1章-➁:最も憂鬱な日々?…重なり合うの針
四日間と言う短い休暇期間が終わった。
そして今日からは新学期。
俺も学園の最上級生である3年となる。
その日の朝。
俺の目覚めは最悪だった。それも”かなり”が付くくらいだった。
理由は俺にもよくはわからない。
只々今日は学園に行ってはならない。後悔する事になるぞ。そう誰かから警告されているようにさえ思っていた。
重苦しい身体を起すと学園の制服に着替える。
本当なら仮病でも使って休んでしまいたいくらいだった。
けど……それは出来ない。
なぜなら学園に、と言うより高校に
俺の両親である父と母は、それぞれ御互いに貧しい生活だったそうだ。
両親とも中学を卒業すると高校に行かずに就職と言う社会に働きに出る事にしたそうだ。
『働きに出る』。その両親の選択は決して不幸ではなかった。
両親は就職した会社で初めて顔を合わせた。父さんも、母さんも、御互いに中卒で働き始め、また似た境遇の同士という事もあり、直ぐに惹かれあったそうだ。
そして数年後2人は結婚した。そしてさらに数年後に俺が産まれたのだ。
俺が産まれた時は両親とも泣いて嬉しがってくれた。
両親には望みがあった。それは『自分達の生まれてきた子には、自分達が味わえなかった高校生活を送ってもらい青春を感じてほしい』だった。
俺は、俺を愛してくれた大切な両親のささやかな『願い』を叶える為、正直嫌だったのだが、今もこうして通い続けていたのだ。
そして、今日から俺は高校3年生となる。
++++
うちの学園は休暇期間が普通の学園と異なり長め夏季休暇と短めの冬季休暇のみなのである。
4月に入学式。
4月~7月初頃までが初学期。
7月~9月中頃までが夏季休暇。
10月~12月終盤までが中学期。
12月終盤~1月の成人式後までが冬季休暇。
その後から3月の中頃に卒業式。そして4月になる5日程前までが後学期。
そして後学期が終われば進級が決まっている者は直ぐに次の学年となるというサイクルである。
++++
俺は「何かが変わる」「そんな事起る事もない」そんな憂鬱で自分でも自覚している歪んだ思考を切ると大きく溜息をつくと嫌々だが制服に着替えた。
両親の写真と位牌に手を合わせて「行ってきます」と挨拶をした後、家を出る。
今日は新学期なので昼までには終了する。
通学路を歩くと一軒のパン屋の前を通った。
店の前には店長が水撒きをしていた。
俺は店長に挨拶をする。
「おはよう、店長」
「んぅ?アラぁ、ボーイじゃない。おはようねぇ…」
筋肉質な体の店長は俺に気付いたのか挨拶を返してくれる。
……オカマ口調で。
そう、俺の目の前にいるこのパン屋の店長はオカマなのである。
始めは面食らったものだ。物凄くドン引きめいた表情を浮かべていたと思う。
身長は180cmはある筋肉質な如何にも男な人物がオカマ口調で話してたりするのだ。
戸惑いは半端なかった。まあ、今では慣れたものだけども…。
まあ変な人ではあるが、特異な体質を持つ俺を受け入れてくれる懐のデカさは評価している。
「今日は新学期だったわねぇ~。うふふ、頑張ってらっしゃいね。朝の方はまた明日お願いねボーイ」
「はい。仕込みの方はまた明日から入りますので」
俺は、基本授業のある日の朝はこのパン屋の朝の仕込みの手伝いをするバイトをさせてもらっている。
そしてそのバイトの際に自分で手伝った分の幾つかを昼食用に貰っているのだ。
俺は両親が亡くなった後、今後に身の振り方をどうするか考える事になった。
親しい親戚も特におらず、唯一親交のあったのは従姉の美柑さんくらいだった。
事故で両親を失って孤独の身となった俺に美柑さんは「一緒に暮らさない?」と申し出てくれた。けど俺はその申し出を拒否し、今の1人暮らしの形となった。
拒否した理由は、どうしてか人間ってやつが信じられなかった。というのが理由の大半だった。
信頼のある美柑さんであってもである。
1人暮らしを始めた俺を心配する美柑さんの誘いで、前々からの美柑さんの作業の手伝いを、バイトという形で本格的に始める事になった。
働くのは面白いと思った。
そう思った俺は色んな、他人から嫌悪されたり、名前が認識されない特異体質を持つ俺でも雇ってくれる様なバイトをするようになった。
パン屋のバイトもその一つだ。
俺には料理の才があるようだった。まあ昔から働いて忙しい両親の為にと覚えただけではあるのだけども。
実際、美柑さんの所のバイト後は俺が料理を振っている。まあ、美柑さんの料理の腕がアレだった。と言うのもあるが。
昔、一度食べたが、アレは死ぬかと思ったほどだ………思い出すだけで震えが…
あの時思った。女性は皆、料理が出来ると言うのは幻想であると……
++++
家を出た時間が遅かったこともあり、いつもより学園に到着するのが遅くなった。
学園内は今日から2年、3年に進級した生徒がチラホラしており、特にクラス分けの貼っている掲示板の所に溢れていた。
その様子は嬉しそうであり、残念そうであり、自分のクラスの担任が誰か。と一喜一憂していた。
俺はあの空間に行くのが嫌だったので、まだ時間的に大丈夫だろと考え、時間を空けて人が少なくなってからまた確認しに行こうと踵を返そうとした時だった。
俺の憂鬱な学園生活にさせる元凶である憂鬱1号である、神童正儀がそこに立っていた。そして俺に気付いていたのか爽やかな笑顔で、俺にまるで友達であるかのように話し掛けて来た。
神童に「最悪だ、なんでいるんだ!?」と思った。
「やぁ~おはよぉ~
それを聞いて俺は「最悪だ…またなのか!」と思った。
実の所、神童とはこの学園に入学した時、つまり1年の頃から同じクラスなのだ。
また神童と同じクラスであると言う事実に内心どんよりとした俺に、神童はさらに追い打ちかける。
「あと、剛田君と細見君も同じだったよ。と言うより去年とあまりクラスメイト変わってなかったよ~」
「ホント最悪だった…」朝からずっと感じていた嫌な
それからはクラスが不本意ながら分かったので、神童が騒いだせいで注目を集め始めたので、さっさとクラスに向かう事にした。
すると何故か神童も一緒に付いて来ようとした。「なんで一緒に?」と思っていたのだが、なんか俺に聞きたいことがあるそうだ。
……また厄介事じゃなければいいが。
「
と聞いてきた。
聞かれた俺はあの日、屋上で出会った女の子を思い出した。
(あの時の女か?…コイツとなんか繋がりがあったのか……)
俺は表情には出さず神童に「さぁ? 僕(・)は知らないよ?」と返した。
因みに外の空間内での俺の一人称は僕で通している。
「そうかぁ。勘違いだったのかな『♪――』……ん? あぁ、来たの?」
神童は携帯が鳴ったのかそれに出ると何か用事が出来たようで、俺に爽やかな笑顔で「じゃっ!またあとで」と何処かに向かっていった。
神童が見えなくなると俺は重く深い溜息をついた。
ホント困ったもんだ。
神童と別れた後、今後1年間通う3-Aのクラスに着いた。俺は嫌々だが扉に手を掛け開けて入る。クラス内はほとんどの生徒が来ていた。
俺が来ると皆、怪訝そうで、嫌悪感を漂わせるような視線を向けてきた。その中にはニヤニヤとした剛田と細見もいた。
だが、そんなことは些細な問題でしかなかった。
俺は教室に一歩と足を踏み込みクラスの中に入った瞬間、異様のない悪寒を背筋に感じたのだ。
俺の本能が朝から感じたものと一緒の「此処にいてはいけない」「後悔するぞ」と言う同種のものだった。
俺は『今すぐここを離れよう』とその自分の本能に従い教室を出ようと踵を返そうと扉の方に向く。
振り向いて俺は硬直した。なぜならそこには見覚えのある1人の女生徒があの時の、屋上で出会った時の様に腕を組んで立っていたからだ。あの時、屋上で会った時とは違いこの学園の制服を纏った女の子が…
「
「なっ!?」
「あら?私は挨拶したのに、あなたは挨拶してくれないのかな?」
驚いている俺に対して目の前の少女は何だか悪戯が成功でもしたかのようにその青い瞳と表情を笑みで浮かべつつ挨拶の返しを求めてきた。
と言うかコイツ今俺の事を『名無し君』と呼んだか?その名指しは俺の事を知っている者が俺に対して呼称する呼び方だ。
確かあの時で会った際には俺の名は告げなかったはずだ。
だから俺の名前を記憶できない特異体質をコイツは知らないはずだ。
なのに何故?……
そう言えば……ん?
