閑話17.1 夏合宿。女の子だらけだと車中も楽しいものです

 生徒会恒例の夏合宿が今年もやってきた。

 場所は毎年同じ、千葉の房総だ。メンバーも去年とほぼ一緒。一年の翠緑が加わったくらいだ。日程だけ、どういうわけか今年は2泊になっている。


 テスト休み中のため、2泊と言わず1週間でも可能だが、予算の問題もあろう。

 去年の失敗は踏まないように、と大輝は今年、コンドームは隠し持っていなかった。堂々と持っているというわけではない。本当に用意がない。


 今年こそ脱童貞、というか、ちょっとくらいそういうことがあってもいいとは思うのだが、さすがに生でするというわけにもいかず、今年も何もない夏で終わりそうだった。


 合宿場所は海、ということで、今年はしっかり水着を下に着けてこようと思ったものの、それを察した葵に大きな釘を打たれてしまう。つまりーー


「水着を着てくるなんて小中学生みたいなことをしたら、容赦なくはぎ取ってやろう。フルちんで泳いでもらうからな」


 などと笑顔で言われてしまえばどうしようもない。とはいえ、今年はしっかりラップタオルは準備してある。問題は起こりえない。


 わくわくしすぎて寝不足ではあったが、遅刻はしない。制服に着替えて東京駅へ。

 去年はぼっち席に押し込められたが、今年は翠緑がいるため、4対2か3対3で座ることになると思っていたら、水泳部のエースにして生徒会幽霊副会長の真由も参加していた。


「活きのいい一年が入ったって聞いてさぁ。まぁ、ボクも今年で卒業だし、こっちでも思い出を作っておこうと思ってサ」


 などと明るく言う。見回せば真由の参加を知らなかったのは大輝だけのようだった。目を丸くして彼女を見るが、参加資格がないわけではない。


 去年は遅刻してきた生徒会担当の美穂ちゃんもやってきた。今年は去年の80年代風アイドルファッションではなく、いつものスーツ姿だった。成長したと言うべきだろうか。


 問題は新入生の翠緑にあった。往復の行程は制服で、との連絡があったはずだが、どういうわけかTシャツ一枚にカートを引きずっているという出で立ちでやってきた。


 Tシャツ一枚は比喩ではない。やたらとダブダブのシャツを一枚、着ているだけだ。大きすぎてほとんどワンピースのように見える。ちゃんとズボンを穿いていてほしいところだが、シャツの下がどうなっているのかは見通せない。むしろ、Tシャツをワンピースと見なす意匠なら、ズボンは穿いてないが正解のようにみえる。


「ええっー? 制服を着てくるようにって言ってましたっけ?」

「生徒会の行事なんだから私服で行けるわけなかろう」

「せっかくのバカンスなんですから、もっとみんなはっちゃけましょうよ。向こうで着替える服はあるんでしょう? じゃあ、トイレでみなさん着替えましょう」


 清々しいまでに図々しい翠緑に一同、苦笑する。去年は美穂ちゃんに問題があり、今年は翠緑がやらかした。とはえい、遅刻でないだけマシだろう。


「バカンスじゃなくて合宿だ。建前だけでも大事にしないといかんだろう。生徒会費からまかなっているんだからな。とはいえ、戻っている時間はないから、このまま行くぞ」


「ううっ、みんな制服の中、翠緑だけこんな格好だなんて、急に恥ずかしくなってきたんですけど」


 急にもじもじしだしてシャツの裾を押さえる。シャツが伸びたところで、Tシャツ一枚という格好に変わりはないのだが。



 行き帰りの席は、平等にということでクジを引いて決めることになった。その結果、大輝は海側の特等席を引き当てた。


 4人席の正面に翠緑がいる。その隣に真由、大輝の隣には明日香という、大輝にとっては大当たりに等しい組み分けとなった。


 他方、はずれ組の山側には葵と未来、そして美穂ちゃんが座っている。年長組と年少組とに分けたというか、合宿ではしゃいでいる大輝たちと、その様子を落ち着いた目で見守る葵たちという構図になった。


「ほらほら、いくら睨んでも大輝くんと一緒の席にはなれないんだから」

 未来が微笑んで言う。それでも葵は恨めしそうに大輝を睨んでいた。


「大輝め……デレデレしやがって。向こうについたら散々、こきつかってやる」

 会長特権を発動してクジのやり直しを言い出さないだけ大人だったといえようか。

 そのデレデレしている大輝は、目のやりどころに困っていた。


 Tシャツ一枚しか着てない翠緑の前に座っているものだから、どうしても彼女の太ももに視線が行ってしまう。美味しそうなすべすべの太ももはもとより、股間に映える水色と白のストライプの方が問題だった。こんもりとした丘を包む大事な布地。このままお腹いっぱいになるまで鑑賞し続けるか、さりげなく指摘してあげるか、それが問題だ。


「翠緑ちゃん……その……言いにくいんだけど、見えてる……よ」

 黙って絶景を楽しみ続ける度胸は大輝になく、目を泳がせながら白状した。指摘されて翠緑は最初何を言っているのかわからないようだったが、すぐに気づいて股を閉じ、ぎゅっとTシャツの裾を引っ張る。


「もうっ、先輩のエッチ。見えてるならすぐに教えてくださいよ」

「ごめん、その……気づかないふりしてあげるのとどっちがいいのか迷ってて」


「それでじっくり鑑賞してたんですか。まぁ、先輩になら見せてあげてもいいですけどぉ、勝手に見てるのはズルいです。罰としてあとでジュースをおごってくださいね」


 ジュースで済むならむしろ何本でもご馳走したいところだが、そうとは言えない。特に、明日香や葵がいる前では。


「後輩くんはムッツリなところがあるからね。翠緑ちゃんも油断しちゃだめだよ。ところで後輩くん、ボクのパンツも見たいかい?」

 翠緑に合わせて真由は大輝のことを後輩くんと呼ぶ。


「なんでそうなるんですか」

「ええっ、だって今日のために勝負パンツを穿いてきたんだよ。後輩くんに見てもらわなかったらパンツがかわいそうじゃないか」


「パンツに感情なんてありませんから。見てもらいたいなら葵会長や美穂ちゃんにお願いすればいいじゃないですか」

「つれないねぇ。翠緑ちゃんのパンツに比べたら、ボクのパンツなんて年増だって言うのかい?」

「そうは言ってませんっ」


 実際、斜め前に座る真由のパンツが見えるはずもない。興味が無いと言えば嘘になるが、かといって覗き込むわけにもいかない。


「大輝、デレデレしすぎ」

 そう言って頬を抓ってきたのが明日香だった。痛いというか気持ちいいというか。緩んだ頬がさらに緩みそうになる。


「ほら、翠緑ちゃんもまた見えてるよ?」

「ええっー、ずっと股をぴったり閉じてるのってけっこうつらいんですけど。もう見られちゃってますし、ちょっとくらいパンツ見られても平気ですよ? って、ひぃっ。ごっ、ごめんなさいっ」


 明日香に睨まれて翠緑は慌てて謝り股を閉じる。普段おっとりしているが、怖い時は怖い明日香である。


「大輝も翠緑ちゃんの太ももばっかり見ないで。って言っても、男の子だししょうがないよね。翠緑ちゃんもずっとその姿勢はつらいだろうし……。ちょっとだけだよ」


 そう言って明日香は大輝の頭を抱き寄せる。何をするのかと身を任せていれば、そのまま明日香に膝枕される。肉付きのよいむにっとした極上の枕に大輝は絶句する。


「あっ、後輩くんズルい。ボクも明日香ちゃんに膝枕してもらいたいのにっ」

「翠緑ちゃんのために仕方なく大輝にしてあげてるだけですっ」

「そうは見えないけどなぁ。でもそうやっているのを見ると、ほとんどお母さんだね」


『茶化さないでくださいっ』

 格好つかない体勢だが、大輝も明日香も声をハモらせる。


 明日香の太ももの感触を頬で感じてドキドキしている大輝だが、彼女もまた恥ずかしそうに頬を赤らめている。


 明日香の良い香りが鼻孔をくすぐる。思いっきり深呼吸したいが、さすがにそれはわざとらしすぎる。


「ところで後輩くん。その姿勢だとボクのパンツも見えちゃうんじゃないかな」

 真由に指摘されるまでもなく、彼女のパンツは丸見えだった。美味しそうなイチゴが体育会系特有の引き締まった丘に実っていた。


「のっ、ノーコメントですっ」

「ふふっ、その様子ならちゃんと見えてるみたいだね。どう? かわいいでしょ。本当はこれ、紐パンなんだけど、そのアングルじゃよくわからないよね」


 墓穴を掘った明日香は大輝の頬を包み込むように掴み、顔を上に向かせる。

 そこには制服に包まれた二つの山が見える。山が大きすぎて明日香の顔が半分くらい隠れている。これもまた絶景ではあった。


「そのまま後輩くんの顔をおっぱい置き場にしちゃえばいいじゃない。いつも重そうにしてるんだし、置くとこあると楽だよね」

「そんなことしませんっ」


 明日香は即座に否定するものの、大輝を見つめる目にはちょっとくらいしてあげてもいいかなという感情が含まれていた。


 衆人環視の中でなければ、今度こっそりお願いすればしてくれそうな雰囲気だった。


(おっぱい置き場ってなんだ。置きたくても置く胸がないんだぞ)

 巨乳3人を尻目に、絶壁を誇る葵が恨めしそうにつぶやく車中だった。

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