2章ー⑫:【ヴァニラ】…なんで家に魔狼がいるのぉ!?
「こんなもんだな。
「ふぁ~お兄さん、凄いなぁ。さっき習得した技能を行き成り使えるなんて。私なんか、お母さんから教えてもらったけど正直チンプンカンプンだったのに。私は何となく使ってる感じなのに」
「(…コイツ、天然か?それともただの馬鹿か?)」
なんだろ?お兄さんから呆れられたような視線を感じる。と言うより馬鹿にされている気がする。
むぅ~、だって教えてもらってもよくわかんないんだもん!体を実際に動かした方が分かり易いんだもん。
そう!私は…感覚派にして実戦派なだけだもん!
そのあとも当たり障りのない話をしていたら遅い時間になっていた。
今日はここでお開きになった。
おや?…マナもカナもなんだか眠たそうに瞼を擦ったりしていた。
そんな二人を微笑ましい感じに見つめるお兄さん。
「心も体もこうしてると子供だな」と呟いていた。
お兄さんがそう呟いた後、我慢の限界か、マナとカナは目を閉じて小さく寝息を立て始めた。
「しょうがないやつらだな、まったく…」
お兄さんが席を立つと寝息を立てているマナとカナに近づくと抱える態勢に入る。
お兄さんはまずマナを右腕の中に抱える。マナとカナは、今の姿は子供の状態なので腕一本でも問題なく行けるようだった。
抱えられたマナもどこか夢心地?の様に安心ししっかりしがみ付いていた。
「さてっ…お次だ…」
そしてお兄さんは次に空いている左腕で器用にカナを抱きかかえようとする。
「お兄さん、だいじょうぶなの!?」
「無問題だ」
そう言ったお兄さんは悠然とカナを抱きかかえる。
カナもマナ同様に嬉しそうな寝顔を浮かべながらしっかりとお兄さんに抱きしめている。
「お兄さん本当に大丈夫?支えようか?」
「いや、大丈夫だ。このくらいなら問題ねえよ。こいつら軽いからな。…それに、この二人、まだ起きてたりするからな」
「「ビクッ『なの』!?」」
「あっ、ほんとだ」
悪戯がばれた様な表情の2人。眠いのはあるみたいだけど、どうやら狸寝入りだったようだ。
どうやら、一緒の部屋で寝られないので、ちょっとでも甘えたい!と二人の御願いだったようだ。
うん?いつ御願いしたのだろ?
お兄さんは「おやすみ」と私とお母さんに告げると、2人を抱き抱えながら自分の部屋に向かった。お兄さんの部屋なのは、もう少し、明日から行く【迷宮】の話をする為らしい。
マナとカナも嬉しそうな笑みを浮かべつつ「おやすみ~」と言った。
私も「おやすみ…」と伝えた。
仲睦まじい3人の姿、特に幸せ感ある様にお兄さんに抱き着いているマナとカナに思わず「いいなあ…」と思っていた。
私も、”獣氣”を使った疲れもあり色々あった疲労感から、お母さんと一緒に部屋に向うとベッドに入ると私はお母さんに抱き着く様にスヤスヤと眠り始めた。
眠る直前に「御休み、ヴァニラ」とお母さんの優しい声が聞こえた。
+
お兄さんとマナ、カナと出逢ってから4日が経った。
次の日に、私が朝に起きた時には既に3人は迷宮【ガルダ】に向かったとお母さんから聞いた。
何も言わずに出て行ったお兄さんにちょっと、ううん、かなり不満だった。
一声くらいかけてもいいと思う!やっぱり何だか冷たい私に対して!
村の様子は大きく変わった。
住人達に活気はなく、ただ毎日を繰り返しているって感じだった。
お兄さんが言っていた通り、まるで人形の様だと思った。
私はあの日の翌日にソラハとカインにあった。
私は、どうしても私を裏切った2人を許せない気持ちで一杯だった。見つけて殴ってやりたいと言う気持ちが大半だった。
そして2人を探していたら運良く2人共が近い場所にいたので、2人に走り私はグーでボーとした生気が感じられない2人の頬を殴った。勿論全力じゃない。全力で殴ったら首を折って殺してしまうから。
私に殴られた2人は殴られた勢いから尻もちを付く。
これで少しは痛みが理解できたとか、怒りから興奮し息を整えて2人を睨む。
けど2人はそんな私を気にする事なく、また殴られたのに痛がる事無く、殴られ真っ赤にした頬に手を当てながら立つと、2人ともそのまま別々の場所へ歩いて行く。
その様子に、私は先程までの怒りが憐れみに似た気持ちになった。
だって、あの二人はもう一緒にいる事も出来ないのだから。
+
私は村での生活に退屈を覚えていた。今のこの村では問題が起きる事もなく、今まで親しいと思っていた者達と森に行って遊んだりすることもなく退屈に感じていた。
退屈過ぎて『お兄さん達に付いて行きたかったな~』とか思ったりした。
お兄さんやマナカナが迷宮に行って4日。
私は朝に森に出掛けた。もちろん心配させないようにお母さんに一声かける。
「お母さん、ちょっと森に行って来るね」
「森に?大丈夫だと思うけど気を付けなさいね。魔物はいないはずだけど獣はいるのだからね」
「うん、わかってるよ!お昼までには帰るねぇ、行ってきまぁす」
「ふふ、はい、行ってらっしゃい」
森に行く事に少し躊躇があったみたいだけど、今のこの村の中では遊ぶ相手もいないとお母さんも分かっているのか許可してくれる。
深緑の森を進む。
進みながら私は息を吸うように周囲の空気に漂う
獣人の血を半分引く為、こう言った
私は足に
その枝に腰かける。
うん。やっぱり高い所から見る景色はいつ見ても気持ち良い。
「はあ~っと」
両腕を上に背を伸ばす。
私は目線を森の奥を見つめている。
自然と高い場所からの景色に気持ち良さを感じていたけど、やっぱりつまらないと感じていた。
いつもならソラハやカインと言った元友と一緒だった。
楽しあったあの頃ってやつなのかなと、過ぎ去った過去に思いを馳せていた。
1人はつまらない。
ただ私の心の中に浮かぶ感情はそれだけだった。
そしてその感情の次にふと3人の姿が脳裏に浮かぶ。
朱色の髪をアップにしているお姉さんであるマナ。元気の良さが好印象で私に似た部分がある気がしてお風呂でも洗いこしたりと楽しんだ。
マナより紫色の強い肩くらいの長さの髪をしているマナの妹であるカナ。大人し気で落ち着いた雰囲気がある。カナは手伝いをするのが好きらしく、お兄さんの手伝いが特に好きらしい。
2人は魔人族では珍しい双子らしい。いいなぁと私は思った。私にも兄妹がいたら良かったなぁとか思った。そうすれば今みたいな一人でなくなるから。
そして最後に脳裏に浮かんだのがお兄さんだった。
私と同じ黒髪の男の人。
名前は確か惶真さんだったかな。
正直言って私のお兄さんの印象は最悪だと思う。
だって私に対して冷たいもん!
よりゃ、一緒の仲間であるマナとカナには優しくしているのは文句はないよ。でもどうしてかお兄さんはお母さんに何処か含みのある気遣いさがあるように感じていた。
なのに……なのには私には優しさが感じられない!だって私の事はアイツとかで名前を呼んでくれすらしない。
……なんでこんなに気にしてるのだろうか?別に冷たくされたって恐らくこの出会いは今回きりになる。迷宮を攻略したらお兄さんたちは別の場所に行くと思う。
お風呂で聞いた話ではこの世界一周が目的で旅をしてるらしい。
ここにお兄さん達が来ることは低いだろうと思う。
……なのにどうしてか私は気になっている。
お兄さんに対して。
勿論好意を抱いたなんてない。私はチョロク無いもん。
でも気になる。
お兄さんの雰囲気がどこか懐かしさを感じさせてくるの。
お兄さんの黒髪と冷たいけど温かさを含む黒い瞳。そして彼の名前の響きに。
勿論私はお兄さんとは初対面であるので顔見知りである事はないはず。
でも懐かしさがこう心の奥から湧いてくる。
「……付いて行きたいな」
そんな独り言の呟きが零れハッとなる。
多少戦えるからって今の私では足手まといだと思う。それにもし、…もしお兄さん達が戻ってきた後にお願いして同行するのが許されたして、お母さんはどうなるの。
私が付いて行ったらお母さんは1人になる。特に今のこの村では事実上一人の様なものだ。
なら一緒に行こうと誘う?でもお母さんは、亡くなったお父さんとの思い出のあるこの村を離れる事はないと思う。
「はぁ……帰ろうかな、お母さんと約束したお昼になるし」
「よっと」と声にしつつと木の枝から地面に降りると家に戻る。どこか足取りが重い気がしたのは気のせいじゃない気がした。
+
昼前までに家に着いた。
家の扉を開けると、ちょうど玄関にお母さんがいたので「ただいま」と言う。お母さんも「おかえりなさい」と私を出迎えてくれた。
「ん?…」
「どうしたのヴァニラ?」
ふとお母さんの表情がなんだか嬉しさの様な笑みを浮かべているのが気になった。
「そうそう、丁度なんだけどねあの人達が帰ってきてるのよ、ふふ」
私はお母さんの言葉を聞いた瞬間に気付いたのだ。
家の中から人の、お母さん以外の人の気配があるのに気付いた。それは4日前に出会ったお兄さん達の気配であると。
私は家のリビングに行くと、四日前に出掛けて迷宮【ガルダ】探索に挑戦しているはずのお兄さんとマナとカナの姿があった。
うん、3人の姿がある、それはいい。マナはなんだか疲労感が強くグテッとしているけど怪我とかはないように思う。お兄さんもカナも元気そうである。
それはいいのだけど――私の視界には何だか見慣れないものが、と言うか、この場にいるのは不自然だと言える存在がそこに、お兄さんの傍にいた。
お兄さんが私に気付いたのか声を掛けてくれる。
「よっ!悪いがまたお邪魔してるぞ」
「お邪魔してるの…ヴァニラ」
「……ぐろ~」
……何だか、この家の主みたいに足の組みながら座りお茶を飲んで寛いでいるお兄さん。
迷宮探索での疲れの色が見える幼女の姿のカナ。
そして、なんだか顔色が悪くグロッキー状態で机に突っ伏している幼女姿のマナ。
そして――私はそのなぜここにいるのか不思議でならない存在を指差しながら叫んだ。
「どぉうしてっ!?狼の魔物がっ
そこにいたのは灰色の体をした魔狼の姿だった。
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