閑話14 デートの前のエトセトラ

「最近、あの二人仲が良いんじゃない?」

「そうか? 前と変わらないと思うのだが」


 倉庫に生徒会の資料を取りに行ってもらった大輝と明日香の後ろ姿を見て未来と葵がそれぞれ感想を漏らした。


「大輝くんは変わらないけどね。明日香ちゃんは大輝くんとの距離が縮まったみたいに見えるけど」

「いいことではないか。同じ生徒会の仲間同士、親睦を深めてもらわなければ困る」


 ピント外れの言い方をする葵に、未来は呆れ気味にため息をついて言った。

「後輩二人を信頼するのはいいことだけど、そんな呑気なこと言ってると、明日香ちゃんに大輝くん取られちゃうわよ?」


 書類にボールペンを走らせていた葵の手がピクッと止まる。

「なっ、何を言ってるんだ。大輝に限ってそんなことはあるまい」


「ラノベ主人公みたいに鈍感だものね。でも、大輝くんだって年頃の男の子なのよ。頭の中はエッチなことでいっぱいだし、きっと毎日猿みたいにオナニーして性欲を発散してるんでしょ。明日香ちゃんのおっきなおっぱいで誘惑されたら、童貞男子高校生なんてイチコロよね」


「ゆ、誘惑ってだな……。奥手な明日香がそんなことするか?」

「倉庫は密室よ。二人っきりで資料を探してたら、おっぱいくらい腕とか背中とかに当たっちゃうだろうし、人の目がなければ明日香ちゃんも攻めてくるかもしれないわよね。キスしたり乳繰り合ったりしてもおかしくないと思うけど」


「…………」

「大輝くんもあれでムッツリスケベだし、明日香ちゃんが体で迫ったら、エッチくらいしちゃうんじゃないかしら」


「倉庫でか?」

「性欲を持て余した年頃の男女だものね。学校でエッチなんて余計燃え上がっちゃうんじゃない?」


 完全に手が止まった葵を見て、未来は想像以上に効果が上がったことにほくそ笑んだ。


「心配なら、様子でも見に行く?」

「そっ、そうだな。追加で頼みたい資料も思い出したことだ、ちょっと二人の様子を見てくる……って、もし二人が……その……乳繰り……あってる所を見たらどうすればいいのだ。見に行けるわけあるまい、馬鹿ものが」


「取り込み中かもしれないものね。邪魔しちゃ可哀想よね。帰りが遅いようなら、きっとヤっちゃった後なんでしょうね。盛り上がったら長いわよ。持ってるだけのコンドームで足りるかしら」


 性欲旺盛な大輝のことだ、避妊具がなくなったくらいで止められるわけがなかろう。処理にも困ることだし、きっと膣内にたっぷりと出してしまうに違いない。押しに弱い明日香のことだ、危険日でも許してしまうことは想像に難くない。


「って、なんでコンドームなんか持ち歩いているんだ。明日香に限ってそんなわけなかろう」

「あらあら、全校生徒に大量にゴムを配った張本人がそういうこと言うの? まだ在庫は山ほどここにあるのよ」


 保健室にある程度押しつけたとはいえ、まだまだ大量の避妊具入りの箱が「ご自由にお取りください」のメッセージカード付きで生徒会室の隅に鎮座していた。


「まさか明日香のやつ、ここから持って行ったんじゃないだろうな」

「取るチャンスはいくらでもあったでしょうね。最近、妙に減ってるような気もするけど、浅漬けを作るためじゃなさそうね」


 最悪の事態が頭をよぎり、葵はめまいを覚えた。こめかみを指で押さえつつ、未来の口から出任せな口車に乗っては危ないと思い直す。


「明日香ちゃんに大輝くんの童貞が奪われたのは百歩譲って許すとして、葵ちゃんも大輝くんとシちゃえばいいじゃない」

「そんなことができるか馬鹿もの。私は生徒会長だぞ」


「別に、生徒会長だってすることはするでしょ。校則で禁じられているわけでもないんだから。そんなお堅いこと言ってたら、本当に大輝くんを取られちゃうわよ。この際だから言っておくけれど、自分で頭と顔以外で明日香ちゃんに勝ってるところってあると思う?」

