閑話16 里山翠緑

 生徒会の新書記である里山翠緑みどりに引っかき回されて次の日ながら、大輝はいつものように放課後に生徒会室へと足を運んだ。


「あ、大輝先輩こんにちは。お早いですね」

 室内にいたのはその翠緑だけだった。彼女は年頃のチョロい男子ならころっと来そうな笑顔で大輝に挨拶する。と、同時に彼女はドアの方を向いて椅子に座って少女漫画を読んでいた。その座り方があまりにも大胆すぎて、開いた股から黒いレースのパンツが大輝に丸見えだった。


 意外に白い太ももにむっちりとした股間の盛り上がりが見える。大人っぽい下着姿に大輝は目が釘付けになる。


「えっ、やだ、見えちゃってます?」

 頬を赤らめて翠緑は慌てて足を閉じ、上目遣いで大輝を見つめて微笑む。その仕草があまりにも可愛くて、大輝はドキっとさせられる。


「う、うん……。ごめん……」

 大輝も見てしまったことに気まずさを覚え、斜め上を向いて頬をかく。


「この学校のスカートって短すぎですよね。ちょっと油断するとすぐ見えちゃう」

「立ち居振る舞いを綺麗にしてもらうために短くしてるみたいだよ」

「さすが副会長ですね。学校のことならなんでも知ってるんですね」


「会長の受け売りだけどね」

「でもここって女子校だったんですよね。外ならともかく、校内はきっとパンチラどころかパンモロだらけですごいことになってたんじゃないですかね」


「そうかもね。そんな時代は僕も知らないけど」

「そうですよね。共学化したから先輩がいるわけですし。でも女の子だけだとそんなものですよ。もう男子には見せられないくらい乱雑で」

「共学化した分、女子は面倒になってるかもしれないね」


 そうこう言っているうちに翠緑の股は再び開き始め、パンツが大輝から見えそうになる。美味しそうな太ももに、ついつい視線も吸い寄せられる。


「そんなにパンツが見たいんですか?」

 見たいか見たくないかで言えば、可愛い女の子のパンツを見たくない男子なんているだろうか。とはいえ、さすがに「見せて」とは言えない。大輝は言葉を飲む。


「しょうがない先輩ですね。ちょっとだけですよ?」

 そう言って翠緑は膝を立ててパンツを見せる。悪戯っぽい小悪魔のような笑みを浮かべて大輝を見つめる。


 大輝は唖然としつつも、パンツから目を離せずにいた。こんもりと盛り上がった恥丘を包む黒いすべすべの布。年下の一年生、この春まで中学生だった少女がはいている大人びたパンツだが、背伸びをしているという印象もなく、むしろ彼女に似合っていた。


 もっと間近で見たい。匂いを嗅いでみたい。舐め回したいーーという欲望にかられ、ごくりと唾を飲む。


 視線を上げれば豊かな胸の膨らみが見える。パツパツなブラウスはボタンがはじけ飛びそうだが、特筆すべきはブラジャーが透けて見えることだろうか。パンツと同色の黒いそれがうっすらと見える。同級生の男子たちもそれを見て興奮しただろう。


「ブラも見たいんですか? ふふっ、欲張りな先輩ですね。でもダメですよ。他の先輩たちが来たら困るじゃないですか」

 他の先輩の言葉に大輝は我に返り、振り返ってドアを見る。まだ誰も来ていない。来る気配もとりあえずない。視線を戻して再び翠緑を凝視する。


「ちょっとだけサービスしちゃおっかな」

 翠緑は声を弾ませてブラウスの胸元のボタンを一つ外す。黒いレースのブラと、おっぱいの丸い膨らみがちら見えする。大輝の視線はそっちに吸い寄せられる。


「先輩、ズボンがすごいことになってますよ」

 後輩に指摘され、ズボンにテントを張っていることに気づく。恥ずかしくてつい前屈みになる。とはいえ、可愛い女の子の下着を眺めているのだ。思春期の男子の反応としては自然と言えた。


