自分も自陣へと向かった。
[シトリー]の言っていたように――
もう結果は決まっているからと、捨て鉢になっていたのかもしれない。
≪月影迅≫を使用して、速度ブーストをかけて。
少しでも早く辿り着こうとしたのだが――
…………
泣きっ面に蜂。
弱り目に祟り目。
どうやら不運というもの重なるらしい。
自陣の入り口は
その場所の中心には、決して出会いたくない面子が揃っていた。
「なっ――」
「これはこれは、懐かしい顔が」
「ラッキー♪ [カマエル]に先越されてイラついてたけど、丁度いいのが来たじゃない!」
『ウソだろおい――』
[カマエル]に続いて、こんな所にまで来たのか?
「≪
ここからどうする!?
このまま四人のうち一人に攻撃を加えても、意味はないだろう。
それならば、自陣に突っ込むか?
この四人を相手取るよりは、まだ[カマエル]一人を相手にした方が――
そう考えていたのも束の間。
――不運は、重なってゆく。
幾重にも、積まれてゆき、重しとなってゆく。
『え、嘘――』
少し遅れてやってきた[ケルベロス]が。
敵の姿を確認する。
「今日は、次から次へと因縁の相手が来てくれるね」
「あの時は不覚を取ったが……。今度ばかりはそうもいかない」
[ラファエル]が炎の剣を構えて、[ケルベロス]へと向かってゆく。
『待てっ! 下がって――』
『グラた――』
一瞬だった。
[ケルベロス]までもが――
天使たちの≪奥義≫によって、一瞬でリタイアさせられてしまった。
≪
『…………』
たとえ、結果が変わらなかったとしても。
一撃でも代わりに受けていれば――
一瞬でリタイアすることも無かったかもしれない。
そんな後悔をしているうちに、効果時間の二十秒になる。
デメリットによって無防備になったまま、四人の中に放り出された。
「おやおや……。ずっと、そこにいたのかい?」
「助けに来た味方を見殺しにしちゃったんだ?wwww」
「……これは失笑ものだな。[グラシャ=ラボラス]」
五秒間の硬直時間――
それだけあれば、《奥義》でなくても。
HPを全て削られるのには十分だった。
『くそったれぇ――!!』
普段では、滅多にしない行動――
思わず拳を机に叩きつけていた。
今までWoAを続けてきた中で、初めてのことだった。
――――
無情にも、終戦の
時間切れではない。
悪魔陣営の全滅によっての終わり。
大敗だった。完敗だった。惨敗だった。
どう動いたとしても、勝ちの目はなかった。
勝負が始まった段階で、結果は決まっていた。
そう考えて、少しでもダメージを抑えようとする自分がいた。
それでも――
ここまで悔しい負け方があっただろうか。
たかがゲーム。されどゲーム。
『素人かよ……俺は……』
……思い知らされてしまった。
現実世界じゃなくても――
仮想世界の出来事でも――
心に傷を負わされることが、往々にしてあるということを。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます