1章-③:勇者召喚…”加護”持ってないけど?

俺は現在今まで見た事もない見知なる地を1人歩いている。

俺の視界に映るものには地球の日本にあるビルと言った高層物の類は一切見られない。

見渡す限り森や山と言った自然にあるものしか見当たらない。

そう。ここは俺のいた世界=地球とは違う世界。つまり異世界なのだ。


俺は昨日、憂鬱な日々が始まると思っていた新学期の日にこの世界――名前は【パルティス】と呼ばれている――に俺が昨日までいたとある王国の者達によって連れて来られたわけだ。

なお、呼ばれたのは俺だけでなく、その時教室に居合わせていたクラスメイトや担任の先生。俺を含めると計29名がこの世界に異世界召喚されたと言う訳だ……


他の召喚させられたクラスの者達は恐らく今日から、今回この世界に召喚させられた目的らしい【魔王】と称される存在を討伐するための訓練を開始するのであろう。

もっとも、こうして1人召喚された王国から出て外の世界にいる俺は、とある“加護”を持っていなかった、という理由で、呼びだされた王宮を追い出され城下の方に移る事になったのだ。

追い出された風でなく自分から出て行けるように誘導はしたから事実は違う。


俺は【エルドラ】と呼ばれる町に行く為に、その方向にある森を目指し歩きながら着くまでの間、その時の事を振り返ってみた……


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


……俺が目覚めた時、俯せの状態で倒れていた。頭が揺れる様な気持ち悪さをも擁しながらも体をゆっくりと起こす。

そして気分も落ち着くとなんだか見られている様な嫌な感覚がいくつもあった。


「…ここは?」


その視線をとりあえず無視して体を起こすと周囲を見回す。そこは先程までいたはずの学園の教室でなく、歴史の教科書とか映像にある中世時代のヨーロッパ時代の城の中と思われる場所だった。

さらに俺の目には、先程の俺と同じように倒れているクラスメイトと先生の姿があった。

神童従兄あにに、神童従妹いもうと、剛田や細見も倒れている。数から教室にいた全員が此処にいるようだ。

他の連中はまだ目を覚ましていないようだ。どうやらこの中で俺が一番に目覚めたようであった。

一応ざっと確認すると全員の呼吸しているので気を失っているだけだろうと推察した。


(まあ生きてようが死んでようが俺には関係ないが……ん?)


俺は右手を自分の胸に充てる。なんだか自分の中に、今まで微かに感じていた何か異質な何かをはっきりと感じ取った。不思議な感覚が自身の肌に触れる感覚を抱いていた。不思議と忌諱する事はなかった。むしろ心地良いと感じていた。


その後に、そう言えば此方に複数の視線が向いているのを思い出す。特にこちらをなんだか熱いと言うか期待するような視線が向けられてくるのでそちらに目と意識を向ける。

そこには1人の着飾った白のドレスを纏った自分達と左程変わらない年齢の綺麗な女性がその手に何か分厚い本を待ちながら佇んでいた。

目を周りにも向ける。他にも貴族風の衣装に身に纏った偉そうな人間や中世の様な鎧を纏った人間がチラホラと視界に入った。


(…まさか……と言うか、異世界ってやつ、なんだな、コレ……異世界召喚とかテンプレ的展開キタァー!)


若干俺の内なるオタク心が騒いでいると、神童従兄妹、剛田が気が付いたようだ。

他のクラスメイトも目を覚まし始めた。


「…うぅ…なんだかフラフラとするよ…!?」

「…ん……なに、ここ?」

「…何だってんだよ、たくぅよォ…!?…どこだァ此処は!?」


先の俺のような感じでふらっとする者もいたが目覚めた者は体を起こしていく。

そして、当然と言えば当然だが、教室にいたはずなのに、急に見知らぬ場所に倒れていたのだ。皆、動揺し軽くパニックになりかけた。

本来真っ先に引率するべき大人でもある担任も動揺しどうしたらいいのかとオロオロしていた。


ざわついた雰囲気の中、俺達の目前の身分が高い、恐らくこの国の姫か何かであると思われる金色の長い髪を結っている白いドレスの女性が口を開いた。


「ようこそ、女神様に選ばれた勇者様方。私は女神様の神託に従い皆様を招かせて頂きました “ステラリーシェ・ジャスティン・ローズマリー・アルテシア”と申します。長いので、ステラと覚えて頂ければと思います」

(…確かに長い名前だな。ステラ、か…星って意味ならピッタリだな。…あぁ、なんだか聞き覚えある気がしたけどそうか、あの時の声の主か)


確かに長い名前だなぁ。と、どうでも良いことを思いながら話を聞く。

あとは、あの時教室で聞こえてきた理解できなかった女性の声と同じだなと思ったのと、あの時は理解不可だった言葉を理解できているのにどうしてだろうかと不思議に思った。

そんな感想を抱いていた間にもステラと言う名の―あぁ、どうやらこの国の王女様、つまりお姫様のようだ―は、この世界の事や今の世界の情勢や、この世界に召喚された理由や事情を語っていった。


「それではまずこの世界について説明させて頂きますね。この世界の名前は【パルティス】と呼ばれています。お気付きになられているとは思いますが、この世界は皆様のいた世界とは異なる世界であるのです。そして、今皆さんのいる此処は【アルテシア】と呼ばれる王国です。あちらの玉座におられるのが私の父であるこの国の王なのです」


この世界は【パルティス】と呼ばれており、俺達がほぼ拉致誘拐同然に召喚させられた此処は、この世界パルティスにある存在する国の中で大きな国の1つである【アルテシア王国】と言う名称で国王が統治する王制の国のようだ。

遠くにある玉座に座っているのがどうやらこの国の王様のようだ。

目の前の姫に雰囲気が似てるなと感じた。あと、あまり威厳の様なものは感じない。王とかそう言った身分の連中っていえば、傲慢で嫌な奴が多い気がしていたが、どうやらそんな気質はなさそうだ。


(まあ、どうでもいいか…)


「…あの…どうして、俺達を、この世界に呼んだのですか?何が目的なのでしょうか?」


神童従兄あにが今だ戸惑いの中にいるクラスメイトの代表として、なんとなく予想できるであろう今回呼ばれた理由を尋ねた。


「そうですね。その説明をこれからさせて頂きます。ですが、その話は長くなりますので、まず話し合いのできる場所に案内させていただきます」


ステラ姫の言葉に賛成し、大きな会議室の様な場所に案内された。

U字の長い机に人数分はある椅子が用意されていた。

各自とりあえず用意されている椅子に座っていく。

この中でリーダー格で中心人物となるであろう神童従兄あにと、唯一大人である担任の繚乱先生が不安げな表情なまま前列として座っていく。


(……最後の隅っこで聞くか)


俺は目立ちたく無いからと一番最後に空いている席に座ろうと思い影を薄くしつつ待つ。

そして一番遠い席に着いた。

着いたのだが……なぜか隣に神童従妹いもうとが座っていた。

横目に笑みを向けてくる。


(!?)

「ふふ…」


なんでこんな最後尾にいるんだコイツは?

まあいいか、今はコイツの事を気にするよりステラ姫の話を聞く方が、この世界の事とかを知る方が重要だと意識を向ける事にした。

そんな俺の態度に不満そうな視線を向けてくるが無視だ。


ステラ姫と、その背後に幾人かの騎士が待機している。


「それでは、改めて説明させていただきます――」


ステラ姫が語っていく。


「先にこの世界の名称と、皆様方が現在おられるこの場所、国について話しましたね。この世界には皆様や我々の様な人間の他にいくつかの種族が存在します。人間のほかですと、精霊と心を通わせる人間【エルフ】、獣の特徴を持つ【獣人】、そして…この度皆様を召喚するに至った原因と言えます魔物の血を持つ【魔人】と呼ばれる種族です。魔物の血を持つが故にかの者達は好戦的で人間を敵視しています。この長い歴史の中でも我々人間と魔人族と争いの絶えない状態となっています」

