閑話3.7 ラブホテルの過ごし方
なぜか今、大輝はラブホテルの一室にいた。
シャワーを浴びてバスローブに身を包み、どうしてこうなったと戸惑いつつも、一人ベッドに腰掛けて、壁に掛かった自分と真由の服を見つめていた。
なにがあったと言えば、それは壁に掛かっていた服が物語っている。びしょびしょに濡れたそれら。
ボートから転落して池に落ちたというわけではさすがにない。
ベタなことではあるが、バケツをひっくり返したようなゲリラ豪雨に遭遇してしまい、雨が上がった後に移動した先がここ、ラブホテルだったというだけだ。
びしょびしょになった服を乾かすために、ホテルに入る。まぁ、普通なことだろう。
さらに濡れた体を温めるためにシャワーを浴びる。服は備え付けのバスローブを使う。
どこをどう考えてもおかしいところはない。
ここがラブホテルでさえなければ。
ラブホテルといっても、部屋がピンクだったり、回転ベッドがあったり、ミラーボールがあるわけでもない。安い部屋を選んだために室内は狭く、家具はダブルベッドしかない。
寝るだけだからといえばそれまでだが、枕元に置いてある四角く薄いアレを見れば、ここはひたすら男女がまぐわう所としか言いようがなかった。
先に風呂から出てきて気づいたのだが、どういうわけかベッドの上にはイチゴ柄のブラジャーとパンツが置いてあった。
(わざとだ。絶対わざとだ)
脱いで忘れたということはないだろう。大輝にすぐ見られる場所に放置するということもない。
ブラは湿っているだろうが、パンツはそこまで濡れているはずがなかった。
そういえば、雨で濡れて透けたブラがものすごく色っぽかったのを思い出す。
乾かすべきなのかもしれないが、そもそも真由ならノーブラで帰るつもりなのかもしれない。
慣れているのも変な話だが、大輝は真由の下着なら見慣れ使い慣れていた。もとい、散々、お世話になっていた。
こうやって放置されていると、つい手にとって匂いを嗅いでしまいそうになるが、さすがにそれは真由の罠というものだろう。
先にシャワーを浴びたのはどうだったのか。
てっきり真由が乱入してくると恐れてもいたのだが、残念なことにそんなことはなかった。
二人で浴槽に入ったり、洗いっこするのにも十分な広さがあるのだが。
「やぁやぁ、待ったかい?」
いろいろと逡巡しているうちに、真由が浴室から出てきた。
格好は大輝のそれと変わりがない。素肌にバスローブを羽織っているだけだ。髪はドライヤーを使っていないためにまだ濡れそぼっている。タオルを頭からかぶっていたが、元々ショートヘアなため、大輝と同様にすぐに乾くだろう。
問題は、大輝がパンツを穿いているのとは異なり、真由は正真正銘、上も下もバスローブの中は裸だということだった。胸元から真由の豊かな丸みが覗いている。胸の谷間は思わず挟んでほしくなるような柔らかさと張りがある。
「思ったより早かったですね」
「まぁ、雨水を洗い流すだけだからね。念入りに体を洗ってもよかったんだけど、そうするとついついオナニーに没頭しそうでさ」
「ちょっと待ってください。どこを入念に洗うつもりだったんですか。ってか、その必要ないですよね?」
「さぁ、どこだろうね。汗かいたおっぱいの谷間とかかもしれないよ?」
そう言って真由は腰に手を当てて体を前屈みにし、おっぱいを強調した。無防備なバスローブの胸元から、二つの山が垂れ下がり、大輝の目の前でゆさゆさと揺れる。ちょっとしたことで大事なピンクの輪っかや突起が見えそうになり、大輝は頬を赤らめて目を逸らした。
「かっ、からかわないでくださいよ。ただでさえこんな所に入ることになって気が気でないっていうのに」
「こんな所? ただのビジネスホテルだよ?」
「枕元に避妊具置いてあるビジネスホテルなんて知りませんけど」
「ここ、一応届け出はビジネスホテルなんだよね。だからボクたちが入っても違法じゃない。おかげでよく使わせてもらってるんだ」
「違法じゃないんですか?」
「おもいっきりグレーゾーンだね。ほとんど真っ黒? でもボクたちが犯罪を犯してるわけじゃないし」
「そういう問題じゃないと思うんですけど……」
大輝はじと目で言うが、真由は気にせずまだ濡れている服を手に取った。
「乾燥機付きのラブホってありがたいね」
「今、ラブホって言いましたよね?」
真由はそのままスルーして大輝の服と一緒に、脱衣所の方へと戻っていった。
「さて、服が乾くまでなにしよっか」
