2章ー私を連れてほしい
「いいなぁ、マナもカナも」
ヴァニラの呟気が聞こえてきた。
その声には羨ましいと気持ちが籠っていた。
そのヴァニラの声が聞こえていたのかマナは普通の人より長い耳がピコと動き少しだけ顔を上げる。カナもなにがだろう?と不思議そうだった。
母であるリムルは何となくではあるようだが、娘の気持ちを分かっているらしい。
どこか困った表情でいた。
「どうした?何が良いと思ったんだ?」
そう聞いていた。
「んぅ!だって凄く面白そうなんだもん!迷宮での事とか聞いていたらなんだか凄く羨ましいって気持ちが湧いてくるんだもん!」
「面白そうって、迷宮では常に命の危険があるんだよ?面白い事ばかりじゃないの」
カナが窘める様にヴァニラに言う。
まさしくその通りだ。
迷宮には魔物ばかりでなく罠の類も存在する。
カナの言う通り命懸けと言うのは間違っていない。少しの判断の違いが死につながる。それが魔物との戦いであり迷宮の怖さだ。
それにマナも同意するようにうんうんと頷いていた。
「うぅ、それでもだもん。だって……私、今、ものすごく孤独で退屈でしかたいんだもん!」
そう聞いてマナとカナは「はっ!」と気付き、母であるリムルはやはりなのねと呟いていた。
そう告げたヴァニラの表情には寂しさが含まれている様に感じた。
それは仕方ない事だとも思う惶真。
今のこの村には、かつての友もおらず親しい者は自分の母であるリムルのみだ。
彼女は孤独感をここ数日感じ続けていたのだろうと思う。
そしてその孤独感や寂しさ、退屈感を刺激する話を聞いたのだ。
そういう気持ちを持ってもしかたないとも思う。
そしてその気持ちは私も連れて行ってほしい!と言う気持ちがあるのに薄っすらと感じ取っていた。
だからと言ってヴァニラを連れて行く気は惶真にはない。
それを許可するのは自分ではない。それを認めるのはただ一人。
この村に住む唯一の肉親であり母であるリムルだけだ。
もちろんリムルが許可を出すとは思えないが、たとえ許可を出したとしても惶真は同行を渋るだろう。
なぜなら、ヴァニラが付いて来たら、リムルは一人になる。
リムルは優しく娘の気持ちを理解してあげられる人だと思う。(美柑さんもそんなところがあったしな)なんだかんだで許可を出すような気がする。
だが――。
なら今度は彼女が孤独になり寂しさのある暮らしを送り、いつも娘の安否を心配する日々を送ることになるだろう。
それは看破出来ない事だった。
なら、リムルも一緒に同行したらどうかとも思うが、彼女はそれほど体力があるわけではなく、娘のヴァニラの様に多少なりにも魔物とかと戦う術があるわけではない。
それに始めて泊まった日に聞いたのだが、
『お前たちを迫害するような輩はもういないと思うが、今後もまたこんなことが起きるかもしれんだろ?ならこの村を捨ててもっと安全な、帝国とかより王国とかに定住したらどうだ?』
『ありがとうね、オウマさん。でも、それは出来ません。だって此処は私が彼、私の旦那様と出会った場所。そして私達親子がずっと暮らしてきた
と話していたのだ。
思い出のある地と家がある以上彼女は動かないだろう。
「ねえ、お兄さん!お願いなんだけど……私も一緒に行ったダメ?」
なんだか必死そうな表情でお願いしてくる。その赤い瞳には覚悟があるが分かる。
「なぜそこまで必死にお願いする?まあ俺が許可しないこと分かるからかもしれないが」
「うぅ…だって!……お兄さんたち迷宮の攻略を終えたんでしょ?ならまた此処と違う場所に行くって事でしょ?だからっ、今しかないと思ったから!」
(なるほど――俺達がすぐに旅立つと思ったから必死にお願いしてくるのか。……それは勘違いなんだけどな…)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます