2章ー⑥:差別と言う名の悪意・・・敵なら殲滅してもいいよね、魔法で♪

『シェファード』の街から目的の『迷宮ガルダ』の途中にあると言う村に向かって惶真は歩いている。

これから向かう村までは距離がある。普通ならば馬車とか何かに乗るのが殆どだろう。しかし惶真は己の目と足でこの世界を回りたいと考えていた。


「ま、まってよぉ~オウマぁ~」

「はふぅ~ちょっと待ってほしいのぉ~御主人様ぁ~」

「……だらしないな、2人共。目的地は知ってるんだから、ゆっくり追って来てもいいんだぞ?」

「むぅー!だめ!」

「だめ、なの!」

「「一緒がいいの!」」

「…そうか……せめて“覚醒”したらいいのに」


惶真の後を必死に追いかける2人の幼女。マナとカナだ。

マナとカナの今の姿は元の幼女の姿だ。

少しでも魔力を温存する為、街を出た後、周囲に人目がないのを確認した後少女の姿から本来の姿である幼女の姿に戻ったのだ。理由は“覚醒”していると魔力を少し消費するからだ。それ故に2人は“覚醒”を控えているのだった。

惶真はそんな2人に気にせず自分のペースで歩き進む。

マナとカナもテトテトと必死に惶真を追い掛ける。


惶真達が向かっているのは『ガルダ』と呼ばれる50階層の山脈洞穴型迷宮だ。

その迷宮にて魔物相手に戦い方などの経験値を実戦で積む為である。

そしてその『ガルダ』の迷宮の手前にある小さめの村があるのだ。

村は『ガルダ』の麓にあり、その近くには森がある。

惶真達はまずその村を目的に歩いていた。



村までの道中は夜は野宿しながら進んでいた。

惶真達のいるゲルフェニード大陸は他の大陸と違い正直治安が良いとは言えない。

それはこの大陸の支配する国に問題があった。

ゲルフェニード大陸を支配する国の名はバニシング帝国と言う。

実力主義の国柄であり、弱い者は強い者に只虐げられることを容認するようだ。奴隷制もあり、奴隷として攫われることもよくあるのだ。

なのでこの大陸では野宿をするような物好きはそうはいない。

自分の実力がよほど自信がない行えないらしい。

ただ惶真はこの物好きに該当する。

自分の足で進み身体で外の空気を感じる。

野宿の間は意思を持つ剣である『剣』が惶真達が眠っている時でも常に警戒し、何かあれば即主である惶真に告げてくれるので安全なのだ。

道中にその間抜けな賊が襲撃してきたことがあったがその殆どが『剣』の警戒網に引っ掛かり主である惶真の”威圧”の籠った重圧によって「ああ、コレは手を出してはいけない相手だった…」と後悔させる結果となった。

勿論殺してはいない。

ただ半殺しの刑に遭いカナの捕縛魔法によってその辺に転がされている。

魔物に殺されるか、同輩によって同じ運命となっているだろう。


そんなこんなで目的地まであと少しの距離になった。

歩いて暫くして一度休憩した後に歩き始めて1時間ほど経過したくらいだった。

あと10分もあれば目的地の村に到着する時だった。


“マスター!クダンノムラヨリ、【アクイ】ヲカンジガ、ナガレテマス!”

(ん?…悪意だ?…)


腰に下げている『剣』から『悪意』を感じたと告げられた。

それを確認する為に惶真は”感知技能”を使って見た。

すると、物凄く不愉快な感覚が村の方から流れて来たのだ。

それは、相手を貶め傷付ける事を厭わない”負“の感覚だった。


「なんか、物凄く嫌な感じだな……ん?なんだろうか、この感じ。流れてくる嫌な感覚の他に何か別の感覚が流れてくる?」

「はぁ、はぁ…どう、したの、オウマ?」

「はぁ、はぁ…どうされたの、御主人様?」

「いや、……これから行く村から不愉快な感じがしてな。どうしようかと思ってな」


惶真は追いついたマナとカナにこれから赴く予定の村に違和感がある事を告げる。

惶真は村を迂回して目的の迷宮に向かおうと考えたのだが、ふと不愉快な感覚の他に、何か祈るような感覚が何故か気になった。



「まあ、いいか。気になったら進む。この方針で行くとしよう。……マナ、カナ。俺は気になるからちょっと先に行くぞ。お前達はゆっくりと追い駆けて来い!」

「えっ!?オウマぁ~」

「置いてかないでなのぉ~」


惶真は村に向かって駆ける。気になる感覚を放つ村に向かって。

マナとカナを置いて。後ろからの悲壮感の混じった叫びも無視して……




一足先に村に到着した惶真は早速“気配感知”を行ってみた。

感知してみると、どうやら村の住人の殆どの気配は村の中心に集まっているようだった。

惶真は”気配遮断”を使いながら建物を陰にしつつ感知した場所に赴いた。

そして惶真の視界にその光景が入った。

それは、村人達が罵詈雑言を放ち、石を2人の女性にぶつけている光景だった。


惶真は建物の影からその光景をよく観察すると、悪意をぶつけられている2人の女性の頭に兎の様な耳があるのを発見した。


(あの二人の頭にあるのは、…兎の耳?……獣耳という事は、あの2人は獣人族か?)

“イエスデス、マスター。アノモノタチハ、ジュウジンゾクノモノデ、マチガイナイカト……ナニヤラ、イワカンガ、アルヨウデスガ?”

(違和感?)

“ハイ。イッパンテキナ、ジュウジンゾクト、ナニカ、チガウヨウデスネ”


惶真は『剣』と対話していると、住人の投げた石が、黒髪のまだ幼い兎耳少女を庇っている白髪の兎耳の女性のこめかみに当たった。苦悶の声を上げた女性は気を失った様だ。それでも少女を守るように被さっていたが。

少女は「お母さん!」と心配そうに叫ぶ。そして、少女は周囲の住人に激しい憎しみを籠めた目をしていた。

そして少女は祈るように心の中で叫んでいた。


惶真は一つ試してみる事にした。

『剣』が言う違和感が何かは後で”心眼”で確認すればいい。

だが、それには、まずこの村の住人が邪魔だと惶真は認識した。

惶真は取り敢えず2人の獣人族の女性に悪意をぶつける対象全てが“敵”と認識した。

そして、惶真は発動して見た。

この世界に来て初めて使う“魔法”と言うものを。

今までは“特殊技能”のみしか使っていなかった。自身の”恩恵“はあくまでも”固有技能“。この世界の魔法を使うのは初めての試みなのだ。

そして惶真が使うのは自身の適性のある”黒魔法“である。

実を言うと、惶真には”黒“以外の他を操る才能がないようだった。

“変性魔法”により他者の技能をコピーしたのだが、全く使える気がしなかったのである。『エルドラ』で得た”精霊魔法”も使えない。”精霊魔法”は“精霊回廊”が無くては使えない。“精霊回廊”を持つのは“エルフ”だけなのだ。



(さてっ、まずは、確か、使用する魔法陣を、魔力を用いて展開するだったな)


惶真は『エルドラ』で購入していた【誰でも使える、子供でも使える初歩魔法講義書】に書かれていた通りに、右手を村の中心の空に向けた。

そして、上空に魔力を注ぎ込んだ。加減が分からないので、これくらい?と適当な量を注いだ。

すると、注がれた魔力は村を覆う程の大きさの魔方陣となった。

どうやら村の者達が上空に魔法陣で覆われているのに気付いた様だ。騒ぎ出したりする者も出始めた。

惶真は気にせず続ける。


(大き過ぎたか……まあいいか。次に確か、魔法式をトリガーとして組みだす。あとは制御するだけ…そしてトリガーを引いて、撃つ!)


惶真は魔法のトリガーを引いた。

上空の魔方陣にあふれた黒い魔力は、まるで黒い弓矢、または槍の様な形となる。そして“黒魔法:標的逃さず始末するブラッド・ラスト”が射出された。


そして射出された魔弾は、“敵”と認識した者達を容赦なく襲った。泣き叫ぶように悲鳴が轟く。

そして、数分もせず村には血みどろの光景が生み出された。

住人は全滅したのだ。

惶真は特に想う事もなく、今の魔弾の標的から外れていた2人の獣人族の女性に近付いて行く。


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【おまけ…】

標的逃さず始末するブラッド・ラスト

分類:黒魔法/攻撃系魔法

効力:上空に魔力を注ぎ、魔方陣を展開する。そして、注いだ魔力を黒い魔弾に変換し、変換した魔弾を上空から降り注ぐ魔法。標的と認識した対象に命中する魔法式が籠められている。今回の惶真の場合、注ぎ込む魔力が大きかった事もあり1つの村を覆う程の魔方陣を展開してしまった。

使用者:此花惶真。




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