閑話17.5 王様ゲームはご褒美ですか
夕飯を大広間で食べ終えた後に部屋へ戻ると、布団が6人分揃って敷かれていた。美穂ちゃんだけは別室で、既に酔いつぶれた彼女を介抱して部屋に押し込めてある。
「えっと、その……なんで僕の分もここに敷かれてるんですか?」
去年と同様に仕切を挟んだ窓際に隔離されると思っていた大輝は驚く。
「何も問題が起きないとわかったからな。甲斐性なしだし」
「甲斐性なしとか言わないでくださいよ。まぁ、だいたいあってるんですけど」
「むしろ襲えるものなら襲ってみろというものだ」
ない胸を張って葵が言う。
「むしろ後輩くんが襲われる方なんじゃないかな」
「ふふふっ、今夜は寝かせませんよ先輩」
肩をすぼませた大輝に、追い打ちをかけたのは真由と翠緑だった。二人の野獣のような視線に大輝は怯える。
「あんまり大輝をいじめないでください」
「私の目が黒いうちに抜け駆けなんてさせるものか」
明日香と葵が大輝を守るように言う。その様子をにまにまと楽しそうに未来が見つめて言う。
「まぁまぁ。みんなで大輝君をおもちゃにすれば丸く収まるじゃない」
その一言で葵や明日香まで大輝を鋭い視線で見つめてきた。
「それって僕だけ人権無視されてますよね?」
赤信号、みんなで渡れば怖くないではないが、これまで味方をしてくれていた葵たちにまで手のひらを返され、大輝は貞操の危機を覚えて体を小さくする。
「冗談はさて置き、長い夜を盛り上げるために、王様ゲームとしゃれ込もうじゃないか」
真由の提案に、とても一難去ったとは思えない大輝だったが、とりあえず敷かれた布団の上に腰を下ろす。生徒会のメンバーは全員参加し、円陣を組むように座る。大輝の左隣が明日香で、右隣が翠緑だった。正面は真由で、その左右に葵と未来がいる。
全員、浴衣姿なものだから、浴衣の裾から覗く足が艶めかしい。胸元もゆるめでちらっと谷間が見えそうだ。色っぽい唇もドキドキさせられるし、どこを見ていいのか大輝はわからなかった。
「王様ゲームのルールはみんなわかってるよね。王様の命令は絶対だから。命令拒否とつまんない命令したら、服を一枚脱いでもらうから」
「おいなんだそのルールは。浴衣の下はパンツしか穿いてないぞ」
葵の抗議に明日香も頷く。
「そんなこともあろうかと、ボクはちゃんとブラをつけておいたよ」
「お前が言い出しっぺだから当然だろう。ズルいぞ真由」
「ええっ、みんなノーブラなの? しょうがないなぁ、これなら公平でしょ」
そう言って真由は浴衣の中に手を入れてブラを外し、それを大輝へと放り投げた。純白のブラジャーが宙を舞う。それを呆然と見つめていると、当然ながら頭に被さる。
真由の甘い香りと人肌のぬくもりが感じられる。今、直前まで彼女の豊かな乳房を包んでいた下着の感触に大輝は頬を赤く染める。
「それ、後輩くんにあげるから。頭にかぶっていていいからね」
嬉しい申し出というか、さすがにブラを帽子のようにかぶるのは変態にもほどがある。葵や明日香の視線が冷たくならないうちに大輝は慌てて手に取った。すべすべとした感触に、ついにぎにぎしたくなるのだが。
「先輩のエッチ。そんなにブラが欲しいなら翠緑のもあげますよ?」
「いや、いらないし。ってか、これどうすればいいのさ」
突っ返すわけにもいかず、かといってその辺に放置するのもどうかというものだった。困惑してみんなを見回すが、真由と未来はにやにやしてるだけであり、葵と明日香は不機嫌そうな顔をしている。証拠隠滅と、まさか食べてしまうわけにもいかない。
「せっかくだし、ブラつけてみたら? けっこう似合うかもよ」
全部を見通して、真由は笑いをこらえながら言う。大輝は仕方なく危険物を布団の下に隠した。
