14.1 ドキッ、女だらけの満員電車

 週末である。普段なら友人に誘われれば一緒に出かけるし、予定がなければ家でゴロゴロするというのがいつもの大輝の休日だった。


 今日はというと、葵と一緒に街へと買い出しに出かけることになったのだ。二人きりでということもあり、大輝は胸躍るものを感じながらも、「ただの買い物」と認識し、何事も起きないと思ってもいた。


 拡大解釈すればデートではある。とはいえ、映画館に行ったりとかウインドーショッピングをしたりという予定はない。公園でボートに乗る予定もないし、カラオケとかもない。時間が余ればと淡い期待もするのだが、せいぜい一緒に喫茶店でケーキを食べる程度だろうと予防線を張っていた。


 装いはジーンズにTシャツという変哲のないものだったし、保険代わりに財布に潜ませているコンドームは、生徒会室からこっそり拝借してきたものだ。使うことはないとわかっていても、心の余裕くらいは持ちたい。一種のお守りだ。


 約束の時間よりも5分ほど遅れて葵がやってきた。一瞬、それが彼女だと大輝は気づかないほどに、いつもの制服姿の彼女から、そして合宿の時に見た私服姿とも異なる装いに驚かされた。


 息を切らせて来た彼女は、白地に淡いブルーのカトレア柄のキャミソールドレスを着ていた。胸元はフラットで、華奢な彼女によく似合っている。ただ、それをドレスと呼んでいいのか迷うほど丈が短く、お尻のラインギリギリしかない。


 パンツこそ見えないが、まるでズボンをはいてないように見えてしまう。袈裟懸けで小さなポーチを持ってこそいるが、まるでインナーのキャミソールだけ着て外出したかのようだった。


「すまない、待っただろうか」

「今来たとこですよ。葵会長にしては珍しいですね」


 上はキャミソール、下は生足にサンダルという装いはほとんど痴女にさえ見える。大輝は葵のキャミソールの裾が気になってしょうがなく、ついつい彼女の股間の方を見てしまう。なにかのきっかけでパンツが見えないかどうか。街行く人の視線は気にならないのかと、疑問点はつきない。


「うむ、いろいろと考えすぎていて遅くまで眠れなかったのだ。目が覚めたら完全に遅刻コースだった」


 それで下をはくのを忘れて飛んできたんじゃないですよね。

 大輝はそう突っ込むべきか迷い、額に汗を流す。


「とっ、ところでその……、どうだろうか。未来にコーディネートしてもらったんだが、大胆すぎないだろうか」


 誰もが思う突っ込みポイントは当然、葵にもわかっているようで、裾をぎゅっと引っ張りつつ、頬を赤らめ視線を俯かせて言った。


「かっ、可愛いと思いますけど……」


 僕以外の人に見せるのはちょっと妬けるんですけど。

 さすがにそうも言えない。犯人の底意地の悪い笑みが脳裏に浮かぶが、今更どうにかなるだろうか。


「念のため聞きますけど、下ってちゃんとズボンはいてるんですよね?」

「……ふふっ、知りたいか? 大輝になら見せてやってもいいが、まだ秘密だ」


 狙いの一つだったのだろう。葵はしたり顔で言う。こうまでもったいぶるのだから、本当にキャミソールの下はパンツしかはいてないようにもとれる。本当だったら嬉しいが、万が一の事故でもあったらどうしようかと気が気でない。


 葵は大輝の腕を取って駅へと進んでいく。まるで恋人のような距離感に大輝は戸惑うとともに、胸が高鳴るのを感じる。女の子の甘い香りと柔らかいぬくもり。腕にあたる微かな膨らみも意識せざるをえない。


 目的地は何駅も離れた場所にある有名な雑貨店だった。電車で乗り継いで約40分といったところだ。年頃の男女が親密そうにべったりとくっついて行動していれば、周りからはカップルに見えるに違いないが、大輝はそんなことも気づかずにいる。


 電車は土曜日ともあって意外に混み合っていた。そんなこともあり、葵は隣に位置取るのではなく、大輝の真正面に向き合って立った。肩同士がぶつかり合うほどの混雑度だから、ほとんど密着するようなものだった。


 腕を回せば抱きしめるのも容易だし、どさくさに紛れてそれをするべき絶好のチャンスでもあったが、大輝はドキドキするだけでちょっとした悪戯、気の迷いすらできないでいた。


 葵の方も少し頬を赤らめてはいたが、いつも通り他愛のない話に花を咲かせるだけで、もう一歩踏み込んでくることもなかった。彼女の微かな膨らみが大輝の胸に当たるということも、残念ながらなかった。


 とはいえ、楽しそうに話す葵に相槌を打っていると、大輝は彼女の胸元がきわどいことに気づいた。電車が揺れるたびに、キャミソールと胸との間にわずかな隙間ができるのだ。葵が前屈みになる度に、胸元がちらっと見えそうになる。


 抱きしめたくなるほど華奢な肩に、大輝の息がかかる。艶めかしい肩から胸のラインを間近で見ていて、大輝はあることに気づく。


 そういえば、これってブラジャーどうなっているのだろう?

 肩紐は左右一本ずつしか見えない。このキャミソールはカップが付いているタイプでもない。まさかノーブラ? と期待してしまうが、チューブトップのブラでもつけているのだろう。サイズが合うのかとか、引っかかる場所があるのかと疑問は絶えないが。


 つけているだろうとわかっていても、キャミソールの隙間から見える肌に視線が行ってしまうのは男としての悲しい性だった。気づかれないようにしなければならないが、ここまで密着していると、自然に見えてしまうものでもある。


 視線を逸らすのも不自然な気がして、大輝はそのまま、できる限り葵の嬉しそうな笑顔を見つつ、胸元をちらっと覗く。


 下着がちらっと見えるだけでも嬉しい、という淡い期待は逆方向に裏切られることになった。電車が大きく揺れた瞬間に葵はバランスを崩して大輝の胸にもたれかかる。

 「すまない」と言って葵が離れようとした瞬間、彼女の胸元の隙間が大きく開き、おヘソまでほとんど丸見え状態となった。


 見えたのは甘食のような膨らみと、サクランボ色の小さな突起だった。

 大輝は目を丸くした。


 当然あるべきものはどこにもなかった。ヌーブラや絆創膏さえも。

 まさか本当にノーブラとは思わなかった。一瞬とはいえ見えてしまった生乳に感動するとともに、電車の揺れに感謝する。それとともに、さっきまで腕とかに当たっていた葵の膨らみが、妙に柔らかかった理由に合点する。


 ついつい、葵の胸に視線をやってしまう。ささやかな胸ポチが見えないかと、不安と期待が入り交じる。


 そうこうしているうちにさらに電車が混み合ってきた。

 なぜかどこかの女子高生が大量に乗車してきて、ラッシュ時の満員状態になる。ぎゅーっと押しつぶされるどさくさ紛れに、大輝はつい葵を抱きしめてしまった。


「…………」

 とっさに謝るわけにもいかず、ただ赤面して沈黙する。それは葵も一緒だった。


 胸と胸が密着する。葵のささやかな膨らみが、大輝の上腹部に当たる。わずか薄布一枚隔てた先におっぱいがある。彼女の髪の甘い匂いが鼻孔をくすぐり、大輝は変な気持ちになってきた。


「大丈夫か? まさかこんなに混み合うとは。何かの学校行事だろうか」

「そっ、そうですね。でも通勤ラッシュよりはだいぶ楽ですよ」


 むさいおじさんたちに押しつぶされるより、女子高生で満たされた車内の方が良いに決まっている。その上、葵と抱き合うような形になったのだ。むしろ感謝せずにはいられない。


 手持ち無沙汰な両手をどうするか迷い、大輝は葵の背中に手を回す。腰に手を回したいところだが、さすがにそれは憚られた。

 しかし、葵の方は遠慮なく大輝の腰に手を回し、大輝の肩に頭をもたげた。


「大輝も男なんだな。こうして直に感じてみると、すごく逞しく思える」


 むしろ会長が女の子らしくて可愛いです。

 そうは答えられず、大輝は葵をぎゅっと抱きしめる。


 と、次の駅になってまた車内の混雑度が増した。大輝の背中にボリュームのある柔らかい何かがぎゅっと押しつぶされる。確認するまでもない。後ろにいる女子高生のおっぱいだった。前とのボリューム差に苦笑しなくもないが、二人のおっぱいに挟まれるという事態に大輝はついつい頬が緩んでしまう。


「なんで超満員で苦しいのに、逆に嬉しそうにしてるんだ」

 感の良い葵は咄嗟に大輝の表情の変化を見抜き、頬を膨らませる。


「いっ、いやぁ、葵会長と抱き合えて嬉しいだけですよ」

「嘘つけ。どうせ後ろの女子の胸が背中に当たってるとかそういうことだろう」


 これ見よがしに、あえて聞こえるように言ったのだろうが、どういうわけか後ろの女子生徒は大輝から距離を取ろうともしなかった。身動きできないということもあるだろう。だが、胸が当たらないように腕で防御するとかいろいろあるはずだ。


「どうせ私の胸なんかじゃ当たらないものなぁ?」

 ぎゅっと頬を抓られるが、それもまた気持ちよかった。


「そんなことないですってば。ちゃんと柔らかいのが当たって……って、何を言わせてるんですかっ」


 後ろの女子はバカップルのイチャイチャに呆れたのか、逆に腹を立てたのか、さらにぐいぐいと胸を押しつけてきた。単に電車が混み合っているだけということもあるかもしれないが。


 前後から女の子に挟まれて、大輝は焦りつつあった。気持ちいいのは確かだが、このままではマズい。なんとか冷静になろうと努めるのだが、女の子のフェロモンと柔らかい体を当てられて我慢できる思春期の男子がいるだろうか。むくっと立ち上がったものが葵のお腹に押し当たる。


