2章ー③-外伝:その頃の召喚組①…聖剣選定…そして私は君を追う

此花惶真コノハナオウマが船で迷宮大陸に辿り着いた時期、アルトシア王国でもある動きがあった。



アルトシア王国は正式に『勇者召喚』を行った事を大々的に発表した。

目的は交戦状態の魔人族と決着し世界を平和に導く為に、この世界において始まりの神人であり、残されし碑文から唯一残存していると信じられている【女神アテネ】から異世界の勇者を呼ぶ術を得て行ったと…

無論王城下の民達は喜びに振えた。


そして召喚された者達のいくつかのグループは、それぞれステータスアップ、そして最終的に魔人族の王である【魔王】討伐を目的に出発し始めた。



いくつかのグループの出立を見届けた私こと、神童咲夜も今日、この王国を出て、いよいよこの世界に足を踏み出す。

ただ、私がこの国を出発する理由は、既に出発したグループの様に魔人族や魔物からの脅威に対抗する為ではない。ましてステータス向上の為でもない。


私の目的は、この異世界に私たち同様に召喚Summonsされたのだけど、唯一“女神の加護”と言う召喚された者には得ている筈の固有能力を持たざる者であった為、私達と違い城から城下に移った誰も名を知らない事から『 』クウハク君やら名無し君と呼ばれていた”彼”の捜索Searchである。


私が”彼”の捜索と追跡の為に今日旅立つのは、あの出来事が発端でしょうね。

その時の事を思い返してみようかな。



迷宮探索による魔物との実戦、”恐怖の暴竜”の異名を持つダイノボッドとの死闘、そして1人の負傷者と、1人の騎士の犠牲を払う結果となって帰還することになった。

負傷した福田守は早い治療の効果もあって1日で回復する事が出来た。



それから数日が経過したその日に咲夜達召喚者はこの城にある、とある場所に集められた。

そこは謁見の間と同じくらいの空間で神秘的なステンドグラスがあり、神秘的な芸術の様な場所だった。咲夜は教会みたいと思った。


そして咲夜達がこの場所に今回集められた目的の物が眼の先にあった。

そこには、奥に六角状の台座があり、その台座の中央部にどこか神秘的な雰囲気がある一振りの剣が刺さっていた。


(……なんか、べたよね。アレ。台座に刺さった一振りの剣。…小説Novelとか物語Storyに出てくる、選ばれし剣って感じかな、アレ)


私は眼の先にある、如何にも特別ですよと言わんばかりの剣が刺さっている台座を見てそう思った。

他のクラスメイト、特にゲーム好きな武藤や、絵描きの瀬戸、と言った特に男子が同じ共感を得ているようだった。

そして殆どの生徒達がその座の剣を見た後、大半の視線を今回召喚された中で唯一”勇者”の称号を持っていた正儀に向いていた。


1人の女性が私達の前に立つと今回の趣旨を説明し始めた。


「……では、本日、皆様に集まって頂いたのは、これよりこの座に封じられし聖剣の持ち主を選定する為です」


私達に説明している女性こそ、このアルテシア王国の第1王女であり、女神の巫女でもある、そして、私達を異世界であるこの世界に召喚した張本人である。

ステラリーシェ・ジャスティン・ローズマリー・アルテシア。

名前が長いので、皆ステラ姫と呼んでいる。

そのステラ姫の傍にはこの王国の最強の騎士であり、私達の戦闘訓練を担当してくれているヴァレンシュ騎士長が控えていた。



聖剣の選定…

ステラ姫からこの剣の説明された。


『この座に刺さりし剣は、かつて神々の闘いがあった時代の後に、1人の青年が、その時代に現れた神に刺さっていた剣を引き抜いた剣だと言われています。

その青年は当時、人間に対峙していた魔人族の王をその聖なる輝きを持った剣で討伐したと言われています。そして、魔王を討った後、その青年の持っていた剣は突如、その手を離れ、この地に転移したのです。

青年は剣の行方を捜し見つけました。しかし、この座に刺さった剣をどうしても抜く事が出来なかったのです。

他の者が挑戦しましたが、誰一人抜く事が出来なかったそうです。

青年は仕方ないので、当時は荒れ果てた土地を再建し1つの王国を作ったのです。それが、このアルトシア王国なのです』


「この剣には魔王の称号を持つ者に対して特効のような効果があるようなのです。来たる魔人族との戦いに備え、私は今回の召喚の秘儀にて、私達を導き平和をもたらす存在である“勇者”様。そして、この剣の正当なる所持者となる者を呼ぶ事が出来たのです」

