1章

憂鬱な日々から異世界召喚!?

1章-①:憂鬱な日々…始まりの針

俺の日常はいつも憂鬱なもんだった。

今の日常がとにかく嫌なものと、そう思っていた。

そう思う原因はいくつもあるが、もっとも大きく占めるのは学園生活だった。

毎日、学園に行く。それだけでも嫌でしかない。

そんな中、俺にとっての転機が訪れた。


まさか小説等の物語の中だけだと思っていた、異なる世界、所謂異世界と呼ばれるものだった。

俺はクラスメイト達と共に異世界転移を経験することになるのだった。



それは異世界に召喚される数日前。

俺は今年度最後の登校をしていた。

今日を終えれば数日だけだが短期休暇となる。


そういえば、まだ俺の名前を言ってなかったかな。

まあ言った所で記憶できないのだろうが一応自己紹介しておくかな。

俺の名前は―――。


………やっぱり無駄だったみたいだ。

幼い頃から……何時からかは俺も曖昧なのだが、どんな人間であっても、俺が相手に名前を告げても認識されないのだ。

うぅん…いや、少し語弊があるか。

俺の名前を認識されないと言うより、告げた名を一瞬ではあるが相手の人間も理解できるのだ。

しかし先に告げた通り一瞬なのだ。告げた名が水が零れるかのように雲の彼方へと忘れ去られるのである。

そんな特異な体質から他の人間からは”名無し”、”「 」くうはく君”と呼ばれている。

まあ俺の名前を忘却しない稀な者もいる。

俺の産みの親である父と母。そして従姉である美柑ミカンさんくらいである。

とまあ、特異な体質を持つ俺だが、世間一般から見てもごく普通の高校2年生だ。

従妹の美柑さんの影響で若干オタク気味な所があるけど極々普通であると思っている。

見た目に関して、俺はそれなりに気にしている方だと思う。

髪は黒く染めたりもしていないし、髪型も前髪が少し伸びているがそこまで長いと言うものでもない。

背丈も一般的なものだと思うし。

他の人間から見た俺の性格は、大人し気で頼み事を断ったりできないヘタレって感じに思われている。

まあ自分で演じている部分もあるが、これも憂鬱と言うストレスを感じ得る一つだ。


さてっと、学園に到着すると自分のクラスの下駄箱に向かう。

靴から上履きに履き替える。

ふと周りを見渡す。周囲に人の影は見られない。

正確には生徒の影は、である。

家から下駄箱まで学生の影もない。

まあそれくらい早い時間に登校していると言う事かな。

そんな早い時間に登校している俺は自分のクラスである2-Bに向かう。

3階建ての校舎で2年の教室は2階にあるので1階階段を上らないといけない。

階段を上り終え2つ目のクラスのドアに手を掛ける。

そして教室の中に足を入れる。

まあ見事に誰もいない。

当然と言えば当然の時間に着ているのだからいなくて当然だ。

いない時間を狙って来たのだから狙い通りと言えばその通りだな。


俺は自分の席に着く。俺の席はドア側の後ろなのだ。

着くと俺は通学鞄から数枚のプリントを取り出す。

取り出したプリントを広げ作業に入る。

この作業をする為にわざわざ誰もいない早い時間に来たのもコレの為である。



作業を始めてある程度の時間が経過していた。


「よし、これでこれも終わりっと…たく、なんで俺があいつの分までしないといけないんだ、まったく…ん?」


作業を終えブツブツとぼやいた瞬間だった。

教室のドアがガラガラと開く音が耳に入る。

どうやら最初のクラスメイトが登校してきたようだ。

入って来たクラスメイト。俺は目を向けず無関心を決める。


「はぁ~最初に目に入るのが名無し君かぁ~最悪かも~」


そうあからさまに嫌味たっぷりなセリフが聞こえてくる。

俺は気にしない。気にしていたら神経が持たないと既に学んでいるからだ。

それから徐々にクラスメイトが登校しクラスにやってくる。

そのクラスメイトの大半が最初のクラスメイトとほぼ同じ様な扱いの言葉や視線が届く。

俺は正直この視線にはもう慣れたので気にしていないので無視していた。

俺の名前が他人に認識されないのと同じくして、周囲の、特に同年代の者達から何故か嫌悪に似た感情を抱かせてしまうと言うものがあった。

まあ、その逆の場合もあるのだけども……ああ、どうやらその例外がやってきたようだ。


ある程度クラスメイトが集まってきた頃、最も、俺にとってのクラスで浮く要因の一人であり先の例外に値する、俺が学園生活を送るにおいて憂鬱な気分にさせる奴が登校してきた。