「…………」


 明日香にその豊満な胸を腕やら背中やらに押し当てられてにやけた大輝の顔が思い浮かぶ。どう逆立ちしてもおっぱいでは勝てそうもない。おっぱいと言わず、どこを取っても柔らかさでは勝てないだろう。彼女はデブと自虐するが、男性から見れば最高のご馳走に見えるだろう。


 それどころか、性格の悪い葵に対し、明日香は引っ込み思案ながら包容力も抜群だった。料理のスキルでもとても敵いそうにない。同年齢の明日香に対し、葵は一つ上だ。年上好き相手ならアドバンテージではあるが、年増と返されれば立つ瀬はない。学内で一緒に過ごせる時間も彼女より一年短い。

 未来に指摘され、改めて完敗していると気づかされる。


「みんな気づいてないかもしれないけど、もう3年生になったのよ。一緒に居られる時間だって残り少ないんだから」

「微妙にスルーしてたのに、メタっぽい発言をするな」


「まぁまぁ。そろそろあたしたちの関係性が進んでもいいんじゃないかってことよ。週末に大輝くんとデートしたりとか、ね」

「デート。デートか。うむ、まぁ、それも悪くはあるまい。というかだな、むしろデートってどうやって誘えばいいんだ」


「あらあら、デートなんて普通に誘えばいいじゃない。男の子から誘ってもらうもの、なんて考えてたらいつまで経ってもデートに行けないわよ」

「普通に誘うのが難しいから困っているのではないか。断られたらどうすればいいのだ」


「まったく、優等生とは思えないセリフね。生徒会で使う備品の買い出しを理由に二人で出かければいいじゃない。世間一般ではそれもデートでしょ」

「おお、その手があったか。とりあえず必要な備品をいくつかリストアップしておいてくれないか」


「もうできてるわよ。はい、これ」

 用意が良いというか、ここまで謀っていたというのか、未来の手回しの良さに葵は舌を巻いた。ついでに手渡された山盛りのコンドームに絶句するのだが。


「おい、なんだこれは」

「避妊具に決まってるじゃない。大事なデートには必需品でしょ。まさかと思うけど、前に言ってたナマ派なんて言葉、本気にしてるの? 恋にキュンキュンしてる状態でエッチなんてしちゃったら安全日だって余裕で排卵しちゃうわよ。まぁ、今から妊娠しても出産は卒業後ってことになるでしょうけど、でもまだ1年以上学校にいなきゃいけない大輝くんは大丈夫なの?」


「変な心配するんじゃない。私と大輝でそんなこと起こるわけなかろう」

「あらあら、可哀想に。せっかくのデートなのに、エッチできないなんて画竜点睛を欠くのもいいとこよ。今の高校生なんてみんなエッチしまくってるのに、そんな身持ちの堅いこと言ってたら本当に明日香ちゃんに取られちゃうわよ」


「ううっ……。じゃあ一つだけもらっておく」

「だから一つじゃ足りないってば。ほら、大輝くんのためにもちゃんと避妊してあげなきゃだめよ。膣外射精なんて避妊じゃないんだから」


 ヤるのが既成事実のようになっていて、葵は苦笑しつつも手渡された避妊具をポケットにしまう。未来に乗せられたとはいえ、実際にするかどうかはかなりの疑問だった。むしろ何も起こらないのではないかとの予感の方が強い。なにせキス一つしたことがないのだから。


 と、同時にドアが開いて大輝たちが戻ってきた。時間といい表情といい、何もなかったのはほぼ間違いはない。

 それでも妙に仲の良い二人に葵は胸がチクッとする。

 生まれて初めての経験に、どういう顔をすればいいのかわからず、内心困惑した。

 その間にも未来が上手く大輝に買い出しをお願いし、週末に葵と一緒に出かける約束を取り付けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る