1章-⑪:嬉し恥ずかし…そして次の町へと歩を進める。


同じベッドに寝ていたマナとカナが夢から覚めたのは同時だった。

目を覚ましたマナとカナは、御互いに顔を見合わせると、嬉しさ(自分達の“呪い”が消失した事)と、恥ずかしさ(変成魔法後の情事)と、愛しさがその表情に表れていた。


「ふふ…おはよう、カナ」

「うん。おはようなの、マナ…ふふ」

「なんだか、不思議な感覚だったね。一緒の夢を見ているみたいだったよ」

「うん。不思議だったの。…後、何だかお腹空いたの」


夢の中でも2人は、まるでお互いの感覚が共有しているかのように感じていたのだった。あと、何故だか、凄くお腹が空いていた。


マナとカナは「そうだ!」とベッドから体を起こすと自分達のクロノカードを取り出した。

そして、ステータス表示をすると、


=======================

〔クロノカード〕

所有者:マナ・リア 年齢:178(“変性”効果時:8『“覚醒”時:17』) 性別:女 レベル:1

職業:― 種族:魔人(“変性”効果時:人間)冒険者ランク:―

筋力:10→『変成解放時』:50

体力:30→『変成解放時』:50

耐性:10→『変成解放時』:50

俊敏:20→『変成解放時』:50

魔力:350

魔防:50→『変成解放時』:250

【固有技能】

『恩恵』【昇天】:固有魔法『昇天』…浄化魔法

【特殊技能】

『戦闘系』:剣術

『魔法系』:魔法適性【黒】:魔力操作:魔力解放:魔力付加:無詠唱

『補助系』:言語理解:共有【感覚共有・念話共有】:覚醒

『天職系』:除念師

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〔クロノカード〕

所有者:カナ・リア 年齢:178(“変性”効果時:8『“覚醒”時:17』) 性別:女 レベル:1

職業:― 種族:魔人(“変性”効果時:人間)冒険者ランク:―

筋力:10→『変成解放時』:50

体力:30→『変成解放時』:50

耐性:10→『変成解放時』:50

俊敏:20→『変成解放時』:50

魔力:350

魔防:50→『変成解放時』:250

【固有技能】

『恩恵』【再生】:固有魔法『再生』…治癒魔法

【特殊技能】

『戦闘系』:杖術

『魔法系』:魔法適性【白】:魔力解放:魔力放出::魔力回復:無詠唱

『補助系』:言語理解:共有【感覚共有・念話共有】:覚醒

『天職系』:奉仕者:治癒士

=======================


2人は何度も見返すが、やはり今まであった“呪い”が消えていた。体も精神も軽くなった実感を得た。しかも、封印されていたらしい技能も解放されていた。


2人はクロノカードを仕舞うと、その切っ掛けを作ってくれた、最初は無慈悲で怖い人と言う印象だったが、なんだかんだで同行するのを認めてくれた優しい、そして愛しいと思えるほどの存在となっていた惶真がいるはずのベッドに視線を向けた。


だが、そこには空のベッドがあるだけだった。


「え!? オウマはどこに!?」

「!? 御主人様、どこにいったの?」


2人は慌ててベッドから起きた。

マナとカナは「まさか私達を置いて行ったのでは?」ともしかしてと言う考えが頭に過ぎった。

そんな考えと共に慌てて起きたと同時に宿の部屋のドアが開いた。


「「!?」」


++++


「ん? ようやく起きたのか? 寝坊助だな2人共…おわっ!?」


そろそろ2人も寝覚めるかなと思い買ってきた食べ物を持ってドアを開け部屋に入ると、マナとカナはベッドから起きており、なんだか焦った様な2人に「どうしたんだ」と思いながら、惶真はずっと眠りっぱなしだった2人にからかう様に声を掛けた。

だが、その瞬間、2人は惶真に抱き付いてきた。2人の目元には涙を浮かべながらだった。

いきなりの事態に困惑する惶真。どうしたのか聞くと、どうやら起きたら惶真がベッドにおらず、自分達の呪いも解けた事もあり置いて行ったのでは?と考えが浮かび悲しくなったからの様だ。


「オイオイ。いくら俺でも、そこまで鬼畜じゃないつもりなんだが?」

「「グスッ、だってぇ~」」

「……安心しろ。確かに、前に勝手に付いて来たらいい。と言ったが、付いて来て置いて行く。なんて一言も言ってないぞ、俺は」

「…確かに『なの』」

「お前達が勝手に勘違いしただけだ。……しかし、ここまで好かれているとはなぁ~」

「「うぅ~」」


恥ずかしそうに顔を赤くして顔を隠すようにしがみ付くマナとカナ。何だか、その顔と仕草を見て惶真は「可愛い」と言う気持ちになっていた。


惶真としては、“呪い”の封印と”変成魔法“の実験を行った後、2人を置いて行く気だった。

実際、当初の予定では惶真は2人よりも早く目覚めた後、この【エルドラ】の町を後にするつもりだった。だが、実験のあと、自身のよく解らない衝動的な気持ちに従い、ある事をマナとカナにした事で、2人は、惶真にとって2人が少なくとも家族の様な存在に認識された。

惶真は、他人がどうなろうが全く興味を持たないが、家族と認識した者には心を傾けるのである。

惶真にとってそれは、今まででは、今は亡き両親と、従姉の美柑さんのみだった。


「そらっ、取り敢えず飯にしようぜ。腹空いただろ?2人共丸一日間眠っていたのだから」

「えっ!?そんなにィ!」

「…どおりでなの」


丸1日眠っていた事に驚いたマナとカナを後目に、惶真は買って来たパンとかフルーツを机に並べると2人に食べるように促した。


「い、いただきます、なの」

「いっただきまぁすっ」


空腹だった2人は食べ始めた。そしてある程度食べた後、マナが惶真に質問と言うか疑問に思った事を聞いてきた。


「はぁ~♪美味しかったぁ~オウマ、ありがとうぉ……ちょっと、聞いてもいい?」

「ん?なんだ?」

「えっとね、私達魔人族は、魔素と呼ばれる物を得る事で、ある程度食べたりせずでも空腹になったりしないの。だから、一日くらいでこんなに空腹になる事はそんなにないはずなのよ」

「あぁ、そう言う事か。…それは、俺の“変成”の影響だろうな」

「御主人様の力の?」

「そうだ。あの後、お前たち2人を空間魔法で作った場所でした事を覚えてるだろう。その時に、お前達の体と精神を共鳴させたんだよ。……なに、真っ赤になってるんだ?」


あの時の事を思い出し羞恥心から真っ赤になって動揺しているマナとカナに、惶真は怪訝そうな視線を向けた。


「うぅ、だってぇ~」

「わ、私たち、初めてだったんだもの!」

「初めて、か…それは悪かったが、たかが舌を絡めたキスをしただけじゃないか」


別に性的に抱いたわけでもないのだから、そこまで言われる事なのかと首を傾げる惶真に、マナとカナは膨れる様に眉を上げ怒った様に反論した。


「オ、オウマは分かってない!女の子にとっての、大事なファーストキスの価値を分かってない!!」

「そ、そうなの!御主人様にしてもらった時、私達はふわぁとした幸せな気持ちになったの!それを、たかが、なんて言うのは間違ってるの!!」

「……おぉ」


なんだかよく解らないが自分が失言した事は理解した。その後も、2人の勢いのままの説教を聞く事になった。

幼女にあれこれ説教されている姿は、シュールな光景だと思う惶真だった。



「悪かった。俺の言い方が悪かった、すまん」

「うん。解ればいいの!」

「うん。それじゃ、続きをどうぞなの」

「………まあ、いいか。確か、共鳴させたところまで説明したんだっけか。また互いの、主に、俺を主とする様にリンクさせたことで多少だが御互いの持つ感覚を共有できるようになった。お前達のクロノカードにも“共有”と“覚醒”って技能があっただろ?これで、相手が離れていてもその存在を感じ取れたり、念じる事で頭の中で会話する事が出来る“念話”も出来る様になった。ゆくゆくは御互いの固有能力も使えるようにするつもりだから。あとは、俺を主とした事で、お前達の体は俺に近い、つまり人間に近い存在に変質した可能性がある。恐らくこれが、お前達が空腹感を得た理由だと思うぞ」


