閑話5.7 はじめてのお泊まり

 大輝は、今、明日香の部屋にいた。

 風呂から上がってみれば、着ていた服は洗濯されていて乾燥機にかけられていた。代わりに置かれていたのは男物の浴衣だが、そもそもパンツすら洗われてしまったために、裸に浴衣だけという格好にならざるをえなかった。


 さすがに文句の一つでも言うべきかと思ったのだが、洗濯した犯人、つまり明日香の母は、笑いながら今日は泊まっていくように勧めただけだった。


 手際の良いことに、大輝の家に連絡して外泊の許可まで取っていた。

 大輝はハメられた気がしたが、今更どうしようもない。

 泊まるのも、明日香の部屋だという。

 さすがに困ると伝えたのだが、逆にコンドームを手渡されただけだった。


「ちゃんと避妊するっていう形を見せた方が女の子への好感度は高いのよ。でも、一個しかあげません。盛り頃の子たちだもの。一回じゃ満足できないわよね。コレがなければナマでするしかないけれど、ヌルヌルになった粘膜同士を擦りあわせるのってすごく気持ちいいのよ。きっと猿みたいに一晩中、ヤリっぱなしになっちゃうでしょうね」


「どんなにそそのかされてもやりっませんから!」

「あら、据え膳食わぬは男の恥よ。いい、大機君。据え膳食われない女の子の気持ちを考えてみて。明日香に恥をかかせちゃだめよ」

「だからしませんってば」


 こんなやりとりをしているうちに明日香も着替えてきた。ちょっと大きめのパジャマに湯上がりの火照った顔はよく似合っていて、大輝は先ほど彼女のバスタオル一枚の姿を見ていたとはいえ、ドキっとした。


「大輝……おまたせ」

「明日香、大輝君は泊まっていくことになったから、あなたの部屋に泊めてあげなさいね。用意はしといたから」

「うん……わかった……」


 明日香の反応はごく普通のものだった。あらかじめ大輝が部屋に泊まるということを聞かされていたのだろう。少し緊張しているようだが、それだけだ。

 実際に両親が家にいて間違いが起こることはないだろう。もし何かあれば、先ほどのお風呂で合体していたことだろう。


 大輝も安心して明日香の部屋へと向かったのだが、二人とも彼女の母のことをやや甘く見ていたのは否めなかった。

 部屋に入って絶句したのは明日香が先だった。


「話が違うよ……」

 部屋は明日香のベッドがあるだけだった。そこに枕が二つ置いてある。一つは元々彼女のもので、もう一つはハートマークに「YES」と書いてある、いわゆるエッチをしてもいいという意思表示に使われるものだ。


 明日香は慌てて部屋の中に入って枕をひっくり返した。だが、「YES」の裏もまた「YES」であり、彼女は混乱しながら何度も枕をひっくり返した。


「なにこれっ? だっ、大輝、これは違うの。何かの間違いっていうか、お母さんのいたずらだから!」

 言われなくても事情はすべて察した。そもそも一緒のベッドで寝ることを明日香が頷くとは思えない。おそらくベッドの脇に布団が敷かれているはずだったのだろう。


「ああ、うん。だいたいわかったっていうか、どうしよっか」

 予備の布団を運び込むだけでもあったが、あの母のすることだ。既に先回りして布団に水をかけたりしてることだろう。


「余ってる毛布はあるよね。僕が床に寝るから大丈夫だよ」

「うーん、それじゃあ大輝に悪いよ。お客さんなんだよ」


「でも、明日香が床ってわけにはいかないよ。女の子なんだし、ここは明日香の部屋なんだし」

 二人して困って顔を見合わせた後に、明日香が重い口を開いた。


「なにもしないって言うなら、別に大輝となら一緒に寝てもいいよ……」

「なにもしないなにもしない。うん、指一本触れないから」


 渡りに船というか、明日香の方からそう言ってもらえるのはありがたかった。大輝はこっそり手の中にあるコンドームをぎゅっと握りしめるのだが、浴衣のおかげでしまっておくポケットもない。


