迷宮ガルダ編

2章ー迷宮【ガルダ】①…出発の朝

これはヴァニラがその目にした存在に叫びあげる4日前の、惶真達3人が迷宮【ガルダ】に挑戦の出来事。


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【迷宮ガルダ】の近くにある村にあるリムルとヴァニラの家で一泊した次の日。

昨夜は雨が降っていたが、朝には止んだ様だ。

まだ日が出始めの頃に目を覚ました惶真は身体を起そうとして主に自分の両側に違和感を抱くと「何だ?」と自分の左右、主に両腕が重いなぁと思い意識と視線を向ける。

そこには惶真の腕にしがみ付く様に抱きしめ、スヤスヤ眠っている幼女の姿のマナとカナがいた。

惶真の寝ているベッドはそこまで大きなタイプではなかったが、幼女サイズの2人なら多少窮屈ではあったが問題はなかった。


うん、物凄く幸せそうな表情を浮かべているマナとカナ。

(何でこの二人が俺のベッドに?)と考えて、そう言えば昨日の夕食後に眠たげな2人を抱き抱えながら俺の使う部屋に向かった。目的は当然、明日、つまり今日赴く【迷宮ガルダ】に挑む際の打ち合せをしておく為だ。断じて一緒の布団で寝る為ではない……

そして数分で打ち合せを終えた後、俺は当然2人を案内された部屋に送り出す―

(二人共物凄く寂しいよぉ…と言うかのように目をキラキラ、うるうるとさせていたが、サッサと戻って寝ろ!と追い出した。何か悲壮感丸出しの『オウマァ!!』『御主人様ぁ!!』と声にしていた)

―と、気にせず明日に向けてベッドに横になった。

横になって暫くすると何者かがベッドに入ってくるのを感じばっと身体を起す。

敵意が無かったが故か、はたまた始めて魔法を使った疲れがあったのか、寝る時と言う事もあり気付くのに遅れたのだ。

侵入者に視線を向けるとベッドに入り込んでいたのはマナとカナの2人だった。

「何をしているんだ?」と、呆れを含んだ表情のまま2人に問う。すると2人は「「だって~」」と寂しげに表情を崩しながら惶真にしがみ付くマナとカナ。

そんな2人に大きく溜息を付くと、何となく今から部屋に帰れと告げるのも面倒だな、と自分を納得させるとベッドに横になる。


『寒いから一緒に寝るならさっさと布団を被れ』

『「わぁ~ありがとー!」』

『たくっ…』


と結局3人で眠る事になったのだった。

人肌の温かさを久々に感じながら朝まで眠る事になったのだった。


とまあ、これが今の俺の両隣にマナとカナが眠っている状況のすべてだな。


(おもいっきり緩んだ面で寝てやがるなぁ。さてっと、ぼちぼち起きてこの世界初の迷宮攻略に挑むんだ。さっさと起きて準備しないとな。まあそのためにもがっちりしがみ付いて寝ているこの寝坊助達を起さない、とな、って?ん?)


起きて準備に取り掛かりたいと、そのために俺にしがみ付いて寝息を立てているマナとカナを起そうと声を掛けようとした時だった。

俺は気付いた。マナとカナの寝息に違和感を感じたのは。

まず「2人ともそろそろ起きろ」と声を掛けた。

2人の反応は逆の行動だった。

俺に更にぎゅっと腕を抱きしめてきた。

俺はもう一度だけ、先程より優しめに声を掛ける。

その際に二人の肩がピクッと反応したのを見逃さなかった。


(うん、この二人既に起きてるな)


と、確信した。

俺は確信した瞬間どうやって起こすか思案し、一つ試して見た。

まず俺の両隣にいるマナとカナを限定として己の魔力を流し込む。そして流し込む魔力が把握されない様に魔力遮断しつつ、自分の魔力の質を変化させる。

今回変化させるのは無系統の魔力を電気に変換させる。

そして変換した魔力を流していた魔力に微弱分増やして流す。

これでマナとカナの体には俺の電気変換された魔力が蓄積されたことになる。

マナとカナは魔人族故に【魔物限定】の俺の”恩恵・変成”を効果付加させることが出来るのだ。

さて、準備はできた。あとは発動のスイッチを押すのみ。

うん。普通なら最後通告でもするのだろうが、俺は許すのは1度のみ。優しくした時点で最後通告は終えていると認識しているのだ。

だから躊躇いなく”魔力開放”と発動のスイッチを押した。


「「アバババァババーーナノォ!!?」」


マナとカナに蓄積した微弱流の電気が弾けてた。

無論微弱なので命に関わることはない。

それでも突如全身をバチバチと電撃を受けたのだ。

マナとカナは狸寝入りから目を見開いて悲鳴を上げた。


当然だが、2人を対象とした魔法発動の為、布団が電気エネルギーの影響を受けることもない。

因みに発動前に、この部屋内に空間魔法を展開させているので、マナとカナの悲鳴や電気音がこの家の住人達に気付かれることもない。

地味に凄い魔法行為である。


数秒後、おしおきが終わりベッド上のマナとカナは痺れた様にピクピクとさせていた。

2人の拘束が緩んだこともあり俺は布団を剥ぎ取り身体を起す。

身体を起すと罪悪感などない笑みを浮かべながらマナとカナに朝の挨拶を掛ける。


「さあ、朝だぞぉ、2人とも!今日から迷宮攻略に挑むんだ気合い入れて行くぞ!早く起きろぉ♪………まだ足りないのならいいんだぞぉ~」

「「びくっ……!?」」


挨拶に先程のもう一度味わうかい?と含める。

マナとカナはビクッと体を震わせると、「ムウ~」と何をするのよぉ!と不満バリバリの含んだ視線を俺に向けながら起きる。

起きた二人の体からはうっすらと煙が上がっていた。

その様子が面白く俺は笑った。

笑う俺に不満を爆発させるように叫ぶ。


「むうぅ!ひどいよぉ、オウマァ!なにを笑ってるのよぉ!凄くビリッとしたんだからねっ!」

「そうなのぉ!あんな風に起こされるなんて、もうなのっ!あんなの論外なのぉ!」

「ははっ、悪く思うなって。俺はちゃんと起こしたはずだぜ、優しくな。狸寝入りしていたお前たちが悪いんだ♪」

「「…うぅ、それにしたってぇ~ひどいよぉ『のぉ』!」」


狸寝入りしていた事実に不満の言葉を鎮める二人。

因みにこのマナとカナの叫びは俺の空間によって遮断されているので家の者には聞こえていない。



そんな朝の遣り取りの後、武装、荷物の確認を終えると、部屋を出る。

荷物の類は殆どが俺の空間魔法の領域内にストックされているので問題ない。

直ぐに出せるようにウエストバックに少し入れているくらいだ。

あとは俺のパートナーである【魔剣インテリジェント・ソード】のみだ。ほとんど使う機会がなかったので今回が本格的デビューとなる。


(頼むぞ相棒!)

”イエス!マイマスター!”


自分の準備を終えた後マナとカナに目を向け確認する。

2人も準備OKの様だ。まあ、2人の武器は指に填められている空間魔法の一種である収納魔法が付加されている指輪に収められている。指輪を付け忘れなければ問題はない。


「さあ、行くぞ2人とも準備はいいな」

「うん!準備万端いつでもいけるよ!」

「私も滞りなく行けますの!」

「よし、行くぞ」


部屋を出て家の玄関に向かう俺にマナが聞いてくる。


「ねぇ、ヴァニラやリムルに挨拶はしないの?」

「ん?まだ朝早いしな。起きてたらでいい、まあ世話になった礼くらいするかな」

「そうなの……あっ!」

「ん?ああ、リムルか…朝早いな」


カナが気付いたので俺も気付く。

リムルがいたのだ。


「おはようございます、オウマさん、マナちゃん、カナちゃん。皆さんも早いですね。もう【ガルダ】に行かれるのですか?」

「ああ、これから行って来るつもりだ。そうだな、一晩ではあるが世話になったな。攻略が済んだらまた旨い飯でも食わしてくれ」

「お世話になりました、リムル。元気でね、あとヴァニラにも伝えて」

「一晩ありがとうなの、リムルさん。私からもヴァニラにまたねって伝えてほしいの」

「ふふっ、感謝しなくていけないのは私達ですわ。皆さんが居られなければ私たち親子はどんな目にあっていたか」


まあそうだろうな。俺達、と言うか俺が介入しなければリムルもヴァニラもよくて奴隷として売られるか、最悪殺されていただろうからな。


「だから、本当に感謝しきれないばっかりです。…またここに寄られるのでしたらどうぞ家に来てください」

「ああ、必ず寄らせてもらうよ。まあ何かの縁だ、何かあったらまた寄らせてもらう、アイツにもそう伝えておいてくれ」

「ふふ、あの子にもちゃんと伝えておきますわ。あと、今度会う際にはあの子の名前で呼んで上げてください。あの子気にしてましたから」

「……考えておくよ」


そう告げた後、俺達はこの村を後にし迷宮【ガルダ】に向けて出発した。

さあ初めての異世界冒険ライフを堪能しようじゃないか!とワクワクしながら進む俺であった。



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