「ほぅ、この硬いのは何だ? 満員電車の中で節操なくおっ立てやがって。これではほとんど痴漢ではないか」


「ちょっ、声が大きいですってば。えっと、その……しょうがないじゃないですか。僕だって男なんですから。こんな状況なら、誰だってこうなるに決まってるじゃないですか。嫌だっていうならちょっと離れてくださいよ」


「困ったような顔をしておきながら、私の下腹部にぐいぐいと押しつけてきてるぞ。言ってることとやってることが真逆だな。気持ちよくなりたいなら素直にそう言えばいいではないか」


「デマを飛ばさないでくださいっ。電車が揺れてるだけですってば」


「そうか、まぁ、そういうことにしてやってもいいぞ。本当は私の中に入りたいのだろう? 柔らかいヒダヒダに擦りつけて、熱くて生臭いドロドロの体液を私の子袋の中にぶちまけたくてたまらないのだろう? こんな硬くて逞しいモノが私の中で暴れ回るところを想像したら、私も欲しくなって濡れてしまうではないか」


 今度は耳元で囁くように言った。その艶めかしい物言いに大輝は興奮するとともに、ピクッとキカン棒が返事をする。


 葵のお腹の柔らかさが気持ちよくて、無意識のうちに大輝は押しつけていたが、それ以上のことはできなかった。むしろ葵の方が大輝を挑発するように腰を振っておねだりしてくる。


「いやっ、さすがにまずいですからっ」

「ふふっ、なにがだ? 電車がただ揺れてるだけだぞ」


 すべて見透かしたように葵は微笑む。ジーンズをはいているため窮屈で痛いほどだが、それがかえって密着感をアップさせているようだった。敏感な裏筋に、デニム(とトランクス)とキャミソール越しとはいえ葵の柔らかいお腹があたる。女の子の柔い肉に感動しつつも、まるでセックスしてるかの快感に大輝は頭がぼーっとしてくるとともに込み上がる喘ぎ声を我慢して唇を噛む。


「ふふっ、ピクピクしてきたぞ。もう限界なのか? ちょっと早すぎだろう。それに、こんなところで出したらパンツがカピカピになって大変だろう? ほら、ほら、もうちょっと我慢しないとえらいことになるぞ」


 煽るだけ煽り、さらに葵は大輝の胸をまさぐってきた。Tシャツ越しに敏感な突起を探りあて、指先で握り潰すように執拗にこねくり回してくる。上下から責められる快感に大輝はせるようなうめきを漏らす。


「ぁ……おい会……っ長……」

「どうした? だらしないぞ。もう少し楽しませてくれないか」


 意地悪な笑みを浮かべ、さらに葵はぐりぐりとお腹を擦りつけてくる。大輝は限界を訴えて葵のお尻をぎゅっと掴むと、彼女は「ひゃぁっ」と可愛い悲鳴をあげてつま先立った。


「だっ、大輝のくせにやるじゃないか。普段は指先一つ触れてくれないのに。でも、男の子にお尻を触られるのがこんなに気持ちいいとは知らなかった……」


 故意にお尻を触ったのではなく、ほとんど藁を掴むように手を動かしただけだったが、一瞬の余裕を作ることはできた。ただ、今度は胸と背中、そして裏筋と両手で四点も気持ち良い場所ができてしまい、快感度の総和はむしろ増えてしまった。


 両手に吸い付く桃尻の弾力に感動しつつ、大輝は指が沈むまま二つの膨らみを無意識のうちにもてあそんでいた。葵も頬を染め、瞳をとろけさせながら、お返しとばかりに胸をこねくり回してくる。大輝の指が尻肉に沈むたびに漏れる「んっ」という喘ぎも、大輝にはたまらなかった。


「もう……ほんとにダメ……ですってば……」


 見知らぬ女子高生に囲まれた車内で達してしまうのは恥以上の何者でもなかった。尻の穴に力を入れてぎゅっと我慢するが、持って1分もない状況だった。目的の駅まではまだ10分以上もかかる。


 諦めのような絶望を感じつつ、ズボンの中が大惨事になろうとも仕方がないと開き直ろうとした瞬間、途中駅に到着した。そこで女子高生たちはどっと降車していき、大輝も葵も我に返った。


 密着していなければならない状況もなくなり、周囲の目も気になって自然と体が離れる。せっかくのチャンスにお預けを食った息子だけが悲しそうにまだ股間をこんもりと盛り上げていたが、それを衆目にさらすのも恥ずかしく、急に萎れていくのを感じる。


「……残念だったな。それとも助かってホッとしたか? このまま続けたいなら、私を抱きしめるだけだぞ」

 ハグして欲しそうに葵は両手を広げて大輝を誘う。


 だが、さすがにあとちょっとでお預けをくらったからといって、言い訳なしに葵を抱きしめる勇気は大輝にはなかった。


 両手に残る葵のお尻の感触を思い出しつつ、大輝はこれから先の出来事に期待した。

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