2018年 5月末 アルマゲドン―②
『――そんなことを考えてた時期もあったよ、ちくしょうめ!』
天使陣営へ移って、まだ一ヶ月しか経ってないんだぞ? ……なのになんだよ、目の前に広がるこの惨状は。
最初っから赤い服装をしている[
勝ちが目前に迫り、焦って前線の援護に向かった者もいるとはいえ――事前の情報からこんなことになるだなんて、誰が想像できただろうか。
[
単純に天使と悪魔のステータスの差があったのだとしても、ここまで酷くなるわけじゃないだろうに。鬼に金棒――実力のあるものが、性能の良い物を使った結果がこれだ。
『嫌になるぜ、全く――!』
……かと言って、ここで尻尾を巻いて逃げるわけにもいかないし。わらわらと群がっている中に飛び込んで戦うのにもリスクがあり過ぎるため、外周からチクチクと≪
――つっても、こんなの気休めにしかならないけど。
最後に[
『――っ! あっぶない……!』
こちらがスキルを放つタイミングに合わせて、猛火で反撃してきやがった。周りの敵を蹴散らしながらもこちらを補足し続けているらしい。
こうして付かず離れずの距離を保ちながら、一方的に攻撃を受けることに対して[
『まだ倒れねぇのかよ……』
確実に押しているはずなのに、焦りばかりがどんどんと募っていく。
……[バアル=ゼブル]の方はどうなった? ここまで突っ込んできたのは[
――とはいえ、そこはやはりボーナスの効果は多いようで。気を張り続けていた戦いも、程なくして終わりが訪れる。
『はぁ……はぁ……はぁ……』
――[
殆ど勝敗は決していた。……回避と妨害に集中していた自分以外の、その場にいた悪魔を道連れにして。今は≪バインド≫によって、身動きが取れない状態にいる。……というか、この≪バインド≫もいったい何度目なんだろうか。
「……今回は勝ちを譲ってやるよ。真剣勝負も面白かっただろ」
『――――っ』
辺りに自分だけが残ったところで、[ЯU㏍∀《ルカ》]さんの動きが止まり、コメントが表示されたので攻撃の手を休める。どうやら、ここらで終わりだと悟ったらしい。
それがしたかったがために、わざわざこんな所にまで突っ込んできたのか。……いい迷惑だよ、ホント。
向こうからしたらアルマゲドンの勝敗になんて興味がないのかもしれないけれど、こちらにとっては決死の防衛線だったわけで。大げさかもしれないが、生死をかけた戦いと言っても過言じゃなかった。
――途中、呼吸をするのも忘れるほどだった。
一対多だったけれども、初めて敵として相対した今回の戦闘。[
「これを毎月楽しめるのなら――悪くはないな、天使も」
「本気で勘弁してください……」
さぞかし、気が済むまで切り結べたことだろう。よっぽど楽しかったんだろうさ。……こんなのもう二度と御免だ、くそったれめ。
自分も、[
ここまでやって止めを他の奴に奪われるのも癪だし、最後は自分が華々しく散らせてやろうじゃないか。
「……次会う時は別の戦場ですね」
「今月で大方の把握は終わった。楽しみにしてろよ?」
――最大の脅威のリタイア。
『はぁ……』
大勢の味方を犠牲にした上での勝利。なんてザマだよ、まったく。
……決して、自分の実力で掴めたものではない。流石に戦績に入れるわけにはいかない。おまけに、最後に『把握は終わった』とか不穏なことを言っていたし。
把握は終わったって、いったい何のだよ。……天使側の内情か? それともそっち側からにしか見えない悪魔陣営の弱点とかか? なんにせよ、こちらにとって楽しいことでないのは確かだろうし――
『捨てゼリフ
――自分しか残っていない戦場で。そう小さく呟いた。
『――シトリー! 終わったぞ!』
『お、まだ生きてたんだねぇ。なかなかやるじゃん』
……無茶するなっつったのはてめぇだろうが。
『で、なんとか倒せたんでしょ? そっちの状況は?』
『最悪だよ、くそったれめ』
[
『……でもまぁ、峠は越えただろ』
局所的に見れば大敗だろうが、最大の脅威は過ぎ去った。勝率も今では90%といったところだろうか。あの時の[ダンタリオン]からの『待機しておけ』が無ければ、どうなっていたか――想像しただけで、ゾッとする。