「じゃあ始めるよ」
用意周到というか、いつの間にかクジ用の割り箸を握っていた真由がみんなの前に差し出す。それぞれが緊張しつつ手を伸ばしてクジを一斉に引く。前屈みになるものだから大輝からは葵と未来の胸元が見えそうになる。つい、クジよりもそっちが気になってしまうのは男としてしょうがないだろう。
「王様だーれだ?」
みんなクジに書かれた番号を見られないようにさっと手で隠し、期待を込めつつ結果を見ていた。大輝の番号は4番だった。
「えっと、これって……?」
数字はなく、ただ先端が赤くマークされていたハシをみんなに見せたのは明日香だった。
「最初は明日香ちゃんが王様だね。ほら、早く命令、命令」
「えっ、えっ……」
せかされた上に、つまらない質問をしたら罰があるため明日香は困惑している。
「一番はじめだからどんな命令でも良かろう」
と、すかさず葵がフォローを入れてようやく明日香は落ち着いて大きな胸をなで下ろす。とはいえ、一息ついたからといって命令がすぐに頭に浮かぶものでもなかった。困惑して左右を見回し、大輝と目が合う。
(ほら、大丈夫だから)
大輝は笑顔で明日香の背中をさする。同時に指で4の字を書く。これなら女子同士で命令をこなすことになり、明日香の負担も減るだろう。
「えっと……じゃあ、4番が3番の肩を揉む」
「えっ?」
油断していたところにまさかの指名があり、大輝は驚く。同時に、明日香もしまったという表情をする。
「3、4番は誰?」
奉行の真由が催促するようにみんなを見回す。大輝はおそるおそる手を上げるとともに、3番が誰なのか気になった。
「あらあら、大輝くんに肩を揉んでもらえるのかしら。最近、肩こりが酷かったからちょうどいいわね」
一番の安全牌だった未来が3番だった。大輝はほっと胸をなで下ろし、彼女の背後に回り込む。
「肩を揉むついでにおっぱいも揉んだっていいからね」
「そういう怖いことは言わないでくださいっ」
「あらあら、別に大輝くんがそうしたいなら、うっかり手を滑らせてもいいわよ。おっぱいも凝ってたところだし」
「未来先輩も乗らないでくださいよっ。後が怖いんですから」
未来はあらあらと微笑みを絶やさない。比較的絡みの薄い彼女の肩を揉むのは、少し緊張した。年上だけあって大人っぽい体つきをしている。小さい肩の丸みなど、思わずぎゅっと抱きしめたくなるほどだった。
「あはぁん」
ごくりと唾を飲んで肩を揉み始めると、未来はすぐに色っぽい声をあげて腰をくねらせる。
「ああっ、いいっ。大輝くんいいわぁ。そう、そこ。もっと、もっと激しく、んっ、もっと、もっとしてぇ」
悪のりしているのか、未来は肩を揉まれるたびに嬌声をあげる。体をよじらせるものだから、浴衣の胸元から丸い膨らみが見え隠れする。スタイルの良い大人びた膨らみが大輝の肩を揉むのとリズムを合わせてぷるんぷるんと揺れる。
肩を揉みながら、大輝はついつい視線がそっちの方へと吸い寄せられてしまう。あとちょっとで乳輪やら乳首やらが見えそうだった。
「未来、悪ノリが過ぎるぞ。大輝ももう十分だろう。次を始めるぞ、次」
「やぁん、もういけずぅ。でも、大輝くんも上手になったわね。もう少しでイっちゃいそうだったわ」
大輝の頬が緩んでいるのを見て、不機嫌そうに葵が止めに入った。どこまで演技だかわからない表情でおどける未来に、大輝は想像よりも早く済んでよかったと、ほっと一息をつく。
「次はボクが王様だね。じゃあ、大輝と2番がポッキーゲームをする」
2回戦は真由が王様を引き当て、いきなりとんでもないことを言い出した。
「ちょっと、なんで指名なんですか。それってズルじゃありませんか?」
