閑話19.1 生徒のパンツ事情について(前編)
「今日の会議の議題だが、生徒のパンツ事情について、だ」
会長の葵が発した言葉に、大輝はいつものように自分の耳を疑った。
「えっと、生徒のパン食事情がなんですって? 確かにパンよりご飯の方が太らないとか腹持ちがいいとか言いますけど」
「パン食ではない。そんなこと個人の自由ではないか。生徒のパンツ事情だ。言っておくが、ズボンのことじゃないぞ。下着のパンツだ」
堂々と無い胸を張って言う葵に、大輝はそれこそ下着なんて個人の自由ではないかと反論しそうになった。
「聞き間違いでなかったことが残念です。その、いつものことながら、パンツがどうして議題にあがるんですか?」
「うむ。知っての通り、我が校の校則によってスカート丈の長さは決められているな。膝上25センチという長さだが、この長さでは、ちょっとした風の悪戯でスカートがめくれ上がってしまうのだ。まぁ、男の大輝はわからないだろうが、穿いている身からすると、けっこう気を遣うものだ」
気苦労については大輝にはわからなかったものの、パンツが見えやすいという状況にはちょくちょく心当たりがある。可愛い女子生徒の下着がちら見えする瞬間は、この学校に通っていて良かったと心から思う瞬間でもある。男子に限らず、女子生徒も同様の割合でパンチラは目撃しているはずだが。
「でも校則で決められている以上、どうにもならないのではないですか」
「そうなのだ。今回、そこは問題にはならなかった。校長との定例会議でのことだが、最近、女子生徒の下着が可愛くないのではないかと指摘されてな」
「……それって問題なんですか?」
「当たり前ではないか。共学化されたとはいえ、良家の子女を預かるお嬢様学校であることに変わりはない。女子生徒の穿くパンツが可愛くないなどと世間の噂にでもなったら、学校の沽券に関わる」
「そんな馬鹿みたいなことで議論しないでくださいよ。だいたい、そんなに見えたら困るパンツを穿いてるなら、校則でスカートの長さを膝下に決めればいいじゃないですか」
大輝はほとほと呆れたが、葵は大輝の言葉を無視してさらに続けた。
「問題はそこではないのだ。校則を改正する難しさは大輝もわかっているだろうが、校長との会議で意見が合わなかったのは、どのパンツが可愛くないのかという点だったのだ。校長がブルマは可愛くないなどと言い出してだな。そのあげくに、飾り気のない白の綿パンツや縞パンも校則で穿くのを禁止しようなどと主張しだしたのだ」
「えっと、つまりですよ。葵会長はブルマとかは可愛いという意見なんですか?」
「当然ではないか。なんで多くの学校でブルマが廃止に追い込まれたのか。穿いていて恥ずかしいというの女子生徒の意見はもちろん、世の男たちが欲望の眼差しでブルマを見るからではないか。そういうものが可愛くないなどと、生徒会長として断固、認められるわけがあるまい」
「…………教師と生徒の代表である学校のツートップが、そんなくだらないうことで角を突き合わせていたっていうんですか」
「くだらないなどと言うな。だいたい、大輝も縞パン好きではないか。もし、学校から縞パンが追放されたらどうするっていうのだ」
「人を縞パン好き代表みたいに言わないでくださいよ。まぁ、好きかと言われれば好きなんですけど、別に他のパンツでも見えたら嬉しいですよ」
「そんな節操なしだからいかんのだ。縞パンのためなら死ねるくらいの縞パン原理主義者だっていいではないか」
「だから心を偽ってるわけじゃないですから。だいたい、なんで生徒会の会議で縞パンなんて言葉が飛び交うんですか。これ、議事に残すんですよね? 未来の生徒会役員が見たら呆れますよ」
書記の翠緑が目を輝かせながら筆記している。この記録はある種、学校の恥になるのではないかと大輝は思わないでもない。
「未来の後輩たちのためにも、禍根は残してはならないのだ。我々が真面目に生徒のパンツ問題で議論することも必要悪のひとつというものだ」
「ちょっと待ってください。いいですか、本当にどうしようもなくどうでもいいことのように見えるんですけど、いったい何が問題となっているんですか」
