閑話22.1 修学旅行(その1)
乃木坂学園の修学旅行は二年次にある。二泊三日で奈良と京都に行くという、今時にしてはやや地味な旅行先かもしれない。
大輝も他の生徒と同じように楽しみにしていたが、わずか数日とはいえ、生徒会の面々と会えないのは寂しくもあった。とはいえ、明日香だけは同学年のため同行するわけだが、残念なことにクラスが違えば顔を合わせる機会も少なくなるのは当然だった。
班分けもまた悩ましいものだ。極端に男子の数が少ないため、必然的に固まることにもなる。クラスに男子は大輝を含めて二人しかいなかった。四人一組の班は、半数が女子になる。
男子が少なければモテモテかというとそんなことはなく、高校生活でたった一度の思い出となるイベントなのだから、普段から仲良しの女子で集まりたいに決まっていた。
友達が少ない女子も、あえて男子と同じ班になりたい子はいない。二人だけあぶれる不幸な女子は、一人が委員長で、もう一人が五人グループから貧乏くじを引かされた少女だった。
そんなわけで集まった四人だから、仲良く過ごせるというわけではない。男子二人は普段からマイノリティとしてそれなりにフレンドリーにしているものの、一年の時に大輝と一緒だった子とはクラスが分かれてしまっていた。
新しい“仲間”は、大輝が生徒会で女子たちに囲まれているというだけの理由でどこかよそよそしく、大輝もどう接していいものか困ることが多かった。
バラバラな四人がのぞみの二列ボックスシートに座っているものだから、いたたまれなさは察してもらいたい。車窓を覗いていても、海は反対側だ。富士山こそ見えるものの、それとてまだ先のことだ。
席は、大輝が進行方向を背に窓側、正面が委員長だった。その隣にもう一人の男子、つまり大輝の隣は貧乏くじを引かされた女子だったが、席順には恵まれたのか、仲良しグループは通路を挟んで隣にいる。おかげで班のことを無視して楽しそうに話している。
大輝が窓側に陣取ったのもそういう理由だった(もう一人の男子は、委員長の前は嫌だと拒否した)。
三列シートの方には構成上、分断される班もあるのだが、むしろそうしてくれた方が気は休まったかもしれない。
とは言うものの、大輝にとって一つのサプライズもあった。後ろの席は隣のクラスになっており、そこに偶然、明日香が座っていた。彼女の班も大輝と同様に男女混合だ。
人見知りの激しい明日香がクラスの男子と馴染めるわけもない。彼女の班にいるもう一人の女子は、明日香の友達だった。男勝りで姉御肌のため、面倒見も良い。男子らも自然と彼女と仲良くなっている。明日香のためにも上手く男子どもを意識を引きつけ、手玉に取っているという見方もできるが。
「里見さんも大輝と一緒の班なんだ」
弾む声で明日香は言う。里見さんは委員長の名字だ。一年から委員長だった彼女は委員会や各種行事の打ち合わせで顔を合わせることも多い。人見知りの明日香が自分から話しかける数少ない相手でもある。
「結城さんが前だなんて偶然ね」
委員長も表情を和らげる。この状況下で仲良しの女子に話しかけられれば当然だろう。そして大輝の頬も緩む。頭の上に乗っかる二つの重みーつまりは明日香のおっぱいが当たっているからだ。
その様子を見て委員長は一瞬戸惑ったものの、あえて触れずに明日香と会話を続けた。たまには大輝に振ってくれることもあったし、明日香が大輝に話しかけもした。
最初はどうなることかと思った大輝だが、明日香のおかげで楽しい車中となりそうだった。
「三枝くんはずいぶんと結城さんと仲良いのね。付き合ってるの?」
突然放り込まれた爆弾に、二人とも赤くなる。最初に否定したのは明日香だった。
「仲は良いと思うけど、付き合ってないから!」
ぽよぽよと頭の上でおっぱいが揺れる。
「まぁ、そんな感じで……」
「ふーん。まぁだいたいわかったわ。結城さんも大変ね。でも、付き合ってないならそうやって三枝くんの頭におっぱい乗せるのは、他の男子の目もあるしどうかと思うけど」
「そっ、そうだよね。里見さんとおしゃべりするのが嬉しくてつい身を乗り出しちゃった」
指摘に耳まで赤くした明日香は、大輝の頭からおっぱいをどかした。
大輝は首が軽くなったものの、ちょっぴり残念に思わないでもない。
とはいえ、明日香のおっぱいは背もたれの上部に鎮座したため、大輝の後頭部に柔らかいものが当たっている。これはこれで気持ちよかった。
「それに大丈夫? うちのスカート短いから、そうやって身を乗り出すと前の男子共にパンツ見えちゃわない?」
明日香は慌ててスカートの裾を抑えるが、見えていれば遅きに失したのは言うまでもない。
「大丈夫だよー。見えてないし、エロい目で見ようとしたらあたしが睨むから」
友人に恵まれた明日香だった。
その後も車内ではずっとこんな感じで、いつの間にか明日香はまた大輝の頭の上におっぱいを乗せるようになっていたが、委員長は再び指摘せず、むしろニヤニヤと、大輝の困ったようなにやけ顔を見て楽しんでいた。
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