「争いの原因は何なのですか?」


神童従兄あにが原因について尋ねる。


「それについては分からない、と言うのが本音と言えます。なぜ、襲ってくるのか謎なのです。ですが…原因の一つと思われますのが魔人族の者達を統率している【魔王】と呼ばれる者こそが元凶では考えております」

「……【魔王】?」

「はい。かの魔王は冷酷無慈悲で敵である者を容赦なく殺す様な残忍な存在なのです。争いが絶えないのは魔王による要因が大きいのです」


(…残忍な魔王、か……)


「私達はどうにかこの争いの絶えないこの世界を平和にしたいとずっと思案してきました。平和を得る為にはまず魔人族の王である【魔王】を討つほかにありません。ですが、かの魔王は強大な力を有しておりまともに相手取る事も儘ならないのです。…どうにかしたいと考えの果てに、私に一つの神託を授かったのです」

「神託、ですか?」

「はい。この世界には我々の住まうこの世界の上位に一人の女神が存在するのです。その女神様の名は”神託の女神・アテネ”と言います。アテネ様はこの世界に生まれた最初の神人なのです。女神様の御力により今のこの世界は成り立っているとも言えるのです。女神様は過去にあった争いの果てに下界に干渉する事が出来なくなったのです。ですが、存在そのものが消えたわけではないのです。女神様は、我ら人に意思を伝える手段として下界の者の中に自身の意思を伝える者、”巫女”を選ばれるのです」


(…女神…か……)


「巫女、って、もしかして?」

「はい。この度の”女神の巫女”に選ばれたのは私なのです。そして、私はある日に”女神アテネ”より”神託”を授かりました。その内容はこの様なものでした。……『”この地に、我が”加護”を受けし異郷人、皆を導きし”勇者”の者、そして聖なる剣を抜きし”担い手”を招くのです。さすれば【魔】の頂に座りし者を滅ぼせるでしょう…』―と言うものでした。この神託を受けた私は早速、魔法の使い手を招集し”神託”の聖なる者達を招く召喚の術式を解読し、そして今日この日に召喚の儀式を実施に至ったのです。そして、私達の希望となる勇者様方である皆さんを招いたのが今回の経緯となります」


ステラ姫の話を聞き終えた後、クラスメイト達の反応は、いきなりこちらの事情もお構いなしで身勝手に呼び出された。さも誘拐と変わらない事実に、当然皆、不満を露わにしていた。

まあ俺は逆だったけど。


「何だよそれ、ふざけんなよ!」

「そうよ!なんで私達がこんなめに逢うのよ!」

「い、家に帰して…」


と皆、泣き叫んだり、怒りを露わにしていた。


「…申し訳ありません。私達の勝手な都合により皆様をこの様に此方の世界に招いたことに謝罪いたしますわ。ですが、私達の置かれている現状を覆せるのは皆様だけなのです。どうか、我々に協力して下さい!」


頭を下げるステラ姫。控えている騎士達に動揺が走る。一国の姫であるステラが頭を下げるなどあってはいけない、と言うところだろうか。どうやらこの御姫様は清廉潔白で周囲の部下に慕われる良い人格者のようだ。

また、必死さのある様で頭を下げるステラ姫にクラスメイト達も無言となる。

表情には「どうしようか」と言うのが浮かんでおりお互いの顔を見合わせていた。

そんな中、召喚された者達の中で唯一の大人であり担任である繚乱花恋りょうらんかれんが口にした。


「頭を上げてくださいっ、一つ聞きたいのですが、よろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」


頭を上げたステラは花恋の方に目を向ける。


「えっと、ですね。私達は、その召喚?と言うもので、この世界に来た、と言うことですよね?」

「はい、そうなります」

「でしたら、私達が元いた場所に帰る方法もあるのではないのですか?」


花恋は召喚できるなら帰還する方法もあるのではとステラに問う。

だが、如何やら俺達は魔人族の【魔王】と呼ばれる存在を討つまでは帰還できないとの事だ。理由は勇者召喚の方法は“女神”より伝えられたが、帰還の方法は神託で伝え聞いていないようだ。