「んー、今回の特別ルールだよ。王様と
ルールにうるさい葵だが、どういうわけか顔を真っ赤にして割り箸の先を見つめて固まっている。よく見れば箸には2の番号が振られている。
「うっ、うむ。特別ルールなら仕方がないな」
「ちょっと葵会長? 本気ですかっ」
会長特権は絶対のため、真由ルールのまま進行することになった。2番の葵と大輝が円陣の中央に進む。王様の真由がポッキーを手に取り、まず葵に咥えさせた。
「ルールはわかってるよね。お互いに端からポッキーを食べ始めて、先にギブアップした方が負け。わざと折るのも罰だからね」
「うむ。要はポッキーをしっかり食べていればいいわけだろう。簡単ではないか」
「おっ、強気だねぇ。普通に食べるだけというのがこのゲームでは一番難しいんだけど。葵にできるかな?」
「馬鹿にするではないか。こんなものなんでもない」
そう葵は強がるが、既に緊張して咥えるポッキーの先が震えている。
「ほら、後輩くんも早くやらないと。チョコの美味しいとこが溶けちゃうじゃないか」
どういう催促なのかはわからなかったが、大輝も緊張しながら先を咥える。わずか10数センチの距離で正面に見つめ合う形になった。ポッキーを通じて二人は繋がっているということを意識すると、大輝も平静ではいられない。
「いつまで見つめ合ってるのかな。ギャラリーを飽きさせちゃだめじゃないか」
真由の催促で、ようやく我に返って大輝も葵もポッキーをかじり始めた。
はむはむと少しずつ慎重にポッキーを折らないようにかじっていく。大輝は鼻息が葵にかかるのではないかと気が気でなかったし、葵も吐息が大輝に伝わるのではないかと内心、心配をしている。
ただ、問題はそんなことではなかった。かじればかじるほど、二人の距離は近づいていく。10センチはあったものがすぐに5センチを切り、さらに漸進していく。見る角度によっては既にキスしているように見えただろうし、実際に翠緑は黄色い声をあげて顔を手で覆っている。
「
「ひゃっ、
いよいよ唇と唇が接触する間近になり、大輝は終戦を提案するものの、葵に一蹴される。
「
ポッキーゲームの終焉をギャラリーたちは固唾をのんで見守っている。真由と未来はにやにやとしているし、翠緑は興奮しっぱなしだった。明日香だけが表情を凍り付かせていたが、それでもドキドキしているのか微かに頬が赤く染まっている。
大輝もドキドキでいっぱいだった。心音が葵に伝わるのではないかという距離で、必死にアイコンタクトを彼女に送る。だが、場の空気に飲まれた葵には通じず、彼女はそのまま勢いよく大輝の唇にむしゃぶりつくと、そのまま彼を押し倒した。
「んっ、んっ、んんっー!」
葵の柔らかな唇の感触に感動するとともに、さらに生暖かい何かが大輝の口の中へと侵入してきた。それが彼女の舌だということに気づいた頃には抵抗する気も失せ、蹂躙されるがままに身を任せる。
葵の舌が大輝の舌に絡みつく。脳天がしびれるような快感に、大輝は呆然と目を見開く。葵はいつの間にかまぶたを閉じている。言い訳のしようのないキスに、大輝も負けずと舌を絡め返す。
「ふっ、私の勝ちだな」
呼吸の限界まで大輝の唇は蹂躙され続け、口の中のポッキーを葵に奪い取られた。力尽きて布団の上に横たわる大輝を尻目に、葵は口元をぬぐって勝利宣言をした。
「いや、そういうゲームじゃないから」
「あらあら、ごちそうさま」
「先輩、ずるいです。翠緑にも熱いベーゼをしてくださいっ」
三者三様の反応をよそに、一人沈黙を続けている明日香の目に炎がともったのは言うまでもない。
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