1章-⑩:エルドラ…呪い解いて成長したら『○○した!』
王都を出てからは外での野宿だったので風呂に浸かる事はなかったので、久々に入浴し心身共に満足感を得た。
そして布団に横になる事もなかったので、入浴後に部屋に戻ると、すぐに布団に入ると眠りについていた。
それはマナ、カナの双子魔人族姉妹も同様だった。
寝床に入る際に、「「一緒に寝たらだめ『なの』?」」と訴えてきたが、ゆったりと眠り体力と魔力を回復したいと、一眠り後にある実験を行う思惑もあり却下させた。
不満げだった二人だったが、一休み後にやる事がある、と説明しそれぞれの布団で眠らせた。
そして眠りについて数時間後。
時計は昼過ぎを指していた。
起きると直ぐに自分の状態の確認を行う。
よく眠れたのと入浴によるリラックス感もあり体力も、魔力も十分に回復し充実していた。
まだ眠っていたマナとカナの二人を起こし少し遅めの昼食を摂った。
+
食後、部屋の施錠をしっかりと行う。
これから行う事は、他の人間に見せるべきではないだろうと言う理由だ。
「ねえ、オウマ。これからどうするの?」
「確か私達で何かするって言っていた気がするの?」
「ああ。それはこれから説明する。実はな――」
ベッドに腰かけているマナとカナにこれから行う事について説明を始めた。
そして……
「「えぇーーっ!?」」
「やかましいな」
説明を聞き終えた後、マナとカナは驚きの声をあげた。
驚きと言うか信じられないと言う気持ちが強かったようだ。
惶真が2人に説明した内容。それは――マナとカナの身に蝕んでいた”呪い”を取り除く事だった。
”呪い”――。
マナとカナ、そして惶真自身を含め、理由は理解できないが、可能性としては”恩恵”と呼ぶ特別な固有能力を有していた者を対象にしていたのでは思っている。
主にこの”呪い”は対象者のステータスを縛るものであり、どうも周囲から悪感情を集めやすくなるようだった。
今でこそ”呪い”の類がない状態の惶真だが、元の世界である地球の日本ではこの条件が引っかかっていた思えた。
自身の名を相手に伝えても認識できない(一部以外)。
何故か自分でも分からないが、相手から悪感情を持たれ易かった(これも一部以外)。
城下町であった同じ(未覚醒だった)”恩恵”の固有能力を所持していた冒険者の少女。
彼女と話を聞いて似た経験がある話を聞けた。おそらく彼女も”呪い”を有していたのだろう。
だけど出会った時に、相手のステータスを覗き見る”心眼”と言う能力を使ったが、彼女のステータスには”呪い”はなかった。
彼女の話では今いるこの大陸でない、別の大陸に”呪い”等の状態異常を解く場所があり、そこで解除できるらしい。
その場所の名は≪ネクロバレー≫と言うらしく、曰く聖地らしい。
マナとカナも元々はこのネクロバレーを目指していたらしい。
……目指していて別の大陸にいるのは間抜けな気がするな。
まあそれもマナ、カナの2人に”呪い”とネクロバレーの存在、そして惶真の事だが黒髪黒目の”恩恵”持ちの男との出会いを予見し伝えた白いローブを着た女(おそらくこいつも
通常の方法では解除出来ない”呪い”。
今後に、”恩恵・変性”の力で得た”状態異常耐性”があるとはいえ解除不可のバッドステータスを付与される可能性は否定出来ない。
だから考えていた。
不可能を可能にできる方法を。
そして考えの果てに一つの可能性を見つけた。
それが――
「まず俺にはお前達と同じ”恩恵”を所持している。その力の名は”変成”。分類的には能力ってより魔法に入る。その”変成”の真の能力は”魔”の力に干渉し変換できる能力だ。”魔”とは魔物であり、魔法、その元素である”魔素”其の物を変える力だ。ここまでは取りあえずいいか?」
マナとカナは正直よく分からないがとりあえず「うん」と頷く。
「例を出せばあの恐竜モドキの魔物を俺の”変成”の力で別の物体に変えたのがいい例だな。とまあ、俺は”魔”に該当する概念であれば干渉する事が出来る能力を有していると言うわけだ。そして俺の推測が正しければ”呪い”も魔力、魔法に近いものだと推察した」
「と言う事は、オウマのその”変成”?の力で私たちの”呪い”を取り除けるって事なんだ!」
嬉しそうに言うマナ。
