閑話20 肩車とパンツと
生徒会室で誰かと二人きりになるというのは珍しいことではあるが、ないわけではない。とはいえ、それが未来と大輝の組み合わせというのはこれまでほとんどなかった。
葵や明日香と二人きりなら、微妙に意識することはあるものの、話のネタに困ることもないが、未来とは何を話していいのか少し困る大輝だった。
とはいえ、今日の未来は書類仕事に没頭していて、雑談を仕掛ける余裕もない。真剣な眼差しで次から次へと書類をめくり、メモを取っている。いつもの余裕に溢れていて何か悪巧みをしている彼女と打って変わり、凜々しいその横顔はつい見惚れるほど美しかった。
「そろそろ予算案を準備しなきゃいけない時期でしょ。明日香ちゃんに引き継がなきゃいけないこともいっぱいあるのよ」
予算に関する仕事は生徒会の仕事でも大きなものだが、昨年を参考に増減するだけならそこまで大変な作業にはならない。むしろ折衝の方が一仕事だ。1円でも予算を節約するために、資料を集めているから大変になっているのだった。
「ちょっと大輝くん、手伝ってくれる? 棚の上の方にある資料が必要なの」
雑用係である大輝はその言葉を待っていた。未来が忙しくても、自分ができることはせいぜいお茶汲みくらいなものだった。犬のように二つ返事で了解する。
生徒会の棚は高く、大輝が椅子に乗っても届くものではない。老朽化して不安定な踏み台を使っているが、男子が乗るにはやや心許ない。
「心配しなくても大丈夫よ。どの資料が必要か大輝くんじゃわからないでしょ。効率も悪くなるから、台に乗りながら調べたいの。大輝くんは台をしっかり抑えていてね」
単純な仕事に大輝は落胆するものの、未来の力になれることには違いない。部屋の片隅に置いてある台を引っ張りだす。不安定な台は、未来が乗った途端に軋みながら不安定に左右に揺れる。大輝は慌てて台を抑える。
「ちゃんと抑えててね」
未来の落ち着いた声が聞こえる。しゃがみ込んで台を抑える大輝の視界からは彼女の生足しか見えない。仰げばいけないものが見えてしまうのは必然だった。そもそもすべすべな彼女の生足もセクシーだ。間近で見るそれに、意識しないようにしてもつい視線が吸い寄せられる。
「パンツ覗いてないでしょうね?」
「そっ、そんなことするわけないじゃないですか」
「でも何か見られてるような気がするんだけど」
「気のせいですっ。ちゃんと下見てますから」
そわそわとした未来の声に大輝は動揺する。仰げば尊いものが見えるが、彼女の信頼を裏切るわけにもいかない。むしろ、くるぶしの方を凝視する。
「パンツだったら葵ちゃんに見せてもらえばいいものね。それとも、この前いっぱい葵ちゃんのパンツを見て、女の子の下着に興味を持っちゃった?」
いつもの悪戯っぽい口調で未来が言う。
「そんなわけないじゃないですかっ」
「そうよね。大輝くんって元々、女の子の下着好きだものね」
「茶化さないでください」
パンツが嫌いな男子なんていません。と、つい口から出そうになった言葉を飲み込む。
「ちょっとだけなら覗いてもいいわよ。ねぇ、あたしは今日、どんなパンツを穿いてるでしょうか。当てたら見せてあげよっか」
「えっ?」
「ちょっと。本気みたいな声出さないでよ。そんなにあたしのパンツ見たいの?」
台の上で資料を調べながら、いつものからかい口調で言う未来だった。
繰り返しになるが、見たいか見たくないかで問われれば、見たくないなんて答えはありえない。心配なのは、未来のスカートの中を覗いている時に葵や明日香が生徒会室に戻ってくることだけだった。
「未来先輩って綺麗だし、気にならないわけないじゃないですか」
「こーら。そうやっておだててもダメよ。でもちょっとだけなら……ううん、ダメに決まってるでしょ」
珍しく動揺した未来の声に、大輝は思わずときめいてしまった。
「ちょっ、本当にダメだからね。見たら葵ちゃんに言いつけるわよ」
もとより覗くつもりもなかったが、そう言われると大輝もつい視線を上に向けてしまう。彼女の大人びた太ももが目に入る。スカートの先のギリギリの位置までは見ても罰は当たらないだろうと、さらにその上を見上げる誘惑に抗いながら限界まで顔をあげる。
「見られてるような気がするんだけど。本当に大丈夫?」
ただでさえ不安定な台の上で、未来は恥ずかしそうにスカートの裾を抑える。そのため、すぐにバランスを崩して、気づいた時にはものすごい音とともに大輝の上に倒れこんでいた。
台は壊れ、大輝も未来も揉み合うように床に突っ伏している。大輝は痛みを覚えるものの、それとは別に気持ちの良い柔らかさと甘い香りを感じる。
目の前には純白のレースと紐が見える。見られるのを恥ずかしがっていた未来の下着だった。大輝は彼女のスカートの中に顔からダイブしている。
「怪我とかない? 大丈夫?」
自分のことは脇に置いて真っ先に未来が心配する。
「ええ、なんとか。未来先輩は大丈夫ですか?」
彼女の股間から顔を上げる。未来も幸いたいした怪我はなさそうだった。
「大輝くん、見たでしょ」
「すっ、すみません」
じと目で言う未来に、大輝は頬を染めて答える。言い訳のしようもない。未来のパンツは事故とはいえ開帳され続けている。
「早くどいてほしいんだけど」
「わわわ、ごめんなさい」
大輝が飛び起きると、ようやく未来も股を閉じてスカートの裾を恥ずかしそうに抑える。
「大輝くんのエッチ」
そう言って見せる珍しい表情に、大輝はどきりとした。
「怪我がないのはよかったけれど、台がめちゃくちゃよね。どうしよう」
元々老朽化していた踏み台は二人の身代わりとなったのか修復しようもないほどバラバラになっている。他に適当な台がないのもわかりきっていることだった。
「大輝くん、ちょっとかがんで」
「はい」
素直に頷くと、未来は大輝を背にして目の前に立つ。ふんわりとしたスカートの膨らみが大輝の間近にある。中のものを今さっき見たとはいえ、魅力的なお尻の丸みに大輝は目を泳がせる。
「よいしょっと」
何をするのかと思えば、大胆にも未来はそのまま大輝の肩に跨がった。彼女の柔らかい太ももが両頬に感じる。先ほど顔からダイブしたパンツも首筋に当たる。
「ななな、なんですかっ」
「なにって、肩車よ。資料を調べるには他に手がないじゃない」
未来にとっては当然の結論なのだろうが、大輝には不意打ちすぎた。また崩れ落ちそうな気がしたが、まだしゃがんでいるためなんとか堪えられた。
「でもいいんですかこれ。すっごく恥ずかしいんですけど」
「大輝くんよりあたしの方が恥ずかしいんですけど。でも……、さっきパンツ見られちゃったし。そのお詫びに肩車してくれたって罰は当たらないでしょ」
罰どころかむしろお願いしたいほどだったが、その言葉を大輝は飲み込む。もとよりご褒美みたいなもので異論はない。未来の両足を抑えてゆっくりと立ち上がった。
「ちょっ、立つなら先に言ってよ。危ないじゃない」
バランスを崩しそうになった未来は大輝の頭に抱きついた。ほどよく大きい胸が大輝の後頭部に押しつけられる。太ももから沸き立つ甘い香りだけでもいっぱいいっぱいだったというのに、首筋に当たるぷにっとした恥丘と、お餅みたいな胸の感触とで大輝は股間に血液が集中するのを感じてしまう。
葵たちが来ないか気が気でなかったが、幸い、仕事に集中してしまえば未来は大輝を意識しなかったし、大輝も彼女の細かい指示にそれどころではなくなった。
とはいえ、放課後のひとときが珍しくご褒美になったことは言うまでもない。その後、台が新調され、二度と肩車する機会がなくなってしまったのは残念だったが。
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