収集がつかなくなってきたところで、大輝は本題に入るように軌道修正をかけた。ここまで聞いても、葵がこれから何をしようとしているのかわからなかったからということもある。
「うむ。校長と6時間に及ぶ果てない議論の末に気づいたのだ。我々女子同士の意見では可愛いかどうかを決めることはできないとな。ここは男子生徒の意見も必要だろうと」
「6時間も議論する前に気づきましょうよ。くだらないことで議論してるって。って、今、男子生徒の意見も必要だって言いましたか?」
「うむ。女子だけで決めるのは不毛だと気づいたのだ。幸い、我が生徒会には男子生徒もいるわけだからな。全校代表として、どのパンツが可愛くて、どのパンツが可愛くないのか決めてもらおうというわけだ。責任は重大だぞ」
再び無い胸を張る葵を前に、大輝は頭を抱える。
「校長もそれで了承したんですか?」
「当然だ。だが、ちゃんと詳細なレポートをまとめて提出してくれと言われた」
どのパンツが男子生徒を欲情させるのか調査したレポート。そんなくだらないものを真面目に作らなければならない生徒会と、それを本気で読む校長、どちらがより馬鹿らしいのか難しい問題だった。ぶっちゃけどっちも馬鹿だろう。
「全校の縞パン愛好者のためにも頼んだぞ」
「縞パンがどれだけ好きかっていう感想文を書けとでも言うんですか」
頬を染めながら反論するものの、葵の反応は大輝の予想とは異なっていた。
「まぁ、書きたいならそれでも構わないが、さっき言っただろう。詳細なレポートをまとめてくれ、と。説得力を持たせるために、当然、大輝には実験台になってもらうしかあるまい」
嫌な予感しかしないが、今更逃げられるわけでもない。
「ろくなことにならないと思うんですけど、僕は何をすればいいんですか」
「うむ。まずはズボンを脱いでくれ」
再び大輝は自分の耳を疑った。
「なんですって?」
「だからズボンを脱げと言ったのだ」
いきなりのセクハラ発言に、大輝は身構えた。
「なんで僕が脱ぐんですか。はっ、まさか僕に縞パンを穿かせるつもりじゃないでしょうね」
「穿きたいなら穿かせてやるがそれは後の話だ。生徒の下着調査という題目なのだから、男子の下着事情もレポートしないわけにはいかないだろう」
「ちょっ、そんなの聞いてないですよ。まさか男子も可愛い下着を穿けというんですか」
「可愛い下着を穿きたいなら止めはせんが。この場合、大事なのは色気だな」
「そんな勝負下着なんて穿いてないですよ」
「いいから脱げ。男子代表が普段どんなパンツを穿いているのかというのも、女子の下着の基準を決める上で大事なのだ」
力説されたからといって、女子の前でズボンを下ろすのは抵抗があった。そういう趣味ならならむしろ喜んで見せるのだろうが。
大輝がぐずっていると、未来が後ろに回り込んで大輝を羽交い締めにした。彼女の胸の感触が背中に感じる。むにっとしたボリュームに頬を赤らめていると、葵がすかさず距離を詰めてきてズボンを脱がしにかかった。
「ちょっ、無理矢理ですか。うわーっ、セクハラだー、痴女だー」
「こらっ、暴れるな。脱がしにくいではないか。って、何か引っかかってるんだが。ええい、大人しくしろ」
抵抗したところで結果は見えていた。あっという間にズボンを下ろされてしまった。色気も何もないグレーのボクサーパンツが葵の目の前で開帳される。こんもりとした股間を目の前で見て、葵もすぐに頬を真っ赤に染める。他の面々も同じように頬を染めている。翠緑は興味津々にジロジロと見やり、むっつりな明日香はチラチラと視線を向けている。
「うむ、これはこれで悪くないな。地味だからといって色気がないというわけでもあるまい。しかしなんというか、意外に大きいのだな大輝って」
「意外ってなんですか」
「ふふっ、恥じることはないぞ。立派なのはオスとして優秀な証拠ではないか。ちょっと触ってもいいだろうか」
「なにどさくさに言ってるんですか。ダメに決まってるじゃないですか」
と言ったところで抵抗のしようもないのだが、後半に続く。
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