閑話17.9 誰がどんなパンツを穿いているか。それが問題だ

「んじゃ、パンツ当てゲーム始めるよ-」

 真由は元気な声で宣言すると、浴衣からたくさんのパンツを取り出した。色とりどりのパンツが大輝たちが囲む円陣の中央、布団の上に広げられる。


 まさかこんなゲームが始まるとも思っていなかった大輝は唖然としながらも、赤面する。見るからにパンツは使用感があって、新品というわけではない。むしろさっきまで穿いていたもののように見える。


「ちょっ、なんでわたしのパンツがあるんですかっ」

 真っ先に抗議したのは明日香だったが、翠緑や未来の表情を見る限り、みんなのパンツであることは間違いなかった。葵だけは表面上、平静を装っていたが。


「こういうこともあろうかと、さっき回収しておいたんだよ。面白いゲームになるんだからいいじゃないか」

「パンツ泥棒じゃないですか。てっきり大輝が盗っていったのかと思ってたのに」


「そうですよ。翠緑も先輩って大胆だなーって喜んでたんですから。がっかりさせないでくださいよ」

「なにもやってないのに、なんだか酷い言われようじゃない?」


「まぁまぁ。最終的に後輩くんの手に渡ればいいじゃないか。そういうわけで、この5枚のパンツが誰のものなのか、後輩くんに当ててもらおう。見事正解したらパンツは後輩くんに進呈。はずしたら、パンツの持ち主が後輩くんに一個好きな命令をできるっていうことで」


「僕だけものすごくリスク高くないですか?」

「はいはーい、翠緑、質問ですっ。好きな命令って、なんでもしてくれるってことですか?」


「法律に反しない範囲でならなんでもOKだよ」

「じゃあ、翠緑に赤ちゃんができちゃうかもしれないってことですね」


「限界に挑めばそうなってもおかしくないのかな」

「いや、僕の同意がなかったら強姦でしょ」


「そこはそれ、やり方次第じゃないかね、後輩くん」

 邪悪な笑みを浮かべる真由と翠緑に、彼女のパンツだけは絶対に当てないと大変なことになると感じる大輝だった。


「ちゃっちゃと始めちゃおうか。この5枚のパンツが誰のものか当てるだけなんだから、後輩くんには簡単でしょ」

「パンツ当て名人みたいに言わないでくださいよ」


「だって、後輩くんっていつもみんなのパンツ見てるんじゃないの?」

「それは酷い言いがかりです。たまにしか見たことないですよ」


「言ってくれればいつだって見せてあげますよ、先輩」

 うっとりと頬を染めながら言う翠緑を大輝はスルーする。


 目の前に並べられたパンツは、白地にピンクのリボンがついた可愛いもの、黒のスケスケのレース、しまパン、イチゴ柄のパンツ、紺地に白の水玉となっていた。いずれも使用感があり、さっきまで目の前のみんなが穿いていたものだということで、大輝は見るだけでも恥ずかしく、ドキドキしてしまう。


「手にとって確かめてもいいし、なんなら頭にかぶったり、匂いを嗅いでもいいよ。その反応を見て所有者を推理するのもありってことで」


 嬉しいルールではあったが、手に取るくらいならともかく、それ以上は変態にもほどがある。明日香からは悲鳴のような叫びが漏れ、葵からも冷たい視線をもらってしまう。罰ゲーム回避のためとはいえ、葵たちに嫌われては意味がない。


 大輝はパンツを舐め回すように見た上で、みんなを凝視する。

 黒のレースは、葵や明日香が穿いてくるとは考えにくい。未来が本命、翠緑が対抗、大穴で真由だろうか。


 逆にしまパンは未来や翠緑が穿いているイメージがない。本命は真由で、対抗が明日香、大穴で葵か。

 イチゴ柄は未来や真由とのイメージが遠い。水玉と白のパンツはどちらも誰が穿いていても不思議ではない。


「んじゃ後輩くん、これだと思う人にパンツを手渡してあげて。答え合わせはみんないっせいにするよ」

「僕が直接手渡すんですか?」


「だって匂いも嗅いでくれないどころか手にとってもくれないじゃないか。なんなら、パンツはかせる?」

「それは遠慮しておきます」


 そんなハイレベルな経験は恐れ多いにもほどがある。とはいえ、みんなノーパンということはないのではなかろうか。浴衣からチラ見えする太ももの先が見えそうで、大輝はどぎまぎする。


