1章外伝2ー③…その頃の召喚組『これが今の私の全力です!』

自分用のアーティファクトを選び終えた後、時間はお昼となっていた。

ヴァレンシュ騎士長がこれからについて話してきた。


「皆にはこのあと昼食を摂ってもらう。そしてその後だが君達を二つの組に分かれてもらうつもりだ。一つ目は戦闘技能をメインとする組だ。もう一つは武器などの戦闘よりも魔法中心の魔法技能をメインにする組だ。この組み分けは君達のクロノカードのステータスに基づいた選別をさせてもらった。これから名を上げるので、告げた者はあちらの白い格好をした女の所に行ってくれ。あの者が指導担当をするのでな」


ヴァレンシュ騎士長が指差した方に目を向けると先程までそこには誰もいなかったはずなのだが、いつの間にか深々とフードを被った如何にも魔導士と言った白装束の女性の姿が映った。


(…あの白い人。強い、わね)


ちらっと白い女性を見て咲夜の直感があの人が各上の存在だと分かった。



昼食を摂ったあと。


昼食を取った後は、まず魔法より戦闘向きの者はヴァレンシュ騎士長と手合わせをするようだ。

各自の現時点の技量を確認が目的らしい。


(魔法に興味があったんだけど、まあいいわ。それにしても私の技能って魔法よりも戦闘、しかも特殊なものSpecial thingsが多いのよね)


今までにない魔法と言う存在に興味を惹かれていた咲夜は少し残念そうにしていた。

咲夜の心の呟きの通り咲夜は戦闘系技能が多い。と言っても咲夜の会得している技能は真っ当な戦士とは違うだろう。しかし魔法よりは戦闘に赴きがあるのは明白だった。なので咲夜は戦闘実技組に入る事になっていた。

実技組には正儀や剛田とか言う大柄な男とか。何だか侍っぽいポニテの男子などが参加。

魔法組には”彼”に最初に突っかり、彼が“女神の加護”を有していない事が明るみになった原因を作った……何て名前だったか忘れたキノコみたいな奴や、担任の繚乱先生とかが参加するようだ。



この後実際に武器を使った戦いを行うためと、咲夜は昼食を軽めに済ませた。

済ませたあと戦闘実技組は更衣室に案内され、メイドの人に手渡された衣装に着替える。

今の咲夜達が着ているのは学園の制服だ。

制服のままでは戦いは出来ないだろうと用意されたみたいだ。


咲夜は着替えた。

ケープの付いたシャツに胸当ての軽鎧、肘から腕の籠手。紺のスパッツに膝にプロテクターをまとった姿。

それに先程選んだ刻夜と咲朱の双剣を左右に腰に付ける。


軽く体の動きを確認してみた。鎧の重みもそれほど感じない。問題はないと判断した。


着替え終えると待っていた騎士に案内され訓練場に向かう。

咲夜は訓練場に向かいつつソワソワとしていた。

それは自分の力量の確認と普段の地球では得られない戦闘を取り組める事に対する好奇心からだった。

あとソワソワの中に焦りの感情も少なからず咲夜にあった。



実技組が揃い、まず準備運動と武器の扱いのレクチャーを受けた後を、ヴァレンシュ騎士長が声を掛けた。


「よし、ではまず君達の今の技量がどの程度のものなのか確認を行う。方法は単純に俺と一対一で戦ってもらう」

「えぇー、いきなりかよ!?」

「なんでさ!?実戦なんて無茶だぜ。まず基礎の練習とかだろ普通?」

「今まで剣とか握った事もないのよ、無理よ!」

「……無茶」


いきなり初手の手合わせに無茶だと訴えるクラスメイト。

騒がしいわねIt's noisyと思う咲夜。

手合わせに賛成の意を持っているのは、咲夜、正儀、正儀の親友である早乙女嵐、剛田剛くらいのものだった。


「そうだな。どうやら君達のいた世界はこちらの世界の様に常に争いの中にいると言う訳でない事は分かっている。しかしここではそうはいかん。この世界には魔物と呼ばれる害獣が外には存在している。それだけでなく魔人の脅威もあるのだ。無論我々も君達の安全を最優先で守るつもりだ。しかし自身の身を守れるのは自分自身なのだ。だからこそ、我々はまず君たち一人ひとりの長所と短所、運動能力の有無、能力や技能とのバランスを知る必要があるのだ。その為にまず手合わせをすると言う事だ。なに、いくら一般以上の能力を得ていると言っても俺に比べればまだまだ子供の様なもんだ。それにこの訓練場には特殊な機能があってな。身体的な衝撃を精神疲労に変換してくれる機能がある。だから大怪我をする心配もない」


そう言われて渋々と言った感じだが仕方ないかと納得するクラスメイト達。


そしてヴァレンシュ騎士長との手合わせが始まった。

そんな騒がしかったクラスメイトを冷めた目で一瞥したあと、咲夜はこれから相手をするヴァレンシュを観察していた。


(彼の言う通りステータスStatusは彼方に分があるわね。たぶん正攻法では無理ね。なら不意Unexpectedを突くしかないと思うけど……)

「よし次っ!」


咲夜は自分の番がくる間、ヴァレンシュの動きをジッと腕を組みつつ観察した。

今までの手合わせをした者達は彼の言葉通り正直戦いにすらなってない。

いくら高めの能力を得ていると言っても武器なんてものを握ったり振ったりしたことのない、まして武術の心得もない所詮は素人だ。戦闘のプロに敵う訳もない。

まあ正直馬鹿みたいに真っ直ぐ挑んで行くクラスメイト達に咲夜は馬鹿なの?Are you stupid?と思っていた。


壁を背にしつつどう挑むか考える。

そして咲夜は一つ試して見ようと考えに至る。


「よし!次は――サクヤ、君だ。こちらに!」

「いよいよ私の番ね、フフ」


いよいよ自分の番が回ってきたみたい。

これまでヴァレンシュ騎士長に一太刀も浴びせられた者はいない。

なら私が最初の一太刀を与えて上げましょう。

そう咲夜は笑みを浮かべつつ歩いて行く。


「さて次は君の番だ。悪いが女性が相手でも手は抜かないからそのつもりでな」

「フフ、そうね。その方が面白いわ。手加減なんてされても興醒めだもの。楽しめないのはいけないわ」


咲夜は刻夜と咲朱をギュッと握ると笑みで騎士長にそう返す。


この時ヴァレンシュは何処か今までの者とは違うと直感がそう告げていた。

その事実に目を少し目開いた後「楽しめそうだな」と薄ら笑みを浮かべ警戒するのだった。



どこか今まで違う騎士長の雰囲気が流れた事に周囲の者もどことなく感じたのか、全員が咲夜とヴァレンシュの手合わせに目を向けていた。

正儀もその一人だ。


「おやおや、咲夜ってばやる気満々だね。勝つ気でいるみたいだ」

「…正儀。彼女、何か武芸の心得でもあるのか?」


正儀の横で観戦していた長めの髪をポニーテール風、本人によれば侍風にしている幼馴染の早乙女嵐がそう聞いてくる。


「いやぁ聞いた事ないかなぁ」

「では勝機はないであろう」

「いやいやぁ、どうやら咲夜には勝機を見出してるみたいだし。まあ無茶をするんじゃないかな?たぶん、だけど」


正儀のその言葉に嵐は無謀だと考えた。

嵐も既にヴァレンシュとの手合わせを終えていた。

恐らく今の段階で彼が一番良い評価をされているだろう。

実家が剣道道場の嵐は幼い頃から剣を振るっていた。

今での実力も全国2位の実績もある。

もっとも嵐が修めているのは剣道と言うより剣術に近い方である。

実家に真剣もあり免許皆伝を師範代である父から貰うくらいの実力を秘めている。

ただヴァレンシュとの手合わせに嵐は選んだ刀剣型アーティファクト【ファルシオン】で挑んだ。

本当は手馴れている刀が良かったのだが、この世界に刀剣はあるが刀は無い様だった。

嵐の得た”女神の加護”は”剣の達人ソードマスター”と言うどんな剣でも自分のモノとして振う事が出来ると言う力だ。無論ファルシオンも振るうのは問題なかった。

だが違和感の様なものがあった。

それは彼の習得している早乙女流剣術は居合いに重視している為だった。

居合いは鞘から抜刀からなる剣術だ。居合いに不向きなファルシオンの様な刀剣では彼の剣技を活かす事が出来ないのであった。

まあそれでも嵐は善戦しただろう。もっともその嵐でもヴァレンシュに一太刀も入れる事は出来なかったが。

そんな自分が出来なかった事を、騎士長に一太刀入れられるのは正直今自分の隣にいるこの親友くらいだと思っていた。

その親友が認めている。

嵐は親友が言った言葉が真になるか。それを見極める為にと彼女と騎士長の手合わせに集中する。

たった一撃の刹那の攻防をその目にする為に。



「では、始めようか…準備はいいかい?」

「えぇ…問題ないわ始めてちょうだい」


御互いに武器を構えた。咲夜は右手に黒い短刀、刻夜。左手に赤い短刀、咲朱を。

ヴァレンシュは右手に通常の剣よりも長めのロングソードに、左腕には丸いラウンドシールドを着けていた。

静まり返った訓練場に緊張が走った。

そして審判役の騎士が「それでは、始め!」と開始の合図を行った。


その合図と共に咲夜は”女神の加護・瞬神”を発動した。

“瞬神”の発動で咲夜の体から弾ける様な青白い魔力が体を、特に腕と足から迸った。


(いきなり加護を発現させてきたか…)


ヴァレンシュは驚いていた。今までの者達は常時発動タイプの加護を持つ者以外は、ただその手にした武器を振り回すのみだった。

まともと言えたのは嵐と言う名の少年くらいだった。ただ何処か剣にズレの様なものがあると感じていた。


咲夜の目論見はただ一つ。初手による奇襲。そして”加護”を全面にして行使する事。

実際ヴァレンシュはいきなりの行為に驚いている。いやこの場にいる、この手合わせを目にしている者全てだった。

相手は上手。なら単純な小細工は意味がない。

なら自分の持つ最大の能力を最大限に生かせる状況を持って行く。

それが失敗すれば終わり。

ただこの初手に全てを籠める。

それが咲夜の立てた戦術だった。


(”無音Silent”…)


咲夜はヴァレンシュの驚きによる一瞬の隙を逃さなかった。

咲夜の”女神の加護・瞬神”は二つの効能を秘めている。

それは自身の俊敏性能を極限まで上げる事、そして自身の周りを無音状態にすることが出来る事だ。

咲夜は自身の周囲、と言っても今現在は己の身体の周りくらいしか効果領域として発現出来ていない。ただそれだけなら静けさを齎すのみだ。意味はない。

しかし……


「なっ!?消えた、だと!?」


ヴァレンシュは目の前にいたはずの咲夜を見失った。

咲夜は一瞬の隙と共に”無音Silent”を発動。それと共に極限まで強化した瞬足により相手の視界からまさしく一瞬外したのだ。

無音Silent”には”気配遮断”の効果がある。


目の前の咲夜を見失ったヴァレンシュ。

急ぎ索敵をしようとしたその時だった。


「!?」


自身の持つ”直感”が機能した。

それと共に背後に寒気の様なものを感じた。

ヴァレンシュは右のロングソードを急ぎ背後に向けた。

するとガキンと武器と武器がぶつかり合った衝撃音が響いた。


「……失敗ね」


目線を後ろに向けるヴァレンシュ。そこにはいつの間にか自分の背後に移動し黒い刃の短剣型

アーティファクト【刻夜】を突き付けている咲夜の姿だった。


「な、なんだ、何が起きたのだ?」

「はは、流石は咲夜、やるねぇ」


訓練場にいたクラスメイトは勿論、周りにいた騎士達も茫然と驚いていた。今の咲夜の動きを見切れたものは恐らく殆どいないだろう。

ヴァレンシュは長年の経験と”直感”からすんでのとこで対応する事が出来た。他の者では今ので背中を一突きにされた事だろう。

若干動揺はしたがすぐさま冷静となったヴァレンシュは力を籠め、ロングソードで突き付けられている咲夜の刻夜を弾く。力負けした咲夜の刻夜は明後日の方向に飛んでいく。

咲夜は身体をこちらに向けたヴァレンシュにすかさず咲朱を繰り出す。しかしぞの一撃はヴァレンシュの左のラウンドシールドに阻まれた。


「”デスインサニティ”。…今のでいけるかなぁ~って思ったけど、そうはいかないね…あなた感が良過ぎね」

「ああ、他の者が相手でなくてよかったというべきだな。俺以外では先の一撃を受けて終わっていただろうからなっ!」


ヴァレンシュは楯に力を籠めると防いでいた咲朱を弾く。

そして素早く右手の剣を弾かれた事で態勢を崩した咲夜の咲朱を弾き飛ばした。


「うん。こんなものね…っつ」


咲夜は武器である双剣を失った事で潔く負けを認めた。

正直に言うと最初の攻撃だけで咲夜の全身、特に両腕と足が悲鳴を上げていたのだ。

“デスインサネティ”、咲夜が名付けた“瞬神”発動時の暗殺技。

咲夜は決めていたのだ。初撃で仕留められなかったら終わり。ただそれだけに全てを籠めたのだ。咲夜の目的の為にと。


ヴァレンシュはフラフラとしている咲夜のその技量と精神に心から敬意を籠め言葉を送った。


「なに、君はまだ初めスタートラインに立っているのだ。まだまだこれからさ」

「…ありがとThank


そう一言告げると咲夜は訓練場の壁に少々ふらつきつつなんとか移動すると壁を背に座り込んだ。

正直立っているのも限界だったのだ。

そんな咲夜を心配してか咲夜の双剣を拾ってきた正儀が近づいてきた。

恐らく武器を拾いに行く気力もないだろうと思い拾ったのだ。

正儀はそれを咲夜に渡すと苦笑しながら話し掛けた。


「大丈夫かい、咲夜? 相変わらず無茶をするね、きみは」

うるさいわよI noisy。っ、私には、もっと…力がいるのよ。”彼”のいる場所に行く為にも」

「咲夜……」


咲夜が無理をしてまで全力で挑んだのには理由があった。

それは一日も早く力を付け彼に会いに行く為だった。


あの日、転入する学院の屋上で出会い興味を持った男の子。

まず再開し会ったら何故か誰も知らないと言う彼の名前を知る。

そして彼の傍で面白おかしく共に過ごす。

私と同じ歪んでいる彼とならそれが出来る。

今まで退屈でつまらない日常、そんな日々が変わる。

彼と出会いをそんな風に咲夜はそう感じていたのだ。


だが彼は今この場にいない。

今、咲夜の願いは叶わない。

ならどうすればいいか?簡単だ。自分から会いに行けばいいと考えたのだ。

ただそれは早くしなければいけないと思っていた。

咲夜は何となくだが、彼がこの国から出て行くのではないかと直感で感じたのだ。

同じ匂いがする相手だ。なんとなくではあるが行動が読める気がしていたのだ。


――実際、惶真はこの時点で既にこの国を出て、年齢詐欺のロリ双子魔人姉妹と共に王国の北西にある森にいたので咲夜の予感は当たっていた。

咲夜がこの事を知るのはもう少し後であった……


それと、彼は何かを隠している?とクロノカード作成の際に感じていた。

だからこそ早く力を身につけたいと言う気持ちが強い。


今の段階でもここ王宮から抜け出すことは自体は簡単だ。

だけど何も知らずに生きていける程甘くはない咲夜は理解している。

なにせこの世界は今までいた平和ボケした世界とは違う。

何時自分の背に死が迫るかわからない、そんな世界に自分はいるのだ。

しかもまだ見ぬ【魔物】と言う未知の存在もいるのだ。

力不足を実感している咲夜にとって力は必須だったのだ。


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おまけ――

神童咲夜しんどうさくや

蒼い瞳が特徴のハーフの少女。

好奇心が強く、その好奇心を求め色々した過去がある。

やり過ぎた事から、また面白い事を、好奇心を刺激する何かを求めて数年アメリカに留学する。

自分を偽る気はないが、自分を認めないものには冷たい。ただ一度自分の認めたものや興味のあるものには強い感心を持って応じる。それ以外には毒舌を持って応じる。特に従兄の正儀。

現在の興味は、帰国後にて、転入する予定の学院の屋上で出会った不思議でどこか自分の本質に似通っている気がすると感じた少年。今はまだ名前を知らない為【名無し君】と呼ぶ。

咲夜の得た”女神の加護”は”瞬神と言う。

驚異的な脚力の強化と自分の周り(現時点では自分の周りくらい)を無音状態にすることが出来る能力。

瞬脚と無音を合わせた瞬神発動による暗殺技、”デスインサニティ”。

無音Silent:周囲の音を消す能力。気配遮断効果もあり。

暗殺技能が多い。

所有武装:双短剣型アーティファクト【刻夜(黒い刃)、咲朱(赤い刃)】。


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