「けっこうそれ、苦しいんじゃないですか。男の人って、そうなったら精子を出さないとダメなんですよね」

 どこの漫画の知識だとつい突っ込みそうになるが、大輝は言葉を飲み込む。


「いいですよ。翠緑をオカズにオナニーしても」

 優しく、というよりはむしろ興味津々に、目を輝かせて言った。

 しかし、大輝としては甘計に乗るわけにもいかない。いつ葵たちが来るかわからないのだから。


「好意は嬉しいんだけど、さすがにここでするのはちょっと……」

「えっ? ここでスるつもりだったんですか? きゃっ、翠緑見たいです。男の人がシてるとこって見たことなくて」


 家でオカズにしていいという意味だったかと、取り違えてしまったことに一瞬焦る。それともトイレでか。いずれにしても、大胆な後輩を前に問題発言してしまったことに変わりはなく、さらなる呼び水を撒いてしまったことも違いない。


「しないし、おかしいから。ねっ、翠緑ちゃん、冷静になろう?」


「翠緑はいつだって冷静ですよ。先輩がそんなにアソコを膨らませて苦しそうだから、楽にしてあげようと思っただけです。翠緑だってパンツとか見られて恥ずかしいんですからね。このままじゃ、明日から学校に来られませんっ」


 真っ赤な顔を両手で覆って言う。目尻には涙を浮かべている。山の天気のような感情の急変に大輝はわたわたとする。


「わかった、わかったから。でもさすがに、女の子の前でするっていうのは、レベルが高すぎるというか、恥ずかしすぎるというか……」

「じゃあ、翠緑がシてあげます。これなら恥ずかしくないですよね?」


 さっきまで涙目だった彼女はどこへ行ったのか。目を輝かせて言う後輩に大輝は舌を巻く。


「いやね、さすがにその……こういうことするのって特別な関係じゃないとダメだと思うんだ」


「先輩ってけっこうお硬いんですね。こんなの遊びじゃないですか。まぁ、こっちも結構硬そうですけど」


 今時の娘は進んでいると言うには1歳しか違いない。それでも着崩した制服といい、明るい髪色といい、そういうことをしていても不思議でないように見える。さらに、翠緑は色っぽい声を出して大輝に近づき、そっと体をつけてきた。


 ふにっとした柔らかいものが大輝の胸に当たる。それは同時に大輝の硬いものが彼女のお腹に当たっているというわけでもある。


「他の人たちには内緒にしますから。先輩がシたいっていうなら、エッチだっていいですよ」


 耳元で囁く甘い声に大輝の心臓は高鳴る。誘われているのは間違いない。内緒と言われれば、男としてつい、甘言に乗ってしまうそうにもなる。


 ごくりと唾を飲み込む。見た目通りけっこうボリュームのある胸と、シャンプーの香りで蠱惑的に薫る髪の匂いが鼻孔をくすぐる。猛るモノは窮屈なズボンの中でますます膨張する。小さく柔らかな彼女の肩をぎゅっと抱きしめたくなる。


「翠緑ちゃん、ダメだから。こういうのはちゃんと告白して男女の仲になってからじゃないと」

「先輩……、翠緑は先輩のこと好きですよ。先輩は女の子に恥をかかせるんですか?」


「いや、ほらっ、その……まだ知り合って日が浅いし。僕はほとんど翠緑ちゃんのこと知らないし」


「知らないなら、これからわかればいいじゃないですか。裸んぼで触れ合えば、もう知らないことなんて何もなくなりますよ?」


 大輝は翠緑の服の下を妄想する。年下とはいえ、十分に成熟した瑞々しい果実のような裸が思い浮かぶ。押しの強い中でも、エッチの時はむしろ奥手で恥ずかしがり屋な彼女が震えながら大輝を見つめ、爪を噛む。