つまり、女神様とやらの神託を達成するまで帰還の方法がわからない。という事だ。


それを聞いて俺は正直ウンザリした。メンドイと。

帰還の方法がないと言われている様なものだと叫ぶクラスメイト。

そんな時だった。一人の男子がその場に立ち上がると大きく叫ぶように騒ぐクラスメイト達に向かって発言した。


「…皆! 起こった事に、一々騒いでも現状は覆らないよ。 その【魔王】とやら退治すれば帰る方法も分かるんじゃないかな。なら、俺は戦うよ!大丈夫、みんなは俺が守って見せるから!!」


そんな恥ずかしいセリフを平然と真顔で言ってのけたのは、我がクラスの代表であり爽やか金髪イケメンにして俺の憂鬱の種1号の神童正儀しんどうまさきだった。


「そうね。正儀と同意見っていうのは気に入らないけど、何もしないのは、私の趣味hobbyじゃないわね。…何より楽しそうだし。ふふ…」


それに呼応したのは神童の従妹である、神童Sの神童咲夜だった。

いや、何俺の近くで宣言なんかしてんだ目立つじゃねえか。美少女が傍にいるだけでも目立つんだ。他所でやれ、他所で。


「いいぜ、おもしれぇじゃねぇか! 俺はやるぜ! 燃える展開じゃねぇか!」


さらには、やる気に燃えているのは巨漢な体格をしている、俺の憂鬱の種2号の剛田剛ごうだつよしだった。

どうせ、ここなら思う存分気に入らない者を叩き潰しても文句は言われない。とか考えているのだろうと俺は思った。


その3名に呼応し、やる気になった者とやはり気に沿わない者、そしてどうして良いか判らない者に分かれた。


俺は当然、気に沿わない者だ。

なんで、他人の、しかも異世界なんてどうでもいい連中なんかの為に俺が力を振るわないといけないのか!と…


そんな風に考えていると、やる気に満ちた剛田が、ステラ姫にいつもの様に気安い態度で話し掛けた。


「それでぇ?俺達はこれからどうすればいいんだぁ? なあ、姫さんよぉ」

「貴様っ! 我らが姫様に対して無礼なぁ!!」


だが、仮にも一国の姫に対しての気安い言葉使いに、ステラ姫の背後に待機していた騎士の中で一番洗練されている鎧を着けた赤髪の男が剛田に殺気の籠った憤怒の表情で剣を抜こうとし始めた。

だがそれを姫様が諌めた。


「やめなさい! 下がりなさい、ヴァレンシュ騎士長。剣を治めなさい」

「しかし、姫様!」

「どのような者であろうとこの方々は女神様に選ばれた者なのです。分かりますね、この意味が…」

「…くっ、御意っ」


ステラ姫の言葉でヴァレンシュ騎士長とやらは、渋々ではあるが抜き掛けの剣を鞘に治め直すと後ろへと下がった。


「こちらの者が無礼を働きました。どうかお許しください。そして今後も我らの為、そのお力をお貸し下さい」


姫様は剛田に謝罪をした。その瞬間周囲はざわついたが今度は行動に起こすものはいなかった。剛田も「お、おう」と覇気のない返事をした。本物の殺気を浴びた事で委縮したようだ。

そんな空気を換えるため姫様はこれからの事を説明し始めた。


「コホン。…えぇ、この後、皆様にはお1人ずつ、皆様の今の能力値を現すクロノカードと呼ばれるモノを作る作業をして頂きます。これは、この世界では必要不可欠な事なのです。では、詳しくはヴァレンシュ騎士長から説明がされますので」


ステラ姫に呼ばれ先程、剛田の失礼な態度に剣を抜きステラ姫に諌められ下がった赤髪の騎士長が前に出る。


「先程は失礼をした。俺の名はヴァレンシュだ。貴公らの今後の指導係でもあるのでな。今後ともよろしく頼む」


恭しく挨拶をした騎士長は早速先程話に出たクロノカードとやらの説明をし始めた。

クロノカードとは、この世界の始まりの神人の一人が創造したとされるとアーティファクトで、その者の能力を示すものであり所有者の身元を示すものでもあるようだ。基本、この世界の人間は必ず所持しているそうだ。

まぁ、奴隷と言った者や魔人族は所有していないようだ。


(奴隷とか普通にそういうのもいるんだな……まあ、似た様なのもアッチにもいたか…)


見本として騎士長が所有している赤い色のクロノカードを俺達に公開してくれた。

騎士長が“オープン”と唱えると、騎士長のカードにステータスが浮かび上がった。

それを全員にも見えるように拡大させた。


=========================

〔クロノカード〕

所有者:ヴァレンシュ 年齢:32 性別:男 レベル:50

職業:騎士長 種族:人間

筋力:330

体力:400

耐性:320

俊敏:290

魔力:200

魔防:240

固有技能:―

《特殊技能》

戦闘系:剣術:槍術:剛力

補助系:指揮:信仰:言語理解

天職系:馬術

=========================


ヴァレンシュは己のカードに記されている内容について教え始めた、


「これが、クロノカードに記載されている項目だ。まず、レベルに関してはその者の戦闘能力を現しており、戦いに身を置く者は、皆始めはレベル1となる。このレベルは戦いの才が目覚めると上がるとされている。因みに上限は100が限界であると言われている」


(レベルねぇ。何だかゲームみたいだな…しかし、詳しくは知らない部分もあるような言い方だな。それと、国のトップの騎士で上限値の半分なんだな)


「そして、次は…職業だな。これは己の付いている職が称号の様に記載される。例えば俺は騎士の長をしているので職業も騎士長と記載されている。この他だと冒険者や神官と言った役職があるかな。この中にはおそらく勇者の称号が付いている者がいるだろう」


(冒険者かぁ…面白そうだな。あと、勇者とかないと思うが、あったら面倒だな。出て行き難いし)


「次は…ステータスだな。…まぁ、これは基本的なその者の戦闘力を数値化したものだな。一般人は基本、大体10くらいかな。訓練等で己の能力が開花されると上昇する。因みに上級の者は300前後が定番だな。まぁ、貴公らは”女神様の加護”を得ているのだ。我らを超える数値を既に得ている者もいるかもしれんな」


ステータスか。どれ程なのか。

周囲を見ると他の者も少し興味を持ったようだ。自分の事だけに…特別と言われれば特に…


「最後に技能についてだな。技能には2種類あり、まず、特殊技能だな。これは己の持つ才能を明確にしたものだ。それぞれに、戦闘系、これは戦いの際の武器の扱いや身体機能を強化するといった効果だな。俺の場合だと“剣術”や“槍術”、それに筋力を強化する“剛力”だな。次は魔法系だな。これに関しては俺に適性がないのでうまく説明出来ん。まあ魔法を使う際の効果だと思えばよい。あと解るのは魔法には6つの基本属性があるという事だな。詳しくは魔法技能士に質問するといい。そして、補助系。これは、サポート系の効果を持つ技能が該当する。“言語理解”はまぁ、そのままだな。基本この世界の者は皆持っているだろうものだ。あとは“指揮”とかだな。これは集団を纏める際に周囲の能力や士気を高めたりできる。最後に天職系だな。これは己の職業、例えば錬成や料理、鑑定と言ったものだ。と、まあこんなところだな」


なるほど…己の才能がそのまま表示されるのか。それと、“言語理解”か…これがあるから異世界の言語のはずだが今は理解できているという事か。何気に凄いんだがな、それ。


(そう言えば、教室での召喚の際に聞こえたステラ姫の言葉は理解出来なかったっけ…)


「2つ目が、固有技能だな。これに関しては何かしらの“加護”を受けた特別な技能がここに表示されるようだ。まず貴公らはここに“女神様の加護”が記されるはずだ……さて、まぁ、取り敢えず説明はこんな所だな。 ではこれから皆にクロノカードの作成を始めようか。 どうやら皆、少し興味を持ってくれたようだしな」


