閑話13 そうだ、パンツを買いに行こう
ある休日のことだ。生徒会のメンバー四人が駅前のショッピングモール前に集合していた。
今日は生徒会の女子メンバーだけの秘密の集まりがあった。
女子メンバーだけといっても、男子は大輝一人しかいないのだから、彼が八分になっただけでもある。
いつもなら全員一緒なのだが、今日、彼を省いたのには当然、わけがある。
私立乃木坂学園の女子生徒の永遠の課題、春の強風とその対策について話し合うためだった。
それがどうして男子禁制になるのかといえば、これまたわかりやすい。スカートがやたらと短い当校の制服は、可愛い上に立ち居振る舞いが綺麗になると評判ではあったが、副作用としてどうしてもパンツが衆目に触れる機会が増えてしまうという欠点があった。
ちょっとしたつむじ風が起きてもスカートはめくれ上がり、下着を衆目に晒すことになるのだ。当校の女子において、万が一、スカートがめくれても恥ずかしくない可愛いパンツを穿くことは、もはや義務みたいなものだった。
世間一般での見せパンツというわけでもない。そういうものを穿く女子もいるが、大半の女子にとってそれは関心事ではなかった。何せ見られたパンツが見せパンなのか本物なのかどうかは、男子にとって区別など付かないだろう。
どんなに見せパンだと主張しても無意味であるし、仮に見られたからといって、見せパンだから大丈夫と自分を納得させるだけなのは負けのようにも思えるからだ。
可愛くて、ちょっとエッチで、男子を欲情させるようなパンツ、具体的に言えばその晩のオカズになるような可愛いパンツを穿くのは、年頃の女の子にとって重要なことだ。
スカートがめくれた瞬間から集まってくる男子たちのいやらしい視線を感じながら、驚きとともにスカートの裾を抑え、「見た?」と言いたいばかりにちょっと恥ずかしそうにむくれ顔を向ける。
男子たちの嬉しそうな恥ずかしそうな、それでいてオスとして欲情した表情を脳裏に焼け付け、彼らの醜態を女友達同士で共有する。時にはそれをオカズに性欲を処理する。それは思春期の女の子にとって大事なイベントだった。
「ぶっちゃけて言えば、パンツチェックと、大輝くんが喜ぶパンツの傾向を探るってとこだね」
春先のため比較的暇にしている水泳部部長にして生徒会副会長の真由も参加していた。
「えっ、そのために集まったんですか? ちょっと、真由先輩っ、スカートをのぞき込まないでくださいっ」
大輝抜きとは聞いていたものの、寝耳に水だった明日香がスカートの裾を抑えながら言った。
「減るもんじゃないし、いいじゃない」
「減ります。乙女の純真な心がすり減るんですっ」
大輝よりもある意味タチが悪い真由の参加に明日香は閉口する。
「でもさ、大輝だけ八分にするのって可哀想じゃないかな」
明日香のスカートをめくるのを諦めた真由が、悪戯っぽく笑いながら言った。
「とはいえ、男子を下着売り場に引き回すわけにっはいくまい」
「男の子には気まずい空間だものね、あそこって」
「そういう問題じゃないと思うんですけど。下着買う所を見られるのはちょっと……」
それに対し、葵、未来、明日香と三者三様の答えが返る。
「ん、大輝くんに見せるパンツを買うんだよね? それなら別にいいじゃないか」
「違います。見せるつもりはないですから」
「そうだぞ、真由。万が一、大輝に見られてもいいパンツを買いに来たのだ。見せるためのパンツではない」
「結果見られるならいっそのこと見せちゃえばいいのに。喜ぶよ?」
「そっ、そんなはしたないことができるか!」
葵は即座に反論し、明日香は顔を赤くして沈黙した。
「あっ、想像してるでしょ。大輝くんの前でスカートをたくしあげてパンツを見せてるとこ。そんなことしなくても、スカート短いんだからさりげなく見せるチャンスなんていくらでもあるじゃないか。ほら、体育座りしたりとか、ちょっと高い所の物を取る時に大輝くんに椅子を支えてもらって、ちょっと背伸びしてパンツを見せるとかさ」
「お前じゃないんだからそんなことはせんぞ」
葵も想像して顔を赤らめるが、意外に満更でもなさそうだった。
「まっ、うっかり生徒会室で体操着に着替えてる時に大輝くんが入ってくるとかそういうお約束でもいいよね」
