2章ー迷宮【ガルダ】②…魔狼
迷宮ガルダ。
迷宮の規模としては初級のなりたての冒険者が挑戦するのにうってつけな迷宮である。
初級の迷宮である為、全体の規模は50階層程で、そこに存在する魔物もレベルの低いものが大半である。
【ガルダ】の内部は洞窟で出来ている。洞窟の内部はそこそこの広さがあり数人の団体でも苦なく戦う事が出来る。
迷宮内に存在する魔物は、階層が下がる程強力になり、中には特殊な能力を持った魔物も存在するのだ。
これは迷宮に存在する【魔素】が最下層に溜まっているからだと認識されている。
故に迷宮に挑戦する冒険者達は最下層を目指す。
強力かつ特殊な能力持ちの魔物を倒せば、それに合った珍しい魔物の素材や、魔石を手にする事が出来るからだ。
――
ガルダ内。
ここは10階層に位置する場所。
【ガルダ】の魔物は、上層は【魔獣】に分類される魔物が殆どで、下層に行く程に特殊な成り立ちをした魔物が蔓延っている。
その10階層の場所に1匹の魔物が息絶えかけていた。
その魔物はグレイファングと呼ばれる【魔狼】と呼ばれる個体の一種だった。
グレイファングは、その名の通り灰色の体毛をしている。鋭い牙が生えそろっており一度噛み付いたら噛み千切るまで離さない。体付きは狼そのものだが違う点がある。それはグレイファングの両腕と足である。
通常の狼は脚力に重点を置いているので細い。だがグレイファングの両腕と足はまるで熊の様に太ぶととしている。
無論狼と違う。
その体格でも狼の倍の速度で動ける。
息絶えかけている魔狼は、体中に傷が存在し、自身の体を構成している【魔素】が血のように流れていた。
あと数分も経過すれば息絶え消えて行くだろう。
…だがその魔狼はあと少しの間で消える。そんな時であってもその気高さのある両目の輝きは失われていなかった。
その魔狼は抗っているようだった。
魔物にとって死と同義である消滅に。
「…グルッ……」
低く呻き声が零れる。
何とか身体を動かしたいが損傷が激しくまったく動かせない。
いや、動かせばそれだけ消滅の時が早まるだけ。
魔狼は魔物の本能がそう告げさせていた。だが魔狼はそんな本能糞喰らえと言わんばかりに動かそうとする。
だがやはり動けない。
抗えない。
力が零れて行く。
「……」
目の輝きは生きている。
だが器たる身体が言う事を聞かない。
このまま朽ちるのかと、魔狼は絶望しかけた。
―――そんな時だった。
「……グ…ル…」
魔狼の活きている器官である嗅覚がある匂いを感じ取らせた。
それは魔物にとって敵と認識している存在。
そして出会えばお互いに殺しあう者。
決して分かり合うことなど出来ない関係となっている存在。
……それは【人間】と呼ばれこの世界を束ねている種族だった。
感じ取ったものに魔狼はここに来て人間が来るとは――そう思った。
もはや死に体の自分を人間は容赦なく倒すだろう。もしくは放置していくかだろうか。
前者なら魔狼の内にある誇りが満たされる。だが後者なら……そんなことは内なる誇りが認められなかった。
魔狼は誇り高い種と言われている。
その種であるこの魔狼も死ぬのであれば戦いの中で息絶えたい。
他の魔物に襲撃されこのような瀕死に遭い見捨てられた。誇りを酷く穢された。
だからこそ魔狼はこのまま朽ちるのは許せなかったのだ。
動かない耳が近付く足音を拾う。
感じ取れた音は一つではないようだった。
複数か…と、そしてさらに近付いて来ると足音が3人分あるのが分かった。
そして目視可能な位置までその人間達が現れた。
魔狼は鋭く戦意を籠めた瞳で現れた人間達を睨む。
自分を見ろ!そしてその手で自分を殺せ!
そう告げる様に睨みつける。
「――面白いな…」
魔狼は自分に目を向けている人間が何か声を零したと認識した。
睨み付けるのみだった為深くはその人間の姿を捉えていなかった。
黒い髪に黒い瞳。黒い服が多く黒い人間という印象だった。
そして、どこか不思議な何かを感じさせる人間だった。
そうしていると黒い人間が自分に近付き右手を向けてくる。
その手に不思議な魔力を感じながら警戒する魔狼。
なんとかグルルッ!と唸る様に威嚇する。
すると人間は口の端を上げる。笑みを浮かべているのが分かる。
嘗めているのかと噴気する魔狼。だが直ぐに「どうしたんだ!?」と思わせられた。
今まで死に体で体を動かすことも出来なかった自分の器に何故か少しであるが活力が戻って来たのだ。
一体どうしたんだと困惑しつつ恐らくその原因であろう目の前の人間に鋭く見つめる。
するとその人間は、なぜだろうか?
此方を試すような表情を浮かべ己の右腕を差し出していた。
まるで…喰らい付いてみろ!お前の力を見せて見ろ!
と告げているようだった。
魔狼は唸る。
そして差し出された人間の腕に向かった勢いよく噛み付いた。
後悔するなよ!と言わんばかりに。
周りにいた赤い服と紺色の服を着た、目前の黒い人間より小柄な人間2人が悲鳴を上げる。
気にせず噛み千切ろうと力を籠める。
だが己に出来たのは噛み付くまでだった。
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