 恥ずかしそうにM字開脚したときに、エッチな黒のレースの下着を穿いているのは誰なのか。握ったパンツとみんなを見比べ、妄想の中で穿いてもらう。直感は未来を選んでいた。


「あらあら、大輝くんのイメージのあたしってこんなエッチなパンツを穿いてるのね」

 パンツを手渡すと、未来は笑顔で答えた。


 次にしまパンはイメージ通り真由に手渡す。

「まぁ、最初にボクのパンツを見た時もこのパンツだったっけ? 後輩くんもしまパン大好きだよね」


 さすがに大好きですと返事をするわけにもいかず、大輝は苦笑する。

 次に、イチゴパンツを明日香に手渡す。彼女が穿いていたものだと想像するとドキドキする。明日香も、顔を真っ赤にして受け取り、小さく「ばかっ」とつぶやいた。


 紺の水玉パンツを翠緑に手渡す。なにか間違った気がしなくもない。

「へぇ、先輩って翠緑のパンツのイメージこれなんですね。いいこと聞きました。今度、穿いているとこ見せてあげますよ。内緒ですよ」


 公然と言われて内緒もなにもない。

 最後に残った白のパンツを葵に手渡す。緊張する一瞬だった。


「そうか。大輝から見た私のイメージってこんなに清楚なのか。うむ、これは参考になるな」

 頬を染めて言う葵は可愛かった。


「じゃあ答え合わせいくよー。しまパンは誰の?」

 真由が見回すと、パンツの持ち主は恥ずかしそうに手を上げた。翠緑だった。


「さすがに公開処刑みたいで恥ずかしいですね。でも、これで先輩は翠緑の言うこと何でも聞いてくれるんですよね?」

 嬉しそうに言う翠緑に、大輝は外してはいけない人のパンツを間違えた予感がした。


「次は、黒のレースは未来のであってる?」

 真由の問いかけに、未来は優しく首を振った。かわりにおそるおそる手を上げたのは、葵だった。


「清楚とは真反対のパンツだったね。でも、後輩くんの驚き方を見てると、満更でもないみたいだよ」

 にししと真由が笑う。葵は大輝の反応を見てほっと胸を撫で下ろしていた。


「んじゃ、次のイチゴパンツって明日香ちゃんの? そろそろ当ててあげないとね」

 真由の問いかけに、明日香は小さく首を振った。大輝は連敗に肩を落とす。イチゴパンツは意外にも未来のものだった。


「あたしだってこういう可愛いの穿くわよ」

 本当に、見た目ではわからないことだらけだった。


「えっと、白も水玉も葵と翠緑ちゃんのものじゃないから、後輩君は全敗だね。ねぇ、わざと外してない?」


「そんなわけないじゃないですかっ」

 じと目で言う真由に、大輝はすかさず返事をした。


「水玉はボクだから、白は明日香ちゃんか。ある意味、ここは一番イメージ通りだと思うけど」

 それぞれのパンツが持ち主の手に渡ったところで、大輝はこの場から逃げ出したくなった。五人からどんな無理難題をふっかけられるか恐ろしいことこの上ない。


「んじゃ、後輩君には何をしてもらおうかなぁ。最初だから軽いのがいいよねぇ。後輩君の昨日のオナニーのオカズは何だったのか教えて」


「うげぇ、そっ、そんなこと答えなきゃいけないんですか?」

 大輝は予想外の命令に慌てる。


「昨日はひとりエッチしてないってことはないでしょ。ちゃんと抜いて合宿に来たんだよね。男の子がオナニーしてるなんて別に恥ずかしいことじゃないし、明日香ちゃんだって教えてくれたんだよ。後輩くんも言わないと不公平じゃないかな」