真由がこっそりつける悪知恵に、二人は表面上反発するものの、内心ではその手もあるのかと深く頷く。
「下着なんてある意味ただの布なのにね。こんなの見て喜んじゃう男の子って可愛いよね。ボクからすると、プレゼントのラッピングみたいなもので、下着なんて可愛くても、中身を取り出すための邪魔者ってイメージだけど」
「その、いかにも経験者は語るみたいなことを言うな」
「いやぁ、実際そうなんだって。おっぱいとかアソコとかの方が可愛いし、見たいものじゃないか。えっと、勝負下着を買おうって話だったっけ?」
「違う。普段つけていくための下着だ」
「万が一、大輝くんとそういうことになっても脱ぐのに困らない下着だよね」
真由がにししと笑って言った。
下着売り場は女子の花園だった。色とりどりの可愛い下着があたり一面に陳列してある。客も店員も基本的には女子だけだ。男の目を気にせず、好きなだけ物色できるし、女の子同士でわいわい騒ぎながら選ぶのは、大輝に見せる・見せないを抜きにしても楽しいものだった。
「あっ、そのピンクのフリルのやつ可愛いね。明日香ちゃんに似合うんじゃない?」
「でもサイズが……」
手頃な価格で可愛い下着を見つけたと喜んでいた明日香はすぐに眉を曇らせた。Dカップまでならあったが、とてもではないがサイズが合わなかった。
「あはは、明日香ちゃん大きいもんね。どれどれ」
隙あり、と真由はすかさず明日香の胸を鷲づかみにした。
「ひゃん。あっ、ちょっ真由先輩っ……、こんなところで恥ずかしいです……」
「いいじゃん、女子しかいないんだしさ。でもまぁ、久しぶりに触ったけど、相変わらず凶器だね。つきたてのお餅みたいでとろっとろでさぁ。いつまでも触っていたくなるよね。このおっぱいで迫れば男の子なんてイチコロだよね。もう大輝くんには揉ませてあげたの?」
「そんなことしてません!」
揉みながら的確に明日香の敏感な場所を探り当て、しこってきた突起を絞るように指を動かして言うと、明日香は体を捻り振り解こうと暴れてきた。
「んじゃ、今度またボクが慰めてあげるよ。明日香ちゃん、こんなエッチな体してるんだから、イロイロともてあましちゃうよね」
胸を揉みながら耳元で囁かれると、明日香はうっとりとした顔でつい頷いてしまいそうになるが、さすがに水泳部での二の舞を踏むつもりはなかった。強引に真由を振り解き、息を整えながら乱れた服を直す。
「もう、真由先輩ったらいつもそうなんですから。今日は下着を買いに来たんですよ」
「下着を買うっていうのを口実に、女の子同士でスキンシップしに来たんじゃなかったんだ」
「それは真由先輩だけです」
どうして真由が珍しく参加したのか理解し、明日香はさらに警戒するように後ずさりした。
「冗談だって。ボクより大輝くんにシてもらった方が嬉しいよね」
「もう、なんでそこで大輝が出てくるんですか」
「おっぱいぐらい触らせてあげてもいいと思うけどなぁ。揉まれると気持ちいいんだし、そこからさらにそれ以上のことに進んでも困らないわけだしさ」
「困りますぅ!」
「素直じゃないんだから」
呆れ気味に笑う真由は、すかさず他の下着を手にとって明日香に手渡した。
「ほら、こういう下着で誘惑してさ」
それは生地が透けていて大事なところが色々見えてしまうエッチな下着だった。明日香は蒸気が昇るように顔を真っ赤にして言った。
「そそそっ、そんなの着れるわけないじゃないですかっ! 高校生なんですよ?」
「高校生でも着れないってことないと思うんだけど。明日香ちゃん色っぽいし、こういうの似合うと思うよ」
「こんなの付けてたら変態って思われちゃうじゃないですか!」
「んー、じゃあこういうのはどう?」
そう言って真由が選んだのはさらに過激なもので、おっぱいを包む部分がまったくないブラだった。
「えっ? えっ? ええっ?」
どうしてそんな構造になっているのかわからず、明日香は混乱する。透けて見えるどころではない。本来あるべき布が見当たらず、おっぱいが丸見えの下着だった。というか、これはそもそも下着と言っていいのだろうか。
「これならサイズが合わないってこともないから安心だね」
「あっ、安心じゃないですっ! なんでそんな変な下着ばかり選んでくるんですかっ」
「えーっ、気に入らないの? エッチでいいと思うんだけど」