「ナニって、何もしませんし。適当におしゃべりして時間を潰すくらいしかできませんから」
「ん? そっか、大輝くんはナニしたいのか」
「しませんから!」
微妙にして当然な勘違いから、真由はによによと笑うが、いつものように過剰なスキンシップはせず、むしろ何かを見つけ、目を輝かせてそっちの方向へ向かった。
「大輝くん、大輝くん、こんなのまで売ってるんだね?」
それは自動販売機だった。大輝はあえて見ないようにしていたが、売り物は大人のおもちゃだ。ピンクの卵状のものから、男性の性器を模したもの、単なる細長い棒のものもある。また大きなマッサージ機もあった。他にはコンドームやローションなんてものもあった。
「だからどう見たってラブホじゃないですか」
「そんなことはどうでもいいんだよ。ねぇ、ねぇ、すごいよね。うっはー、こんな大きいのがボクのに入っちゃうのか。本当かなぁ?」
真由は頬を赤らめながらも、ものすごく嬉しそうにおもちゃを見つめていた。
「あの、イメージ的に真由先輩ってそういうのを持ってると思ってたんですけど」
「あ、それ酷い。通販があるから買えなくはないんだけど、さすがに自分の部屋にこんなのを置いておくわけにもいかないしねぇ? まぁ、ピンクローターは持ってるんだけど」
「やっぱり持ってるんですか!」
「振動が気持ちいいんだよね。あと、自分の手じゃないから、無理矢理犯されてる感じがして興奮するんだよ。イッたばかりなのに、刺激され続けるんだよ。自分の手だとさすがに止まっちゃうからね」
「聞いてないです」
相変わらずあけすけなのは、ご褒美でもあるが、童貞高校生には毒気が強すぎる。
しかし、真由は喜々としておもちゃを眺め続け、そのうち一つを購入してしまった。
選んだのはややサイズが小さめな、男性器を模したものだ。色はグリーンだったが。
「うひゃー、買っちゃったよ。ねぇ、ねぇ、どうしよう?」
どうしようと言いつつ、真由は箱を開けてそれを取り出した。
「うはっ、すごいよね。男の子のおちんちんってこうなるのかぁー」
真由はうっとりと眺めて言った。
「いや、もうコメントに困ること言わないでくださいよ」
「ねぇ、大輝くんのもこれくらいの大きさなのかい?」
「ノーコメントです!」
ややサイズが小さめとはいえ、それはあくまでバイブの話であり、大輝のものと比べれば遜色はないが、彼の名誉のためにも断言しておくが、彼のものが小さいわけではない。平均サイズだと書いておく。
「さっき触った感触だと……、うん、たぶんこんな感じだよね」
無遠慮に、真由はバイブの竿を指先で、サイズを確かめるように撫で回した。
その指使いがあまりにも艶めかしく、大輝は思わず生唾を飲み込むとともに、股間に血が集まってくる感覚を押さえることはできなかった。
「男の子ってココが気持ちいいんだよね」
真由は段差がついた裏側を指で前後に撫で回した。
「なんで知ってるんですかっ」
「そりゃねぇ、イロイロと勉強してるからさ。耳学問だからいまいち実感ないんだけど、そっか、ここが気持ちいいのか」
大輝の反応を見て、真由はにんまりと微笑み、焦らすようにそれを擦り続けた。
「あれ? もしかして勃っちゃった? にしし。ねぇ、見比べさせてくれるなら、気持ちいいことしてあげるけど、どうする?」
「いらないです、いらないですから!」
大輝は思わず股間を覆うように両手で抑える。
バスローブを着ている故に、膨らんでしまえば真由からも一目瞭然だったかもしれない。
「恥ずかしがらなくてもいいのに。オカズを交換しあった仲じゃないか」
そう言って、今度は大輝を挑発するように、おもちゃの裏筋に舌を這わせた。
「そんなっ、汚くないですかっ?」
「大輝くんのなら大丈夫だよ? シャワー浴びたばっかりっていうのもあるけど、それでなくても、ね」
見せつけるように真由はバイブをぱっくりとくわえる。アイスキャンディーを嘗めるようにじゅぽじゅぽと音を立てはじめた。
「ちょっ、さすがにそろそろマズいんじゃ……」
「ん、我慢できなくなっちゃう? ボクもだけどね」
先端に唇を当て、キスをしながら真由は言った。
「あんまりにもいやらしい形してるから、入れたくなっちゃうよ。でもさすがにこれを入れたら処女膜破れちゃいそうだしなぁ。ねぇ、バイブで貫通させても生娘には変わりないよね?」
「さ、さぁ……?」
「うーん、でもやっぱり初めては男の人のがいいなぁ。ってことは、これは入れられないネ。割れ目に擦りつけるだけしかできないなんて、ちょっとせつないなぁ」