カナも同様に嬉しそうと言うか希望があるんだと思ったようだ。
しかし――
「喜ぶのはまだ早いな。残念ながら俺の今の”変成”の力ではあくまでその”魔”に干渉し別の存在に変換することしかできない。そして解析して見たけどお前達の身にある”呪い”は高度なもんだ。別の何かに変換させるのは難しいと言わざるをえない」
「そ、それでは、どうするの?、ご主人様…」
「なに、確かに別の何かに変換は難しいが、その身に宿す”魔”を一時的にでも封じることが出来れば、”呪い”をその身から引き剥がして別に物に封じ外す事は出来るということだ」
簡単に言えば2人の”呪い”を、2人の身体から惶真の”変成”を用いて分離させる。
そしてさらに力を使い分離させた2人の身体から引き抜くと同時に身体から別の”何か”に封じ込める。
簡単に言えばこの流れだ。
この【エルドラ】の街に来るまでは不可能だったが、冒険者ギルドであったエルフの女性が”封印”の能力を有していた事で可能となった。
あとは惶真自身の相手のステータス値を一度だけ自分のものに出来る”恩恵・変性”を用いて得た膨大と言える魔力があればいけるはずだ。
それと今回の実験は”呪い”の剥離から封印までの流れだけでなく、”魔”と呼称されている”魔人族”に自身の”恩恵・変成”の抗力が効くのか試す意味もあった。
そちらの方が、マナとカナの二人を驚かせた要因が高かったりする。
それは2人の身体情報を”恩恵・変成”を用いて変質させる。
今のマナとカナの姿は幼女、子供だ。
たとえ”呪い”を解除し封じても姿形は変わらない。
おそらく”呪い”が消失すれば2人のステータスも本来の状態となるはずだと考えている。
しかし子供の姿ではせっかく得たステータスや”恩恵”であっても使いこなせないだろう。
だったら姿を変えてしまえばいい。つまりは変化と言う名の成長をさせればいい。
そう考えた。
無論この考えはマナとカナの二人の為ではない。
あくまでも惶真にとっては”魔人”に効くかの実験であり、全てが善意と言う訳ではない。
「とまあ、ざっとこんなところだな。お前たちの”呪い”を封じると同時に、お前たちの身体を、まあ俺と近しい年齢くらいの姿に変化させる。ちなみにこれは今から必ず行う決定事項だから拒否はさせないから、そこの所よろしく」
+
「……」
「……」
説明を受けたマナとカナは半信半疑だったが、これまでの惶真の規格外なチート能力を見ているので取り敢えず惶真に任せようと結論に至った。
成功するか分からないけど、もし無事に成功出来れば自分達の身に降り掛かっている”呪い”の排斥だけでなく、自分の身体を成長変化させれば、色んな事が出来るようにはなるのは間違いない。
((……もし上手くいけば、オウマ『ご主人様』の役にもっとなれる!))
2人はただ純粋にそう想った。
+
マナとカナの了承を貰い準備する。
必要なものは”呪い”を分離させ封印の媒体となる”魔石”が二つだけなので問題ない。
必要な術は”恩恵・変成”、対象の能力やスキルを封じることが出来る“封印”、より完成度を増す為の能力を一時的に1ランク上げる事が出来る“能力拡張”。
あとは己の魔力一つだけ。
この実験は膨大に魔力を消費するだろう。
”恩恵”はチートクラスの能力なのだが、発動コストとなる魔力を大幅消費してしまう。
”変性”は魔力コストはそこまで高くないので問題ないが、もう一つの”変成”はごっそりと魔力を消費し持っていかれる。
王都を出た先のマナとカナと出会った森。そこで遭遇した恐竜モドキ=ダイノボッドにこの”変成”を使ったが大きく魔力を消費した。
睡眠と風呂で魔力は十分回復した。
あとはやるのみ。
目の前には緊張の表情を浮かべているマナとカナの幼女二人。
これから自分達がどうなるのかと思えば不安で一杯だろう。
「よしっ」
”変成”の詠唱を行う。
本来”恩恵”の力を発動させるのに詠唱は必要はない。
しかし今回はより”変成”の効能を明確に上げる意味を込めている。
「―”我、魔の頂に立つ者。世界に満ちし溢れる魔の元素。我は魔の血を手繰る者。世界の理を改変する者。我は魔の理に手を伸ばし概念を与えるもの―その恩恵の名を此処に告げよう、我、魔の改変者、≪変成≫の神名を此処に捧げよう!”」
長い詠唱を終える。