取り敢えず、俺はマナ、カナに一気に説明した。

俺の説明に「なるほど」と、どうやら納得した様だ。最後の説明をした後、俺に近い存在になったと聞いて「そっかぁ~」と2人して嬉しそうにしていた。


その説明後に、俺は2人にクリスタルルビーの宝石が付いた指輪を渡した。


「取り敢えず、お前達にこれを渡しておく」

「なに?わあ、綺麗な指輪ぁ!」

「ホントなの。綺麗なの。これを私達に?」

「ああ。これがあれば、俺がいなくても、自由に“覚醒”させる……だから、置いて行ったりしないから、いきなり引っ付くな」


何だかマナもカナも俺の自由発言に敏感に反応してくるようだ。いきなり抱き付いて来るし。取り敢えず、俺は2人を宥めた後続きを説明した。

曰く、この指輪には俺の“変成”の魔力が籠められているのだ。この指輪を介すことで、“覚醒”を発動し少女モードに変質する事が出来る様になる。

また、この指輪には幾つかの能力が付加されており、その1つが“空間魔法”の1つで“収納魔法”が組み込まれている。


「お前達の指輪にはそれぞれの武器が収納されているからな。……取り敢えず、それ、使ってまず“覚醒”させて見ろ。そのままじゃ武器は振れないだろうしな」

「わかったぁ!」

「わかりましたなの!」


そうして二人は渡された指輪を付けると、その指輪に口付け“覚醒”を発動した。すると2人の体は光り輝くと成長した姿。幼女から少女の状態に変わっていた。


「……凄いわ。………グス。これだけは、納得いかないけどぉ…」

「わあ、なの。これなら御主人様に、色々ご奉仕できるの」


カナは成長した事で色々できる事が増え喜んでいるのに対して、マナはやはり自分の胸のサイズに納得いかないのか、悲しそうで不満のある雰囲気を纏っていた。

俺は2人に、指輪に魔力を籠め、中にある武器を取り出すように指示を出した。

そして2人は指輪に魔力を籠めると、マナは、細身の十字型でそれぞれの先に、マナの髪と同じ紫色の宝石が付いているレイピアを取り出し握っていた。

カナは、十字型のアンチクロスの錫杖を取り出し握っていた。この錫杖のクロスの先にはマナのレイピア同様にカナの髪と同じ朱色の宝石は付いていた。


「わっとと。これってレイピア?なんだか不思議な力を感じるの」

「私のは、杖なの。うん、私のも不思議な力を感じるの」

「ああ。お前達の“恩恵”に合わせて選んで来たからな。それらは、所有者の魔力を認識する事で起動できるようにしてあるから。お前達と俺以外には使えないオーダーメイドだ。大事にしてくれよ」

「これ、どうしたの?」

「もしかして、私達が寝ている内に?」


そうなのだ。惶真はマナ、カナを置いて行かないと決めた以上、ただ一緒と言うより戦力を与えた方が良いと考えたのだ。深い眠りの為、目を覚ます気配のない2人をそのままに、惶真はまず“剣”の案内で宝石商を捜し、そこで2人に渡したクリスタルルビーの指輪を購入した。それなりの純度を秘めていたのでそれなりの値段をしたがダイノボッドの魔石で得た金があったので問題なく購入した。店の店主は一介の冒険者である惶真に「金はあるのか?」と怪訝そうな表情だった。それに不愉快な気持ちになったのか金貨の入った袋をどさっと見せると手のひらを返したように態度を変えた。この辺は、何処の世界でも一緒なんだなと思った。

その後、幾つか小さめの宝石も購入した後、“剣”に従って武器や防具と言った物を扱う店にやってきた。

冒険者ギルド直轄店のようで、冒険者であると提示したので、それなりの値段で活発なマナには十字のレイピアを、おとなしめなカナには十字の杖を購入した。防具はどうか聞かれたが必要ないと答えた。まあ、大抵の冒険者は防具を身につけているから、軽装な惶真を不思議そうにしていた。

