1章-⑤-Ⅰ:SideEpisode①…過伝:出逢い…セシリー

私の名前はセシリー・ベアトリクスです。

レグナントと言う名の王国にある、ベアトリクス侯爵家の三女として、私は生を受けました。


私は三女と言う事もあり、優秀な3つの年上の長女と2つ年上の次女の姉の事もあり、あまり両親も、使用人の人達も私に構ってくれる事がありませんでした。


生を受けてから時が過ぎて、私は13歳になった。

私は何をしてもうまく出来ない事が多かった。

勉学も武芸も、上手く出来なかった。

2人の上の姉に比べられる事も多く、私はこの家にいるのが嫌になっていた。


ある時、私は両親の命にて、聖地ネクロバレーに赴く事になりました。


聖地ネクロバレーとは、レグナント王国の郊外に存在する、聖地と呼ばれる神聖な場所であるとされており、この地にはあらゆる不浄を祓う事が出来ると言われています。実際、このレグナント王国はこの地に隣接する事と、代々祈りを捧げ続ける事で争いのない、魔物を寄せ付けない平和の国として発展していったのです。

私の家であるベアトリクス侯爵家は、レグナント王国において、代々、年に一度、聖地ネクロバレーに赴き祈りを捧げる役割を持っていました。

その祈りを捧げる役割は、18歳以下の女性にしか担う事が出来ないのです。


私の家はその女神ネクロバレーの加護を得ているのか女性しか生まれない変った一族なのです。それ故にその祈りを捧げる大任を仰せつかってきたのである。

今までは、優秀な上の姉達がその役割を担っていましたが、この年は何やら大切な用があるとかで急遽私が赴く事になりました。


初めての事だったが、私は正直ウキウキとした気分だった。

何をしてもうまく出来ない私は、両親から「お前の様な不出来な者を外に出しては我が侯爵家の恥となる」とかで、外に出る事を赦してもらえず、13歳になるまでずっと家の中で過ごしてきたのです。


初めて馬車に乗って、ネクロバレーに赴く。

護衛の者が1人、一緒だったが初めて見る外の景色を見て私は感動しつつ楽しむ事が出来た。

この時、私は生まれて初めて心から笑顔を浮かべられた気がする。


そして、馬車に揺られる事2時間程で聖地ネクロバレーに到着した私は、早速と奥にある聖殿に護衛の者と共に向かった。

聖殿に着くと護衛の者を残し、私は1人で聖殿の奥を目指した。

聖殿には18歳以下の女性のみしか入れないからだ。

前に男性がこの聖殿の奥に入ろうとしたら、何故か聖殿の外に出ていたという事があったらしい。

まあ、最も危険はないのだから問題はないが。

このネクロバレーには清らかな聖力で満ちている為、魔物は勿論、邪な心を持つ人間も近寄る事が出来ないからだ。


私は10分程奥に続く通路を歩き進むと、大きな広間に出た。

その場所は、奥に女神と思われる神秘的な何かを感じさせる像が立っており、天井はなく日の光が床の中央を照らしていた。

私はその奥にある女神の像を見つめた。

それを見て、私はこの像が、かつて反逆の女神の一人とあげられている女神ネクロバレーのだと、なぜか分かった。


++++

【女神ネクロバレー】

嘗て、この世界に秩序と繁栄を人間達に与え導いたとされる12の神存在で、ネクロバレーもその1人なのである。

何故、反逆の女神と呼ばれるかは、昔の時代において天域と呼ばれる神々の住まう場所にて反逆した神存在。それがかの女神なのである。

神同士の争いにて、人間達にも多大な被害が出たのである。

当然人間達は反逆した神達を恨んだ。

だがそんな中、ネクロバレーは別と言えた。

その理由が、この聖殿ネクロバレーの存在故であった。

あらゆる不浄。それは災厄と言ったモノを浄化する事が出来る。

つまり病気の者や、呪いを帯びたモノでも、たちまち浄化する事が出来る唯一無二の場所だからである。

実際、この地の効能を求め尋ねる者も少なくない。寧ろ多いと言える。

それ故に、ネクロバレーは、反逆の神でありながら崇拝される稀な女神なのである。

++++


日の光が降り注ぐ場所に進み寄ると私は今日のために一生懸命覚えた祈りを捧げ始めた。

私が祈りを捧げ始めると、私を包んでいた日の光が消え、日の光とは違うもっと安らかな気持ちにしてくれるような暖かい光で包まれた。

その光を包まれた私は、何だか心と体が軽くなったように感じたのです。

そして私はその気持ちのまま、最後の祈りを捧げ、祈りを終えたのでした。


祈り終わった後私は「これで良かったの」と、成功したのか不安に思った。けど、聖殿奥に安置されている女神の像が淡い翡翠色に、私の髪の色と同じ色に光り輝いていた。


それを見て、私は「成功した」と、うまく出来たと「ほっ」と安堵した。

上の姉達に、成功した時はこの様な現象が起きると聞いていたからである。


私は心晴れやかな気持ちで家に戻ると、両親が待っていた。

私は、どうせ興味ないのでしょうと自室に向かおうとした。

けど、両親は私を抱きしめると「よくやったっ」「頑張ったわねっ」と初めて褒めて下さった。


正直何が起きたのか分からない。

それが私の正直な気持ちだった。

急に両親の態度が変わったのだ。不思議に思うのも当然だった。

それでも、私は、うれしかった。

初めて必要と認められたように思え、私は涙を流した。

嬉し涙を。


それから、私の日常は変化した。

今までが嘘のように、私は今まで出来なかった事が出来るようになっていた。

技能に関しては今まで何をしてもうまく習得出来なかったが、いくつか技能を習得する事も出来た。


そんな充実した日々から2年が経過した。


私は15歳となった。

私の容姿もだいぶ女らしくなってきた。

翡翠色の髪は背中の腰まで伸びていた。私はサイドで結ったツインテールにしていた。

体つきも年齢的にもそれなりに、特に胸の成長もあり、魅力的なボディになった。


でも私には胸の成長はあまりうれしくなかった。

何故なら、私の目標に邪魔だからだ。

胸があると剣や槍と言った武器を振るうのに邪魔だったからだ。

私は、冒険者になりたかったのだ。


15歳になった私は、ある時隣町に向かった際に魔物の軍勢に出くわしたのだ。

その時、私もそれなりに闘えたが、その時は相手が多勢だった事もあり、追い込まれていた。

もうダメ!と思った時だった。

魔物の群れに2人の冒険者が颯爽と現れ、魔物を退治していった。

それを見て私は、その冒険者に憧れた。

私もこんな風になりたいと心から思った。


でも、冒険者を目指している事は両親には言えない。

13歳の祈りを成功させた後から両親は私に対して過保護なくらい、まるで今まで構ってあげる事のなかった時間を埋めるかのように接して来たのだ。

そんな両親に危険の隣り合わせである冒険者稼業等、認めるとは到底思えなかったのだ。


でも、それでも。

私は、あの憧れた冒険者になりたいと強く願っていた。

私は考えた。

冒険者になるにはどうすればいいのか。

この国では冒険者にはなれない。この国で登録したら両親に知られるのは必須。

なら、別の大陸の国で冒険者登録をすればいい!

そう私は考えに至った。


そう考えた私は両親に気付かれず旅に出る準備を始めた。

必要な物は取り敢えず登録時に掛かる金銭と、14歳になった時からこっそりと買った白銀の槍。

その他の物も鞄に詰めた私は、誰もが寝静まった頃に家を出た。

向かうは、レグナント王国と同じくらいの規模を持つアルトシア王国だ。


私は、船に乗り海を越え、アルトシア王国を目指した。

旅の中、色んな人と出会い、語り、私は充実感と高揚感を抱いていた。


そして、いよいよ、アルトシア王国に着いた。

長かった。

旅に出て一か月ほどかかった。

その間に私も16歳になった。

そしてアルトシア王国に足を踏み込んだ。


私は早速、冒険者ギルドを探した。

そして見つけた冒険者ギルドに入ると、その時は他に冒険者はおらず、ささっと契約を行った。

これで晴れて、私は冒険者となった。あの憧れの冒険者に。


冒険者になった私は、逸る気持ちを落ち着けつつ早速と、依頼がないか聞いてみた。

出来れば魔物討伐なんかが良かったのだが、どうやらそう言った依頼はなかった。と言うか私の様な新人はそう言った依頼は、しばらくはないだろうって言われた。あと、ギルドに他の冒険者がいないのはその依頼を受けてと聞いた。


仕方ないので宿代稼ぎに雑用の様な依頼を受けた。


それから数日が過ぎた。

私は今日も雑用の様な依頼を受け終えた後、この王国で寝泊まりしている宿に着いた。


「あっ!お帰りなさい、セシリーさん。依頼どうでした?」


私が宿に戻ると、私に気付いた、私と同い年くらいの紫のショートヘアーの女の子、ティファが声を掛けてくれた。


「ええ。無事終えた所よ。あとただいまです」


私はティファといろいろ話した後一旦荷物を宿の部屋に置いて来ると食堂に向かった。

雑用と言っても力を使う依頼もあるので、お腹が空いていた。

荷物を置いて食堂に訪れ、食べ始めた。

ここの料理は美味しいのが、この宿を選んだ理由である。

そして今日も美味しく頂いていると、食堂に見慣れない服装をした黒髪黒目の少年が入ってきた。


(…なんだろ?あの人、見慣れない男の人だなあ~冒険者、ぽくはないし。…なんでだろう?私、彼が気になってる?)


食堂に入ってきた少年に不思議な感じを持っていると、食堂の向こうの受付辺りが騒がしくなっているのに気づいた。


「なんだろ?」


そう呟いたあと、食堂前が騒がしくなっていた。

近くにいた野次馬の冒険者たちは「アイツ、ワルイ・ガラーだ。ほっとこうぜ」と食堂に戻っていくのだった。


「ワルイ・ガラーって、聞いたことある、かな。あんまり良い評判は聞かない冒険者の男だったかな」


小さく呟いているとワルイの怒声が聴こえてきた。

視線を騒ぎの方に向けなおすと、ワルイと、先程なんだか気になった黒髪黒目の少年が揉めているとこだった。

私は「いけない!」と介入しようと思った瞬間だった。

私は驚き目を見開いた。

なんと、彼はワルイの繰り出した拳を指一本で受け止めたのだ。

しかも、彼はそのあと直ぐ指を弾いた後、体勢を崩されたワルイに彼は蹴りを放つと、ワルイは宿の外に吹き飛んでいった。


それを見ていたものは皆呆然としていた。

私もその一人だった。


彼は特に感慨もない様子、そんな彼にティファが憧れを見るように話しかけていた。

私はその話をしている二人に近付いた。

興味があった。

ワルイ・ガラーを蹴り飛ばし瞬殺した彼は、まるであの時の冒険者の様に私の眼に映っていた。


これが私こと、セシリー・ベアトリクスと、此花惶真との邂逅にして始まりだった。

そして、この出逢いが後の運命を齎すのは、もう少し後の話しなのである。



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