閑話22.2 修学旅行のおやくそく

 修学旅行一日目は、京都駅から特急を乗り継いで奈良へ。定番の大仏やら平等院鳳凰堂やらを観光したりした。鹿せんべいをあげたりもしたわけで、その時に明日香の顔が鹿に舐められてべとべとになったり、スカートの裾を食べられそうになったるという特別なことはあったものの、大輝たちとはクラスが違うため、残念なことに居合わせることもなかった。


 あっという間に日が暮れて、京都の旅館に向かう。手荷物を肩から降ろし、送ってあった着替えが入ったバッグを受け取る。部屋は班ごとに分かれているとはいうものの、男女が一緒になるわけもなく、男子は二人用の部屋をあてがわれている。


 今日一日、嫌が応にも行動をともにしたことで、一つ屋根の下で過ごす田中とはそれなりに親密になることができた。

 

 たびたび訪れた二人きりの時に、田中が大輝に根掘り葉掘り明日香のこと、特におっぱいの感触がどうだとか揉んだことがあるのかといったことを訊ねてきたこと、そしてまだ明日香とは付き合っていないことがわかり、自分にもチャンスがあると勘違いしたことも、大輝と仲良くなれた理由だった。


 部屋でジャージに着替えて一息ついた後には、すぐにまたイベントが待っていた。とはいえ、普通に考えれば楽しくもなんともない入浴時間なわけだが。


 当たり前とはいえ、男女が一緒に入れるわけもなく、極端に偏った男女比のため、男用の風呂も女子が使うという横暴さえあった。

 男子は各班ごとに家族風呂を使用することになっていた。彼女と一緒なら嬉しいだろうが、男と二人で入っても楽しいことなんて何もない。


 大輝たちは浴衣やタオルなどを持って家族風呂へ向かうのだが、どういうわけか田中のテンションは高かった。


「修学旅行の定番って言ったら、女風呂を覗くしかないだろ」

 強調する田中に、大輝は苦笑するしかなかった。定番とはいえ、成功するのはフィクションの話だけだろう。そもそもどこから覗くのか、バレた時にどうするのか、特に生徒会役員である大輝にとっては重要なことだった。


「友達甲斐のない奴だなぁ。こういうのは一蓮托生、一緒に覗くから楽しいんじゃねーか。三枝だって明日香ちゃんのおっぱいを見たいだろ?」


 見たいか見たくないかの二択で言えば見たいに決まっている。だが、これまで見たことがないわけでもなかった。とはいえ、何度見てもいいものではある。修学旅行で風呂を覗くという行為自体に浪漫も覚える。


「どっちのお風呂に入ってるかなんてわからないし、そもそもお風呂の前をウロウロしてたら一発で怪しまれちゃうじゃないか」


 大輝は正論で田中を宥めるものの、その程度で諦めるようなら男ではない。たとえ覗けなかったとしても、それを妄想してあれこれ行動することが盛り上がるのだ、と力説されれば、これ以上止めようもなかった。


(失敗するのはわかりきってるし、適当に付き合って一人でお風呂に入ろうっと)

 男の友情を果たすために、大輝は義理で行動を共にする。


「さすがは心の友だな。俺も大輝って呼んでいいか? お前も俺のことをトモキって呼んでいいからさ」

 大輝と呼ばれなれているため異論はなかったものの、いつの間にか心の友とされてしまったことに呆れつつ感心した。よくよく考えれば、トモキがどう書くのかすら未だに知らないというのに。


「最悪、うっかり間違えたふりして脱衣所に突撃すれば何か収穫あるんじゃね? ブラとかは置いてあるわけだし」

(そこまで行くならもう全裸でお風呂に飛び込んじゃえばいいじゃない)


 毒を食らわば皿までと、笑顔のままフルチンで浴室に飛び込んだトモキと、一斉に響き渡る女子たちの悲鳴を思い浮かべながら、大胆なのかチキンなのかわからないトモキを見やった。