一つの可能性が浮かんだのだが、なんか周囲と言うかクラス内の生徒達がシンと静かになったように錯覚した様に感じた。
この少女の見える位置にいるクラスメイト、特に男子は好意的な視線を目の前の少女に向け、俺に対して「なんであんな奴なんかに!」的な視線を向けていた。
俺はそんな視線を気にせず目の前の少女に声をかける。
「……なんで、ここに?」
「あら?あの日に言ったと思うんだけど? 私がこの学園に転入するって」
「たしかにそうだが……なんでここのクラスに?まさ、か」
「ふふ、そんなの1つだけだと思うけどぉ~?」
眼の前の少女は悪戯っぽい表情を浮かべると、この場において、俺にとって最悪の、憂鬱を超える日々になりそうだったことを理解し、いや、したくなくて、俺本来の口調で話してしまった。
「まさか、お前。3年だったのか。しかも、
と、はっきりとした声で告げてしまった。
周囲の空気が、と言うかクラスメイトがザワッとになった。驚いている顔がチラホラいた。
普段俺は大人しく大きな声を出さずぼそぼそと会話するような感じで過ごしていた。
無論溜口で会話をしたりもしない。
(しまった!?)と内心動揺していると、追撃と言うか追打ちの声が廊下から響いた。
「あぁ! やっと見つけたよ、咲夜! 『来た』って連絡するから校門まで迎えに行ったのにぃ~」
どうやらこの少女の名前は咲夜と言うようだ。
そしてこの咲夜と呼んだ女の子に頬を少し膨らませる様には声を掛け近づいて来たのは、俺にとって憂鬱を運ぶ元凶1号である、神童だった。
「そんなの、頼んだ覚えないけど? あと気安いわよ、正儀?」
そんな少女は不機嫌そうな表情を隠さず答えた。仲悪いのかこの2人?と言うかこの女の方が一方的に毛嫌いしている風な感じだ。
…神童と咲夜と呼ばれるこの子、どことなくこの2人、似ている気がする。
「それはそうだけどぉ~…って、あれ?」
この少女の毒舌に慣れているのかアハハと苦笑する神童は俺に気付くと、一緒にいるこの子と俺を見つめると、
「あれ?
大きな声で余計な事を言うな!と。
「それより、名無し君? そこにいると私がクラスに入れないけど?」
そう言われハッと気付く。俺達は扉を境に話していたのだから、俺がどかないと入れないのは当然だった。そして俺は教室を出ていこうとしていた事を思い出した。慌ててその場を横に退くと2人がクラスに入ってきた。
その瞬間ザワッとなった。
「わぁ、なんだか絵になる光景ね」
「まるで王子様とお姫様みたいだ」
「あの子…綺麗な目」
まぁ、そうだろうなぁ、美男女に値する2人だからだろう。黄色い視線がチラホラ。キャー♪と叫ぶ者もいた。
そんな俺は影を薄くし反対の扉から出ていこうとしたのだが、丁度良くか、悪くか、担任と思われる女の先生が来てしまった。
出るタイミングがなくなった為、俺は指定されている自分の席に着いた。
先生に「み、皆さん、席に着いてください」と言われた後、生徒達は皆自分に割り振られた席に着いた。
そして教壇に着いた先生は緊張した様に自分の自己紹介を始めた。
「は、初めまして、かな。今日から1年間。皆さんの担任となりました。
担任の自己紹介が行われたが何だか頼りなさそうな印象だなと言うのが俺、というかクラスの大部分が感じた印象だと思う。
その後色々質問をされた。
年齢や、好きな事や、彼氏の有無等聞かれ、おどおどとした感じではあるが1つずつ答えていった。
まっ、俺は興味がなかったのでスルーしていた。
その後クラスメイトの自己紹介となった。
半数以上は去年とほとんど同じクラスメイトだった。
去年と違うメンバーと言えば隣の席のなんだか苛められっ子が当て嵌まりそうな小柄な女の子とか、クラス担任とかだろうか。
因みに俺の自己紹介は最後だ。
正直メンドイ…
「俺は
高圧的な自己紹介だ。相変わらずだな。ハァ~ 今年も色々……
「俺は神童正儀です。今年も皆、宜しくねぇ~」
爽やかに笑みを撒くように自己紹介をしたな、神童の奴。その神童の自己紹介に「キャー♪」と騒いでいた。無論女子共が、だ。まあ、1人神童の自己紹介自体を聞いてない奴もいたが……
「ほ、細見、臣です。よ、宜しく」
コイツはやはり1人では何もできない奴だな。たどたどしい自己紹介だ…
そんなこんなで続き、あの子の番になった。
「私は
視線を神童に向けつつ答えていく。神童は苦笑いだ。意外だな…しかし、そうなのか、従兄か…嫌な共通点だ。
俺にも一応、従姉の美柑さんがいるからな。
周り(主に男子)は神童(従妹)の、その容姿に魅了されているようだ。神童(従兄)は金の髪だが、神童(従妹)は黒髪だ。その髪はサラッとしており腰くらいの長さだ。そして神童(従兄)とは違い瞳の色が青いのである。この点は外国の血を引いている共通点のようだ。因みに神童(従兄)の方の瞳は黒である。
「そうねえ。それと、私はここ数年海外で暮らしてたの。だから、会話に英語が混じる喋りがあるから。あとは……クスっ。今、興味があるのは歪んだ性格をしてる人かな~」
と、最後、微妙に俺に流し目を向けていったように感じた後、神童(従妹)は着席し自己紹介を終えた。
その後も続き、いよいよ最後である俺の番となった。
俺はどうせ覚えられないんだからこういう時は最後に。と認識されている。
俺が席から立つと皆他所を向いたり、本を読んだりと興味がないとばかりだった。まっそんなもんと思った。俺の自己紹介なんかに興味を示すのは神童Sの2人と新任の担任、そして俺と去年クラスの違った一部の生徒だけだろうか。
そして、俺が口を開こうとした瞬間、クラスの中央が急に光だした。そしてその光はクラスの床を覆うような大きな、まるで漫画や小説にでも出てくるような魔方陣が浮かび上がった。
急に起きたその摩訶不思議な現象に、クラスメイト達は驚き、席から立ち上がる者や、椅子から転がった者、そのままの状態で硬直している状態だった。
俺はこの現象に、浮かび上がった魔方陣の中央を冷静に観察していた。
すると観察していた魔方陣から綺麗な女性の聞いた事もない言葉の声が響き渡り始めた。
『” דאָ איצט、עפן די פרעמד וועלט פון די טויער!יע、אויסדערוויילט געטין צו פּאַרטיי!、איינגעהערט צו מיין רעליעף, טאַמאַע געבעטן צו דעם לאַנד!、פירן דעם לאַנד, געטין פון די מאַשין, און עלעקטעד צו די הייליק שווערד און וואס איז גערופֿן די פּערל טייך! !”』
その言葉を聞き終えた時、俺は朝から感じていた疑心感が、そして教室に入った時に感じた嫌悪感の正体に行きついた。
…そして、大きく魔方陣が光り教室を覆った。
そしてその光が、魔方陣が消えた場所には誰の姿もなかった……
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異世界パルティスにあるアルテシア王国にて今まさにとある儀式が行われようとしていた。
その儀式を行うのは王宮にある最も大きな空間である謁見の間である。
そこには、豪華な玉座が一つあり、そこには1人の男が座っていた。
そして、謁見の間の中間には大きな魔方陣が描かれており、その魔方陣の前に1人の美しい女性が、一目見れば目を向ける程の存在感を醸し出していた。
その女性は決意を籠めた表情でこれから行う儀式に相対していた。
決意と使命感を秘め緊張している女性の周囲にある壁には、その儀式を支える魔導士の男達が待機していた。
更にこの儀式を一目見ようとアルテシア王国において宰相等の格を持つ者達や待機している騎士達が今か今かと見守っていた。
「では、姫様。…準備はよろしいですか?」
「えぇ。問題ないですわ! …では、始めます!」
壁に控えサポートをする魔導師に促され、王女は儀式の呪文を唱え始めた。
王女の詠唱と呼応して地面に描かれている魔方陣も青白く光出した。
「”今ここに、異界の門を開く! 汝らは、女神に選ばれし者! 我が救済を聞き入れ、この地へと招き給え! この地を導く、女神の加護、そして聖剣に選ばれし者を呼びたまえ!!”」
そして、王女の詠唱の完了と共に一際大きな光が謁見の間を包み込んだ。
その眩い光が晴れたその場所には倒れているこの世界では見慣れぬ服を着た29人の、“女神の加護”を得た者達。
そして“女神の加護”を持たなかった1人の姿だった。
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