2018年9月 第2週 ―②
『へー。見た目が結構変わるんだねぇ』
[ケルベロス]の言う通り――
悪魔の
……まぁ、普段はアバターで隠しているから関係ないのだが。
『見た目はどうでもいいんだよ。問題は――その効果だ』
――――
先ほど購入した物を装備した状態で、決闘フィールドの中で向き合う。
『さて、それじゃあ発動させるぞ――』
『はいはーい』
『…………』
ちょっと
『……どしたの?』
――ええい。ままよ。
「≪
表示された技名は英文だった。
『血と命を以て支払え』と読むべきなのだろうが――
……これが仕様なのだろう。
著しく厨二心を感じずにはいられなかった。
【サンダルフォン】の《
『天使は神名があるからな……』
残念ながら、悪魔にはそういったものは無い。
……ということは、悪魔は全部こんな感じなのか?
今後はwikiのページを開く度に――
胸が締め付けられる思いをすることになりそうだった。
あの時のようにカットインは表示されない。
その代わり――発動後は体が薄く光るようなエフェクトに包まれていた。
『……で、どうなってる?』
『――消えてる。こっちからは姿が見えてないよー』
――透明化。これがこのスキルの効果。
飛んでも走っても、砂煙が立つなどの画面効果は表れていないらしい。
移動速度も多少は上昇しているようだ。
確かに、暗殺がメインの仕事となる【グラシャ=ラボラス】にとって、とても便利な能力だが――
『それだけじゃない。ちょっと攻撃してみてくれ』
『了解!』
と、[ケルベロス]が攻撃する瞬間――
纏っていた光が消滅した。
……透明化が解除されたらしい。
『ちょっ待っ』
『え――』
――――
――このやろう。
あろうことか、最大火力の攻撃を叩きこんできやがった。
普通はもう少し軽めの技を使うだろうよ。
ついでに――効果が切れた後は、デメリットがしっかり発生してる状態。
身動きが取れないまま、直撃を受けた。
『流石に、永続はありえないにしても……。二十秒って、短くない?』
『どうだろうな……。二十秒もあれば、だいぶ戦略の幅が広がる』
――別に姿を消している間、必ず攻撃する必要はないのだ。
その間に全力で戦線を離脱してもいい。
むしろデメリットがある以上――
そっちの方がメインの使い方になるだろう。
《バインド》等の妨害効果と組み合わせて使えば、使い勝手は格段に跳ね上がる。
一秒一秒引き延ばして戦うスタンスの自分にとっては――
これほどありがたい能力もなかった。
…………
そして、リチャージが終わった。
どうせ決闘フィールドで死んだ所でデメリットはないため――
回復はせずにそのままテストを続ける。
『よし、それじゃあ行くぞ』
――《奥義》を発動する。
再び、体が薄い光に包まれた。
『今度こそいくよー』
[ケルベロス]の放った炎の槍が、自分の体を通り抜けてゆく。
無効化ではなく――透過。
『……十分過ぎるレベルだな』
派手さも殲滅力もないものの、いかにも自分向きな能力だった。
戦闘時でも非戦闘時でも使えるというのは、最大のメリットだろう。
……使いどころは考えないといけないようだが。
その後もいろいろ試してみる。
建物や地形を通り抜けられるかどうか。
相手によるデバフ効果は受けるのかどうか。
自身の強化、回復は有効かどうか。
……なにか
[シトリー]にも付き合ってもらうべきだったかもしれない。
『我を過ぎれば憂いの都あり
我を過ぎれば永遠の苦患あり
我を過ぎれば滅亡の民あり――』
『……ん?』
突如聞こえてきたのは――どこかで聞いた事のあるフレーズ。
何かの詩だったろうか。
『義は尊き我が造り主を動かし
聖なる威力、比類なき智慧、
第一の愛、我を造れり――』
その詩は[ケルベロス]の方から聞こえてくる。
……いきなりなんなんだ?
『永遠の物のほか物として我よりさきに
造られしはなし、しかしてわれ永遠に立つ――』
『≪
スキルの発動と共に――
巨大な門が勢いよく地面からせり出してきた。
ジャラジャラと音を立てているのは、門を覆っている鎖なのだろう。
『地獄の門――』
[ケルベロス]が詠んだ意味が分かった。
このスキル名は――地獄の門に刻まれている銘文からの引用だ。
ダンテ・アリギエーリの『神曲』
【
まさか、こんなところで格差が生まれるとは……。
知名度の低さがここで響いてくるなんて。と、地味に落ち込む。
せめて――
『己が
……ここで文句を言ってもどうにもならないのだが。
『どうよ! 今の詠唱っぽくってカッコよくない!?』
それより、驚くべきは――
いくら有名なものとはいえ、一文を
『あ、あぁ。確かに――格好良かった』
感嘆の吐息が漏れる。
やっぱり、家に魔導書でも置いてあるんじゃなかろうか。
――門が出現している時間は五分間。
いくら攻撃を加えてもびくともしない以上――
地形の一部として壁を出現させるものとして考えればいいだろう。
そのためか、自分の≪
『ここに入るもの』もなにも――
そもそも入ることができないのは門としてどうなんだ?
他の《奥義》によって破壊される可能性が無いわけでもない。
そこらについては、別の機会に確認してみる必要があるだろう。
それじゃあまた今度、とお開きにしようとしたところで――
『[ケルベロス]さんに決闘を申し込まれました』とウィンドウが表示された。
『最後に真剣勝負といきますか!』
別段、断る理由もなかった――
――あの時とは違うから。
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