 そういうわけで、冒頭に戻り、大輝と明日香は、左右に大きく離れてベッドに腰掛けることになった。

 一緒の布団で寝るということになっても、いざ部屋で二人きりになってしまえば、意識せざるをえなかった。


 緊張しているといえばそうだし、気まずいところがないわけでもない。

 いつもなんとなくすぐ隣にいる間柄とはいっても、さすがに今日ばかりは別だった。


 会話もなく、沈黙だけが続いてる。

 大輝は明日香の部屋の甘い匂いに心拍の速まりを覚える。

 こんな状況で一緒の布団に入ることができるのか。


 そもそも緊張しすぎていて、仮に布団に入れても、朝まで眠ることすらできそうにいなかった。

 何か話しかけた方がいいのかなと思っていた時、隣の部屋から声が漏れ聞こえてくるのに気づいた。


『……ぁっ…………んっ……ぁっぁっ……ぃっ……ぁん……』

 女性のうめき声というか、嬌声のようだ。だんだん声が大きくなっていくのか、それとも耳を澄ましたせいか。

 声の主は明日香の母だろう。一人でしているとも思えず、相手は当然、夫に違いない。


 先ほど目の前にいた二人が、今は隣の部屋でまぐわっていると気づき、大輝は困惑するとともに顔を真っ赤にした。

 明日香も気づいているのかと気になり、横を向けば、彼女も大輝と同じように顔を真っ赤にしてこっちを見ていたところだった。


「ごっ、ごめんね大輝……。その……なんていうか……、お母さんとお父さんが……」

 両親の恥部を説明しきるわけにもいかず、明日香はだんだん声を小さくしていった。


「うっ、うん……。大丈夫。びっくりしたっていうか、夫婦仲がいいっていうのは良いことだし……」

 時計を見ればまだ九時を回ったところだった。いくらなんでも交尾するには早すぎる時間だろう。


「えっと、こういうことってよくあることなの?」

 小さい頃に両親がプロレスごっこしているところを見てしまったというのはよくある話だが、娘が高校生になってもというのはあまり聞かない。二人ともまだ若いからするのはおかしいことではないが、普通はわからないようにするか、ホテルを利用したりするものではなかろうか。


「……うん……あんまり言いにくいんだけど……。夜になるとけっこう声が聞こえてきて……。今日は大輝がいるから遠慮してくれると思ったのに……」

 こう話ている間にも喘ぎ声が聞こえてくる。だんだん激しくなっているのか、ボリュームはクレシェンドだ。


『いいっ!……あんっ、いいっ! もっと激しく……突いてぇ……』

 ただでさえ恥ずかしいことなのに、母の痴態を大輝に聞かれるのは穴があったら入りたいほどで、明日香は俯きながらぎゅっとシーツを掴んだ。


「お父さんは男の子が欲しいってよく言ってて……。お母さんはわたしやお姉ちゃんが結婚すれば息子ができるからってあまり気にしてないんだけど……」


 実際、毎日のようにでやり続けているのだとしたら、明日香に弟がダース単位でできていてもおかしくはない。

 おそらくは避妊しているか、排卵日だけはゴムをつけてるかしてるのだろう。


『いいっ、イクっ、イッちゃうっ、お願いっ、あなたの子種を膣内にちょうだいっ。あっ、あっ、ああっ、いいいっ、イクっイクっイクぅ〜』


 生々しすぎるにもほどがある声が聞こえて、大輝も明日香も沈黙した。

 恥ずかしいとはいっても、聞こえてくるエッチな声に大輝の股間はむっくりと起きあがっていた。浴衣一枚しか着ておらず、おかげでしっかりとテントが張ってしまっている。もう二度も出したわけだが、それくらいで思春期の性欲が収まるわけもなく、むしろもっとしたいと股間が訴え、荒ぶっていた。


 横目で明日香を見る。胸の部分が大きく突き出ていて、パジャマを押し上げている。そのせいかお腹の部分がやや浮いていて、おへそがちらっと見えそうだ。このやわらかそうなおっぱいを触ってみたい。できることなら挟んでもらいたい。そんな邪な妄想が浮かんでくる。


 パジャマを着ているのだからノーブラだろう。普段より胸の位置がやや下がっているのも、エッチな気分にさせられる。

 紅潮して色っぽく見える明日香の顔に、艶めかしく湿った唇。ぷっくりとしたそれは先日のシュークリームプレイを思い起こさせる。


 クリームが甘かったのか、明日香の唇が甘かったのか。むしゃぶりついてまた味わいたい誘惑にかられる。


 見れば見るほど襲いかかりたくなってしまう。

 股間は痛いほど疼いている。

 また抜かなければ冷静になれそうもない。


(トイレにでも行こうかな)