こんな長い詠唱実戦では全く使えない。
しかし今回は意味があった。
詠唱を終えると、明らかに今まで使った時よりもより”変成”の能力を深い意味で捉えることが出来た。
何か一つ足りない感じはしているが、それを抜きにしても完璧な状態で発動できたと自負出来る。
自分の身体の奥底から黒色の魔力が溢れ出る。
「…す、すごい…」
「…うん…キレイ、なの…」
マナとカナには”今の惶真”の姿が神々しく見えていた。
2人はこの瞬間、心の奥から見惚れていた。
+
目の前のマナとカナは何故かどこか心在らずのような雰囲気と頬を赤くしている。
どうしたんだ?と怪訝に思うも、今現在も魔力が消費されている。
それも膨大な魔力が水や砂のように流れていく。
時間はあまりないので今の二人の状況は気にしない事にした。
”変成”の魔力を開放し維持しつつまずはマナに近づく。
マナとの身長差があるので片膝を付き腰を落としマナの目線に合わせる。
「な、なに?…近い、よ…」
(な、何…なんで顔を寄せてくるの!?このままじゃ…)
惶真の顔が自分の顔に急接近してくるので顔を真っ赤に一体何なんだろうと狼狽するマナ。
戸惑っているマナの頬に右手を翳す。
その瞬間、マナは体をビクッと震わせた。
暖かい熱が惶真の右手を通じ自分の頬から全身に沁み拡がっている。
そして―
「っ?!」
惶真はマナの唇を奪った。そしてマナは全く分からない状況に頭は真っ白になっていた。
(な、なに!?なんで!?えっ、なんで私…オウマにキスされて…!?)
ただ重ねるだけの子供ぽいキス。
頭の中が真っ白になり思考できないが、惶真と重なっている口から自分の中に彼の黒い光が流れ込んでくるのだけは感じるマナ。
そして自分の内にあった重りのような”何か”が抜け軽くなっていく感覚を感じていた。
キスをして数秒。
ゆっくりと口を離しマナから離れる。
「あわ、わわ!?」
マナは顔を真っ赤にぼっとしているのか焦点が合っていない。
フラフラとしているが倒れる感じはしないので放置する。
もう一人行使する子がいるのだから。
「ご、ご主人様、お願いしますっ、なのっ!」
先程のを隣で頬を赤くしつつ見つめていたカナが此方の視線に気付くと、ギュッと両腕を胸の所で握りしめつつ目を閉じる。
カナはその惶真の向けられた視線から自分も!と思い、目を閉じその時を待った。
惶真は目を瞑るカナに少し苦笑しつつカナの頬に右手を充てる。
(ふぁ…ご主人様の手から暖かい光が伝わってくるの!)
ゆっくりとカナの唇に自分の口を当て重ねる。
(ふわぁ…御主人様にキスして貰ってる。私の、初めての…!?)
カナも口付けを通じて惶真から流れ込んでくるのを感じ、そして自分の枷に近い感覚が抜けていくを感じていた。
そして抜けていく感覚とは別の自分の中を書き変えていく感覚が全身を覆っていた。
カナへの
今回2人に
(どうやら…うまくいったな…)
惶真は成功を実感した。
左手に握っていた2つの魔石には”封印”による刻印紋様が刻まれていた。
(グッ…)
魔力の大半を消費した影響でフラった意識が跳びかけるも、予め用意していた精神回復薬を引用し魔力を回復させる。
「2人のステータスは……」
間違いなく”呪い”が消失しているか確認の為にとマナとカナのそれぞれの≪クロノカード≫を確認する。
するとステータス欄の所にあった”呪い”が間違いなく消失していた。
「よし。第一目標は成功だな。そうだ、第二目標の成果はどうだ?」
今回の実験は、呪いの封印の結果と、魔人を対象にした“変成”の魔法が上手くいったかを知る為のものだった
惶真は2人のクロノカードから、マナとカナの方に視線を戻す。
「……おお」
二人の姿を見て第二目標も成功したのを確認した。
先までの小柄の子供の姿だったマナとカナの容姿が成長、いや変化をしていた。
顔たちも幼女から少女に変化し、幼さから愛らしさが増したように感じる。
身長はおそらく150㎝くらいだろう。髪の長さ等の変化はなく今までと同じのようだ。
あと、惶真に買って貰い着ていた衣服も成長変化した身体に合わせて変化していた。どうやらもう一着大人用に購入する必要はなかったようだ。
あと変わったと言えば、マナの目元はきりっとしているのに対して、カナはおっとりとした目元をしていた。
ふと二人の眼と言うか表情を見て2人の異なる感情を秘めているような気になっていた。
なんだか2人の顔は、と言うか目線は下を向いていた。何故かマナは物凄く暗く、逆にカナは物凄くいい笑顔をそれぞれ浮かべていた。
2人の視線は自分達のある一点を見ていた。
それは、成長した己が胸であった。
不思議そうに惶真は2人に声を掛けようとすると、2人は全く逆の感情を顕わにし声にする。
「絶望した!未来の自分に絶望した!!」
「感謝です!未来の自分に感激なの♪」
「……あぁ、なるほど」
真逆な思いを叫ぶ2人。
マナは成長した未来の可能性の自分に絶望し、カナは成長した未来の可能性の自分に歓喜した。
そんな2人(特にマナ)を、惶真はなんと言うか居た堪れない気持ちになるのと同時に、自分の、いや自分ではない”何か”が心の奥底から沸き上がりそうになっていた。
なぜか自分でも理解できないのだが涙が溢れそうになってくるのだ。
悲しみではない、そう歓喜の感情。
なぜこんな感情が浮かんでくるのか分からない。
分からないが、この感情は自分のものだ。
そう感じるのだ。
もう離してはいけない。
そう心の何かが訴えている。
抑えられない。
自分の感情が制御できない。
そして――
+
「うぅ…」
マナの胸は正直小さいと言えるサイズだった。赤いドレスでもほんの少し膨らんでいると分かるくらいかな。絶壁とまでは言わないが…
それに比べて同じ双子であるはずの妹のカナは……大きかった。
まるでメロンか何か果物が入っているかのように膨らんでいるサイズだった。
自分の胸をポンポンと手にするマナはポヨンポヨンと擬音が聴こえそうなカナの胸を恨めしそうに見つめる。そして再び自分の胸に視線を向ける。その眼尻に若干涙が浮かんでいた。
そんな不条理な現実と言う事実にマナは世界の、神に対して不満をぶつける。そして、惶真にもぶつけようとした。
「うぅ~、神は無慈悲だよ! どうして双子なのにここまで違うの?……オウマ!あなたが何かしたわけじゃ-」
マナが若干の涙目のまま睨むように“変成”を用いて変化させた本人である惶真に文句を言おうとしたその時だった。
マナはなぜか涙を流している惶真に抱きすくめられていた。そして――。
「うっ、ん…!?」
口付けられた。
それも先程の子供の様な触れるだけのものでなく、まるで気持ちを載せるかのような情のある口付けだった。
(なに?なに?)
(何が起きてるの?)
(えっ??)
いきなりの出来事に混乱するマナ。
そしてその様子を頬を赤くしつつポーと見詰めるカナ。
「…えっ!?なんなの?」
そんなカナに突如不思議な感覚が伝わってきた。
それは今まで感じたことのない妖艶な気持ちが流れ込んできた。
「なに…これ?うぅ…変な感じなの…体が熱くなるの(これ、マナの感覚、なの?)」
今まで感じた事のない気持ちに体が、火照ってくる。
カナはなんとなく、この感じがマナのものの様に感じ取っていた。
その感じが1分ほど続き身悶える様な感覚が続いていたが、急に火照りが冷めてきた様に感じた。
「はふぅ……」
顔を真っ赤にし、どこか朦朧としたマナが光と共に元の幼女の姿に戻り気絶した。
惶真は気絶し力の抜けるマナを抱えるとベッドに優しく寝かせた。
「ご、ごしゅじん、さま?」
困惑気なカナ。
なぜ惶真が涙を流しながらこのようなキスと言う行為をマナにしたのか?
カナの心にはマナが羨ましい気持ちがあった。
そしてそんなカナの気持ちを察したかのように惶真は衝動のままカナを優しく抱きしめる。
(う、うれしいの…けど…)
包み込む様な優しい抱擁。しかしカナは自分もと―
「んっ…」
カナの唇に惶真の唇が重なる。
先のマナと変わらない情のある口付け。
カナは感じた。
暖かくなる感じ、そして深い深い悲しみを。
そしてカナが感じたものを気絶し夢の中にいるマナも感じていた。
1分にしてカナもマナと同様に光と共に元の幼女の姿に戻るとふと意識が抜けていく。
身体から力が抜けていく。
惶真に抱き抱えられマナと同じベッドに優しく寝かされる。
夢心地のマナとカナの耳に「おやすみ」と聴こえた気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます