閑話10 風紀の乱れってなんですか

「最近、校内で風紀の乱れが報告されていてだな」


 葵の発言に大輝はジト目で言う。

「今更ですか。というか、ついに問題になったんですか」


「ほぅ、大輝は前々から気づいていたということか」

「むしろ問題にならない方がおかしかったんだと思いますけど」


 生徒会室を中心にイロイロあったアレやコレやらを思いだし、大輝は冷や汗を流す。スキャンダルとしか言い様がない。学校側に知られれば役員総退陣どころか退学まで可能性としてはある。


「まぁ、確かにそうなのだ。いくら男女比が偏っていて男子生徒の肩身が狭い状況とはいえ、そこはやはり年頃の男子だからな。その上、思春期の男子には刺激が強すぎることが多々残されている。いつ問題が発生しても不思議ではなかったのだ」


 葵の口調がどこまでも他人事なのに大輝は内心小首を傾げる。概ね生徒会での状況と変わりはないのだが、やたらと冷静なのはどういうことなのだろうか、と。

 まさか揉み消す自信や教師を買収する手筈でも整っているというのだろうか。




「問題になっているのはここだ」

 葵が指したのはあまり人通りの少ない北側階段だった。ここで何が起きているのか、起きるのか大輝はやはりわからなかった。


「別に何の変哲も無い階段ですけれど」

「中央階段や南側階段と構造上の差はないのだが。まぁ、そこに立っていればわかる」


 そう言って葵は階段を昇り始めた。昇っていくうちに大輝の視界に葵の太ももが映っていく。華奢ながらむっちりとした太ももがスカートから覗く。昇るたびに揺れるミニスカートはさらに見えてはいけないものまで見えてしまいそうで、大輝はついついスカートの裾を凝視してしまう。


「葵会長、ちょっと見えちゃいそうですってば。ってか、そのうち見えますよ」

 大輝は頬を赤らめつつ、つい葵に言ってしまった。


 この学校のスカートは短い。中央階段でもたまに女子生徒のパンツが見えたりする。気にする生徒はスカートの裾を鞄で隠しながら昇段しているのだが、無防備な女子もたまにはいるのだった。


「そこだ。人通りの多い中央階段や南階段なら間に生徒が入ってパンツが見えることは少ないのだが、ここは見ての通りほとんど無人でな。普通に昇っているだけで一番下からパンツが見えてしまうのだ」

