1章外伝5…その頃の召喚組『迷宮挑戦①』
日の出が出る頃にアルテシア王国の南方方面にある門に、数台の馬車と、王国騎士長であるヴァレンシュ、他5名の王国騎士。
そして王国によって異世界召喚された29名。その半数である14名が朝早く目を擦ったり欠伸を噛み殺していたりしながら門の前に集まっていた。
周囲にはまだ朝早い事もあり、また、この日の為に人払いをしていたので付近に人の気配はない。
これから集まった者達は、この世界で初めて見る魔物。その魔物が多く存在する【迷宮】に挑みに向かう事になっている。
召喚されてから数日が過ぎ、召喚されたクラスメイト達は練度の差はあるも、各自に与えられた”女神の加護”、そして一般人に比べれば高いステータスと技能を鍛えて来た。
ある程度の練度が進んだと判断したヴァレンシュは、今回の迷宮挑戦を提示した。
それを聞いてある者は訓練にて強くなった今の自分の力量を試したい。
魔物と言う存在や迷宮に興味を示す者。
そんな風に迷宮挑戦に賛成の意を持った者。
しかし、
『俺は悪いが嫌だな。まだ剣を振るうのも練れが少ない。だから今回はパスしたい』
『ま、魔物なんて、それに生物を殺すって事でしょ?…まだ私にそんな覚悟できないって』
『えぇ!迷宮、楽しそうじゃん!…でも、まあ、いのっちとがもっちが行かないんなら、私もいいやぁ』
『杏っ、だから、がもっちって呼ばないでよ、もうっ…でも私も今回はパスしたい」
『むぅ、なんでさ…なんで戦いに行こうなんて思えるのさ…』
と、魔物と言う見た事もない脅威の存在に、そして魔物とはいえ命を奪う行為に躊躇いのある者は、今回の挑戦を拒否した。
その数は約半分。
いくらチート的なステータスや能力を持ち訓練を受けたとしても、彼らは今まで平和の世界で過ごしていたのだ。故にまだ戦いに覚悟を持てていない者の方が多かったのだ。
王国側としては逸早く実戦での訓練を行わせたいという思惑があったのだが、無理に強引に参加させても反感を生む可能性があると、今回は集まった者のみで赴く事にした。
+
この場に集まったクラスメイト14名。
今回は迷宮に挑むにあたって、ヴァレンシュは3名から4名のグループを組む様に告げていた。
元々既にチームを組む動きをしていた者もおり、今回は一部の者以外不満なくグループを決める事が出来た。
一つ目のグループ。
金髪に爽やかな笑みが印象的で今回召喚された者の中でも抜きんでたステータスと能力を秘めた”勇者”の称号を持った
黄金の剣を携えたその姿に威風堂々としたその立ち振る舞いは何処から見ても勇者と呼ばれても違和感がない。
あとの正儀のチームは2名。
一人は正儀の昔からの幼馴染で、日本では全国2位の剣道の腕を持っており、実家も剣道道場を開いている。まさに【剣】の申し子とも言えそうな少年、早乙女嵐。
切れ目に長めの黒髪をポニーテール、本人はサムライテール、にしている。
その腰には自身の得物である刀剣を下げている。
そして正儀チームの紅一点で参加者の中で唯一”白魔法”であり治癒能力を高めて発動できる”女神の加護”を持っているので治癒魔法を特に得意とする少女、
この日の為にと用意された白とモスグリーンのヒーラー服を纏っており、彼女のその手には杖のアーティファクトであるホーリィロッド。
その姿は癒しの修道女とも見受けられる。
―召喚された一人を除いた28名にはそれぞれに、その者の希望に沿った正装が用意された。
今回の14名もそれぞれ用意された正装を纏って参加している。
正儀は動き易さ重視で黒のシャツの上に軽装を着込み、白のズボンを履いており膝からはレッグアーマーを付けている。
嵐は侍風に近い衣装を纏っている。
正儀、嵐、彩夢の3人が正儀パーティである。
基本戦術は素早い動きと卓越した剣技で相手を翻弄しつつ攪乱する前衛を担当する嵐。
実戦闘でも魔法も使い熟す事が出来るオールラウンダーの正儀が中衛として臨機応変に対応する。
そして彩夢が後方から二人に強化魔法と回復魔法、そして回復や補助魔法に比べると威力は低いが攻撃魔法を駆使して援護を行う。
バランスの良いチームであると思われる。
+
二つ目のグループ。
このグループは男子4名の編制である。
1人目はこのグループをリーダーと自負している、クラスの男子の中で一番の背丈と体格を持つ
鍛えられた腕を出しており、右腕には剛のアーティファクトである濃い灰色のガントレットを装着している。
恐らく今回参加した面子の中では一番交戦意欲があるだろう。今も早く戦いたいとニタついた表情を浮かべていた。
2人目は剛の正式なパーティメンバーである、日本でも彼の御相伴をちゃっかり頂く腰巾着なキノコヘッドのヒョロッとした
魔法適性が高めと魔導服を纏っている。正直彼には似合っていない。そんなデザインである。無論、素である臣がデザインの魔導着に負けているだけである。
残り二人だ。
一人はゲーム、特にカードゲームが好きな少年
遊一は普段はおっとりとした雰囲気なのだが、好きなゲームが絡むとキリッとした雰囲気に変わるのだ。
海治は先に挙げた通り美術、絵画を描くのが得意でコンクールでも賞を貰うほどである。しかし彼が最も凝っているのは、漫画とか小説に描かれるイラストである。所謂隠れオタクとして同人誌も描いたりしている。
この二人だが、今回剛田のチームに入ったのはいくつかの理由がある。
その内の一つは、自分達が非戦闘系の能力を有するからである。
遊一と海治は武器や武技を用いたり、魔法を駆使するタイプではない。
いわゆる天職。職業を活かした能力が大半なのだ。
遊一の天職は”召喚士”であり、運動能力は悪くはないが、純粋な戦闘や魔法は劣ると言わざる追えない。
海治の天職は”封印士”で、海治自身の運動能力は決して悪くはない。しかし、やはり純粋な戦闘組に比べると劣る。しかも自身の”女神の加護”や能力は、発動中は動けない。と言うリスクを背負っていた。
2人だけでは前衛も心持たない。
しかし遊一も海治も、己の能力を試したい気持ちが強かった。
特に海治の能力は”魔物”でなくては効果がない。
だからこそ今回の迷宮挑戦に志願した。
自分達だけでは心持たない。
そこで自分達にはない、”戦闘に特化したクラスメイト”に随伴しようと二人は考えた。
そして、今回参加する者の中では一番理想の”壁”になってくれそうだったのが剛田剛だった。
無論、遊一も海治も、剛田と組むのは今回のみと考えでいた。
それは彼が豪気で野蛮、自分本位な奴だと分かっているからだ。
それは剛がいつも『彼』に対して不当な扱いを常に敷いていたのを知っているからだ。
遊一と海治の脳裏に一人の心の友の姿が映る。
それは、名前が認識できないと言う不思議な特徴を持っていた彼。この世界では”女神の加護”を有していなかった為、今は王都にて過ごしているであろう人物。
――惶真の事である。
日本では不気味さと不思議な所から嫌われ阻害されていた惶真に対して、遊一と海治は稀に見る彼を受け入れる存在だった。
それは彼ら二人の趣味が惶真と合っていたからだ。
遊一はカードゲームが好きで、特に好きなカードのイラストを惶真の従姉である美柑が描いていた事を知り、それの手伝いを惶真がしているとある時に知った。
海治も似た経緯だ。海治も風景を専門にしているが、同人誌やイラストを描く方が好みなのだ。
そして海治も、ある早朝に学園で、自分が請いにしている同人作家(美柑である)の知り合いであり手伝いをしている事を知ったのだ。
惶真としては「しまった…知られるつもりはなかった」と言う心境だったが…
それから、惶真の要望もあり、学園ではあまり関わり合いにならず、学園外では、電話やメールをするような関係を持っており、彼を繋げた『美柑』の手伝いをするくらいの関係性を持っていた。
惶真はどう思っているかは2人には分からないが、遊一と海治は彼の事を友人として認識している。
と言う事で、今回限りの4人パーティ。
剛田剛が前衛で暴れ、臣、遊一、海治が、剛が暴れ回っている隙に各々の能力や魔法を駆使する。
まあ連携らしさはないチームだろうか。
+
三つ目のグループ。
女性4名のグループ。
そのグループは五条院リルカをリーダーとしており、リルカの取り巻き女子A・Bの二人。そして今回は渋々と言った様子で乗り気でない
家が資産家でそれを鼻にかけた様な傲慢さが滲み出ているような御嬢様であるリルカと、その取り巻きの女子2人。
そして、まるで付き人か何かの様なぞんざいに扱われている雫。
雫としては今回の実地訓練に参加するのは、今回残る意思を示した半数のクラスメイト同様に嫌だったのだが、
『あら?わたくしのグループなのですからアナタも当然参加に決まってますでしょ?』
と、さも当然なことを何を言ってるの?と、自分のグループが参加するのだからと強制的に参加する羽目となったのだ。
ただ、雫にとっては苦ばかりではない。
今回雫にとって親友と見てくれる人がいるからだ。
+
そして最後のグループ。
このグループは言わば残り者で組まされたチームだろうか。
人数は3名。
1人目は女子で、赤みのある茶髪は肩くらいまで伸びており、その瞳は常に不機嫌さを醸し出し、見た目から、周囲に不良の様な目で見られている、
命は周りから自身の雰囲気もあってどうしてか怖がられることが多かった。それらの経験もあり複数での馴れ合いが好きじゃなかった。
今回の迷宮挑戦に参加したのはいいが、一匹狼である命は、正儀のグループは勿論、他のグループに混ざる気がしなかった。
故に今回のみのチームになる事となった。
2人目は男子で、何処にでもいる普通性が滲み出ている少年、
守も遊一や海治同様に戦闘面より天職、いや、守は天職に特化しているので戦闘能力は恐らく今回のメンバーで一番低いかもしれない。
守の天職は”錬成士”で、素材を基に物を造ったり鍛えたりする鍛冶職である。ただし、守には、守にしか出来ない能力があった。
それはアーティファクトの修復を行う事が出来、素材と知識さえあれば、アーティファクトを作製する事が出来るようになれるのだ。
今回は自分でも何かの役に立てる。そう思い志願した。
そして三人目は……今現在も不満そうにしている
咲夜は現在のクラスメイトの仲でも群を抜いて秀でており、クラスでは正儀の次、ナンバー2と言われるほどである。無論この事実は咲夜としても面白くないと思っている。だが今はまだ自分より正儀の方が実力は上と認めている。しかし認めるが故に面白くないのだが。
そんな実力を有しているのでと、咲夜は今回の迷宮挑戦に参加する上で直談判した。
「ねえ騎士長、明日の迷宮挑戦だけど、私だけ
「咲夜、君は何を言っている?そんなもの駄目に決まっている」
「そこを何とか」
「駄目だ、絶対に!迷宮は何が起きるか分からない未知で危険を伴う場所だ!故に単独は許さない!」
「むぅ――」
「我が儘を言うなら連れて行かんぞ?」
「ムムっ!?……わかったわ。なら参加する人の中で余り者のトコに私を入れておいて。間違っても正儀やあの筋肉ダルマ、あと傲慢女のトコに混ぜないでね…」
そんなやり取りがあった。
そしてこうして余り者3名による最後のグループで組むことになった。
この時ヴァレンシュは「生自実力があると扱いが困るな」、と溜息を付いていた。
そして生徒14名に、ヴァレンシュ騎士長を含めた騎士6名で赴く。
目指すは王国から南方にある洞窟タイプの迷宮。
冒険者になりたての者や、騎士となった者が最初に赴き実力を磨くのに適した30階層と浅い迷宮。迷宮に存在する魔物もそこそこのレベルなので、今の生徒達なら問題のないだろう。
ヴァレンシュも迷宮での訓練と、実際に魔物と対峙する空気を今回は感じてくれればいい、と言う思惑だった。
――まさかこれから赴く迷宮にて、魔物の中でも、この世界で冒険者や騎士に【恐怖の暴竜】と呼ばれ恐れられている
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