閑話11.2 遅れてきたバレンタイン
キッチンのテーブルを囲んで葵たちは神妙な顔をしていた。
テーブルの上に積まれているのは材料のチョコレートといろいろな調理器具だ。それを囲むのは葵と明日香と未来といういつもの生徒会の女子メンバーたち。場所は葵の自宅だった。
大輝だけは呼ばれていない。呼ぶわけにもいかなかった。今日は女子だけの秘密のイベントなのだから。
「溶かして固めるだけなんだから、そんなに肩肘張らなくて大丈夫よ」
吐息を漏らして言うのは未来だが、その溶かして固めるだけというシンプルな工程に困難を見いだしている葵と明日香には意味のない言葉だった。
「問題は味か形かそれ以外の何かか?」
最もシンプルなのはハート型のチョコレートだろう。味も余計なモノを何も足さなければ保証されている。仮にちょっとくらい焦がしてしまったとしても、恋は焦がれるものだから愛嬌のうちで済む。
とはいえそれで手作りチョコが完成するかといえば、また難しいところである。せっかくのバレンタインデー、しかも義理チョコではないのだいから、溶かして固めるだけで終わらせるわけにはいかない。
今の自分の気持ちを素直に伝えるためのスパイスは何か。スパイスというよりは隠し味だろうし、場合によっては隠れてない味でもいい。料理の上手下手はこの際大事ではない。普段は美味しく作れるとしても、今日だけはそれ以上の何か求められている。そう葵と明日香は信じていた。
「味なんてブランデーを混ぜるか柑橘類のピールを入れるとか、またはミルクを多めにするとかくらいしかないじゃない」
「そんな平凡なものではダメなのだ。市販品を買うのと違いがない」
「それならチョコケーキにする? ガトーショコラとか」
「賞味期限が短すぎるのも問題だ。早く食べて欲しいが、大事にとっておいてももらいたい。そうなれば生ものは難しい」
「じゃあ、素直にアイラブユーって書いたハートチョコでいいじゃない」
「ばばばっ、馬鹿なことを言うな。愛だのラブだのユーだの、そんな恥ずかしいこと書けるわけがあるまい」
顔を真っ赤にしながら葵は言い、同様に明日香も頷く。贈るチョコに種類は数あれど、告白はしたくないという。顔はよほどな鈍感男――たとえば大輝でなければすぐに気づくレベルだとうのに。
「めんどくさいわね。普通のチョコをあげるのが一番だと思うけど。大輝くんだって仮に同じ市販のチョコでも葵ちゃんたちのチョコなら喜んでくれるはずだけど」
呆れ気味に未来は言うが、顔はむしろ面白がって笑みを浮かべていた。
「うむ、しかしだな。義理というか、親愛のチョコというか、そう、他意はないのだ。しかし、他の奴の義理チョコやら本命チョコやらとはしっかりと差をつけなければならん。かといって大輝に不審がられてもいけないし、ちょっとだけ好意を向けてもらえるようになってもらう必要もある。つまり、だ。媚薬を入れればいいというのか?」
どうしてそういう結論になるのかわからず、未来はため息をつく。
「媚薬なんて便利なものがあったら恋する乙女はみんな使ってるわよ。その前にドスケベな男共が放っておかないわね」
「だからまず媚薬の発明から始めなければならないのだが、残念なことに時間はない。そこで唾液で代用してみるというのはどうだろうか」
「どうしてそんな結論になるのよ」
真剣な表情でボールに入っているまだ細かく削っただけのチョコを見つめる葵の目は本気そのものだった。チョコというものは乙女の理性も失わせるらしい。
「本来なら口移しでチョコをあげることも考えたのだ。それが恥ずかしくてできなければ、百歩譲ってチョコに唾液を入れるしかあるまい」
昨今の異物混入問題も真っ青な物言いに未来も唖然とする。
「そういうことをする女子がいるっていうのは聞いたことあるけど、唾液入りのチョコを食べさせられる男子も難儀なものね」
しかし、未来の小さくつぶやいた言葉は暴走しつつある葵たちの耳には届かなかったようだ。
「唾液よりも、愛液の方が効果があるだろうか。愛の液だしな。きっと媚薬効果もあるに違いない」
「あー、それはきっと誰かがもうやってるから無意味じゃないかしら」
「いっそ経血でも練り込んで鉄分補給もばっちりというのはどうだろうか」
「もう嫌がらせにしかなってないわよそれ」
世の中にはそれでも喜ぶ頭のおかしい男子が存在することを思い浮かべながら言う。
「唾液にしても体液にしても、味がおかしくなったらおしまいよ。もう一度考え直してみたらどうかしら」
「そ、そうだな。味見するにしても、自分の体液入りのチョコは遠慮したいな。だいたい、自分の口の中で唾液が混じるのだから、違和感に気づくはずあるまい。というわけで、未来に味見を頼む」
