2章外伝ー➄:咲夜との手合い【セシリー視点】

咲夜からの模擬手合の申し出にセシリーは彼らに興味があったのもあり承諾することにした。

この異世界から呼ばれた者の秘めた実力をこの目で見たかった。

その理由は、彼の者達の秘めたる実力は、あの黒髪の不思議な雰囲気を持っていたオウマの様に優れたものなのか?

彼は指一本で大の男が振るった拳を止め蹴り弾き飛ばした。

ざっと人目見て、彼は正直鍛えられた体付きをしていなかった。はっきり言って戦いとは無縁に過していたものだった。

それなのに鍛えられている男を圧倒せしめた。

そしてオウマと同じ世界から来たと言う人間が現れた。


もしかして他の人も彼の様に未知数な実力を持っているのだろうか?と思い興味が湧いた。

だからこそエルドラの街に届ける依頼は好都合で好機だと思い同行することにした。

そして森に入ってしばらく。正直、セシリーが彼ら4人に対しては『こんなものなのかな?彼が桁違いなのかな?』と思った。

正直言って彼の―オウマと彼ら4人には一線を越えた実力の差があるように感じていた。

彼らにしてみればこの森の魔物は弱い分類に入ると思う。

だから相手が弱いが故に全力を出せずに圧倒してしまうのだろうか。

そんなふうにも思っていた。


たしかに彼ら、召喚者の実力は確かに高いと思う。

特に【勇者】と言う特別な称号を持っている金髪の男性、名前はマサキ。

これまで彼は黄金の剣デステニーによる剣技や魔法を組み合わせた柔軟な対応で魔物を倒している。この森に出る魔物くらいでは苦戦する様子は全くない。

そして彼女、サクヤ。

彼女も、彼、マサキより実力的に少し劣るのかな?がと感じられる。それでも高い身体能力を有している。それにマサキが真っ正面から堂々と言った風だが、彼女は違う。

真正面から攻めず必要なら相手の隙をしっかり見抜きソコを攻める。彼女はアーティファクト以外にもいろんな道具を駆使しトリッキーな戦術を見せる。

”なんでもあり”なら彼女はこの場の誰よりも優れた実力を発揮できる。そう感じさせられた。


あと他の2人、ランとアヤメも一般的に見たら優れた才を持っていると思う。

彼のあまり見た事のない形をした剣(刀と言う名前らしい)を振るうその姿に美しいと感じさせるし、彼女の治癒魔法は簡単な負傷くらいなら痕もなく癒す事が出来る。


(私も治癒魔法は一応使えるけど、彼女ほど卓越した治癒は出来ないだろうな)


高い実力に才能を持つ人達。けど……彼には、オウマとははっきり言って遠い距離が彼らにあると分かる。

それに、今の彼らとなら、戦い方次第で、自分でもいい勝負が出来ると思う。


だから、サクヤの申し出を受け入れた。

彼女が申し出てきた際に、彼女の眼には何か強い意思が秘められているように感じた。

彼女の召喚者としてに全力の真なる実力と彼女の秘めている思いを知りたい。

そう強い思いを抱いた。

だから受けた。


そして今まさにこうして手合わせしている。

彼女はやはり手強い。

彼女の”収納魔法”の腕輪にある多数の暗器を駆使し攻めてくる。ナイフや針を投射して来たり風の属性を纏った斬撃を放って来たりしてくる。

距離を開けるのは得策と言えないと判断し、こちらも”身体機能向上”を使い文字通り強化、そして今まで修練し会得した円を描くように槍を回す技。

女の身ゆえに男には腕力では敵わない。だから力で対抗せず、遠心力を利用し生かす戦術を考えた”円振槍技”を駆使し間合を詰めつつ攻める。


私は一応剣もそこそこ扱える。

けど自分の体格では剣では力不足。鍔迫り合いなら身軽な自分が不利になるとも考えた。

冒険者は男がやはり多い。

純粋な力比べでは、力及ばず御されると思う。

だから私は槍を選んだ。


そして自分のその選択は間違っていなかった。






(…また、違う所からサクヤの声がっ!)