「やぁ~皆!おはよう!今日もいい天気だねぇ~」


爽やかに笑顔で挨拶しながら入っていたのは神童正儀シンドウ・マサキと言う名の男子生徒だ。

神童が入ってくると既に登校していた女子から黄色い声が神童に向けられる。

所謂人気者。女子からは王子様とかと称されている。

それは神童のルックスからきているだろうか。

まずは神童の髪かな。神童の髪は日本人の殆どである黒髪ではなく、サラサラとした金髪なのである。

無論地毛である。

何でも神童には外国の血が混じっているらしく本人もその血を継いだのだそうだ。

さらには確か昔剣道をしていたりと他にもスポーツ万能で色んな運動部から誘いを受けるくらいだ。

今年度は生徒会にも所属しており、人気に拍車をかけている。

うん。そんな奴が俺に関係しているはずがない!そう思うだろうがそうは問屋が卸さない。

物凄く不本意なんだが奴はなぜか……げっ!?こちらに気付いたからか俺の方に来やがる。

今回は理由があるのだが、正直『こっちに来るな!』と内心叫んでいた。


「おはよう~!「 」くうはく君。相変わらず暗いねぇ~もっと笑顔でにこやかに行こう~」


俺は『余計なお世話だ』と思いながら挨拶を返す。

相変わらず失礼な物言いを無自覚に発してくるな、この天然イケメン野郎は。

さらには神童が俺に挨拶した際に周囲のクラス、主に女子からは不満気に『なんであんな奴に…』とか囁いていた。

クラスの人気者が、底辺の様な俺に話し掛けるのが気に入らないのだろう。

これが俺の学園生活においての憂鬱な原因の1つだ。

何故かコイツは他の人と違い俺にやたらと干渉してくるのだ。正直マジうざいである。まあ表には出さないけども…


俺は周りに聞こえない程度の小声で「だいじょうぶ。気にしないで」と神童に伝えた。


「そっかぁ~。あっ、そうだ!昨日頼んでた書類って、もう出来てる?」

「う、うん。出来てるよ。…はい」


そう言って俺は朝早と登校して行っていた書類を神童に渡した。

昨日、神童に頼まれたのだ。


「…うん。問題なさそうだ。助かったよ」


受け取った書類に目を通し確認した後、神童は「いやぁ~本当にありがとぉ~」と感謝の言葉を言いつつ鞄に書類を片付ける。その際に「あっ!」と何かに気付いたのか俺に又頼みごとをしてきた。


「 」くうはく君、悪いんだけど、これもお願いしたいんだけどいいかな?」

「ん?…これって今日最後の5限目の数学の課題だよね?」


神童が出したプリント2枚は今日の5限目、つまり最後の授業科目に使う課題に出されていたものだった。

俺の通っている学園は少々変わっており、終業期間が普通の学園と違うのである。

しかも本年度最後の終業日でも普通に授業があるくらいなのだ。

今日は5限まで授業があり6限目に終業式が行われるのだ。


俺は渡された2枚のプリントを見て、昨日美柑さんの所のバイト後に、家で遅くにやった課題と同じだったのでこれが課題のプリントであると直ぐに分かった。


「うん。実は、昨日は色々と忙しくてさぁ~。お願いした書類と一緒でさ、する時間がなくってね。しかも今日はこの後の休憩時間も新学期に向けての生徒会の会議やらが入っていてね。する時間がなさそうなんだ。だから頼めるかい?「 」君は時間があるでしょ?」


そんな神童の悪意の有りそうで本人はまったく無いセリフを聞いて、受け取るのを躊躇していると、周りからは「神童君からのお願いを断る気?」「どうせ暇なんだし変わってあげなよ!」と囀りが聞こえてきた。受け取らないなんてありえないと言う雰囲気になった。

コイツに関わるとホント面倒だ。


俺は仕方なく、(無論顔に出さないようにしながら)2枚のプリントを受け取る事にした。

「いいよ」と課題のプリントを受け取ると、神童も「恩に着るよ~」と異性を虜にするような爽やかな笑みを向けてきた。


(ホント、ウザイな…)


そんな笑みを俺に向けて来るな!と内心考えていると、ニヤニヤとした大柄の男と、細身の如何にも嫌味そうな笑みを浮かべた男が俺の近くにやってきた。

はあ~またか。

内心溜息を付く。


「おぅ!名無しィ、正儀のをやるんだろ?だったらよぉ~。俺のも頼むぜぇ!」

「僕のも、お願いできるかなぁ~」


ニヤニヤしつつ俺の机にプリントをバンと置いてきた2人。

大柄の男は剛田剛ゴウダ・ツヨシと言う名前だ。筋肉質な体をしており、本人も柔道をしている事もありかなりの巨漢と風貌だ。しかも乱暴者で有名であり気に入らなければ暴力を振るう粗暴な奴だ。

コイツは俺の事をまるでパシリか何かに思っているのか、何かにつけて俺に色々押し付けてくるのだ。

俺にとっての憂鬱の種2号だ。

そして金魚の糞みたいに剛田と共に絡んで来たのは細見臣ホソミ・シンと言う。

こいつは正直大した奴でなく、いつも剛田の子分の様に付いており剛田に便乗して俺に何かと押し付ける小心者だ。

コイツは正直どうでもいい。

コイツ一人ならどうとでもできる。それくらい喧嘩にも弱い権力に媚びるしかできない小物だ。


細見だけなら断るは簡単なのだけど今回は剛田が一緒にいる。

細見は問題ないが剛田を敵に回すと色々面倒事になる。

剛田は気に入らない事には殴る蹴るの暴力を振うような奴だ。

そんな為か、剛田と関わる際には周囲も幾分か同情的な視線を感じるのだ。

俺は内心(面倒だな)と思うも、穏便に済ますため、仕方なく2人のプリントを受け取った。これで神童の分を合わせて3人分の課題を片付けないといけなくなった。


心の内で溜息を盛大にしているとまだ傍にいた神童がふざけた事を言い放つ。

神童が今までの流れを見てこう世迷言を言い出したのだ。


「いやぁ~君達は、相変わらず、仲がいいねぇ~」


と言ってきた。俺は、内心「誰が、仲が良いって!」と叫んでいた。表情を表に出さない様に我慢するのにも限度があった。

今日も昼休みに”あの場所”にて発散しようと決めた。


そんな朝のやり取りから1時間目と2時間目が過ぎた。

2時限目が終わると3人分の課題のプリントを取り出すとささっとやってしまう。

既終わっている課題なのでただ写すだけだったので直ぐに終わった。

終わった後、休憩でどこかに行っている3人の机の上に、終わらせた課題を置いておいた。

因みに俺の成績は2学年で上位にいる。確か中間考査には50位より上だったはずだ。

俺の持つ特異体質の事もあり、親しい友人もおらず学園が終わればいつも家で勉学に講じる以外する事はなかった。

まあ、他人と遊ぶなんて興味もなかったのでいいのだが。それに成績が良くなれば両親が喜んでくれるからいいのだ。

ただ、殆ど外で遊んだりしない俺を心配した両親の伝手で美柑さんと出逢い、そして美柑さんのアトリエに入り浸るようにはなり、いつしか手伝いと言うバイトをするようになった。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


4限目が終わった。

俺は昼食のパンが入った袋を持つと直ぐにクラスを出た。

いつまでもクラスにいると朝の様な厄介事に巻き込まれる可能性が大なのだ。


今日は運よく誰からも絡まれる事無くクラスを出る事に成功した俺は屋上に続く扉まで来た。

制服のポケットから一本の鍵を取り出すと、施錠されている鍵を開けて屋上に踏み入れた。

施錠されている事から基本的にこの屋上は立ち入り禁止なのである。

何でも、数十年前にこの屋上から飛び降り自殺をした生徒がいたとかでその事件以降立ち入りが禁止されたらしい。

だが、俺にとって、ここはこの憂鬱な学園内で唯一心安らぐ場所なのだ。

なぜ俺が屋上の鍵を所持しているかだが、それは俺が2年生になったばかりの頃にとある筋から此処の鍵を手にいれたのだ。


俺は他に誰も入れない様に再び鍵を閉めるとフェンスの方まで歩いて行った。

今の時期は冬と言うよりもう春と言える季節なのだが、今日は寒めである。

だが俺にとっては心地よかった。そしてフェンスを背に持ってきた袋から昼食のホットドックを取り出すと食べ始めた。

基本巻き込まれない時は人知れずここで食べるのが俺のスタイルだ。


食べ終えると、俺はフェンスの方を向くと外の景色を見つめつつ、俺の内に溜まった鬱憤を零し始めた。

内容は無論今朝の神童、剛田とのやり取りが主だった。細見は無論気にしていない。


「あの野郎は『何が君は時間があるだろ?』だ。あいつはいつもふざけやがって! 俺にもやる事が沢山あるんだよ! いつも何も気にしない様に平然と俺に話し掛けやがってぇ!」


溜まったストレスを発散するように、鬱憤を晴らすかのように叫んでいると、屋上の扉の方から聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。


「なら。どうしてアナタは拒否しないのですか?」


俺は驚きながら反射的に聞こえた声の方を向く。するとそこには1人の見慣れぬ、少なくとも此処の学園のではない制服を着た少女が腕を組む様に立っていた。

その女性は腰まで伸ばしたスラッとなびかせる黒髪。腕を組んでおりそれなりの大きさがありそうな胸。女性ではそれなりの高さがある身長。

彼女を観察して一番目に入ったのは、日本人とは思えないその青い瞳だった。

そしてどうしてだろうか……

俺はその彼女の瞳がどこか自分に似たものがあるように思えてならなかった。


そう観察していると彼女は俺に近付いてくる。

俺は警戒しつつ声を掛ける。


「お前は誰だ?お前はここの生徒じゃないだろ?他校の生徒がなぜここにいる?それに……どうやって此処屋上に入った?ここの扉には鍵がしてあったはずだ」


正体の知れない不審な女性に問いかける。

この屋上を開けられるのは俺の持っている屋上の鍵だけだ。

なので彼女が此処の鍵を持っているはずがない。なのに彼女は俺の目の前にいる。

確認する必要があった。

なぜならこの場所は、俺にとって唯一心を落ち着けられる場所だからだ。

普段自分の性分を隠し偽っている俺が唯一素の自分を曝け出す事が出来る場所。

その唯一の空間に他者が入り込んでいるのは許せないと思ったのだ。


「フフ、なぜ此処Schoolにいるかですか?その答えは、来年度よりこの学園Schoolに転入するからよ。あと此処に入った方法は秘密よ」


笑みを浮かべながらどこかじっと観察でもされているように英語を混ぜて答えてくる。

俺は何故か無性にイラッとさせてくるように思えていた。


「さぁ。私は答えましたよ。次は貴方youの番です」


次は俺の番ですよと声にする女性。

恐らく彼女が最初に俺に問いかけた答えについてだろうか。


「俺がアンタに答える義理はないが…」

「アラ、私は答えたのに?」

「アンタが勝手に答えただけだ。俺の知った事じゃない」

「……」

「そんな事より、どうやってこの屋上に入った。鍵を持っているのか?」

「……」

「おいっ!」

「……」

「答えろ!」

「……」


如何やら話すつもりがないようだ。と言うよりも、俺が答えないから自分も答えない。という事だろうか。メンドイな…


キンコーン~カンコーン~


そうしていると昼の終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。

予鈴か…と呟くと傍に置いてあった昼食のゴミが入った袋を手にすると、屋上の扉の方に向かおうとする。

彼女がどうやって此処に入ったのか気になったが、一先ずは無視する事にした。

俺は目の前の少女を無視して横から抜けようとしたのだが、その少女は俺の制服の袖をつかんできた。

掴んでいる少女に体を向け視線をその少女の顔に向ける。少女は俺をじっと見つめてくる。その見詰めてくる瞳の視線はまるで「話すまで返しません!」と無言の訴えを言っている様だった。


「おい、その掴んでる手を離せよ」

「……」


強めの声で離すように声を掛けるも、只々ジッとのその青い瞳で見つめてくるのみ。その手を放す気配は見られなかった。

どうしたもんかと溜息を付くのと同時だった。本礼のチャイムが鳴り響いた。


まったく。なんで俺なんかにそこまで興味を持つかね?と溜め息をつくと、目の前の少女に先の答えを告げた。


「はぁ…お前のせいで最後の授業は遅刻確定だ。まったく。…いいよ、答えてやるよ。アンタのさっきの答えな。『なぜ拒否しないのか?』だったか……俺は、拒否しないんじゃなくただ興味がないだけだ。俺にとって何もかもが憂鬱で嫌なものでしかないからだ。そら、これが答えだ。満足したか?」