俺達は騎士長に従いクロノカードを作る専用の場所があるとの事で移動する。

作成に付き添うのは騎士長と何人かの鎧を纏っている騎士が随員する。


移動の最中だった。神童Sの二人が俺に近付いて来ると話し掛けて来た。


「どうだい?君も嬉しいんじゃないかい? 君、こういうのが好きだったんじゃないかな?たまに武藤君とか瀬戸君と話していたみたいだし」

「ふぅん。そっかぁ、名無し君はこういうのが趣味なんだぁ~」

「……」


ウザいなあ。

話しかけて来た二人に内心そう思いつつ、俺はこの世界での立ち振る舞いをどうするか考えていた。

日本での”僕”としての振る舞いは周りに合わせ波風立てない様にするのに適格だと思ったからだ。それに、この“僕”というのは、今は亡き両親の為だった。苦労をして俺を育ててくれた両親の理想だったからだ。でも、ここには、その理想を演じる必要がなくなったのだ。

少し考え、俺は結論に至った。

(俺は、俺でいい)と…


「興味ない。ウザいから俺に話しかけるな…馴れ馴れしいぞ」


俺は二人に冷たい目を向けつつ拒絶の言葉を発した。神童Sは「え?…」「あら…」と、特に神童正儀は驚きの表情を浮かべた。

俺はそんな二人を無視するように離れながら今後について考え始めた。(どうすればここから出ていけるか)という事を。



案内されたそこは、研究所の様な場所で色んな見た事もない形をした物体が並んでいた。おそらくあれらもアーティファクトと呼ぶものだと思う。


「さて、これから作成に入るが、クロノカードを作成する器具は3つしかないのでな、3名ずつの列になっていてくれ」


その言葉に従い皆、列になっていった。俺はメンドイので最後に回った。

順番に作成が始まった。終わった者はその手に騎士長が所持していたのと同じ形の色違いのカードを手にした。

そして、最後に俺の番となった。


「君で最後だな。では、この球体の上に手を翳してくれ。10秒くらいで出来るから」


と言われ、俺は四方形の箱に恐らくカードが出てくると思われる穴があり、その箱の上にクリスタルの球体がある器具(アーティファクト)に手を翳した。クリスタルの球体が光ると10秒くらい後、箱の穴の部分から黒いカードが出てきた。

どうやらこれが俺のクロノカードの様だ。


「よし。これで全員行き渡ったな。…それが貴公らのクロノカード、云わばこの世界での証明書でもあるのでな。大切にするのだぞ。…さて、ではまず各自自分のクロノカードを開いてみてステータスを確認してくれたまえ。技能などによっては俺よりも適任者が鍛練に着く場合もあるからな。確認する方法は“オープン”と唱えるだけだ。さぁ、やってみてくれ」


騎士長に促されると皆、“オープン”と唱え始めた。

俺も内心ドキドキしつつ“オープン”と唱えた。すると黒いカードに今の俺の状態が浮かび上がった。

そこには俺の今後を変える事が表示されていた。


=========================

〔クロノカード〕

所有者:此花惶真このはなおうま 年齢:17 性別:男 レベル:1

職業:― 種族:人間(異世界人) 

筋力:0

体力:0

耐性:0

俊敏:0

魔力:0

魔防:0

固有技能:恩恵・固有魔法【変性・変成】

特殊技能:言語理解

=========================


(なんだ、これ?)と俺はその手にあるカードを見て内心困惑していた。

職業がなく、ステータスが0となっているのもどうでもよかった。何より俺を動揺させたのは召喚された者には必ず所持し得ていると騎士長が言っていた“女神の加護”がどこにもなく、代わりに“恩恵”と記された固有魔法が記されているだけだった。


そして、動揺していた俺は気付くのに一瞬遅れたのだ。直ぐ傍に俺のクロノカードを覗こうとしている奴がいる事に…

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