「それはそうなんですけど……」

 大輝は葵をちらっと見る。ここは正直に言ってしまうか、それとも嘘をつくか。


「ほらほら、男らしくないよ」

「……えっとその……みんなにシてもらってるのを想像して……」


「うわっ、その発想はなかったヨ。結局、みんなとシたかったんだ。ボクらをハーレムにしようだなんて、後輩くんもなかなかやるなぁ」


 みんながみんなオカズにされたと聞き、全員頬を赤らめて俯いた。その中でも想定外にオカズにされてた真由と未来の反応が初々しい。未来は「男の子だからしょうがないわよね」とつぶやいたが、声が震え、動揺を隠せずにいた。


「想像だけなんだからいいじゃないですかっ。だから言いたくなかったのに」

「で、何回シたのかな?」


「そこまで言うんですか? もうこの際だから全部暴露しちゃいますけど、今日、みんなの水着姿を見て反応しないように5回ほど……」


「ってことは、全員、後輩くんにぶっかけられたってことか。へへぇ、それは悪い気がしないなぁ」


「でもしっかりおっきくしてませんでしたか?」

 じと目で翠緑が突っ込む。


「しょうがないじゃないですか。みんな可愛いんですから」

 大輝の開き直りに、みんな満更でもなく、恥ずかしそうに照れ隠しをしている。


「じゃあこの辺で勘弁してあげて、と。次は誰にする?」

「次いきまーす。先輩は赤ちゃん何人欲しいですか?」


 翠緑の質問はソフトなものだった。手加減してくれたのかと、大輝は安心して答える。


「男の子と女の子一人ずつ、かな」

「えへへ、じゃあちゃんと責任取って二人産ませてくださいね」

 手加減どころか一番の地雷発言だった。


「なんでそうなるの。一般的な話じゃなかったの?」

「先輩っ、酷いですぅ。翠緑の初めてもらってくれるって約束したじゃないですか」


 大輝は一瞬、返事に詰まる。葵と明日香の視線が冷たかった。


「あれは話の行きがかり上というか……。それでなんで赤ちゃんって話になるの」

「エッチしたら赤ちゃんできるじゃないですか。ひとりできたら二人目もそう変わらないかなって」


「待って。エッチしても必ずしも妊娠しないし。ちゃんと避妊するから、ねっ」

 葵と明日香の目は冷凍イカのように冷たく濁っていた。


「そんな。翠緑とのことは遊びだったんですか。ショックですぅ」


「遊びとか以前の段階だからっ。ほらっ、泣かないで。ってか、それ嘘泣きだよねっ」


「後輩くんもなかなか鬼畜が板に付いてきたね。ほら、翠緑ちゃんもその辺で許してあげなよ」

「はーい」


 真由に諭されると、翠緑はやはり演技だったようで、「べーっ」と可愛く舌を出して笑った。とんだ小悪魔だった。遊ばれていたのは大輝の方だ。


「じゃあ次はあたしの番ね。大輝くん、どうやって泣かせて欲しい?」

 によによと笑みを浮かべながら未来が言う。


「泣かせるの前提ですかっ」

「だって、いつも大輝くんって女の子を泣かせてるじゃない。たまには自分が泣かされる側に回らないとね」


「そんな記憶ないんですけど……」

「だから罪作りなのよ」

 大輝の弁解にも未来は取り合わない。


「そうね。じゃあ、あたしとの赤ちゃんは何人欲しい?」

「天丼ですかっ。これはきっぱり言いますけど、ゼロです」


「あらあら、体だけが目当てなのね。でも大輝くん、気をつけた方がいいわよ。コンドームに穴が開いてるかも」

「なんで肉体関係前提なんですかっ。未来先輩は僕のこと好きでもないじゃないですか」


「あら、そんなことないわよ。葵ちゃんほどじゃないけど、あたしも大輝くんのこと好きよ」

 どこまで本気がどうかわからないことを直球で告白され、大輝はたじろんだ。


「ちょっと待て。なんでそこで私が出てくるんだ」

「もう、葵ちゃんもいい加減素直にならないと、後輩に大輝くん取られちゃうわよ」


「大きなお世話だ。そうだなぁ、なんでも命令できるんだっけか。じゃあ、ここから一週間、オナニー禁止とさせてもらおうか」

 サディスティックな笑みを浮かべて葵は宣言した。大輝は絶句するものの、すぐに未来からの助け船が入る。


「葵ちゃんにシてもらえばOKってことね。年頃の男の子だもの、三日もしないと精巣が爆発しちゃうわよ。葵ちゃんもちゃんと責任取って処理してあげないとダメね」


「なんでそういう話になるんだ。それじゃ罰にならんだろう」

「いいの、葵ちゃん? 我慢できずに大輝くんが明日香ちゃんたちを襲っちゃうかもしれないわよ。それに……」


 未来の耳打ちに、葵は愕然として言った。

「足で踏んづけてやるくらいならしてやらんこともないがな!」


 最後に残った明日香は、恥ずかしそうにもじもじと大輝を見つめ、躊躇いながら命令した。


「キス……してほしい。葵会長とだけしたなんてずるい」

「なっ?」


「あれは不可抗力というか、ゲームだから……」

 まさかゲームでもみんなの前で期すするのは大輝も恥ずかしい。葵は唖然とし、他のみんなはキスシーンを想像して逆に盛り上がる。


「今日いっぱい恥ずかしいことされたから、いい思い出も一つくらい欲しい……」

「それはそのなんていうか……、みんなの前ってマズくない?」


 大輝は葵の視線が気になってしょうがなかった。


「後輩くんは、二人でこっそり本気のキスをしたいってことかい? それはレクとしては許せないなぁ。普通にキスをするのも許せない人もいるみたいだし、ほら、後輩くん、これでいこう」

 そう言って真由が渡してきたのは飴玉だった。


「舐めて。で、それを口移しで明日香ちゃんにあげてね。これならただのゲームでしょ」


 落としどころとしてはまずまずだったろう。真由の提案大輝はほっとして、渡された飴を舐める。口の中に広がる甘い味にじわりと唾がにじみ出る。たっぷりと唾液がまとわりついた飴を舌で転がしながら、明日香を見つめる。


 これはこれでやはり恥ずかしい。

「えっと、明日香……いくよ」


 隣り合い、見つめ合って顔を近づける。飴を渡すだけとはいえ、唇と唇の接触は避けられない。ゲームだとしても、キスであることにほかならない。明日香は大輝を受け入れるためにそっと目を閉じ、顎を上に向ける。


 大輝も唇と唇が重なる瞬間に瞳を閉じる。明日香の長いまつげが可愛いと感じた。


 ぷにっとした柔らかい感触と、割れ目から漏れる熱い吐息を感じると、大輝は舌を伸ばして彼女の口の中へと侵入していく。未知の領域に踏み込む恐れよりも、抱擁感が充足している。舌の上に乗せた飴を転がすように渡すと、明日香の柔らかい舌が優しく受け取って舌と舌を絡めてくる。


「明日っ……むぐっ・・…」

 口移しで飴を渡せば終わりと考えていた大輝は、想定外の明日香の貪欲さに面食らう。それでもキスの気持ちよさに負けて、ただ流れのまま、とろけるように甘いキスをむさぼった。


 飴はあっという間に溶けてしまった。酸素を求めて唇を離すと、大輝は余韻を感じてぼーっと明日香のうっとりとした顔を見る。紅潮した彼女は、恥ずかしそうに真由に訊ねた。


「あの……もう一個ないですか、飴……」

「あるけど、キスはもうごちそうさまだよっ」

 真由たちも全員、濃厚なキスシーンにあてられて頬を染めていた。

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