2章ー外伝EpisodeⅠ…その頃のクラスメイト③【遊一】

遊一は若干揶揄いを含めながら、海治は意外そうな眼を守と命の二人に向けていた。

命はキッと遊一と海治の2人を睨む。

その睨みも普段であればビクついたかもしれないが、先程まで命の女の子らしさを目にしていたので気にならない。むしろ微笑ましいとすら遊一は思えた。


「仲良いね、お二人は」

「な、なにを…」

「うん。命さん色々と気にかけてくれるからね。ただ…あの時に、僕が命さんを庇った時の事を気にし過ぎだと思うんだけど。なんだかこっちが申し訳ないなって感じかな」

「まあ、あのような事があれば心配になるのはわからなくもないな」


頷く海治。そして頷く海治を意外そうな目を向ける遊一。


「あれ?海治もそっち?」

「そっち?とは?」

「いや、何でもないよ。鈍感だよね二人とも。相楽さんも大変だね」

「はぁ…って、何を言ってんだっ!?」

「「?」」


分からないと傾げる二人に苦笑する遊一。

遊一はなんとなく命の気持ちが分かっていたりする。

確かに庇われいのちの危険までさせてしまった事への罪悪感は確かにみことの中にあるだろう。

だがそれだけではないのに遊一は気付いていた。

罪悪だけではあんなに親身になったり顔を赤くしたりするとは思えない。

名前呼びさせたいと思うのも好意的な気持ちがなければ表現されないと。

クラスの半数、特に女子は命の想いに気付いている。気付いていないのは、鈍感な金髪勇者君とか、自分にしか興味のない筋肉ダルマ、そして好意を向けられている張本人である本人とかだろう。まあ主に男子勢だろうか。

ちなみに気付いていないのが遊一の傍にいる。海治である。

まあ堅物で美術一本気なので(海治はいまだ恋をした事もないので気付いていないか)と苦笑する遊一。


「そうだ、守君。”アレ”なんだけどできてる?」


遊一が守に訪ねたのは以前から作成依頼していた物が完成に近いと聞いていたからだった。


「えっ、あぁ、それなら今日の朝に完成してるよ」

「守、お前また徹夜してたのか?」


咎める様に睨む命。その視線に「うっ、しまった」と零す守。

あとで少し話そうか?と命から凄まれ、守は引き攣りつつただ頷くしかなかった。


(あはは、これもう彼氏彼女の雰囲気な気がするんだけど…)

「何だか悪い気がするんだけど…」

「あっと、そのゴメンね。そうだね、今から取りだすよ。ちょっと待ってくれる?」

「部屋に取りに行くのかい?それなら…」

「いや違うよ。今この場に取り出すから部屋まで行くは必要ないよ」


この場に取り出すと言う守の発言に「どういう事だろ?」と遊一と海治は首を傾げる。

不思議そうな二人を尻目に、守は右手を前に出すと魔法陣を展開する。


「“来たれ、我が蔵に納められし宝”!」


そう唱えると守を中心にした魔法陣が光り浮かぶ。

そして魔法陣の光が収まると、その守の手には、彼が”取り出すと言った物”があった。


これが守に与えられた”女神の加護・生産工房アーティファクトリー”の能力の一つである。

その能力は使用者が作製した物を登録する事で、登録した製作物をいかなる距離であっても手元に引き出す事が出来るのである。


驚く遊一と海治の二人。命は既に何度か見ているので驚いていない。初めは驚いていたけども。

そんな驚く遊一に守は取り出しその手にある”依頼されていた物”を渡す。


「はい、とりあえずこんな感じかなってイメージしながら作ってみたんだけど、どうかな?」


遊一は守から受け取ったそれを自身の左腕に渡された物を装着した。


「……いや、良い感じだよ。うん。凄く感無量だよ。まさか、って感じだ。なんだかこれを着けているだけでこう決闘者みたいだな、なんか」


その着け心地と夢がかない満足気に笑みとなる遊一。

遊一が守に依頼したのはカードゲームで使用するカードを納めるデッキケースである。

遊一の”女神の加護”の能力は『描かれている魔物の肖像画を実態として召喚する』ものである。そして遊一が召喚能力に用いる触媒に選んだのは元の世界から持ち込んだカードゲームを選んだ。

ただ遊一の能力は一度召喚した存在は召喚後に消滅する、というデメリットがあった。

もっとも、このデメリットは親友の海治の”女神の加護”の魔物封印の能力によって解消されている。しかも海治が封印した魔物の絵柄のサイズは自由に変更できるので遊一の持っていたカードと同じ大きさに出来るのである。


遊一と海治は他の者達と同様に迷宮挑戦に何度か挑んでいる。

それは一緒に付いて行った守も一緒である。

当然命も同行している。名目は守が無茶をしないようにで、あとはただ一緒にいたいと言う思いだったりする。


遊一と海治は戦力となる魔物の収集。

守と命は頼まれた依頼物に必要な素材、ほかの錬成の作成に必要な素材となる物質を収集する為である。


遊一は右手で上着のポケットからカードデッキを取り出すと左腕に装着したカードデッキ【デーヴァ・デッキ】のデッキホルダーに入れる。


『…―-ザァ―――』

「な、なんだ!?」

「コレ、からだな…」


デッキを入れた途端【デーヴァ・デッキ】から機械的な音声が聞こえ始める。

突然の音声に驚く遊一と海治。

守はちゃんと起動出来てほっとした。


『認証開始…四十枚確認………確認完了…使用者の声音確認を開始…使用者は名を告げて下さい…』

「えっ、えっと俺の名前で良いんだよね」

「うん。武藤君の名前でいいよ」

「えっと…それじゃ、登録名、武藤遊一」

『ムトウユウイチ…デッキマスター登録…完了……』

「えっとこれで良いのかい?」

「うん。登録完了だよ。試しに機能の一つを試してくれる。出来上がりも把握したいから」


守にそう言われ遊一は説明された機能のうちの一つ。

自動カード選択を試して見た。

その機能は、対象者の思考回路を通じて、思い浮かべた名称と絵柄を認識しデッキのカードをシャッフルし思い浮かべたカードが一番上にくると言う機能である。


試しにと遊一は緑の表皮の翼竜『ワイバーン』を思い浮かべてみた。

すると【デーヴァ・デッキ】の中央部分が光る。

どうやら正常に機能が働いているようだった。

そして5秒ほどのちホルダーのデッキがシャーとシャッフルされる。

おお!と驚く遊一。

そしてシャッフルされていたデッキが止まった。

遊一はドキドキしつつデッキのその一番上のカードを引いてみた。

それは奇しくも先程思い浮かべた緑の表皮の翼竜が描かれているカード『ワイバーン』だった。


遊一は「おお!」と驚く。正直何度驚かされるんだと思うほど驚いていた。

そしてそれ以上に嬉しいと言う気持ちで一杯であった。

感激した遊一は守の両手をガシッと取るとこの感激を伝えたいと物凄くぶんぶんと振り感謝を伝えた。

守もいきなり自分の両手を振られ『わわっ』と困惑するも、自分の作製品をこんなに喜んでくれたことに嬉しさと満足感で一杯だった。



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