「”勇者”として召喚されたのは正儀、君だ。これは間違いない」


皆、正儀に目を向ける。


(何だか誇らしげな様な顔をしているわね、アイツ)


その注目の的である正儀がステラ姫に質問した。


「1ついいですか?どうして、召喚されて数日が過ぎた頃、つまり今日行う事にしたのでしょうか?」


正儀の疑問に私も確かにと思った。

そんな重要な武器があるなら各自が武器を選んでいたあの時にするべきと思う。

そんな皆がどうやら思っていた疑問にステラ姫は答えた。


「そうですね。まずは、そこを説明いたしましょうか。…と言いましても、理由は至極簡単と言えます。まず、この剣に触れる事が出来るのは、この剣が発する存在力に耐えうる器の持ち主でなければならないのです」


…圧倒的な存在力?

…それはどんな力なのだろうか?


「かつて、この剣に触れた未熟な者がいました。その者は、剣の放つ存在力に耐え切る事が出来ず結果としてその者の触れた指が消滅するという事があったのです」


消滅。その言葉に、クラスメイト達に動揺が走る。

その言葉に選定の儀に挑むのが嫌と言う者も出てくるだろう。

だけどステラ姫は安心して貰う様に説明を続けた。


「はい。ですので、私達は、あなた方がある程度の技量と器を得たと判断した、今日を選んだのです。今の皆様なら、剣の存在力に充てられ弾かれる事もないと思いますから」


…なるほど。ステラ姫の説明で今日に選定する事に納得が言ったわ。

質問した正儀も「分かりました」と納得した様だ。


「…では、これより御一人ずつ台座に赴き剣に触れて下さい。真なる担い手であれば、聖剣を抜き放つ事が出来るはずです。…さあ、どなたから挑まれますか?」


クラスメイトは御互いに視線を向け合う。


「誰が行く?」

「お、俺、後でいい!」

「どうしましょう…」


大丈夫と言われてもやはり不安が多いのだろう。お互いに牽制する様にそんなやり取りをしていると、正儀が「なら、俺がー」と名乗り出ようとした時だった。剛田が正儀の言葉に被せる様に発言した。


「へっ!ビビってるやつらは後でいいぜ。まずは俺が行くぜぇ!……おい、正儀!お前は最後にしろや。どうせ、お前が一番可能性があるんだからよぉ!」

「……分かった。俺は最後にだな」

「…いいの?」

「構わないよ。もし、俺じゃなくても別にいいしね。俺にはこの剣デステニーがあるからね」

「そう……」


どうやら正儀はさほど聖剣の所有権に強い興味はないようね。

まあ私もそこは同じだから、嫌な共通点よねホント。


そして、選定の挑戦が始まった。

先陣を切るのは剛田だ。

勇んで前に出た剛田は、聖剣に触れ握った。どうやら剣に弾かれる様子もなく、剣の持つ存在力に耐えた様だ。

だけど、そこまでだった。

剛田は、剣を抜こうと力を入れている様だが、剣が台座から抜ける様子はなかった。

その様子から、剛田はつまり“担い手”ではないという事だった。


「ぐっそぉおぉ!なんで、抜けねぇんだあ!!」

「…そこまでだ。残念だがここまでだ」


ヴァレンシュ騎士長に止められるまで挑んだ剛田は憤慨とした表情をしていた。

抜ける自信があったのかしら?滑稽な気もするわ……


それから、次々にとクラスメイト達が挑戦していく。

挑戦した誰もが剣に弾かれることはなかった。

雫も挑戦して弾かれる事はなかったわ。


「…私にはやっぱり無理…みたいでした…」

「当然でしょ!このわたくしが選ばれなかったのですから、貴女が選ばれるなんてあるはずないでしょ!まったくですわ」

「…す、すみませんっ」

「プフフ…ちょっとは身の程ってものを知る事が出来たんじゃない」

「…無様ね…フフ…」


「…うぅ」

「アラ、気にしなくていいわよ雫」

「あっ、咲夜さん…」

「あんなこと言ってるけど結局の所あいつ等も同じダメ組なんだから、だから気にしないでいいわ」

「咲夜さん……ありがと、う」


それからも挑戦は続いたけど、結果は剛田と変わらず剣を抜く事は出来なかった。


「うぅん!……ふぅ…駄目ですね」

「お疲れさま、先生」


召喚者の中で唯一の大人であり先生である繚乱花恋が挑戦したあと…まだ挑戦していないのは、神童咲夜と【勇者】として期待されている正儀。そして、クラスメイトの中で一番剣術に秀でており、剣術のみであれば正儀を上回る技量の持ち主、そして『剣』にカテゴリーされている剣であればどんな剣でも操る事が出来る”加護”を持つ男子、早乙嵐の3人となった。