「ちょっとちょっと、さすがにそれはないんじゃないかしら。葵ちゃんの唾液入りチョコを食べる趣味はないわよ。明日香ちゃんのもね」
二人は互いに顔を見合わせて、相互に味見するかどうかを考えていたものの、いくら大輝のためだからとはいえ、それはさすがに躊躇うところがあった。
「チョコは何も足さない、何も引かない方式で作ることにする。ということは、残りは形で工夫を凝らすしかないな」
当然の帰結だが、最も差をつけにくい形での勝負となると、それはそれで別の難しさがあった。とはいえ、明日香は元々そのつもりだったようで、少し恥ずかしそうにバッグの中から型を取り出した。
デカい半円形の何かを二つ。シリコンでできているようで、とにかくハンドメイドであるのはすぐにわかった。
「ちょっと待て明日香、それは何だ」
問いただすまでもなく、葵は彼女の胸部に目をやる。手に持つ半円形のものと同じ大きさのものが胸についている。まさかというよりは、やはりという感想しかなかった。
「あらあら、明日香ちゃんも大胆ね。おっぱいチョコだなんて」
用意の良いことに型の中にはしっかりと突起まで再現されていた。普段は陥没気味のそれなのだから、明日香が自分で勃起させて型取ったのは間違いない。
「そんなデカいのは卑怯じゃないか。くっ、私もおっぱいチョコで対応するしかないのか」
そう言いつつ、明日香を問い詰めるために葵は彼女の胸を鷲づかみにする。ふくよかな胸がぎゅっとつぶされる。明日香は痛みを覚えて顔をしかめるが、葵の指先はすぐに彼女の敏感な場所をこねくりまわしてきた。
「こうか、こうやって勃起させたのか。大輝に吸われるのを想像しながら自分でいじり回したのか?」
敏感な明日香は「んっ」とあえぎ声を漏らしつつ体を捻る。葵に執拗に責められ突起はすぐに硬くしこりはじめ、彼女の指先を押し返すように隆起する。甘い痺れた快感に明日香は腰砕けそうになった。
「ほらほら、あんまりいじめたらかわいそうよ。奥手な明日香ちゃんが裸になって自分でシリコンで型取ったのよ。その勇気くらい認めてあげなくっちゃ。それに、反則ってわけでもないんだし」
「くそっ、これでは私もおっぱいチョコで対応するしかないではないか」
忌々しく明日香の胸を揉みしだきながら、葵は自分の胸に視線をやる。比べるまでもなく真っ平らだった。同じようにチョコを作ってもボリューム差は明らかだ。
「しょうがない、盛るか。未来、ブラのパッドを貸してくれ」
「ちょっとくらい盛っても焼け石に水じゃないかしら。盛りすぎると今度は誰のかわからなくなっちゃうし」
「くっ。ならばこうするしかあるまい」
そう言って葵はシャツのボタンを外し始めた。白い肌と可愛い花柄のブラジャーが外気に触れる。さらにブラのフロントホックを外し、甘食のような膨らみとサクランボ色の頂が露わになった。
上半身をはだけさせたままチョコを湯煎し、溶けたところで刷毛をチョコに浸し、たっぷりと筆に含ませて自分のささやかな胸に塗りたくった。人肌にはやや熱いチョコと刷毛の感触に葵もあえぎ声を漏らす。自分でしていても、これはくるものがあった。
可愛いおっぱいがチョコでコーティングされ妙な艶めかしさがある。未来も明日香も止めることを忘れ、一種の芸術作品ができあがるのを息をのんで見守ってしまっていた。
「……あの、葵ちゃん? まさかと思うけど、大輝くんに『そのまま嘗めて?』とか言うんじゃないでしょうね」
「…………」
頬を真っ赤にした沈黙は肯定の意味だった。未来はじと目で言う。
「あのね、さすがに体温でベタベタになると思うの。それでブラして学校に行ったら大惨事よ」
「ああもう未来、どうしたらいいんだ。教えてくれ」
涙目ですがりついてくる葵に未来は大きくため息をついた。
「別に普通に作ればいいんじゃないかしら。明日香ちゃんも、本気でおっぱいチョコなんて大輝くんにあげるつもり? どん引きされたら次の日からどうするの?」
明日香も絶句して肩を落とした。
結局、チョコはごく普通のハート型で落ち着いた。もちろんただ溶かして固めただけのものだ。
「葵ちゃんのおっぱいチョコはあたしが舐め取ってあげるから。食べ物を粗末にしちゃダメだものね」
言葉責めと硬くしこった乳首をねぶられて葵は胸だけで軽くイってしまった。下の口からもたっぷりと溢れ出た蜜を未来が放っておくはずもなく、明日香も巻き込んで女の子だけの秘密の日となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます