1章外伝4ー②…その頃の召喚組『暗器と不愉快な視線』

異世界パルティスに召喚されて4日。

訓練開始からは3日が経過した。


その日はそれぞれ各自で訓練に充てる事になった。

戦闘技能を伸ばしたい者は、王国騎士と手合わせをしたり、武器の扱いや体術、自分を守れるようにと護身術を教わっていた。

魔法を上手くなりたい者は、白の魔導師ホワイトベレーの元に向かい教えを乞うた。

武芸や魔法より、天職、いわゆる職業向きの能力の者は各自己の思うように訓練に勤しんだ。


咲夜はと言うと、色んなモノの扱いを試していた。

咲夜には”暗器操作”と言う【暗器】と認識した武器を一定の扱いを行う事が出来る技能を有している。

ナイフ、鎖、針、etc

それらを試して見ていくつか分かった事がある。

一つは、咲夜の認識によるものだと言う事。

例えばナイフの扱い。

最初に咲夜は、『これは暗器ではない』と認識しつつ振ったり投射してみた。

咲夜には”短剣術”もあるのだが、どうもナイフにはあまり該当していないのか、いまいちな感じだった。

だが、次に咲夜が、『これは暗器だ』と認識しつつ使用すると、先はいまいちな感触しかなかったのだが、『なるほど』と言う様に扱い方がより良く扱いもよくなった。

他の針や鎖なども同様だった。


次は、認識した暗器は、確かに扱いが良くなるのだが。やはり本職、つまりその本質たる”武闘術”を有する者に比べると下であると言う事。

ナイフ術、投射術。

咲夜はこれらを現在有していない。

”暗器操作”による効能で『暗器と認識』する事で扱いが良くなる。しかしナイフ術を有する者に比べれば扱いの練度や精練差に差があった。

おそらく咲夜が『暗器』と認識したナイフを武器に、”ナイフ術”、もしくは”投射術”を有するものと対峙すれば相手の方が上手であるだろう。

ただしこれは同種同士の場合だ。咲夜には『暗器』と認識するモノであれば一定以上の扱いを振るう事が出来る。

ナイフが通じなければ他のモノを使えばいい。

元より咲夜には【刻夜】と【咲朱】の双剣のアーティファクトがある。

要は咲夜の強みとなるのは、咲夜の【暗器】と言う手札がいくら存在するのか分からない以上相手は警戒すると言う事。そしてその手数の多さによる奇襲であろうか。


そして最後に【暗器”操作”】と銘されているが【暗器】を実際に操作したり出来るわけではないと言う事。

例えば、鎖を咲夜の思い描いた軌道で不規則に操作したりなどは基本的に出来ない。

ナイフや針を投射して、狙った個所に誘導したりなどは不可能だと言う事だった。


あともう一つあった。

それは【暗器】を魔力で強化できる。と言う事。

魔力を付加させる事で暗器の強度を強化できるのだ。


そしていろいろと試していたのだが、ふと嫌な視線が此方にあるのに気付く。

その向けられている視線には嫌悪感しか抱かなかった。

正直相手になってしたくない類のものだった。

しかし相手はそんな咲夜の嫌悪感など知らず平然と声を掛けて来た。



剛田side――


「どっせい!このぉ!くらえぇ!!」


クラス一の巨漢の男、剛田剛ごうだつよしは、訓練の中、気合のある叫びと共に、今模擬組手をしている相手の騎士に拳を繰り出して攻めていた。

剛田は勢いよく“剛腕”で強化した拳を組手相手の騎士に繰り出していた。

相手の騎士は、そんな剛田の繰り出す拳を冷静に対処していた。

相手の騎士からは手は出さず、剛田の繰り出す拳打を見極めいなしていた。

時には剛田が騎士を掴もうとして来るが、騎士は冷静に躱しては距離を取り対処していた。


「なんで当たらねぇ!?」


己の繰り出す拳が当たらないことにイライラが募る剛田。次第に動きは大振りとなった。

騎士はその瞬間を待っていた!と言わんばかりに剛田の大振りの拳を躱す。そして同時にその手に持つ剣でカウンターを決める。

騎士は剣の腹を軽く当てたのだ。


騎士side―


剛田との模擬組手を終えた水色の髪の寡黙な騎士は令をすると待機している仲間の所に向かう。

仲間の所に着くと仲間の騎士から声が掛けられる。


「おつかれさん。アルフどうだった、アイツは?」


仲間の騎士から“アルフ”との愛称で呼ばれた騎士、アルフレッドは先程行った訓練相手を務めた異世界から召喚された人間達の一人である剛田に関して聞かれ思った事を仲間に伝えた。


「…そうですね、彼の者はパワーはあるようですが、動きが単調でした。…当たれば中々の威力だとは思いましたが、如何せん動きを読むのは容易でしたので回避するなら問題はなかったですね。……ただ」