「どっちが先に行く?咲夜、嵐」


正儀は剛田に言われた通りに最後に挑戦する。だから私達二人にどっちが先に挑むか確認してくる。


「私が行くわ。ちょっと待つの飽きたしね」

「…分かった。俺はその次。そして正儀が最後だな」


私は「あとでいいわ!」と言う理由で最後の方に回っていたけど、正直待つのも飽きて来ていたので、私から挑戦する事を宣言した。


そして私は台座に向かって歩いて行く。

どこか期待の籠った視線が多く感じる。この中で正儀の次に実力があると認識されているので注目されても仕方ない。ただ…その期待は無意味だわとこの時に感じていた。

台座の前に立つと私は座に刺さっている剣に注目する。

その剣の刀身は年月が風化していないかのように曇りなき光で満ちていた。形は西洋の剣に似ている。刀身はまるで宝石の様だと思えた。

正直、綺麗と思える剣だった。

…それと同時に私は何故か理解できた。

この剣が待っているのは私ではない。と言う事に。

何故だかよく解らないけど、直感的に理解したのだ。

まだ触れてすらいないのにである。

それと同時にこの時私は直感的に理解した。


この中に、この聖剣の”所有者Owner”はいない、という事が。


何故か触れようとせずジッと剣を見つめている私にヴァレンシュ騎士長が不思議そうに触れる様に促してくる。

理解した故に無意味な行為をするのはどうかと思ったのだけど仕方ないので、剣に触れ握った。結果はやはり抜く事は出来なかった。


「ふむ。君ならばと思ったが、無理であったか…」

「ふふ、良いの。私にはあの双剣があるから。それに………分かっていた事だしね」

「?」


最後に小さく呟いた後、私は台座から離れ元の場所に戻った。


そして、次に早乙嵐が挑戦した。

だが抜くには至らなかった。

私の直感通り、”剣の達人ソードマスター”の加護も聖剣には効果はなかったようね。

そして最後に正儀が挑戦しに向かった。


「ふむ。どうやら君で最後の様だな」

「ふふ、やはり勇者様である、貴方のようですね」

「さぁ、どうでしょうね……では」


ステラ姫も、ヴァレンシュ騎士長や他の騎士達も期待に満ちた視線を正儀に送リ見守る。

クラスの皆も期待を秘めた視線を向けていた。


「はぁ、やっぱり彼なんだなぁ」

「まあ、そうだろうな」

「ちっ、つまんねぇぜ」


正儀は台座に近づくと剣に触れた。

そして、柄に力を籠め握ると剣を抜き放とうとした。

だけど聖剣が台座から抜ける事はなかった。

うんともすんとも、一ミリも動く事がなかった。


「うん…無理、みたいですね。俺はこの剣の担い手ではないみたいだ」


聖剣から手を放しそう声にする正儀。その瞬間、周りに動揺が走った。

特に、この選定の儀を携わるステラ姫やヴァレンシュ騎士長、この国の騎士達に。


「どういう事だ!?なぜ、抜ける者がいないのだ!?…姫様、これは…」

「あ、ありえません!?…確かに、私は“女神・アテネ”より”神託”を授かったのです。『この召喚の秘儀を用いる事で、世を照らす光の”勇者”、そして”聖剣の主”、”加護”を受けし者達を招けるでしょう』と!」


予想外の出来事の発生に動揺を隠せないステラやヴァレンシュを含む王国の者達。そんなざわつく中、正儀がステラ姫とヴァレンシュ騎士長に近づくと一言漏らした。


「まだ。…まだ、挑戦していない者がいますよ。ステラ姫、ヴァレンシュ騎士長」

「なに!?一体、誰が残っていると?」

「それは、どなた……はっ!……まさか、あの時の方が?」

「……もしかしてBy any chance


正儀の言葉に、ステラとヴァレンシュは1人の少年の事を思い出した。

この召喚に巻き込まれ“女神の加護”を有していなかった故に王城から城下に移った名前もステータスもない不思議な黒いクロノカードを持っていた少年を。


「まさか…あの彼が?」

「その可能性はあるんじゃないかな?…だって、姫様、言ったじゃないですか。『勇者』と『加護』を持つ者、そして『担い手』を招くと」

「はっ!?」

「…確かに」

「もしかしたら彼のステータスは封印か何かされていて聖剣を所持して初めて浮かび上がるとかだったかもしれないでしょ?それなら彼のあの無茶苦茶なステータスだったのも頷けるってものだと思うんだけど。もしかしたら聖剣の担い手だから”加護”を持っていなかったかもしれないんじゃ?」