また違う方向からサクヤの声が聞こえ、その声が聞こえて直ぐに針による攻撃が続く。

その針を槍で弾き躱す。

彼女の放った針。その針の先端には紫の毒が仕込まれている。もちろんこれは模擬戦の様なもの。

実戦での殺し合いではないので、彼女も致死性のある類の毒ではないだろうと推察する。

実際咲夜の仕込んでいるの毒はほんの少し身体が痺れるくらいの軽いものだ。

それでも毒は毒。

掠めるだけでもこちらの敗北につながるだろう。

だからこそセシリーは此方の死角から放たれてくる針を必死に躱し続ける。


(…また消えた)


躱しが続くと不可思議な点があった。

自分がサクヤの投擲針を躱した次にはまるでそこにいた形跡などなく、直ぐに、一瞬で別の場所に彼女の気配が移っている事だった。

セシリーは針を弾く際にも彼女の姿を常に視界に入れようとしている。

しかし彼女を捉えきる事が出来ず、まるで幻の様に消えていくのだ。


(瞬間移動系の技能か魔法でも使っているのか?)とも考えたが、いずれも違うような気がしていた。


彼女の何かしらの技能だとは思うのだが、先程、この針による攻撃が始まった時から何か違和感の様なものを感じていたのだ。


瞬間移動技能であれば移動後の音がする。

高速移動後の足音を殺すのは容易ではないとある時に知ったからだ。


ならば音を消す能力だろうか?

そうも考えたが、それならば何故此方にその存在を教えるのだろうと考えた。教えない方が完全な不意を付けるのに。つまりこの一連の流れにも何か彼女の狙いがあると言う事。


(…また。……やはり何かおかしいわ…)


違和感が大きくなっていく。

そしてその違和感の正体が何故か消えるように動くサクヤではなく、自分の体の内から少しずつ感じ取れてきたのだ。


そしてサクヤが最後の詰めの一撃に移ろうとした時だった。

セシリーははっきりと自分の抱いていた違和感の正体に至った。


それは嘗て自分の身にあった”枷”に似たものだと。


(なるほどね。”枷”に近い、おそらく相手に干渉する状態異常を与える能力って所かしらね…でもいつの間に掛かったのかしら?)


セシリーは不思議の思うもとにかくこの異常を解く方が先決と目を瞑る。

背後から近づくサクヤはセシリーが動きを止めた事に若干怪訝そうに思うも、背後からなのでセシリーの様子を把握できない。


(……”解析魔法展開”…)


自分に状態異常が付加されているなら、まずどの状態異常が付加されているかを把握しないといけない。

彼女の次の決め手が決まるまでに終える必要がある。

急ぎ解析魔法を発動し自分の状態を確認。

そして自分に”幻影”の状態異常があるのを理解する。


(なるほど…)


幻の様だと考えた自分の考えが正しかったようだ。

あるはずのない、されどあるように見せる。

厄介なものだ。

しかもただの幻影では意味のない異常だ。しかし彼女は針による、おそらく何かしらの仕掛けをして攻撃しているのだろう。


すぐさまセシリーはあの時、実家の聖地祷礼に赴いた際に己が身にあった”枷”の解呪と共に会得した”反転魔法”を発動。

この”反転魔法”はその名の通り、自分を対象にした効果を逆の効果として上書きする能力だ。


”反転魔法”の効果により、セシリーに掛かっていた状態異常”幻影”はその性質が変わり、”真眼”へと変化した。

”幻影”が対象に幻を見せる状態異常なら”真眼”は幻の類を見極める感知能力だ。

変化し”幻影”の効果が消えた事で、セシリーにははっきりと今まさに背後から”音もなく近づくサクヤ”を感知した。


咲夜はその手の短剣をセシリーの背に当てようとする。

その刃が彼女の背に当たる間際だった。

セシリーは白銀の槍の素早く自身の背に回し、咲夜の【咲朱】の攻撃を防ぐ。


「!?」


そして完全に不意を突いたと確信していたが故だろうか。動揺が走り態勢を崩す彼女にセシリーは振り向きカウンターの一撃を繰り出そうとした。

セシリーの白銀の槍が咲夜の首筋に当たる間際、


「…私の負けね」


咲夜は己の負けを認めた。



模擬手合いの後、咲夜とセシリーはお互いに握手をする。


「やられたわ。まず最後のは勝ちを確信したんだけどね。自分の能力を過信し過ぎていたのかもね。はぁ…私もまだまだね」

「いえ、サクヤも手強かったわ。もし私が”反転魔法”が使えなかったら、確実に防いだり出来なかったもの。それにしてもあの”幻影”って効果は何時仕掛けたの?たぶんそのアーティファクトの剣の力なのかなと思うんだけど?」


