2018年9月 第4週

『そろそろ“お呼び出し”がかかるかもねぇ』

『むしろ、今回は遅い方だな……。先週までには来ると思ったんだが――』


 毎月、月の後半に入ってからは――

 [バアル=ゼブル]によって、必ず一度は召集をかけられている。

 

 ただ、一位の集まりといっても大したものではない。

 基本的に、月末にあるアルマゲドンに向けての話し合いだ。


『先月のアップデートで追加された《奥義》のこともあるし……。長くなりそうでボクとしては嫌なんだけど』


 そのことを考えると、月初めでもいいぐらいだと思う。


 例外的に、月に二度あっても誰も文句は言わないだろう。

 それだけ今回のアップデートは、規模の大きいものだったのだから。


『そりゃ、長くなるだろうさ。導入されて一月――ここで勝つか負けるかで、今後の方針が固まってくるだろうし』


 なんせ、どこまでパワーバランスが変動するか未知なのだ。

 集団が一度に《奥義》を使えば、どのような効果が表れるか予想がつかない。


『噂をしてたら――ほら来た。……これはこれは』

『……? 何か変なことでも書いてあるのか?』


 いつもは、一斉送信で来るのだが――

 今回に限っては個別に送られているらしい。


 [シトリー]がメッセージを読んでいる間に、自分の画面上にも『メッセージが届きました』と表示される。


『――なるほど』

『……どうしたの?』


 いつもと様子が違う自分たちに――

 一人事情が分かっていない[ケルベロス]は、ハテナマークを浮かべていた。


『――おめでとう。とうとうお声がかかったぞ』


――――


『ふええええ……。何ここ……カッコいいんですけど……』


 ≪地獄の宮殿パンデモニウム


 足を踏み入れた時――

 空席の数が多いことに気が付いた。


 椅子の数は十二脚。

 いつもと違って、一つ多い。


 どうやら自分たちが最後らしく、三つを除いて全て埋まっていた。


 空いている席は――


 ――[グラシャ=ボラス]。


 ――[シトリー]。


 そして――[ケルベロス]。


『まぁ……五月に一位になってから、もう四か月も経ってるわけだしねぇ』


「お待たせー」

「俺たちで最後か」

「……お邪魔します?」


 [ケルベロス]は恐る恐る――といった感じだった。

 さすがに、この光景には圧倒されるのだろう。


『お邪魔しますって……』

『べ、別にいいじゃん!』


 入り口に立っていては話が始まらないので、それぞれの席に着く。


『……なんで[パイモン]さんだけ立ってるの?』

『秘書的な人が座ってたら恰好がつかないでしょ?』


『疲れないのかな……』

『いや、変わらないだろ……』


 ゲームなんだから。

 さすがに、画面の向こう側では座っていると思う。


「まずは――[ケルベロス]。よく来てくれた」


 全員が揃ったことを確認して、[バアル=ゼブル]が口を開く。

 まずは、[ケルベロス]の加入についての話なのだろう。


「前々から話には出ていたんだが――」


「今回、[シトリー]と[グラシャ=ラボラス]、及び[ダンタリオン]からの推薦という形で声をかけさせてもらった」


『……え?』


 思わず声が出た。

 ……聞いていないんだが。

 いつの間に、推薦をしたことになっているのだろう。


『「え?」ってどういう意味なんですかねぇ……』

『いちいち聞かなくても、どうせ推薦してるでしょ?』


 [シトリー]は言うが――そういう問題じゃないだろう。


 言ってくれれば、自分で推薦ぐらいしている。

 というか、推薦ぐらいまともにさせてくれ。


 自分の隣では、[ダンタリオン]がにこやかに手を振っていた。


『はー。やっぱり、[ダンタリオン]さんはいい人だ』


 お返しに手を振り返そうとしたのだろう。


 エモーションを間違えた[ケルベロス]は――

 その場で立ち上がり、全力でお辞儀をしていた。


「!?」

「wwwwwwwwww」

「お、落ち着け……?」


――――――――


 ファーストコンタクトとしては非常におかしなことになっていたものの――

 [ケルベロス]にとって、この場にいる半数近くが顔見知りである。


 推薦をした(ことになっている)三人。

 

 あとは、数日前に顔を合わせた[パイモン]。

 月頭つきあたまに、一緒に依頼をこなした[アシュタロス]。

 そして――先日に[ケルベロス]の《奥義》スキルの実験に付き合った[ベリアル]。


 そのためか、実に和やかな雰囲気で進んでいた。

 会議というよりは、もうお茶会に近いだろう。


「で、それぞれ実際に天使の《奥義》を見た感想を聞きたいところだが」


 それでも平常運転なのは、自分と[バアル=ゼブル]ぐらいである。

 いつも和やかという意味では、[シトリー]と[ダンタリオン]も平常運転だが。


「あぁ、それならパイ職人が」

「おい!」


 [シトリー]がいきなり傷を抉ってきた。

 撮った動画を編集してアップしているから、記憶に新しいのだろう。


「パイ職人……?」

「実は――」


 [アシュタロス]が説明し始めた。頼むからやめてくれ!


――――


 [ニスロク]からの依頼で、ダンジョンまで料理の材料を取りに行ったこと。

 その帰りに、【サンダルフォン】と戦ったこと。


 それらが余すことなく説明された。されてしまった。


『うあ゛あぁぁぁ……』


「へー……掲示板に動画が。後でチェックしとこ」

「再生数アップのご協力ありがとうございます♪」


 頭を抱えて唸りたくもなる。

 やっと収まってきたところだったのに……!


「……受けてみて、どうだったんですか?」


 [パイモン]が話の路線を戻してくれた。感謝の気持ちしかない。

 彼女がこの集まりの唯一の良心だ。


「とりあえずのところは――」


 【サンダルフォン】の《Adonai終わり無きMelek戦いの王国》のこと。


 ついでに、先日の【ラファエル】が使っていた≪Elohim 毒を焼き尽くTzabaothせ、栄光の神炎≫についても話をした。


 どうやら、天使の《奥義》は直接相手を攻撃するものが大半らしい。


 これまで以上に――

『正面戦闘は危険』ということを、頭に置いておく必要があった。


――――


 解散後――


『――アルマゲドンでのことも言われると思ったんだけど……』


 三人で、雑談をしながら地獄街を歩く。


 内心で『【ケルベロス】なんだから、四の五の言わずに防衛に回れ』と言われないか警戒していたらしい。


『ボクとしては、そこですかさず「嫌です!」って言ってくれれば面白かったんだけど』


 こいつは冗談で言っているのだろうか……。

 そんなことを言ったところで、殺伐とした空気になるのも想像しがたいが。


 自分がイジられていたこともあって――

 終始、お茶会ムードだったような気がする。

 

『結局のところ、どっちが有利だの不利だのって話も「こうなるだろうから、それぞれ考えて動けよ」って事だろ?』


 別に絶対王政を敷きたいわけでもないだろうし。

 結局のところ、命令というよりは相談、告知の場だ。


『好き勝手に動いても、結果を出しちゃうのがボクらだからねぇ』


 調子に乗るなと言ってやりたいところだが――

 ……あながち間違いでもないから困る。


 好き勝手に、というよりは――

 やりたいことが結局のところ、一番結果の出ることだったという話。


 別に自分たちも、型通りに動くだけで一位を取れるとも思っていないし。

 なにより、その最たる人物を自分たちは知っていた。


『私も、[ЯU㏍∀ルカ]さんみたいに頑張るよー!』

『それだけはやめてくれ……!』

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