 そう言いつつも葵はさらに階段を昇っていく。


「ちょっと待ってくださいよ。自分でパンツが見えるって言っておいてさらに昇らないでください。見えますよ!」


 大輝は早口で言いながら視線を逸らすべきか考え、目が泳ぐ。見てはいけないと思いつつも、見たいという気持ちが抑えられないのは健全な思春期の男子といったところだが。


「心配しなくてもいい。パンツは絶対に見えない」

 葵があまりにも自信満々に言うものだから、大輝はやや安心しつつ落胆もする。紺パンでも穿いているということなのだろう。


 それでも、わかっていても大輝は期待しつつ、むちっとした太ももとその先を凝視してしまう。葵のことだから、そう言いつつもうっかりパンツを見せてしまう可能性もあった。

 少しずつスカートに隠れている部分が露わになっていく。本当に本当に本当に見えないのか心配になりつつ、他に男子生徒がいないかどうか周りも見渡す。


 あと三歩、あと二歩、あと一歩で見えるというところで、大輝は脳内のハードディスクに記録する準備を始める。


 ふっくらとした丸い、眩しいほどに白い肌が見えた。

 美味しそうなすべすべの桃尻が。産まれたままの姿の、瑕ひとつ無い綺麗なお尻が丸見えだった。あるべき布はどこにもなかった。


 葵は最上段まで登り切ると、どや顔でくるっと向き直る。

「どうだ、パンツは見えなかっただろう」


「ちょっと待ってください。なんではいてないんですかっ! パンツがないから恥ずかしくないもんとか言わないでくださいよっ」

 大輝は鼻血が出そうになりつつも、大きな声でツッコんだ。


「えっ? ちょっ、んっんっ?」

 大輝のツッコミに葵は頭が真っ白になりつつも、慌ててスカートの裾を手で押さえた。同時にもう片方の手で自分のお尻を触るとあるべきものがないことに気づき青醒める。


「なんで紺パンがないんだ!」

「それはこっちのセリフですよ。期待させるだけ期待させておいて、やっぱり紺パンでしたとかでがっかりさせるオチだとばっかり思ってたのに。なんですか、生尻って。パンツが見えた方がよくないですか?」


「まさか大輝め、私の知らないうちに紺パンとパンツを脱がしたんじゃ」

「そんな器用な真似できますかっ。ってか、はいてないのに気づいてくださいよ。スースーしないんですかっ」


「ふっ、ふふふっ、大輝め、かかったな。実はだな、私は馬鹿には見えないパンツをはいていたのだ。もし何も穿いてないように見えたのなら、お前は馬鹿ということだな!」

 びしっと指し示すものの、葵の顔は真っ赤になっている。


「裸の王様みたいなこと言ってもダメですからねっ。ってか、さっさと降りてきてくださいよ。他の生徒に見られたら大変なことになるでしょうよ」

「うっ、うむ……」


 葵は俯きながら慎重に階段を降りてきた。

 そして大輝の耳元で囁く。


「すまないが、生徒会室に行って私の鞄を持ってきてくれないか。そこにパンツが入っているはずだ」



 生徒会室に戻った大輝は、会長の椅子の上に置いてある純白の下着を発見した。

「鞄に入ってないじゃないですか」


 鞄の方にあったのは紺パンだった。いったい何をどうこうしたらこんなことになるのかわからないが、マジシャンの仕業でないことだけは確かだろう。

 鞄だけ持って行くわけにもいかず、大輝はおそるおそる葵のパンツを手に取った。


 ぬくもりはなくなっていたが、すべすべで手触りがいい。ただの布であるといっても、ついさっきまで葵の桃尻を包んでいたものだと知ると、特別な何かがあるのではないかと錯覚する。


 匂いくらいは嗅いでもバチは当たらないかなと思いつつも、明日香や未来が入ってくれば言い訳もできない。大輝は急いで手の中のパンツを鞄の中に入れ生徒会室を後にした。


 北階段に戻ると葵は不自然にもスカートの裾を抑えながら周囲を警戒していた。

 大輝の姿を見つけると破顔し、ぴょんぴょんと跳ねながら「早く早く」と手招きする。そのたびにスカートかふわっとめくれ上がり、あやうく危ないものが見えそうになるのだが、あまりもの嬉しさに気づいてないようだ。


「お待たせしました」

 大輝も最後は葵に駆け寄り、鞄を差し出すと、彼女は礼を言いながらひったくるように受け取る。


「おお、しっかり入ってるじゃないか。しかし、私はなんでパンツも紺パンも鞄の中に入れてしまったんだ?」


「それは僕が知りたいです」

 大輝のツッコミも無視して葵は鞄からパンツを取り出し、さっそく穿きはじめた。


「ちょっ、ちょっとここでですか?」

 純白の生パンが葵の両足を通っていく。その艶めかしさに大輝は頬を赤らめつつ慌てて視線を逸らした。


「あっ、あれ? こらっ、大輝よ見るんじゃないぞっ」

 大輝に指摘されてようやく自分のしていることに気づいたようだが、時既に遅しとはこのことだ。太ももにパンツがかかったところで葵は一瞬硬直するものの、このまま大輝の目にパンツを晒すよりも一気に穿いてしまった方がマシと判断し、パンツを引き上げた。