「そういう問題じゃないから。ねっ、翠緑ちゃん、冷静になろうっ?」


 下半身はむしろヤれと激しく主張するものの、頭には葵や明日香の顔が浮かんだ。いくらなんでも、いきなり彼女らを裏切るのは人でなしにもほどがある。


「ぶー。先輩ってもしかして、童貞なんですか? じゃあ、翠緑も自重しますね」


 と、急に冷めたようで、さっと翠緑は大輝から離れた。さっきまでの親密さが嘘みたいに白けた目で見つめてくる。


(……痛いの嫌だし……)

 あまりにも小さな呟きは大輝の耳には届かなかった。


「童貞の先輩が初めてを大事にしたいのはわかりましたから、今度、明日香先輩にお願いしてエッチさせてもらってくださいよ」

「ちょっ、なんでそこで明日香の名前が出てくるのさ」


「えーっ、だって明日香先輩ってお願いしたらヤらせてくれそうじゃないですか?」

「あのさぁ、仮にも先輩なんだよ。その言い方はひどいと思うんだけど」


 本当、歯に衣を着せない娘だなぁと大輝は思う。


「でも大輝先輩に頼まれたら、喜んで童貞卒業させてもらえると思いますけど?」

「どっ、童貞違うし!」


 とりあえず見栄を張って嘘をつくものの、経験者でないのはバレバレだった。翠緑は上目遣いでくすっと微笑みながら、再び胸元を強調する。


「説得力ないですよ。こんなに可愛い翠緑が誘ってるのに、断るんですから。大人の男性だったら、絶対に食べちゃってますよ?」


「じゃあもう童貞でいいから。翠緑ちゃんも童貞の僕を変に誘惑するのはやめてよね」

「強がってるくせに、目線はおっぱいに行っちゃうなんて可愛い先輩ですね」


 この件はとりあえず片が付いたのか、翠緑は笑って大輝から離れ、元の席に戻る。と、同時に生徒会室のドアが開き、明日香がやってきた。

 股間の膨らみは、とりあえずなんとか誤魔化せた、と思う。



「えっと、お願いがあるんですけどぉ、週末に大輝先輩を貸して欲しいんです」

 生徒会のメンバーが集まり、今日の仕事もすべて終えた頃に翠緑が言った。


「ふむ、よかろう。ちゃんと申請書を提出するんだぞ」

「はーい。そう言われると思ってもう用意してありますっ」


 許可が下りたこと、書類が必要なこと、それを見越して翠緑が準備していたことすべてに大輝は驚いた。


「葵会長? 本気なんですか?」

「本気とはどういうことだ。大輝の貸し出しには許可が必要と言ってあるではないか。空いている上に手続きもしっかりしてあれば、会長として許可せずにはいられまい」


 ドンと書類に判子を押し、葵は翠緑に返す。彼女は喜び、鼻歌を歌いながら席まで戻る。


「あのっ、僕の予定は無視ですか?」

「どうせ暇してるだろう? 休日は家でゲームしていることは調査済みだ」


「どこからそういう情報を集めてくるんですかっ」

「大輝のことはだいたいお見通しだ」


「いやっ、そんなことより、翠緑ちゃんとデートしていいんですか?」

 つい先ほど、いろいろあったためにどうしても意識してしまう。このままなら、週明けには脱チェリーボーイしていてもおかしくない。


「たかがデートだろう? なにもやましいことはあるまい」

「まぁ、デートなんですけどね」


 やましくない。高校生の男女が初めてデートするのだ。キスだけだったとしても、大収穫にほかならない。とはいえ、肉体関係を迫ってくる翠緑とのデートなのだ。何が起きても不思議ではない。


「ちゃんと避妊するのであれば、当方としては関知しない」

「ちょっと待ってください。いきなりエッチOKとかどうなってるんですか」


「思春期のヤりたい盛りなのだ。間違いが起こっても不思議じゃないだろう。ほら、そこにコンドームは山ほどある。ちゃんとダース単位で持って行くんだぞ」


 平然と言う葵の真意を大輝は疑う。いきなりエッチもOKという言葉に翠緑は頬を赤らめて俯いている。明日香は葵と同様無表情のままだし、未来はいつものように大輝を見てにやにやしている。