真由と明日香がわいやわいややり合っている隣で、葵は真剣な表情で下着を選んでいた。できるなら胸が大きく見える下着。見栄を張ってサイズだけ上のものを手に取る。
明日香とは別の意味でサイズが合わないとはいえ、ちょっとくらいカップが浮いていてもなんとかなるものだ。それよりも、大輝を誘惑するのに相応しい可愛いものを選ぶ。明日香に負けるわけにはいかないのだった。
「葵ちゃんならこれが似合うと思うけど」
そう言って未来が手渡してきたのは、紐しかない下着だった。
「ちょっと待て、これをどうつけるというのだ」
最初に見た時には何がどうなっているのか理解不能だったが、どうやらこれは赤いリボンそのもののようだった。プレゼントで「わたし」ではないが、ノリとしてはそんなところだ。機能性など無視した下着は、わずかに大事な所を隠すのみだ。
「普通に付ければいいじゃない。乳輪が大きいとはみ出ちゃうかもしれないけど、葵ちゃんなら大丈夫でしょ」
「普通ってな、こんなの着て学校に行けるか」
「でも、明日香ちゃんに勝つにはこれくらいしか残ってないわよ。しかも、こういう下着っておっぱいがちっちゃい娘じゃないと似合わないし」
確かに、微かな膨らみしかない葵にはぴったりな下着だった。見えそうで見えない上に、発育途上の華奢な体でないと下品さばかりが際だってしまいそうだ。
「そう言う未来はどうなんだ?」
「あたしはこういうの」
未来はスカートをたくしあげて言った。黒のレースの下着だった。しかもくるっと振り向いてお尻を向けると、Tバックになっていて白いまん丸のお尻が丸見えだった。同性でも恥ずかしくなるような魅力的なお尻に葵は目を丸くしながら頬を染める。
「おい、人の目があるんだぞ。っていうかだな、お前はいつもそんなのを穿いてるのか」
「まさか。こういうのは気分が乗ってる日だけよ。たまに冒険したくなる日ってあるでしょ」
(そんなのないぞ……)
葵は絶句しつつも、似合ってないとはとても言えなかった。むしろ同い年とは思えないほど大人びて見えた。あと3年経っても追いつけそうにない大人の色香に舌を巻くとともに、意外なダークホースの登場に警戒心を起こさざるをえない。
未来は真っ赤なレースの下着を手に取る。こっちはTバックでこそないものの、大事な部分以外はスケスケで、まさに勝負下着といったものだった。
「この辺かしらね」
「おいちょっと待て。それで大輝を誘惑したら、未来といえども許さないからな」
「あらあら、大丈夫よ。たまにつまみ食いするだけで葵ちゃんのオモチャを横取りしようって気はないから」
「ん、今つまみ食いって言ったか? 横取りも味見もダメに決まってるだろ」
「イケずねぇ。あんまりぐずぐずしてるとあたしがもらっちゃうんだから」
どこまで本気かどうかわからない笑顔で未来は言った。
最終的に葵と明日香は年相応の、無難で可愛い下着に落ち着いた。イチゴ柄のパンツとか、パステルグリーンの下着とかそういうものだった。未来は赤だの黒だのといったセクシーな下着を買い込み、真由は逆に縞パンを手にしていた。
「おい、人に勝負下着がどうのと講釈を垂れておいて、お前はそれなのか」
渋い顔をした葵が真由に言った。
「ん。これが一番の勝負下着だよ。大輝くんって縞パン好きみたいなんだよね。前にパンツ見せてあげた時に、これが一番反応良かったんだよ。今度、脱ぎたてのパンツを大輝くんのそそり立ってるアレにかぶせて手でしてあげたらすごい喜ぶと思うんだよね」
可愛いか、エッチかという視点だけで考えていた葵と明日香にとって、未来の発言は青天の霹靂に等しいものだった。問題発言にすぐ突っ込めなくなるほどに。
「おい、パンツを見せたってどういうことだ? それに、手でシてあげるってやったことあるのか?」
「まぁまぁ。そういうこともあったらいいなってだけだよ。本当だよ」
白々しい真由に葵と明日香は白眼を向けるが、彼女はすっとぼけるだけで真相は知り得なかった。
後日、葵も明日香もこっそり縞パンを購入し、学校に穿いてきていたが、残念なことに大輝はまだそのことを知らなかった。
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