三章 新たな能力
2018年9月 第1週―①
「あぁ忙しい! 面倒事を起こすなら事前に言ってくれ!」
「そんなこと言われてもな……」
こっちだって、好きで起こしているわけではない。
今日は土曜日――“安息日”である。
神が日曜日から世界を作りたもうて、最後に一日だけ休んだ日。
この日は天使も悪魔も、地上に降りることが許されない。
明日の正午に、アルマゲドンとは別の――
あくまでプレイヤー間で行われる、大規模な戦闘が行われる予定だ。
サポートがメインの“仕事”となっている悪魔たちは――
それの準備に、てんやわんやしていた。
「最低でも上位悪魔分×10は、攻撃強化バフの料理を用意しておかないと……」
一際忙しそうにしている彼は【ニスロク】――
ソロモン72柱とは別の、特殊な立ち位置にいる悪魔だ。
【ニスロク】の役職は地獄の料理長である。
つまり≪料理≫を行った時に、ボーナスがより多く入る悪魔だった。
このグループは、直接天使と戦うわけではなく――
かといって、人間を唆したりはしない。
言うなれば、悪魔のための悪魔。
「材料が足りなくなりそうだから、ちょっと取ってきてくれないか? どうせ、今回は君の出番はないんだろう?」
「確かにそうなんだが……」
今回行われるのは、脳筋グループの殴り合い。
戦闘エリアも狭い中での戦闘のため、小細工を弄する暇もないのだ。
「今、手の空いている人がいないんだ。≪料理≫中に他の行動をすると中断されてしまうからね」
「そんなことは言われなくても知ってる」
≪料理≫だけではなく――
≪錬金≫や≪建築≫などの行動も、動作中に他のことはできない。
「また今度、料理をタダであげるからさ、な? これは一部前払いということで」
そう言って、送ってきたのは――
《天使のパイ》
他プレイヤーに投げつけて1ダメージを与えるだけのジョークアイテム。
数か月前のイベントで配布された、所謂ゴミアイテムである。
……自分はイベントが始まって、受け取った瞬間に捨てた。
「懐かしいだろ」
「お前……」
「と、これはまぁ冗談で、各ステータス上昇バフの料理を五個ずつ! 一流の料理人が作るんだ、味は保障するよ」
ゲームアイテムなのだから、味も糞もないと思うが……。
効果は折り紙つきなので、貰っておいて損はないだろうと判断した。
「仕方ないな……。どこに何を取ってくればいいんだ?」
「森林ダンジョンの四層目以降――。そこに《地獄キャロット》と《ヘルパンプキン》が生えてるから、三百個ずつ取ってくれば一応、最低限の用意はできるかな」
……アイテムの名前についてはもう慣れた。
運営もいちいち名前をちゃんと考える余裕がないのだろう。
「三百個ずつ……。何人か応援に呼んでも問題ないか?」
「まぁ、報酬を渡すのに時間がかかってもよければ。きっちり人数分の料理を用意するよ」
「――わかった、すぐに材料を取ってくる」
とりあえず、フレンドリストで一括送信して様子をみることにした。
――――
『で、こうして集められたわけだ』
地獄街の広場の一角に集まったのは、自分含め四人。
[グラシャ=ラボラス]、[ケルベロス]、[アシュタロス]。
そして――[シトリー]。
『いや、私一応、地獄の四大実力者なんですけど……』
『お前は収穫にボーナスが付くだろ、強制参加だ』
【アシュタロス】――
元は豊穣の女神だったとされているからか、収穫にボーナスが付いている。
『まぁ、諦めなよ。今回は僕が監視でついて来てるし、戦闘もこの二人がいれば問題ないと思うよ?』
『……逆に、なんでお前がいるんだ?』
【シトリー】の序列は十二位――
本来なら、例の大戦に参加しなければならない筈である。
『今回は地形もクソもない、ただドンパチしたい人たちの戦いだからね』
つまりは、【シトリー】が指示を出す必要すらもないらしい。
『なので【シトリー】のみんなは今日はお休みです! オフです! 息抜きです!』
『はぁ……』
まさかありえないだろうと思っていたが――
たかがお使いに各グループの第一位が集結するとは。
『――世も末だな……』
言わずもがな。
[ケルベロス]は真っ先に返信してきた。
……なんと言えばいいのか。
このまま、ダンジョンの最下層まで攻略できそうな勢いだった。
――――
『そういえば報酬は? [ニスロク]からの依頼だったんでしょ?』
『各種料理五つ』
『たかだかお使いでその報酬って、太っ腹だねぇ』
『あそこの料理は一級品だから効果も優秀だし、報酬としては太っ腹じゃないですか!』
『あとは……《天使のパイ》を一部前金として貰った』
『……それって、ゴミ押し付けられただけなんじゃないの』
痛いところを突いてくる。
このレベルになると、暇つぶしする気にすらならないからな……。
『それなら今度、不意打ちでぶつけてやろう』
『そ、そんなの回避補正+20%のケロちゃんには当たらないし』
『残念だったな、アイテム効果だから必中だ』
『酷い!?』
『まぁまぁ、1ダメージですし』
『これでまた雑魚モンスター狩りいこうよ』
『お前ら……、そんなアホな遊びしてたのか……』
たしか一番弱いモンスターでもHPが50近くあったはずだ。
【シトリー】の面子はよくわからないのばかりだな……。
そして、目的のダンジョンへとたどり着く。
『ここは――中での戦闘も考えておかないとね』
ダンジョンエリアは、天使・悪魔共通で入ることができる。
下手をすると――
自分たちよりも強い天使達とエンカウントすることも有りうるわけだ。
――――
【ダンジョン―第四層】
『さて、ここから例の材料が生えてる層らしいが……』
『一つもないですね……』
『こりゃあ黒ですな』
つまり悪魔か天使か――
自分達以外の者もこのダンジョンに、≪料理≫の材料を取りに来ているらしい。
悪魔だったら同じような目的だろう。
特に問題はないのだが――
『急に戦闘に入る可能性もある。もう一度、スロットに回復アイテムを補充しておいた方がいいだろうな……』
――天使だった場合が問題だ。
戦闘は避けられないだろう。
『さて、準備完了です。いつでも行けます』
『いざというときは回復魔法も打つけど……。できれば攻撃に集中したいからお願いね』
『僕ら二人は後方支援に徹するよ』
『……助かる』
自分と[ケルベロス]が前衛に。
そして[シトリー]と[アシュタロス]が後衛について――
ダンジョンの奥へと進むことにした。
【ダンジョン―第六層】
『……おかしいですね』
雑魚モンスターを蹴散らしながら進むも――
まだ目的の材料が一つも見つからない。
『材料が復活してないところをみると、一時間以内には採取されてるんだろうが……』
『あ――ストップ』
後ろを歩いていた[シトリー]から、突然ストップがかかる。
『どうした?』
『いるね、天使。向こうは三体みたい』
数では勝って――いや、二対三か。
後方支援の二人は数に入れないことにした。
レベルは二人ともMAXだけれども、自分以上に対人戦向きではない。
場合によっては手痛いダメージを受けることも考えられる。
『……上位の天使は?』
『んー大丈夫。【レミエル】、【マトリエル】、【シャムシェル】……』
『ステータス的にも中盤ほどでしょうか……。ここで倒します?』
『そうだな……。向こうが気づく前に奇襲を仕掛けよう』
このままやり過ごして奥へと進むという手もあるが――
何かの間違いで後ろから襲われても面倒だ。
――――
なんとか最初の奇襲で一体倒せたため、うまく二対二に持ち込めた。
ほぼ圧倒する形で勝利することができたし――
結果は上々、と言ったところだろう。
『あ! この人たち材料持ってるよ!』
四層から生えていた材料を根こそぎ刈っていたのは――
どうやら、この天使たちだったらしい。
ダンジョンで拾ったアイテムは、出るまでに死んでしまった場合――
全てその場にドロップされるようになっている。
これで、なんとかノルマの三分の一は達成することができた。
『スコアも稼げたし、うまうまだねぇ』
『でも、まだ三分の一だぞ……』
思っていた以上に、先は長そうだ。
『もっと奥まで進んでいかないとですね……』
目的の材料を回収しつつ、さらに奥へと向かうことにした――
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