「ただ?」

「あの者の厄介な力は自信のある拳よりも、恐らくはあの防御能力だと思いますね。ずば抜けていると言えましょうか」

「防御能力?」

「ええ。先程の最後、軽くとはいえ真剣で切りつけました……ですが」


アルフレッドは、先程使用した剣を鞘から抜いて見せると、同僚の騎士はその剣を見て目を見張った。

その剣には細かなヒビが出来ていたのだった。

それは、剛田の“女神の加護・金剛力士”の力だった。


「この通り、私が剣を向けたのは最後の一撃のみ。軽く当てたはずが逆にこちらの剣がその衝撃を受けた。という事でしょう」

「へえ~。たいしたもんだな」


そんな感じで話していた騎士達は次の持ち場に着いた。

召喚された者達の頼もしさを感じながら……


****


剛田side―


「くそぉ……なんで、勝てねぇんだよ。騎士団長ならともかく、あんな一般兵に…くそっ!」


剛田は先程の訓練の手合わせに関して物凄く不満を抱いていた。

“女神【アテネ】”とやらに地球から異世界に召喚され、特別な力である“女神の加護”を得た自分達は選ばれた者、力ある者だと剛田は思っていた。

しかし、いくら戦いの経験が少ないとはいえ、こうも自分の思惑通りにいかないと苛立ち憤っていた。

そんな不機嫌な剛田に近づいて声を掛ける者がいた。


「いや~すごいですねえ、剛田さんは~」


「あぁ?」と目と身体を自分に話し掛けてきた声の主に向ける。そこにいたのはあちらの世界でよく一緒にいた、細見臣だった。


「てめえ、この俺を馬鹿にしてるのかぁ?」


むしゃくしゃとした気分だった剛田は威嚇するように細見を睨むと、細見は慌てたように首と両手を横に振って弁明した。


「と、とんでもない、です。僕は単純に凄いと思っただけですから…」

「アァ~、どこが、凄いってんだぁ?」

「だ、だって、僕は勿論ですが、他のクラスメイトも、あんな風に体を動かし戦える人は、そんなにいませんから…」


それは確かだと言えた。

召喚者の中で戦いの形が出来るのは"勇者“の称号を得た神童正儀と、初めての訓練でヴァレンシュ騎士長に冷や汗を掻かせた神童咲夜、そして、武道経験者である剛田剛や、剣道有段者である早乙嵐のほんの数名と言えた。


それを聞き、少し機嫌をよくしたのか、剛田は「そうか、そうかぁ」と細見の背中をバシバシ叩いた。

本人は軽くのつもりだが、細見としては痛くて、正直やめてほしいと思っていた。

剛田は褒められた事に気を良くした後、魔法組で訓練しているはずの細見がこちらにいる事に疑問に思い質問した。


「そうだ!お前の方はどうなんだ?てか、なんでこっち戦技組にいるんだ?自分の魔法組の方はどうしたんだ?」


細見は先程背中をバシバシされ地味に痛くて涙目になりつつ答えた。


「…はい。自分達の方は終わったので、こちらに来たんですよ」

「ほお、昼前だってのにもう終わったのか。どんな訓練をしてたんだ?」

「えっと、自分の適性のある魔法を実際に見せてもらい、それを習得すると言う事でした」

「ほぉ、魔法かぁ。ここにいるってことは、お前も使えるようになったってことか?」

「え、ええ、まぁ。僕は"風“の適性があるので、風の初歩魔法をいくつか習得しました」

「おぉ、頼もしい事じゃねえか」


剛田の中では、自分のパーティに細見が入るのは決定事項と思っているので、いくつもの魔法を習得した細見を頼もしげに見ていた。

細見も剛田のグループに入れると思っていた。

細見はそんな剛田に気になった事を尋ねた。


「剛田さん、他のメンバーの候補はついてますか?」

「ん?…取り敢えずはなぁ~」


****


その視線に対して不快さを感じていた。

その不躾で不愉快な視線に嫌悪感を募らせつつ、その向けられる視線の方へと目を向けた。

正直向かなきゃ良かったとも思うが、あまりに不愉快だったので思わずその方に向けてしまった。

目を向けた先にいたのはクラス内では一番体格のある男子である剛田と、なんて名前か忘れたヒョロッとしたキノコ頭の男子がいた。

目が合うとニヤァとした表情を浮かべた剛田が咲夜に近づいてきた。


「……何か用?」

「よぉ、お前、咲夜だったよな、たしか?…ちょっくら聞くんだがよぉ、お前、俺のパーティに入れよ」


不躾で尋ねているというよりほとんど命令の様に聞いてきた剛田に咲夜は目を細めた。その眼には若干殺意が帯びてすらいた。


「なに勝手に人の名前を呼び捨てにしてるの?あと勝手に何を決めてんの?」


咲夜の殺意すら籠った視線を受け、剛田の傍にいた細見はビクッと青ざめ震えていた。当の剛田は気にしていないのか笑みを浮かべたままだった。


「いいじゃねぇかぁ。お前と正儀、苗字が同じ神童なんだからな。ややこしいじゃねぇか?」

「…なら、さん付けにしなさい。それで妥協してあげるわ。(それでも心底、嫌だけどね)…あと、私は、誰とも組む気は無いわ。他を当たりなさい」


咲夜はこれ以上コイツラと関わるのは嫌と手を「シッシッ」と振って拒絶した。

その態度に笑みを浮かべていた剛田は怒気を含んだ表情に変わった。


「あァ!俺がせっかく誘ってんだろうがぁ!何断ってんだぁ!」


怒った剛田は咲夜に掴み掛ろうとした。

……だが、掴む事は出来なかった。

剛田が掴み掛ろうとしたその瞬間、咲夜は目を細めると、“縮歩”を使いその掴もうとしてきた手を躱すと背後に回り素早い動きで手刀を剛田の首元に当てた。


「て、てめえ」

解ったunderstood? 今のあなた程度この通りよ。この程度の奴と組む必要はないわ……解ったら私の前から消えなさい」


手刀を外すと咲夜は動けず冷やせを掻いている剛田の事など眼中にないと、「まったく時間を無駄にしたわ」と呟くとその場を離れた。


****


剛田剛ごうだつよしにとって今まで自分の思い通りにならない事は殆どなかった。

大抵は、相手をその大きな体格と目線で威圧するだけで言うことを聞かせていた。

そんな剛田は軽くあしらわれ、冷や汗を掻かされ、己のプライドに傷を付けたと感じたのだ。しかも女にやられたという事もあった。

剛田は怒りのまま再び咲夜に挑もうとした。


「ぐっ!?どうなってんだ?動けねえ!」


だが、なぜか身体が動く事が出来なかった。

手足は勿論、指先一つ動かすことが何故か出来なかった。まるで何かに動きを封じられているかのように。


「フフッ、おいたが過ぎますわね、少年」

「っ、だれ、っだ!?」

「…あ、あなた、は!?」


自分の身体の自由が利かない事に困惑している剛田に1人の女性の声が聴こえてきた。

その女性は召喚者達の魔法適性が高い者の魔法組の訓練を担当している、白の魔導師ホワイトベレーと呼ばれているその人だった。


「フフッ、まず女性を口説くのでしたら、もっと紳士な振る舞いで挑まないといけませんわよ。先程の振る舞いでは女性は靡きませんわよ」

「……あわわ」


白いローブのフードを深々と被っており本人の顔を隠しているが、唯一見える口元が笑みを形作っているので恐らく微笑んでいるのだろうか。

細見は、そんな先程まで訓練を受けていた担当教官の存在に若干と言うかかなり狼狽していた。

それは、訓練初日にいきなり保有魔力を使い切って倒れさせられたり、本日など頭に入る様に延々と習得する呪文を聞かされ、、その一つの魔法を習得するまで、まるで念仏のように聞かされ続けた。眠りそうになると強制的に起されたり、そしてなにより自分達より圧倒的なオーラを放つ為、細見は特に尊敬と共に恐れを抱くようになっていたのだ。


「て、てぇっめぇぇ!!」


剛田は自分を拘束している原因が、この初対面の真っ白い女だと認識すると、全身に気力を込めた。

“豪気”と“金剛”を全力で発動させた。

剛田は気合の入った怒声の雄叫びと共に自身を拘束している“何か”を強引に吹き飛ばした。

その自分の魔法を破った剛田に白の魔導師は微かに驚いた。


「あら?驚きましたわ。ひよっこのあなた達が私の“時呪縛”を解くなんてね。しかも力技で強引な方法でなんて……まるで獣ですわね、アナタ、フフ…」

「はぁ、ハア! てめぇっ、よくも、やりやがっ、たな!」


全力だったのだろう。肩で息をしながら剛田は白の魔導師を睨む。傍にいた細見は「どうしたらいいんだろう…」とオロオロしていた。

今にも怒りのまま突っ掛かりそうな剛田に一人の男の声が届いた。


「何をやっているのだ!訓練に支障をきたす様なことをするな!……貴公も何をしているのだ?まったく、もっと自分の立場と言うものを理解した方が良いのではないか!」


それはヴァレンシュ騎士長だった。他の者(主に正儀)の訓練に付き合っていたのだが何やら騒ぎがあると耳にしたので仲裁する為にやってきたのだ。

どうやら召喚された者たちの中では好戦的で問題児と認識していた剛田と言う少年と、この王国の魔術顧問の地位にあり、魔法組を担当している白の魔導師がもめている所だった。


「あら、貴方が来たのでしたら、私はこの辺でお暇しましょう」

「まてっ、てめ-」


白の魔導師はヴァレンシュが仲裁しに来たので一声掛けると剛田が何か文句を白の魔導師に言い終える前に、その者は一瞬でその場から姿を消したのだった。


「き、消えた、凄い」

「ちっ!逃げただけじゃねぇか。…クソッ」


その場を一瞬で、しかも詠唱もなしに、恐らく転移魔法を使った白の魔導師に、細見は恐れながら尊敬のまなざしを、剛田は逃げられたと噴気していた。


ヴァレンシュは溜息を付くと、奇行の多く、他人、少なくとも自分には理解できない行動を取る白の魔導師に呆れるのだった。



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