あとは、回復薬と言った物を扱う道具屋で精神回復薬をたくさん購入した。

魔力を多く消費する“恩恵”の為である。

因みに、今まで購入したものは全て、俺の得た“空間魔法”の中に送ってある。一部屋くらい大きさなのでまだまだ収納したりできる。

後はこの世界の地図なんかも購入した。

特に目的地があるわけでもないので、自由に旅して行こうと思っていたが、“剣”が『”シッテイルノト、シラナイノデハ、カワリマスゾ”』と言われたので購入した。


(なんと言うか、頼りになる“剣”だな全く)

“キョウシュクデス/テレテレ”


照れているようだ。ホント人間臭い剣だな。


とまあ、色々購入して宿に戻って来たんだが、未だに、それはもう幸せそうに眠っていたんでな。起さない様にする為、“空間魔法”を発動し、その中で購入した指輪や宝石を元に、クロスレイピアや、アンチクロスを作っていたのだった。


そして次の日になった。

いまだに眠っていた2人の幼女。

惶真は、これ以上は待てないので、叩き起こそうと思い、取り敢えず下の食堂で購入したパンやらフルーツを購入して部屋に戻ると2人が起きていた。が一連の流れとなる。


「とまあ、そんな流れだな。因みにまだ起きてなかったら、電撃で起こすつもりだったんでな…まあ使わずで何よりだ」

「アワワワ…(オウマ、本気でやるつもりだったよ。あの良い笑顔は間違いないよ)」

「アハハ、ナノ(うぅ、間違いなくなの。起きてよかったの)」

「うん。“念話”を使いこなせてるようだが、俺にも聞こえてるからな」

「「……」」


++++


色々説明した後、2人は”覚醒“を解除し元の幼女の姿に戻った。あの状態でも魔力を多少消費するので普段はこの状態がベストと言えたからだ。勿論武器も収納してからだ。あれは、少女モード用の武器だからな。持てないに決まっているからだ。

そんなこんなで、取り敢えず2日間世話になった宿を後にした。


「ねえ、オウマ。これから、何処に向かうの?」

「ん?ああ、言ってなかったか。特に決めてない。取り敢えずこの世界を一周する感じで行くつもりだが。…そう言えば、どうする?“ネクロバレー”って所にまず向かうか?」


惶真は思い出したように、2人の元々の目的地である“ネクロバレー”についてどうするのか聞いた。

2人が“ネクロバレー”を目標にしていたのは、“呪い”の浄化の為だった。

だが、それも既に惶真の力で解消されたのだ。行く必要は特になくなっていた。

それを尋ねられたマナとカナは顔を見合わせると首を振って、“ネクロバレー”に行くのは、今はいい。と、惶真に任せる。と判断したようだ。


「そうか。取り敢えずだが、これから向かうのは別名、迷宮大陸と言われている場所だ。“剣”と地図によると、色んな迷宮が存在する大陸で冒険者の修練と、素材集めなんかに適しているようだ。そこで、俺を含めて戦いに慣れる様にしようと思う。」

「迷宮大陸…オウマも鍛えるの?十分強いのに?」

「ああ。確かに、俺のステータスは誰にも負けないものだが、戦い方に関しては素人同然だからな。そこで、取り敢えず実戦で学びつつ魔石集めなんかをするつもりかな。…後、第一の目的はお前達のステータス強化だからな。そこは忘れるなよ」

「わ、私達も、戦うの?」

「当然だろ。何のために得た能力だよ。そこで、自分の“恩恵”をもっと使える様になってもらうからな。自分の身は自分で守れだ。おんぶ抱っこをするつもりはないからな」

「分かった!頑張って強くなるよ!オウマの為に!」

「出来るかはわからないですが、が、頑張りますです!」

「そうか。その意気だ。そんじゃ、行くとしますか。お前ら、勝手に付いて来いよ!」

「「ふふ、はい『なの』!どこまでも付いて行くわ『の』!」


こうして、惶真はマナとカナを連れ、別の大陸にある迷宮を目指すのだった。

目的地は別の大陸の渡る為、船に乗る必要があるので、港町『クーリィ』を目指すのだった。

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