 しかしこの状況でトイレに行くとなれば、何をするのかバレバレであろう。

 このまま悶々とし続けるべきか、それとも恥を忍んですっきりするべきか。

 それを悩んでいると、明日香も股を擦りあわせてモジモジしていることに気づいた。


(これってまさか……)

 トイレを我慢しているという風ではない。明日香の顔は赤いが、目は惚けて色っぽく見える。俯きながら小刻みに股を擦りあわせていて、その度に小さく吐息を漏らしていた。


 大輝が興奮していたのと同様に、明日香も興奮していたのだった。その事実を知って大輝の股間はさらに猛ってしまう。今こそが明日香を押し倒し、童貞を卒業するチャンスなのではなかろうか。


『……あっ……いいっ……あんっ……あっ……』

 と、心臓がバクバク鳴っている最中、再び隣の部屋から艶めかしい声が漏れ聞こえてきた。

 もう二回戦を始めているというのか。盛んにも程があった。


「明日香……その……いつもこんな感じなの?」

「えっ……あっ、うん……。平日はだいたい……。仕事がある日は早めに寝なきゃいけないから零時くらいまでだけど……」


 まだあと三時間近くも隣の喘ぎ声を聞き続けなければならないのは拷問に近かった。ただでさえパジャマ姿の明日香が隣にいるのだ。もし、襲いかからないでいられるとしたら、自分を誉めてやりたいくらいだ。


 いや、今日は土曜日なのだ。零時で終わるはずがない。さすがに朝までヤリっぱなしということはなかろうが、日付が変わるまでの我慢では済みそうもない。


「テレビをつける? ボリュームを上げれば声は聞こえなくなるけど……」

 当然の案ではあったが、ここでテレビの音で誤魔化すのは負けたような気がして嫌だった。喘ぎ声が聞こえてくるほどだ、テレビの音も筒抜けになるのだろう。それでより長い時間頑張られるのも痛し痒しというものだ。


「もうちょっと、我慢できなくなってからでいいんじゃないかな」

 もう既に我慢の限界のような気もしたが、大輝はとりあえずそう言った。

 とはいえ別にやることがあるわけでもない。おしゃべりでもしてればいいが、互いに気まずくて何を話していいかわからなかった。


 それどころか股間はスクランブル状態なのだ。早く射精したい、できれば女の子の体内に入りたいと、痛いほど勃起して訴えてくる。

 押し倒せ、胸を揉め、舌と舌を絡ませて体液を交換しろと心の悪魔が叫ぶ。


 やはり恥を忍んでトイレに駆け込むべきか。もう一度抜きでもしなければ落ち着きそうもなく、このままでは明日香を押し倒してしまう。それは最大限の好意を見せてくれた彼女を裏切ることになる。


 とはいえ、パジャマ姿の明日香の姿は本当に魅力的だった。胸やお尻はもちろんのこと、肩やお腹も丸みを帯びていてやわらかそうだった。

 パジャマ越しのノーブラおっぱいを揉んでみたい。できれば挟んで欲しい。

 そんな邪な感情ばかりが浮かんでくる。


 明日香は恥ずかしそうに俯いているが、相変わらず小刻みに股を擦り合わせている。

 大輝もたまらないのと同じように、明日香も興奮しているのだった。

 少しくらいなら触っても大丈夫かもしれない。

 大輝はベッドの上に乗り出し、ねじり寄るように明日香の方へと近寄っていった。


「大輝……?」

 その行動に明日香は驚いたような表情を見せたが、すぐにぎゅっとシーツを掴んで逃げたい気持ちを押さえつけた。


 普段の優しい大輝はそこには居らず、性的に興奮し、メスを押し倒すことだけを考えている怖いオスがいるだけだった。

 そんな大輝を見て明日香は恐怖心から身が竦んだが、心の奥底では彼に押し倒されたいという気持ちもあった。


「明日香……」

 もう既に手を伸ばせば触れられる距離に大輝はいた。触ってみたいのはもちろん、圧倒的にパジャマを盛り上げているおっぱいだった。


 いつもゆさゆさ揺れているもの。何気なく肩や背中に当たる感触。

 それを実際に手で触って確かめてみたい。


 もうそれだけを考えて、大輝はゆっくりと手を伸ばした。

 あと数センチ、いや、一センチという距離で、大輝の手からぽろっと何かが明日香の膝の上に落ちた。


 二人とも一斉にそれを見た。

 手からこぼれ落ちたのは明日香の母から手渡されたコンドームだった。


 大輝は硬直する。

 それはもう彫像か何かというくらいに。


 手に持っていたのは避妊具であり、エッチをする以外に使い道もない。水一リットルが入る非常用の水筒と誤魔化すのには無理がありすぎる。言い訳できる余地はほとんどない。


 明日香の母に手渡されたことを大輝は呪うが、その場で処分しなかった自分に落ち度がないとは言い切れない。そもそも、少しは期待しなかったわけでもない。


「えっと、そのっ、明日香っ……、ちっ、違うんだ……」


 しどろもどろになりながら大輝はとりあえず口を開くものの、なにが違うというのだろうかと自嘲する。

 明日香はコンドームを見つめながら硬直し続けていて、見るからに軽蔑されてそうだった。


「……大輝はわたしとエッチしたいの?」

 ところが、ようやく重い口を開いた明日香は、大輝の予想もしないことを口にした。


「えっと……そのっ……、したいか、したくないかと言われれば、したくない男なんていないと思うけど……」

 対する大輝の返事は、女の子を口説くのだとすれば酷いものだった。


「……男の子だもん、しょうがないよね……。大輝……すごい顔してるよ? そんな顔、初めて見た。それに、下もすごいことになってるし……」


 明日香はちらっと大輝の股間を見て頬を赤らめる。

 ノーパンに浴衣一枚だからか、いつもよりも形がくっきりと股間にテントを張っていた。これではいくら言い訳したところで無駄だっただろう。


「……大輝が責任とってくれるっていうなら……シてもいいよ……」

 沈黙する大輝に、明日香は予想外のことを言った。


(責任って……重いよ明日香……)

「それって付き合ってこと?」


「ううん……赤ちゃん出来たら……その……結婚して

くれるかなって……」

「ちょっ、いきなり飛躍しすぎじゃない? ちゃんとゴム付けるし、避妊するよ?」


「……でも大輝、コンドームってこれ一個だけでしょ。お母さんから渡されたやつ」

「まっ、まぁそうだし。普段から持ち歩いてるわけないし、明日香とそういう風になるなんて思ってもみなかったから」


「それ、お母さんの罠だよ。ねぇ、もしコレがなかったら、大輝はわたしとする気になった?」

「……たぶん、我慢してた……」


「でしょ。でも、きっとシちゃったら、一個じゃ足りないよ。もっとシたくなって、きっと朝までヤリっぱなしになっちゃうと思う。最初は外に出してても、いつの間にか中でするようになっちゃって……」


 今の状況なら、タガがはずれれば最後までエスカレートしてしまうのは確実だった。隣と競うようにやりまくるのは軽く想像につく。とはいえ、安全日なら出来るはずもないのだが。


「ごめんね。そろそろ危ない日だから……。だから余計に疼いちゃって……」

 母娘で同時に妊娠、なんてことになったら冗談にもならなかった。


「明日香が謝ることじゃないって。ほんとこういうのよく考えずにしちゃうなんて男として最低だった。明日香のことは大事にしたいし、雰囲気に流されてとんでもないことをするところだった。ごめん……」


 大輝は素直に頭を下げるものの、息子の方が落ち着いているというわけではない。むしろ目の前の女の子を妊娠させろと荒ぶっているほどだった。


「だっ、大丈夫だから。こっちは別人格っていうか。我慢できるから」

「……いいよ、トイレに行ってきても。そのままだとつらいでしょ。本当はわたしがシてあげてもいいんだけど、きっとそれだけじゃ済まなくなっちゃうから」


 気を利かせてくれた言葉は、トイレですることを見通されていたが、ここまで言ってくれたからにはかえって遠慮する方が悪い気がして、大輝は足早にトイレへ駆け込んだ。


 その間、明日香も一人でシていたというのは、いっぱいいっぱいだった大輝には思いもよらないことだった。

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