ほんの十数分前までは、悪魔側の圧勝で終わると思っていて。それが、今までにないほどギリギリの戦いを強いられていた。対人戦ってのはこういうところで気が抜けないからなぁ……。
『たった一人に、ここまで戦場をかき回されるなんて……』
いとも簡単に散らされた奴にとっちゃあ、今後のトラウマにもなりかねない。この先のアルマゲドンで、常にその影の恐怖に怯えることになるだろう。もちろんそれは、自分にとっても同じことで。初めて敵として戦った、ということを除いても――想像以上のダメージと恐怖を残されたのは間違いなかった。
『まぁ、それでも戦況を維持できたんだから上々じゃないの。お疲れさま』
『ということは、バアル=ゼブルの方も上手くやってるのか?』
『んー。そだねぇ、まだ四大天使の処理に手間取ってる感じだけど――』
まだ手間取ってんのかい。こちとら死線を潜り抜けてたってのに、向こうは悠長なものだなおい。……とはいえ、自分もつい最近戦ったばかりだし、その時はバラバラだったけれども今回は四人まとめて来てるんだったか。あれらがそれぞれを補いあって動けば、そりゃあ面倒な戦いになるのかもしれないけど。
『……っ! 今すぐ下がって!』
『っ!? 今度はなんだよ!』
『他の三人は抑えたけど、ラファエルだけ飛び出して――』
『ラファエルだけじゃないみたいだぞ……!?』
言った傍から大量の天使を連れて来てんじゃねぇか!
どうやら、他の三人に
『なんなんだよ、どいつもこいつも――!』
追い詰められて、追い詰められて――なんでこっちに飛び込んで来る? 万全の状態でないのにも関わらず、無理無茶無謀をかまして突っ込んでくるってのはどういう了見なのだろう。いや、そこまでして戦いたいのかよ。
剣を振るいながら突っ込んでくる様子は、もはや執念すら感じるほどで。次の瞬間には炎の剣による一閃が飛んできた。タイミングを見極め、ダメージを最小限に抑えるように回避するものの――
『チィッ! 鬱陶しいなぁ、こいつらぁ!』
周囲に展開していた雑魚天使たちの攻撃までは回避しきれず、ジワジワとHPが削られていく。……単純に取り囲まれて、手数で圧倒されると辛いものがある。それがレベル差やボーナスなどにより、大幅にダメージが軽減されていても、だ。
そもそも一対一の状況で攻撃を避け続けるスタイルだってのに、こうなってる時点で殆ど詰んでいるようなもので。あっという間に四方を囲まれて、袋の鼠としか形容できない状況に陥っていた。
現状、致命傷となる[ラファエル]の攻撃にだけ集中して回避していくしか手は無い。……先ほどの戦闘の焼き直し。敵の数がなかなか減らない分、こっちの方が悲惨だった。
『今回のアルマゲドン……俺が一番苦労してんじゃないか?』
一言で言えばジリ貧。……リタイアも時間の問題。こうして耐えれば耐えるだけ、全体の勝率が上がるのだろうし、ここで諦めてやるわけでもないけど……。この無間地獄みたいな苦行はなんとかならないものだろうか。
『ん、もう少し頑張って。そっちに応援が行ったし』
『お前ぇ! せめて終わるまでやる気を維持しやがれ!』
ここで自分が倒れても悪魔側の勝利で終わるのが確定したからか、さっきまでの切迫した雰囲気ではない。――が、それでも[シトリー]からの指示は続いていた。
『……応援? 応援って言ったか、今?』
確かに、ミニマップ上のマーカーの一つが凄い勢いでこちらに向かっていた。……正気かよ。意味が分かんねぇ。
『今さら助けが来たところで、俺はまともに動けな――』
『HPが0になるまでは戦えるんでしょ? ほら、頑張ってー』
好き放題言ってくれるな……!
援護が来たところで、大量の天使をつれた[ラファエル]が待ち構えているわけで。余程の実力者でないと、今の自分と同じようになぶり殺しに遭うのがオチなんだが。
『シトリー! 誰がこっちに向かっているんだ?』
『それは――……見てのお楽しみということで♪』
『はぁ……?』
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