 素の尻に下着が装着され、葵は人心地をつけて大きく息を吐く。


「もういいぞ」

 許可が出て大輝は向き直るものの、パンツの生着替えシーンはまだ脳裏に色濃く残っている上に、生尻とも重なり合って思わず股間に血が集まってくるのを感じる。こんなところでズボンのテントを発見されればまた何を言われるかわかったものではなく、大輝は腰を引きつつ「収まれ収まれ」と心の中で念じた。


「では気を取り直してやりなおすぞ。大輝はそこで待っておけ」

 そう言って再び葵は階段を昇り始める。今度はちゃんと穿いていると知りつつも、大輝はやはり期待して葵の太ももを凝視してしまう。


(って、あれ?)

 葵を見送っている途中で大輝は彼女が紺パンを穿いた記憶がないことに気づいた。このまま最上段まで昇れば見えるのは生尻ではないにせよ、生パンであることに違いはない。穿き忘れかと思いつつ、見ていいのか制止した方がいいのか、大輝の目は再び泳ぐ。


 思春期の男子高校生なのだから、欲望が負けるのも当然だった。

 神様ごめんなさいと内心で謝りつつ、先ほど見て触ったパンツのご開帳を待つ。


 階段を昇る度にふわっと揺れるスカートから徐々にまん丸のお尻が包まれたパンツがちらちらと見えるようになっていた。


 一番上まで来ればもうそれは絶景だった。思わず拝んでしまいそうになるほどスカートの中のパンツとお尻がよく見えた。パンツだけでも見て嬉しいものだったが、女子高生が穿いているパンツは格別だ。


 階段の上から葵がくるっと向き直ると、今度はパンツを押し出すこんもりとした恥丘が丸見えだった。お尻はお尻で最高であるが、前景もまた感動的な景色と言える。


「よく見えてるみたいだな。鼻の下が伸びすぎだぞ」

 仁王立ちする葵はニヤニヤとした表情で言った。

「なんで用意した紺パンを穿いてないんですか」


「あそこまで見られたらもう今更だろう。それに、生徒会室で私のパンツを手にとって凝視した上に匂いまで嗅いだのだろう?」

「嗅いでなんていませんっ!」

 すかさずツッコむものの、これは葵の術中にはまったようなものっだった。


「ということはニギニギしたり穴が開くほど見たのは本当か」

「……しょうがないじゃないですか。鞄の中に入れるには持たなきゃどうにもならないですし、パンツが目の前にあったら見たくなっちゃうじゃないですか」


「まぁいい。こうやって大輝のアホ面を見下ろすのも悪くないからな。さて、本題に入ろう。といってもそろそろ終わりだが」

 葵は軽く咳払いをして説明を始めた。


「最近、一部の女子生徒の間でこの階段を使って男子生徒にわざとパンツを見せつける遊びが流行っていてだな。その話を聞きつけた一部の男子共が登下校時に階段の下にたむろすようになったのだ」


「パンツ見せつけてどんな気分ですか?」

「これはこれでなかなか悪くない。むしろ爽快だな。動物園の猿にバナナでも投げ込んでやるような気分だ。他の女子たちも同じだろう」


「じゃあまぁ放っておけばいいんじゃないんですか」

「そうもいくまい。教師に知られれば問題化は避けられない。彼女らの耳に入る前に対処しなければなるまい」


「といってもどうするんです? のぞき禁止とかの張り紙をしても効果無いと思いますけれど。かといって、僕たちで見張るというのも難しいですし」

「なに、話は簡単だ。ここに防犯カメラを設置すればいい。女子のパンツを見て鼻の下を伸ばしてる間抜け面が公開されれば、誰も寄りつかなくなるだろう」


 葵はスマホを取り出して大輝のアホ面をパシャリと写真に収めた。



 結局、葵の読み通り、のぞきの警告と防犯カメラの設置を告知するプリントを配布したことで男女ともに北階段に寄りつく者はいなくなった。実際に設置したカメラはダミーだったのだが、それに気づいた生徒は誰もいなかった。

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