セシリーは咲夜の黒い短剣に目を向けながら聞く。

咲夜はその問いに「yes」と返す。

もちろん発動条件などは教えない。


「流石はアーティファクトね。幻を見せるなんて能力、厄介すぎるもの。しかも最後の一撃には、アナタの音や気配が殆ど希薄な状態だったわ。反転させた”真眼”の力がなかったら本当にどうなっていたか」

「そうね。私もこの手合いに良い意味で価値あるものになったわ。私の提案を受けてくれてありがとう。ふふ、でも、今度手合わせする時は負けないわよ」

「えっ!?…あははっ、正直次がない事を祈ってるわ。だって心臓に悪そうですもの」

「あらまぁ。まあ、機会があれば、でいいわ。でも負けっぱなしは私の趣味ではないからいずれは受けてほしいわ」


不敵な笑みの咲夜と、苦笑気味の笑みのセシリー。

2人の手合いはこうして幕を閉じた。



それからは二人は親友の様に色々話すようになった。

御互いの昔話を語り合ったりと。

それはもう楽しいと。


正直言ってこのまま一緒に旅をしないと誘いたいくらい、咲夜はセシリーを気に入っていた。

けど、今回セシリーはエルドラの街まで、一緒に同行しているに過ぎない。それに彼女は冒険者に思い入れがある。

セシリーは基本王都を活動拠点にしている。

だからその依頼の後も彼女は王都に戻るのだろう。

だからこそ残念に思う。


そして森に入って二日目の昼、彼の――オウマが向かった街【エルドラ】に辿り着いた。



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【おまけDATA1】

○名前:セシリー・ベアトリクス

○性別:女  ○種族:人間

○職業:元貴族/冒険者  ○冒険者ランク【青】

○レベル:9 ○属性【白】

筋力:80

体力:120

耐性:70

俊敏:80

魔力:380

魔耐:290

○固有技能

?・?…?魔法【?】

○特殊技能

『戦闘系』:剣術:槍術【円振槍技】:見切り:身体機能向上:俊脚

『魔法系』:魔法適正【白】:異常耐性【強】:解析魔法:反転魔法【異常反転】:治癒魔法:詠唱破棄

『補助系』:言語理解(古代語理解不可)【自動筆跡】:気配感知

『天職系』:治癒士

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ざっとこんな感じのセシリーステータスです。

前より強くなっています。

レベルも少しですが上がっており、技能も新たに習得できています。

また色々小まめに依頼を受け達成する事で【赤】から一つランクアップし【青】のランクになっています。

能力向上した要因は「彼」と邂逅した事です。


【おまけDATA2】

○名前:神童咲夜シンドオサクヤ

○性別:女  ○種族:人間(異世界人)

○職業:学生/転移者  ○冒険者ランク【なし】

○レベル:15 ○属性【風】

筋力:100

体力:150

耐性:80

俊敏:170

魔力:180

魔耐:100

○固有技能

女神の加護・瞬神【領域無音瞬殺デスインサネティ

○特殊技能

『戦闘系』:剣術【短剣術/双剣術】:投射術:俊脚:瞬足【忍足】:空帆:威圧:斬空AirSlash加速Accelerator加重疾走Double‐Accelerator】:

『魔法系』:魔法適正【風】:魔力付加:魔力放出:無音魔法Silent

『補助系』:言語理解(古代語理解不可)【自動筆跡】:気配感知:気配遮断

『天職系』:暗殺者

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現状の咲夜のステータスです。

能力だけならセシリーを超えています。

能力が暗殺に関係しているものばかりです。

相手の背を捕りやすいです。

アーテファクトである【刻夜】は相手に”幻影”の状態異常を掛ける事が出来ます。

相手に”幻影”を掛けて混乱している所を”無音”で音を殺し相手に近づく。そして一突き。


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