「…そうっ」


そう呟くと少女は俺の袖から手を離した。その瞬間もうこの少女に関わるのは御免とばかりに屋上を後にした。そして階段をまさに降りようとした時、


また、会いましょAlso, we meet


と聞こえた。(冗談じゃない)と思いながらそれを無視して、俺はここから一刻も早く離れたいという気持ちから「どうせ遅刻だし」「どうせ最後の授業だし」と自分勝手な理由を着けると誰にも見つからない様にこっそりと学園を抜け出した。



学園を抜け出した俺は従妹の美柑さんの所に向かった。


「あら?どうしたの、随分早く来たわね。学園は?時間から終業式がある時間よね」

「…終わったから来た」


俺は美柑さんにそれだけ告げた。

美柑さんも抜けて来たと分かっているのか困った表情を浮かべていた。


「抜け出したの?そうならここを出禁にしないといけなくなるわよ?…何か嫌な事でもあったの?」

「別に。何もないよ」

「ハァ~。まあ来ちゃったんだしね。えっと、これを手伝ってくれる?」

「うん。分かった」


俺は放課後、他のバイトがない時は美柑さんの所に来ている。

美柑さん。

俺の従姉に当たる女性だ。人嫌いの気がある俺が両親以外で信じ自分を偽らず接する事が出来る唯一の人だ。

美柑さんの職業は漫画やイラストを描いたりしている。なかなか人気もある様でファンもいるみたいだ。

ここは美柑さんの自宅兼アトリエで、俺はその手伝いをしているのだ。


俺は「困った子ねぇ」と苦笑している美柑さんから手伝う所を受け取ると俺は空いている机で受け取った作業に入った。

こういった作業は割と好きなので、楽しいその作業に没頭していった。


「…うん。今日はこのくらいで終わりましょうか。そちらの作業はどう?」

「……うん、殆ど終わったかな」

「そう…フムフム、丁寧ね。ありがとうね。…さて、君はどうする?この後直ぐに帰る?それとも―」

「ここで夕食を食べてから帰るよ。さてっ、それじゃ台所借りるよ」

「そう。そうだわ、たまには私が作って―」

「謹んで遠慮しますね。俺は自分を傷つけて喜ぶMじゃないので。美柑さんはここで大人しくしていてください」

「うぅ…ショボーン」


速攻で拒否された事で落ち込む美柑さんだけど、悪いが美柑さんに料理だけはさせるつもりはない。

あんな目にあうのは一度で十分である。



美柑さんと夕飯を(作ったのは勿論俺だけど…)食べた後家までの岐路に着いた。

遅い時間でもあり送ろうかと心配する美柑さんだが、丁重にお断りした。

そして無事自宅に到着した。

辿り着いた自宅だが、暗く人の気配がなかった。

現時刻は9時を過ぎたくらいだ。

俺は扉の鍵を開け「ただいま」と言うと玄関を抜け真っ直ぐ居間を目指した。

居間に着くと真っ先にと目的のとこに向かう。そこには一つの仏壇がありその仏壇には2人の男女の写真が飾られていた。

優し気で幸せそうな笑みを浮かべた男性と女性の写真だ。この写真を見ると思わず俺も頬を緩めてしまう。

この写真に映っている二人こそが俺の両親なのである。

俺の両親は数年前…俺が中学3年の頃だったかな。両親はある時に事故に遭い帰らぬ人となった。

俺は仏壇の前に正座をし、両親の写真に向かって手を合わせる。黙祷を捧げる。そしてその後には「今日の報告をし始めた。もし、両親がこの場所にいて俺の話を耳にすると苦笑された事だろう。怒ってはいても、きっと、優しく俺の頭を撫でてくれただろう。

家族の仲は大変良かったのだ。


今日の報告を終えた俺はこの時間まで誰もいないのだから当然風呂を沸かしていない。今からお湯を張るのは時間が掛かるかなと思いシャワーを浴びるのみで済ませた。

シャワーを終えると自室に向かう。そして部屋に入るとそのままベッドに入った。

疲れが溜まっているのか俺は寝息を直ぐに立て始めた。


その寝る間際、俺は願っていた。

四日後には新学期が始まる。それは新しいクラスになるという事だ。

願わくは俺を憂鬱にさせるアイツ等と別になればいいなぁと。

あと…今日、美柑さんの所で手伝った作品は今いる世界から異世界にいきなり転移させられる類のものだった。だからだろうか、俺は此処ではないどこかに行ければなっと。

そう思っていた。


だが現実は残酷であることを俺が知るのにあまり時間はなかった…


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