閑話17.2 海だ! 水着だ! 覗きはまだか!
「海だー」
と叫んだのは去年のことだったが、今年は翠緑と真由、そして美穂ちゃんが叫んだ。
「ちょっ、なんで先輩たちはやらないんですか? これじゃあ、翠緑たちが馬鹿みたいじゃないですか」
葵と大輝、そして明日香と未来の静観組は顔を見合わせる。
「いや、まぁ、ほら、同じネタは二回も使えないから」
「言ってる意味がわかりませんっ。せっかくの海なんですから、みんなではっちゃけた方が楽しいですよ」
「そんなに慌てなくてもよかろう。本番はこれからなのだからな」
テンションの高い夏の海。とはいえ、まだ海開き前のためにやはり浜辺には誰もいない。貸し切り状態ではある。その分、シャワー室等も使えないのだが。
浜から陸続きの出島へ行く。林を抜けると再び浜とエメラルドグリーンの美しい海がお目見えする。
Tシャツ、半ズボンに着替えた大輝はパラソルやクーラーボックスなどの荷物を背負っている。男手の少ない生徒会では、力仕事はまさに大輝の仕事だった。
それぞれが私服に着替えていた。葵は清楚な白のワンピース。明日香はパステルブルーのキャミソール。去年やらかした美穂ちゃんも今年はTシャツにスカートという地味な格好をしている。
ビーチにめぼしい男がいないことがわかっているからだろうか。
真由はホットパンツにチューブトップという、露出度の高い服装だが、元々水泳部というだけあって、エロさよりも健康的なイメージが強い。未来は大人っぽくロングスカートと長袖のブラウス、それにサングラス、帽子と日焼けを警戒した服装だった。
(どうせすぐみんな着替えちゃうんだけど)
本命はやはり水着だった。可愛い女の子たちの色とりどりな水着姿を独占できる。むしろ海パンにテントを張ってしまわないか心配なほど大輝は彼女たちの水着姿に期待をしていた。
パラソルを設営している間に、女性陣は茂みで水着に着替えている。
今年こそ覗きに行ってみたい気もしたが、葵に大きな釘を刺されている。
「わかってると思うが、覗くんじゃないぞ。もし覗いたら、今日は全裸で一日過ごしてもらうからな」
「ええっ、先輩覗きに来てくれないんですか? 翠緑、ちょっとだけ期待してたのに」
「その期待してたのって僕の裸じゃないよね?」
「覗きは男のロマンだからね。葵が言ってるのも、『押すなよ、絶対に押すなよ』っていうのと同じだから。もしバレても、恥ずかしくないようにボクも一緒に全裸で過ごしてあげるから是非覗きに来てもらいたいものだね、後輩くん」
むしろ何もなくとも脱ぎ出しそうな真由が言う。
「そこまで言われて覗きに行けるわけないじゃないですか」
「まぁまぁ。どうせラップタオルで着替えるんだから、見たいものなんて見えないわよ」
落胆する大輝に、さらに現実を突きつける未来だった。
「あっ、すごい。もう終わったんですね。先輩ってけっこう頼りになるんですね」
パラソルが完成すると、水着に着替えた葵たちが戻ってきた。
これだけが楽しみだったというか、恒例の目の保養、もとい、品評タイムである。
未来と美穂ちゃんは大人っぽいシンプルな三角ビキニだった。未来が青で美穂ちゃんがライトグリーン。未来が紐パンツということを除けばほぼ同じデザインの色違いだった。たわわに実った年上の色香がふんだんに現れていて、ついつい胸の谷間に視線が引き寄せられる。
「あらあら、どこ見てるのか丸わかりね」
大人の余裕というか、未来は大輝の視線も軽く受け流す。
女性陣で一番胸が大きい明日香はというと、ワンピースタイプの水着を着ていた。腰にミニスカートが付いているものの、単なる飾りで、大事な三角形の部分は見えている。といっても水着なのだが。
それよりも胸元がすごいことになっていて、サイズが合ってないのか、元々こういうデザインなのか、胸の部分はカップになっていて、彼女の豊かかすぎるおっぱいが半分くらいこぼれている。
中央に大きめの可愛いリボンが付いているものの、目に入らない。張り付いた水着から浮き出るむっちりとしたお腹のラインも魅力的だ。
「あんまり見ないで……恥ずかしいから……」
もじもじとするものの、体を隠そうとはしない明日香だった。彼女につられて、大輝も急に恥ずかしくなって頬を染め、視線を逸らす。
「先輩、翠緑の水着もちゃんと見てくださいよ」
「ごめん、むしろ見ちゃいけない気がしてた」
視界にいれないようにしていた翠緑の水着を見る。それを水着と呼んでいいものなのか。ほとんど肌しか見えず、申し訳程度に赤い紐のような布がわずかに大事な部分を隠しているだけだった。彼女のあどけない裸がほぼ丸見えで、見ているだけで葵と明日香の機嫌が悪くなりそうだ。
「というかだね。見る水着の面積ほとんどないじゃない。裸にしか見えないんだけど」
「ええーっ、可愛いじゃないですかこの水着。それに、肌を焼こうと思ったらこういう布面積が少ない方が一番じゃないですか」
どう考えても感性がずれていた。ほかに男の目がない浜でよかったと大輝は胸をなで下ろす。
第二の問題児である真由はというと、みんなの中で一番地味な水着だった。紺色のワンピースタイプで、布面積も一番広い。肌の露出も少ない。胸元に白い布を貼りつけていて、そこに「真由」とマジックで書いてある。
「それ、スクール水着じゃないですか。しかも、学校では使ってないやつ」
「うん、旧スク水ってやつだね。よく知ってるね、さては後輩くんもマニアだったか」
「違いますって。古い漫画で見ただけですっ」
古くなくてもそこかしこの創作物で散見する旧スクには独特の魅力があり、大輝も密かにチェックしていたものの一つだった。
それをスポーツ少女である真由が着ると、水泳によって鍛え上げられた肉体と、ほどよく圧迫された豊かな胸部、少女らしいショートヘアとが一種の芸術美を形作っていた。
性的な魅力というよりは、むしろ息をのむ美しさというものだ。
「くそっ、その手があったか。真由め、大輝の目を奪うとは卑怯ではないか」
肌の面積が戦力の決定的差でないことに、葵が愕然としていた。
その彼女はというと、目一杯背伸びした純白のビキニを身につけていた。すべすべのお腹と、きゅっと締まる腰のライン。反面、大きめのたわわなお尻。華奢ならが均整の取れた肉体は、まさしくモデル体型と言えよう。
いつもの大平原も、ささやかながら寄せて上げて作った谷間が白いビキニとともに眩しい。水着らしいシンプルなデザインながら、一瞬、下着姿かと見間違えるような色気がある。
「葵はパッド入れすぎだって。それでもこの中で一番ちっちゃいけどね」
「いらんことを言うな真由っ」
大輝が葵の水着姿に見惚れているのを見て、すかさず真由が茶々を入れた。小さな布きれ一枚で包むおっぱいは手のひらにすっぽりと収まるサイズで、手の中でじっくりこねくり回したいかわいさがある。
「先輩も早く着替えてきてくださいよ。それじゃ水もかけられないじゃないですか」
じと目で言う翠緑の声で我に返り、大輝も荷物を持ってそそくさと茂みへと向かった。
人気の無いところで大輝は一息つき、自身の股間に目をやる。
ズボンをはいているとはいえ、危うい状況であった。垂涎とも言える女性陣の水着姿に息子はあわや大興奮といったところだ。とはいえ、試練はむしろここからなのだ。水着になれば股間の膨らみをごまかすすべはない。
ラップタオルを腰に巻き、バッグから水着を取り出す。何の変哲も無いトランクスタイプのはずが、どういうわけか黒のブーメランパンツにすり替わっていた。
誰の悪戯だといっても、心当たりが多すぎてわからない。恥ずかしいといえば恥ずかしいが、女性陣がきわどい水着を着たりもしているのだから、釣り合いが取れているともいえる。下手に抗議すれば全裸で過ごせなんて言われかねず、大輝は諦めてそれを穿く。
微妙にサイズが小さいのか妙な圧迫感がある。その割に伸縮性があるようで、こんもりとした股間の膨らみが丸見えだった。
開き直り、胸を張って堂々と浜辺に戻ると、女性陣から歓声が上がった。
「後輩くんも大胆だね。そんなもっこりを強調する水着を用意してくるなんてさ」
さすがの真由も頬を赤らめ、にやにやとしながら言う。
「あんたが仕組んだじゃないんですか」と思わず口に出してしまいそうになるが、ぐっとこらえる。
