2018年 9月末 閑話
『まさか、あんなに怒られるとは……』
アルマゲドンが終わった後のこと。
結果的には足止めが成功したとはいえ、あれはあまりに軽率な行動だったと――
二人に思いっきり怒られたのである。
自分は逃げるのに集中していて、殆ど聞き流していたのだが――
[シトリー]でさえ、すぐに飛び出してしまわないよう抑えるのに苦労していたらしい。
[ケルベロス]は、自分を置いて一人自殺に近い形で飛び込んで行ったことを。
[シトリー]は、自分の目の届かない場所まで行ってしまったことを。
二人から、それをほぼ同時に責められ――
『偶然が重なった結果だけど、[
『そういう問題じゃないから!』
とてもじゃないが、これといった言い訳ができる空気でもなく。
『何かしらの謝罪の形を見せて欲しいんだけどねぇ』
『ぐっ……』
より一層、立場が低くなってしまった次第。
――――
『[シトリー]はあの性格だから、明日には元通りだとは思うけど――』
[ケルベロス]は……。
ほとぼりが冷めるには、時間がかかりそうだった。
『はぁ……』
あの状況で、どうすれば良かったんだ?
陣営全体での勝利のため、という一応の正当性がある以上――
完全には納得できていない。
自分だって、危険を冒さずに勝てるのならば、それに越したことはないと思う。
――が、天使たちも
全員がリタイアしたくないからと引いてしまえば、勝てる勝負も勝てなくなる。
そこまで真剣にやっているわけではないのだけれど――
特に“勝つべき目的が無い”からといって、“負けてもいい”わけではない。
勝負である以上、“負けたくない”。
恰好の悪い所を見せるわけにはいかない。
『…………』
始めのころに『アルマゲドンの勝敗なんてどうでもいい』と言っていたことを考えると、大きな変化だった。
『あ゛ー……』
一人、特に意味もない声を出しながら。
机の上に顎を乗せながら、ぼんやりと公式サイトの掲示板を眺める。
上から下へと画面をスクロールしていく。
そして、上がっていたスレッドの一つに――
【味方
『まさか――』
驚きに姿勢を一旦正し――
再び、前のめりになるように画面を覗き込む。
キャラクターID admiral
投稿日時 2018-09-30 22:11
スレッドには立てた人のIDが載っている。
やはり――予想はついていたが、[admiral]だった。
結局、自分が逃げたあとも[カマエル]と戦い続け――
その結果、リタイアさせられたに違いない。
“壁”を出現させた天使もいるのか、複数人による[カマエル]に対する罵詈雑言のコメントがいくつか並んでいた。
PKが許されているシステムだとは言っても――
それは天使が悪魔に、悪魔が天使に攻撃する前提での話である。
味方を攻撃することにメリットがない以上、批判されるのは当然の流れだろう。
[admiral]からすれば、不満が出るのもわからないではない。
二対一での戦闘なんてよくあること。
ましてや、混戦状態ならば誰が誰を狙っているかなんて分からないし――
横取りなんて、特に気にするようなこともないのだが……。
『
その“横取りなんてこと”を特に気にする人物である。
唯一、横取りが許可されたと言っていいのは――
四月のアルマゲドンで[ガブリエル]の足止めを任された時ぐらいだろう。
……許可があるのなら、横取りとは言わないような気がするが。
とにかく、そんな[
わざわざ自陣の奥深くまで追っていたところで。
味方天使の《奥義》による“壁”まで使って完全に切り離して。
……禁忌のロイヤルストレートフラッシュだ。
そりゃあ、逆鱗にも触れるだろう。
『……普通、怖くてできないって、そんなこと』
相手が誰なのか知らずにやっていたのだろうと思う。
狙ってやっていたのならば、大した度胸だ。
極め付けに運が悪かったのは――
彼女がペナルティなんて気にしない上に、大概の相手をねじ伏せることができる実力を持っていたということである。
その手が鈍ることなんてない。ということは言わずもがなだろう。
余程酷い負け方をしたのか、その悔しさがスレッドから
『あの人は、掲示板なんて見ないと思うけど――』
あまり放っておくのも、まずい気がする。
炎上しない程度に抑えておくべきか……?
と、思った矢先に、誰かがコメントをしていた。
「でも、“[カマエル]の獲物を”横取りしようとしたんでしょ?」
そのことをはっきりと分かっているのは――
[admiral]本人と“壁”を出現させた二人、[カマエル]と自分の当事者組。
あとは――自分に説教をしていた[ケルベロス]と[シトリー]ぐらい。
『[シトリー]……』
相変わらず、物事を引っ掻き回すのが好きらしい。
向こうも、知らない振りをしていれば良かったものを――
すぐに返信のコメントが追加された。
「わざわざ味方の“壁”を破ってまでPKするか? その時点で俺の獲物だと思うんだけどさぁ」
と、横取りを肯定するようなコメントで返したせいで、一気に意見が傾いた。
「わざわざ壁で囲ってまで横取りしたかったのかよwwww」
「無差別に味方PKしてるから批判している。ならまだしも、横取りしてるんじゃなぁ……」
「これは擁護できませんわ。ご愁傷様です」
批判の対象は[
こうなるともう、[シトリー]の術中である。
「[カマエル]って、元[ケルベロス]じゃなかったっけ」
続く[シトリー]のコメント。
そして、一気に加速してゆく。
「あれに喧嘩売ったとかwwwwwwワロスwwwwwwwww」
「猛獣の檻に投げ込まれた肉を取りに行くようなもんだろwwww」
悪魔陣営のプレイヤーからのコメントが一気に増えた。
そこはこれまで戦ってきた中で、自然に浸透したものがあるのだろう。
出た結論は、『狙われることをして近づいた奴が馬鹿』である。
敵味方共による災害認定だった。
謎の一体感。いいのか、それで。
これには苦笑いをするしかなかった。
一時はどうなるものかと思ったが――
ただのネタスレ扱いで留まったらしい。
『……ふぅ』
一時はどうなることかとヒヤヒヤしたが――
これまで[カマエル]が無差別なPKを行っていたというわけでもなく。
眺めているうちに、徐々に掲示板の下の方へと埋まっていった。
――爆発的に燃焼させて酸素を食い潰させ、一気に鎮火する。
そんな消化方法を、昔何かの本で読んだことがあるのを思い出した。
批判スレとして広がる様子は、今のところ見られない。
[カマエル]に対しても、そして[adomiral]に対しても。
取り合いの対象になった自分からすれば、あまり擁護をしたくない所だけれど。
やはり、一人が大勢に叩かれるのは、見ていて良い気分はしない。
ゲーム上の戦闘ならば戦略上何かしら必要なのかもしれないが――
得することなんて何もないだろう。そうまでする必要もない。
[adomiral]という
中の人に対してどう思うかは別の問題だ。
自分としても、そこまでして排除したいなんて思っていない。
[シトリー]も同じ考えだったのかどうかは分からないが……。
適切なタイミングで燃料を投下して、結果何事もなく治めたその手練は――
見事と言わざるを得なかった。
本気になれば、一個人に矛先を集中させることも朝飯前だろう。
復帰できないような精神的ダメージを与えることも、可能だったのではないか。
――気が付けば半年以上の付き合いをしていて、今更ながらに思い知る。
[シトリー]も――
『――敵に回すとおっかないな……』
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