 当然、大輝は心の友を生け贄に、逃げの一手をかますつもりである。


 着替えとバスタオルを持ち、鼻歌交じりで廊下を進むトモキに引っ張られるように、大輝も遅れてついていく。


 むしろこのあたりで先生に見つかって追い払われれば事は単純に済んだかもしれない。元男湯の脱衣所の前にまで問題なく来てしまったことは、よかったのか悪かったのか。


「おっ、この先が魅惑のスペースってわけか。明日香ちゃんいるかなぁ」


 のれんの隙間から中の様子を窺うトモキはまるで不審者だった。そんなところから見えたら一大事だよと心の中で呟きつつ、大輝はそっと距離を取る。


「ここからじゃ絶対に裸は見えないよ? そろそろ諦めて温泉に入らない?」


「おっ、やっぱ大輝も気になるんじゃねーか。そうだな。裏に回るところを探すか、このまま間違えましたって一歩踏み入れてみるか。女子が裸になった場所の空気を吸えるだけでも満足だしな」

 トーンダウンしたのか変態なのかよくわからない言いようである。


「誰か来たみたいだよ? 先生かな。って、あれ?」


 怪しい行動を慎むようにトモキに知らせようとしたものの、振り向いた時には既に彼の姿はなかった。大胆にもの脱衣所に潜入してしまったようだ。悲鳴が上がらなかったところをみると、中には誰もいなかったらしい。大輝は安堵するものの、それで虎口を逃れたわけでもない。


「三枝じゃないか。こんなところでどうしたんだ?」


 巡回していた体育教師に声を掛けられる。女湯の前にいれば言い訳も難しい。大輝は背中に冷や汗をかきながら、できるだけ笑顔で答える。


「明日香、じゃなかった。結城さんに用事があって」

「結城? 委員会の会議に出てるからそんなとこにはいないぞ。お前ら付き合ってるんだっけ? いちゃつくくらいは構わんけど、避妊はちゃんとしろよな。ほれ、コンドーム」


 あんた何しに来た、と大輝は思わず突っ込みそうになりつつ、引きつった笑顔でゴムを受け取る。付き合っていると誤解されたおかげで、覗きを疑われもせずよかったが。むしろなんでこの教師がコンドームを持ち歩いているのか不思議ですらあった。


 女湯から悲鳴が上がって惨事が起きないように、大輝は会釈をして急いで家族風呂の方へと逃げ出した。



 心の友、トモキを見捨てるような形になってしまったが、こればかりは仕方がない。あとは彼の幸運を祈るだけだ。そして明日香の裸が万が一にも見られる心配がないとわかり、安堵もした。


 一人でのんびり温泉でも浸かってしまおうと、家族風呂ののれんをくぐる。妙に甘い香りがするのは気のせいだろう。


 カゴにタオルなどを入れて、手早く服を脱ぐ。男同士とはいえ、裸になるのは少し躊躇いがあったから、トモキの不在はむしろありがたかった。あとから来るであろう彼の戦果だけは詳しく聞いてやろうと思いながら、浴室のドアを開ける。


 個室風呂というのはこんなに湯気で満たされているのか。不思議に思いつつ一歩足を踏み入れると、そこには二人の女子の裸があった。


 湯気に包まれる裸体は女の子の豊かな膨らみを浮かび上がらせるものの、肝心な部分はモヤがかかるように見えなかった。小柄な割に豊満すぎる膨らみと、下半身のむっちりとした肉付きの割には胸がささやかなお椀型の膨らみが、それぞれ水滴を滴らせて艶めかしく見える。


 二人の驚いた顔は見知ったものだった。明日香と、委員長の里見だった。

 彼女らの瞳に映る大輝の顔も絶句していた。


 硬直する三人だが、明日香たちの視線は下に向かう。見ていいのか、それともいけないのか。見えてしまった大輝のシンボルに、二人とも頬を赤く染める。


 二人が胸をとっさに腕で隠したのはその後だった。悲鳴は幸運にもなかった。


「なんで大輝がっ……」

「ここ男湯だよ? なんでいるの」


 それぞれ疑問を口にする。解を得たのは、なぜか冷静に、によによと大輝の裸を観察している委員長だった。


「道理で私たちだけしかいないと思った。男湯も女湯に変更してるんでしょ。先生が言った“男湯”ってそっちでしょ」


 クラス委員全員が入るのに家族風呂は狭すぎる。すぐに気づけよと言いたいところだが、勘違いしていた上に、先客が誰もいなければ間違いにも気づきにくいだろう。


「三枝君って意外に良い体してんじゃん。隠さないのは見せつけたいの? ……あっ、勃った」


 驚きすぎて隠すのも忘れていた大輝だったが、視線はついついノーガードである二人の魅惑の茂みに吸い寄せられてしまう。同い年の少女二人の花園を見比べて、興奮しない思春期の男子はいないだろう。条件反射に等しく股間に血が集まり、むっくりと息子が起き上がるのも、これはいたしかたないことだった。


「カチカチじゃない。男子ってこんなグロテスクになるんだ。んはっ、コレが私の中に入るなんて信じられねー」


 さすがに委員長も遠慮なさ過ぎだろうが、お互いに無防備な状態ゆえに、つい本音が出てしまったのだろう。隣に明日香がいたことも、警戒心を下げさせたのは間違いない。


 委員長は挑発するように胸のガードを取り払う。小ぶりだが、形よく熟れた桃饅が二つぷるんと揺れる。

 思わずむしゃぶりつきたくなる衝動を大輝が抑えることができたのも、隣に明日香がいるからに他ならない。


 むっつりな明日香は大輝の股間の変化に目を奪われながらも、恥ずかしそうに身をよじるだけだ。チラチラと興味深そうに見ているのは大輝にもわかった。


「明日香、三枝君のスゴいね。コレって、明日香の美味しそうな体に興奮して大きくなったんだよね」

 委員長が耳元で明日香に囁く。


「違うよっ、里見さんの方がスタイル良いし。って、ジロジロ見たら恥ずかしいよ」


「そう言う明日香も大輝くんのアレしっかり観察してるじゃない。しょうがないよね。あんな逞しいもの見たら濡れちゃうものね」

「そんなことないって!」


「ふーん、本当かなぁ。私の貧相なおっぱいより、明日香のコレに男共なんてみんな夢中だよ。男のいやらしい視線に、明日香も気づいてるでしょ?」

「ちょっ、里見さん、やめっ……」


 そう言って委員長は明日香の背後に回り込み、手でガードしていた胸を下から持ち上げるように揉みしだいた。小さな女子の手からあふれるたわわな膨らみ。それが委員長の指の動きに合わせてぽよぽよと揺れる。


 思わぬ攻撃に驚いた明日香が手のガードを緩めると、すかさず委員長は明日香の敏感な場所を攻撃する。

「やっ……あんっ……里見さん……やめてってばっ……、大輝が……見てるのにっ……」

 敏感な突起をこねくりまわされ、すぐに硬くしこるとともに、明日香は甘い声をあげて悶えた。


「三枝君に見られて興奮してるんでしょ? ほら、こっちなんてもうぐっしょりだよ」


 胸に意識が行っている隙をついて委員長は明日香の茂みに手を伸ばす。既に蜜があふれているそこに指を入れ、ちゅぷちゅぷと卑猥な音を立てる。指先にたっぷりと天然ローションをつけると、包皮に守られた明日香の真珠をゆっくりと撫で回した。


「ひゃっ、だめぇ……、大輝に見られてる、見られてるのに……」


 口では嫌がるものの、振りほどく力はどこにもなかった。女子二人で繰り広げられる痴態に大輝は目を血走らせる。硬くなった息子も口から涎を垂れ流す。


 それを見て委員長はしたり顔を覗かせると、急に明日香を責めるのをやめて大輝の前へと進み出た。

 力が抜けた明日香はぺたんと尻餅をつく。


「このまま続けてると邪魔者が来てうるさくなりそうだし、続きは二人でよろしくね。私は入口で見張ってるから」


「続きって?」

「わかってるくせに。三枝君も明日香のこと好きなんでしょ。修学旅行の夜なんだもの。ちょっとしたハプニングはあってしかるべきじゃない? 男を見せるチャンスだよ」


 委員長が脱衣所に消えるなか、大輝と明日香だけが個室風呂に取り残される。

 カチャリと鍵がかかる音がして、もう逃げる場所はないのだと大輝は気づかされた。

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