みんなの反応は真由と大差ないものだった。明日香は耳まで真っ赤にして顔をそむけ、ちらちらと股間の膨らみを見てくる。未来と美穂には、にやにやと品定めするように見つめてくるし、葵は無表情を保っているものの、微妙な視線の動きがどこを見ているか丸わかりだった。
「先輩、えっちすぎですよ。そんな水着を着てくるなんてセクハラですよ?」
「いや、君にだけは言われたくない」
大胆さで言えば翠緑の紐しかない水着の方が上だ。今にもこぼれそうなたわわな果実をできる限り見ないように大輝は言う。
しかし、誰がすり替えたのかわからない状況だった。むしろ自分が間違って水着を持ってきたのだろうかと心配になる。
「みんな揃ったことだし、今年も大輝くんにオイルを塗ってもらいましょうか」
未来の開戦の合図によって、女性陣たちに緊張が走る。
最初に誰が塗ってもらうのか。そもそも全員分となるとかなり時間がかかってしまう。必然的に、大輝が塗れる人も限られる。
「美穂ちゃんは先生なんですから、遠慮してくださいね。大輝に塗ってもらってから私がしてあげますから」
「ちょっと、葵ちゃんずるーい。先生だって妙齢の女子なのよ。大輝くんに塗ってほしいし」
「翠緑ちゃんはボクが塗ってあげよう。いや、待てよ。ボクと一緒に塗りっこしないかい」
「ヤです。塗りっこなら大輝先輩としたいです」
「つれないなぁ……」
いつ修羅場になってもおかしくない状況に、未来だけがにやにやと楽しそうに見回している。
「ここは公平にクジで決めよう。あたりは2本。あとは女子同士で塗ってもらえ」
こういう事態も想定済みだったのか、葵はパッとクジを見せる。人数分の割り箸を握っている。
「赤い印がついているのがあたりだからな」
「葵が用意したんだから、当然、残りが葵のだよね」
「仕方あるまい。当たる確率は一緒だ。誰から引くんだ?」
みんなが牽制してにらみ合うなか、未来が先陣を切ってクジを引く。
「あら、残念。はずれちゃった」
割り箸に印はない。ほっとする一同と、口調ほど残念に見えない未来が対象的だった。
「じゃあ次はボクが引こう。けっこう、クジ運って良い方なんだよね」
自信ありげに引いた真由もまたはずれだった。
「そろそろあたりが出そうね。先生、がんばっちゃう」
美穂もまたはずれ、真っ白の割り箸を恨めしそうに見つめて言う。
「ちょっと葵ちゃん、あたりちゃんと入ってるんでしょうね」
「当然ですっ。不正のしようはないでしょう?」
「でも葵ちゃんだし、何かズルいトリックを使っていても不思議じゃないような」
「自分がはずれたからって言いがかりはやめてください。ほら、明日香っ、次はお前が引け」
くじは3本。あたりは2つ。明日香は息をのんで引いた。割り箸の先は赤く染まっていた。はじけるような笑顔を見せるとともに、ほっと肩を落とした。
「最初に引く方が不利なんじゃないかい、これ」
「結果論だ。最後まであたりが残らないことも多いんだぞ」
翠緑の番が回って確率は五分五分である。どちらがあたりか穴が開きそうなほど見つめて一本を引き抜く。割り箸の先は、また白いままだった。
「ううっ、そんな気がしてたんですよ。翠緑っていっつもクジ運悪くって……」
「ふふっ、つまりは私の勝利ということだな」
手を開いて最後に残ったクジを開示する。赤く染まったそれが太陽に輝く。
「一番つまんない結果になったと思うんだけど、やりなおさないかい?」
「自分がはずれたからってズルいぞ真由。文字数の都合だってあるんだからそうそうやり直しなどできるものか」
メタいことを葵が言う。とはいえ、妥当すぎる結果にはずれた女性陣からは不平の声があがる。
そこまで予想していたのか、葵はやれやれとため息をついてクジを回収し、一本ずつあたりとはずれを省いて再びクジを握る。
「しょうがないから敗者復活戦といこうじゃないか。3人くらいなら時間もそれほどかかるまい」
結果、タフネゴシエーターとなった真由が一発であたりを引き当てた。
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