皆が正儀の言ったその可能性になるほどと納得する中、ヴァレンシュは1人の騎士の名を呼んだ。

ちなみに私は正儀の言った可能性は聖剣の担い手云々のみ共感、他の部分は何となく違うと履んでいる。


「ダレス!彼の所在は!あの少年は城下でどうしていた!数日前に、彼に新たな財貨を渡しに行ったのは貴様だったな?」


ヴァレンシュに呼ばれたダレスと言う名の若い騎士は何だか顔色が若干悪そうに震えた様に答えた。


「そ、それが…。じ、実は…あの少年ですが…既に、この国を出たとの事です」

「な、なんだと!?」

「は、はい。…騎士長に言われた通り、その少年に新たな財貨を渡しに、騎士長が指定された宿に向かったのですが、既にこの国を出たと。…その場に居合わせた、宿の娘と冒険者の女性から、確かに」

「…それは、何時の話だ!」

「それが…召喚された次の日にはもう」

「そんな、馬鹿な…」


そのダレスと言う騎士が話した内容を聞いた私は「やっぱり」と思った。

まさか次の日に出て行くなんて。

なんでか笑みが浮かんでしまいそうになるわ。


「無謀だ。彼のステータスは戦闘力の無い状態なはずだ。外に出ては魔物に殺されるのがおちではないか」

「それですが、届けに行った際にその二人の娘に聞いたのですが、その少年は“紫”の冒険者を圧倒したと」


その事実に騎士長は驚いていた。

“紫”の冒険者なら、この国の下級から中級クラスの騎士を相手にできる。

それを、召喚されてからまだ一日も経たずに倒した。

突然の召喚で戸惑っている状態のはず。

召喚組で、戸惑う事無く遺憾なく実力を発揮できたのは正儀と咲夜くらいの者だと言えた。

戸惑いの中、実力を発揮できる者などそうはいない。


だが、彼はそれをやってのけた。

つまり、彼は実力を隠していたという事だ。

ヴァレンシュは「なぜ、あの時気付けなかったのだ!」と後悔した。


「ダレス。何故、その事実をもっと早くに言わなかった!」

「す、すみませんっ!それ程、重要なものではないと、思っていまして…」

「くっ……そうだな。ダレスを責めるのは、些か早急だな。それよりも、姫様?」

「そうですね…とにかく、彼の居所を早急に把握しなくてはいけませんね。かの魔王に決定打を討てるのはこの聖剣だけなのですから」

「姫様…了解いたしました。とにかく、彼を追う者を選定し迎えに行かせましょう」


「(Chance!)」


私はその言葉を聞いた瞬間、前に出ると騎士長に申し出た。

これはまたとない機会だと思ったが故だった。


「騎士長!それですけど、名無し君を追う役を私に任せてもらえないかしら?」


ステラ姫とヴァレンシュ騎士長は私の方に視線を向ける。

私は畳み込む様に言葉を続ける。


「この国の者では、彼も警戒するのではないでしょうか?なら、クラスメイトの者、同郷の者の方が説得にも応じ易いのではないでしょうか?なら、私が適任だと思いますよ。他の者は彼に良い感情を持っていなかったようですし」


この理由なら私だけで彼を追う事が出来る!そう思ったのだが、


「咲夜、待ってくれないか?それなら、俺も一緒に行く!俺も、彼に用があるんだから!」


予想外に正儀も、彼を追う役を申し出てきた。

正直、私一人の方が良いんだけど。と私は内心思っていたりする。


正儀の発言に、ステラ姫とヴァレンシュ騎士長が何やら話し合いをしているようだ。

そして結論が出たようだ。

確かに同郷の者がいる方が説得に応じやすいという事を配慮し、私、正儀のグループ(話をしている内に他の2人に了承を取ったようだ)の3人に、ヴァレンシュ騎士長が同行する事になった。


そして、他の者達も「それなら自分達も外に出たい!もう十分力は得たんだから!」と主張しだした。

そして、勇者召喚を行った事実を大々的に発表した後、ある条件の下、各グループで出発していった。


私達は、まず彼が最初に泊まった宿に向かう事になった。


(待ってなさい、名無し君!直ぐに逢いに行くからね♪)


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