「しませんし、持ってかないですから」

「ん、それはつまり、後輩を孕ませる気満々ということか? つい数ヶ月前まで中学生だった娘に膣内射精して、ぽっこりと膨らんだ妊婦腹で登校させたいとか、さすがに変態にもほどがあるのだが」


 葵は眉を顰める。


「違いますから。間違いがあってもしませんし……」

 据え膳食わぬはなんとやらとも言い、翠緑の誘惑に耐えきれる自信もなく、声は尻すぼみで弱くなる。


「冗談だ。チキンな大輝のことだからそういったことは心配してない。もしヤる気なら、とっくに不良在庫の山となってる避妊具は底をついていただろうし、今頃は未来を含めて全員ママになっていただろうからな」


「最後までジョークを交えないでくださいよ」

 どうしてこう安易にデートの許可を出したのか、大輝は葵の真意を計り損ねていた。明日香も機嫌を損ねていないことに疑問も感じる。


「できるものならキスくらいしてもいいぞ。できるものならな」

 最後のこの言葉には、少量の意趣返しが含まれていた。



 解散となってどっぷり疲れた大輝はテーブルに突っ伏した。

 他のメンツはそれぞれ大輝を置いて足早に生徒会室を後にしていた。いつもな途中までらみんな一緒に帰ってくれる。やはりみんな怒っているということか。


 大輝も鞄を持って生徒会室を出ると、明日香が心配して待ってくれていた。


「えっと、その……」

 まさかいると思わず、大輝は何を言えばいいのかわからなくなる。


「週末のデート、がんばってね。翠緑ちゃんの力になってあげて」

 想像の斜め上を行く明日香の言葉に大輝は驚く。

 どうもデートと軽く考えていた以上のものがあるようだった。だから葵も明日香も翠緑の申請に許可を出したのだと理解する。


「でも遊びはダメだよ。大輝が翠緑ちゃんと真剣に付き合いたいっていうならしょうがないけど……」

「そっ、そんなことないから大丈夫だから」

「嘘。翠緑ちゃんに迫られてデレデレしてた」


 大輝自身、口にして自信があるわけでない言葉をすぐに見抜かれる。明日香もさすがにちょっと怒った表情をしている。


「ごっ、ごめん……」

「誘惑に負けないおまじない」


 そう言って明日香は大輝の手を取り、自分の胸に誘導する。エッと驚いた時には彼女の大きなおっぱいを鷲掴みにしていた。


 制服とブラジャーの上からだというのに、低反発ベッドのようにどこまでも指が沈んでいく。むにゅっととろける感触が指先から手のひらまで全体に伝わる。同時に明日香の高鳴る鼓動の音と、「んっ」と艶やかな声が漏れ聞こえる。


 大輝は慌てて手を離そうとするが、曳かれる手の力が予想以上に強く、むしろ胸の中へと手のひらを押し込まれる。


「ちょっ、明日香!?」

 驚きつつも、次第に力が抜けていくのは男の悲しい性だろう。いっそこのまま明日香の胸を堪能し続けたかったが、すぐに明日香の手の力が弱まる。彼女の体は羞恥で震えていた。


「おしまいっ、おしまいだからっ」

 顔を真っ赤にして言う明日香の声に大輝はやっと我に返る。とはいえ、ちゃんとあと二揉みくらいしてしまったのだが。


「相変わらずエッチなんだから。その……下もすごいことになってるし」

 明日香に指摘されて初めてズボンも激しくテントを張っていることに気づく。


「いやっ、でもこれはしょうがないでしょ。明日香のおっぱい触ったら誰だってこうなるって」


 あせくせと弁明するものの、そもそも翠緑の誘惑から興奮しっぱなしだったのは間違いない。


「恥ずかしかったんだから……。大輝のばかっ」


 いや、自分から誘導したくせに、と大輝は文句を言いたくもなったが、そんなことを言えば機嫌を損ねてしばらく口も聞いてもらえないに違いない。

 所在無く猛る息子は、仕方なく家に帰ってから沈めることになる。オカズが何になったのかは言うまでもない。

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