2018年9月 第2週 ―①
「買い物? もちろん、付いてくに決まってんじゃんww」
「……別に決まってないと思うんだが」
専用課金装備が登場してから数週間が過ぎ、ようやくゲーム内のオークションにも出品され始めていた。今日はそれの購入の為に、街へと繰り出したのだが――
ロビーで捕まったのが運の尽き(?)。
[ケルベロス]も何故だか付いてくることになっていた。
出品されているアイテムを種類やレベルなど、順々に条件をかけながら検索していく。
四度か五度ぐらいかけたあたりで、目的の物の名前が並び始めた。
そして、名前の横に並んでいるのは――ぶっ飛んだ金額設定。
『うわぁ……。凄いねぇやっぱり』
『まぁ、分かっていたことだけどな……』
これまでの課金装備に設定されていた値段と、桁が2つ違う。
プレイヤーが金額を設定しているから、仕方ない部分もあるのだろう。まだ、並び始めたばかりで相場が安定していないのもある。これから時間が経っていくうちに、需要のあるものとないもので値段の開きが出てくるとは思うけれども……。
装備ごとに固定されている能力値と、ランダムに付与されている補正値を眺める。
攻撃力重視か、速度重視か、命中重視か、回避重視か――
『これが地味に響くんだよねぇ』
課金して購入したとしても思った通りのものがくるとは限らない――
というのも、この補正値は購入後、ランダムに決定されるからだった。
正直なところ、あまり好きではない物の売り方だと思う。
だけれど、そのために――
複数購入して余ったものをオークションに出している者がいるという事実。
こちらとしてはありがたい話なのだが……。
高額で取引できるだけ、まだwin-winの内に入っているのだろうか?
『まぁ、補正値を上書きしたり強化したりするアイテムも出てるしな……』
といっても――
こちらも高レベルの物になるにつれ、値段が跳ね上がってくるのは言わずもがな。
幸い、値段はともかく、モノはそれなりに並んでいる。
当分はあるものでなんとかなるだろう。
しばらく悩んだ末、回避重視の付加効果が付いている物を購入した。
【グラシャ=ラボラス】の“仕事”上、重要な部分なので他のに増して金額が高い。
『へぇぇぇぇぇ……。この金額をポーンと出せちゃうんだぁ……』
羨ましそうな声で[ケルベロス]が呟く。
『そっちは買わないのか? 《奥義》スキル付きのやつ』
てっきり月始めに導入された時点で買っているものだと思ったのだが――
そもそも最近は、課金しているところを見かけない気がする。
『うーん……。グラたんが課金せずにプレイしてるんだから、自分も同じ条件でやりたいし?』
『課金しなくても買えるぐらいの金は持ってるだろ? 【ケルベロス】第一位なんだし』
『え゛……?』
『おい……』
なんでそこで『予想外でした』みたいな声を出すのか。
『いやぁ……回復アイテムとか常にMAXまで持ってないと不安だからさー』
……確かに【ケルベロス】の“仕事”の都合上――
アイテムの消費が激しくなるのは仕方ないのかもしれない。
【グラシャ=ラボラス】の場合、“仕事”中に攻撃を受ける時点でナンセンスなため、そのあたりの出費は0に近かった。
合間合間に小金稼ぎをしていることもあって、所持金は豊富である。
『無理に合わせる必要も無いと思うけどな……』
課金をするという行為自体を否定しているわけじゃない。
商売である以上、どこかで金を取らないと成り立たないだろうし。
課金によって手に入れた力を、全て自分の物だと勘違いしている輩が嫌いなのだ。
力を手に入れたいのなら、それに見合った努力をすべきだと思う。それなりの資格が必要だと思う。
性能のいい装備を持っているだけで勝てる。
そんなものがまかり通ってしまうのが嫌だった。
『そんなにうまい話があるわけないだろ』と言ってやりたいが為に――
一歩遅れるのを覚悟で無課金を貫いているのかもしれない。
まぁ、それでも勝てないときは勝てないのだが……。
我ながら思う。わざわざ茨の道を歩むような真似だと。
理屈の合わない、変な意地を張っていると。
それでも――こればかりは変えたくないのも事実だった。
…………
『……はぁ。仕方ないな……』
自分の意地に合わせた結果、こうなっているのなら仕方ない。
……仕方ないというもの変か。
多少の負い目があるのを除いたとしても――我ながら、つくづく
『……どれが欲しいんだ』
『……いいの?』
『今月のアルマゲドンから、一気に激しくなるだろうし――いざという時の防御の要が、出遅れましたじゃ恰好がつかないだろ』
一応、事前に調べた上でどんなものかは知っているものの――
やはり、実際に使ってみた方が確実だろう。
【グラシャ=ラボラス】の《奥義》スキルが、【ケルベロス】のモノと合わせてどこまで使えるかのテストもある。
――結果[ケルベロス]が選んだのは、速度重視の付加効果が付いている物だった。
人気のグループだからか、自分が買った物よりも高い。
……自分が買った物よりも高い。
『…………』
チャリーン!(購入音)
中途半端なものを買っては、後で買い替えるのも面倒になってくるだろう。
確かに、【ケルベロス】である以上、それが必要なのも確かだ。
そういうことにしておく。無理やりに納得しておく。
メールにアイテムを添付する手が震えていたのはきっと気のせいだ。
そんなこっちの内心なんて露知らず。
[ケルベロス]の方は『……はー』だとか『でへへ……』だとか――
言葉にならないような呟きを繰り返していた。
気をとりなおして……。
『さて、と。買うものも買ったことだし……』
『それじゃーテストといきますかー!』
意気揚々に場所を移す[ケルベロス]に対し、何とも言えない気分になりながら――
自分も後に続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます