2章ー⑥-Ⅰ:SideEpisode①…逢伝:黒兎娘と白兎母
迷宮大陸とも呼ばれる『ゲルフェニード』。
魔素が大陸の中で最も多き数値で存在する。それ故にこのゲルフェニードには多くの迷宮が存在する大陸として有名なのである。
迷宮が多く存在する為、この大陸には迷宮攻略や己の力量を高める事を目的に多くの冒険者が存在する。
+
とある村があった。
その村は、迷宮『ガルダ』が近くに存在する以外普通の集落地だ。
今、その村で差別と言う名の悪意に満ちていた。
村の中心にて、村の住人達が2人の女性に罵声や石を浴びせ叫んでいた。
その叫びには侮蔑や嫌悪、愉悦を含んでいた。
「よくも俺達をだましてやがったなあ!」
「薄汚い獣交じりがぁ!」
「うわ、こっち見た!なんか移ったりしたらどうすんだよぉ!」
「消えろぉおぉ!!」
住人達から罵声や石を受けている2人の女性。
長い白髪に紅い目。年齢は30越えているが、見た目は20代前半で通じる若さがあった。普通ならこのような扱いを受けるのはおかしいと、誰かが庇う。そんな美しさがその女性にはあった。だが、先程の罵声の中にもあった「獣交り」と言う語が問題だった。
その女性の白髪の頭には人ならざる者の証である白い兎の耳が存在していた。
そう。この女性は人間ではなく、人と異なる異種族である『獣人族』なのであった。
この世界では『獣人族』は獣交りと『魔人族』程ではないが忌み嫌われていたのである。特に、この
白兎の女性はその身で飛んでくる石などを、幼い我が子を抱きしめ守っていた。
そして周囲に叫ぶ。
「…くっ!私は、どうなってもいいですから、痛っ、御願いします、この子だけはぁ!」
「……お母さんっ!…」
母に抱きしめられ守られている少女。黒いショートの髪に紅い目。年齢は小学中学年くらいかそれくらいだ。まだ幼いが母親譲りの整った顔をしている。しかし、その少女にも自分を被さり抱きしめ守っている母親同様に黒い兎の耳があった。つまりこの子も獣人族なのである。
と言ってもこの子は純粋な獣人族ではなくハーフなのだ。父は人間、母は獣人だったという事である。
父は、少女が幼い頃に流行病に掛かりその命を散らしていた。
父は、母が獣人族でも問題ないと、今では珍しい分類だった。少女にも優しさを持って接していた。
+
黒兎の少女は(どうしてこんなことになったんだろう!)と、酷く醜い罵倒や、石を投げてくる村の住民に怨差を孕んだ視線を向けていた。
数分前まで、優しくしてくれていた村の皆。それが、自分達が獣人族の血を引いていると知った途端、このような事態となった。
(なんでこいつ等は、私達を、こんなにも嫌うの?…私達が何をしたのっ?…どうしてっ!、どうしてっ!、どうしてぇ!!)
「きゃっ!、つぅ!!」
「おかあさん!!?」
村人の投げた石が、少女を庇っていた母にぶつかった。当たり所が悪くこめかみ付近を打った。
母はそのまま意識を失った。
少女は必死に母を呼ぶ。その間も住民たちの暴言暴行は止まらない。
少女の心は怒りで染まっていく。
理不尽な現状に対して。
しかし少女には何もできない。幼い少女に抵抗する力もなかった。少女にできたのは、村の住人に唯恨みの眼を向ける事、怨みを自身の心の中で呟く事しかできない。
そんな少女は、以前父が語ってくれたこの世界の神話物語、その物語に出て来たとある”神”の名を叫ぶように心の中で祈る。
(…御願いします!魔神様ぁ!何も悪い事をしていないのに、私達を傷つけるコイツラに天罰を与え下さいィ!!)
その祈りに答えたかのように、村の上空に魔力が集まるのを肌で感じた少女は顔を上に向けた。
「…な、に?…」
そしてその祈りを聞き届けたのか、集まった魔力は、突如村全体を覆う程の漆黒の魔方陣が浮かび上がった。
その事態に村人も気付いたのか慌て始める。
「おい、なんだよあれはあ!」
「魔方陣がなんでぇ!?」
「おい!アレ“黒”の魔方陣じゃねえのかぁ!?」
少女が見詰める魔方陣の中心に更に魔力が集束していく。そして、収束した魔力は、黒い弓矢の様であり、槍のようにも見える様に変化した。
その変化した魔法は一斉に覆う住人目掛けて降り注いだ。
荒れ霰と降り注ぐ漆黒の魔法。光速で降り注ぐ様は魔弾の如くだった。そして、降り注ぐ魔弾は、住人達を、逃げ惑う者にも容赦なく降り注ぐ。そしてあちこちで悲鳴が響く。
唯一その魔弾の対象から外れている者がいた。
降り注ぐ黒の魔弾は黒兎の少女と白兎の母を避けていた。
そして数分後には、阿鼻驚嘆が響いた村に静寂が訪れた。
そこには、只々血みどろの住人達の亡骸だけであった。
その事態に少女は茫然と見つめた。そして、どうなっているのか?何故こんなことが?そんな事、少女にはどうでも良かった。
少女の心にあったのは「ざまぁみろ!」と言う想いだった。
ハッと、少女はなる。
母の安否を思い出したのだ。
「おかあさん、お母さん!…」
「……っ」
母は拙い状態だった。
打ち所が悪かったのもあり、何度も石を当てられ多くの傷があった。特にこめかみが問題だった。
このままでは母が死ぬ。
そう思った少女は必死に助けを叫んだ。
「たすけてぇ!母を、お母さんをたすけてえ!!」
少女は必死に叫ぶ。
自分たちを救ってくれた魔弾の主に向かって!
そして、少女の叫びに反応するかのように、1人の人間の少年が近づいて来た。
自分と同じ黒髪に、冷めた様な黒い瞳、黒い上下の服装から少女は、まるで死神を思い浮かべた。
だが、少女はその少年に縋った。
村の人間ではないが人間。
私達を蔑み支配しようとする人間。
だが…
少女はこの少年に縋る。
そうすれば母を救える。
直感から少女はそう感じたのだ。
「…お願いしますぅっ!!……」
これが黒兎娘ヴァニラと白兎母リムルが、異世界から来た少年、此花惶真との出会いだった。
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