大輝は真由がおもちゃを股間にあてがっている姿を想像して、ごくりと唾を飲み込んだ。
と、真由はポチリとスイッチを入れて玩具を動かす。
ウインウインと唸るような音をたてながら、玩具がウネウネとのたくる。
その卑猥な動きに真由は頬を染め、大輝もとても直視できなかった。
「うわっ、こんな風にボクの体内をかき回すのか。これはヤバい、ハマっちゃいそうだよ。ねぇ、大輝くん、ボクのためにも、セックスしてくれないかい?」
「ちょっちょちょちょっ、ちょっと待ってください。どうしてそんな話になるんですか」
「だって、処女さえ失えば、あとはコレを入れたい放題じゃないか。大輝くんがボクを抱いてくれなくても、いつでもコレを大輝くんだと思ってオナニーできるしね。ねぇ、後生だからボクとしようよ。きっとすごく気持ちいいヨ」
そう言って真由は大輝に顔と体を近づけてきた。
「いやもうほんと、正気に戻りましょう? こういうことするにはもっとムードとか大事だと思うんです。なにせ一生の思い出になる初めてなんですよ?」
大輝は思わず背中を仰け反らせ、真由はそれを追いかけるために、バスローブの前が弛んで、はだけつつあった。
おっぱいの形はほぼ露わになっている。かろうじて大事な所だけは隠れているが、それが見えるのも時間の問題のように思えた。
唇と唇が重なりあう寸前で、真由の体が止まる。
最後の一押しは大輝からしてほしいという催促だったのかもしれないが、長い数秒の沈黙の後に、真由の口が開く。
「そっか、ムードが足りないっていうならしょうがない。でも、大輝くんも辛抱ならないんじゃないのかな」
真由は視線を落とし、大輝の膨らんだ股間を見つめる。バスローブに覆われているとはいえ、こんもりと盛り上がったそれは隠しようもない。
「我慢できますから!」
「ボクは我慢できそうにない。ほら、もうこんなに濡れちゃってるんだよ?」
そう言って真由は恥ずかしそうに自分の股間に手を伸ばし、ゴソゴソとさせてから大輝の頬に触れた。
ぬるっとしたものが指先についていた。それは真由の股間から掬ったものだ。
知ってはいけない感触に、大輝は絶句するとともに、ピクっと息子が暴れたのを感じた。
「何度でも言いますけど、我慢してください。僕たちまだ高校生なんですよ?」
「高校生だってみんなヤってるじゃないか。早い子なんて小学生のうちに卒業してるよ?」
「そんなごく例外を出さないでください。えっと、ほら、こういうことは結婚するまで大事に取って置いた方がいいと思うんです」
「わかった。じゃあ、急いで結婚しよう」
「だから僕はまだ結婚できる年齢じゃないですってば」
「チッ。しょうがないなぁ。……うん、わかった。今日は諦める。そのかわりに、精子が見たい。男の子が生で射精する所が見たい」
「いや、それ何も状況が好転してないですから。むしろ僕だけ損してませんか?」
「大輝くんだけ恥ずかしくないように、一緒にオナニーしてあげるから。むしろ、ボクが手でしてあげてもいいし、舐めてあげてもいいよ。うん、やっぱり舐めさせてほしい。大輝くんが望むなら、パイズリだってしてあげるから」
目の前の豊かな胸に挟まれるのは、男の憧れではあったが、だからといって軽々しく承諾するわけにもいかない。
大輝は強く首を振って拒絶しようとするが、そもそもこのまま逃げきれるかどうかは怪しいところだった。服さえ乾燥機に放り込んでいなければ、部屋から逃げ出している所だ。
「落ち着きましょう? 本来の目的はこれじゃなかったはずです。手段のために目的を忘れてはいけないはずです」
真由は既に自分で股をいじりはじめていたが、大輝の説得に「うん」と、小さく頷くと、渋々ながら大輝に覆い被さろうとするのをやめてくれた。
ふぅ、と大輝は一息をつき、とりあえず虎口から逃れたことで安堵した。
結局、その後にも一悶着あって、大輝は穿いているパンツを真由にプレゼントすることになったのだが。
なんとかホテルから脱出できた大輝だったが、入口を出た所で二人の見知った少女が待ちかまえていた。
彼女らは葵と明日香だ。二人とも頬を頬を膨らませ、腰に手を当てて大輝を睨みつけている。
ズゴゴゴという効果音でも背負っているかのように大輝には見える。
「どうして二人とも……?」
「それはこっちの台詞だ。お前らは、こっ、こんな破廉恥な所に入って、いったい何をしてきたというんだ!」
「葵……会長っ、えっと、その、誤解です。雨でびしょ濡れになったから服を乾かすために仕方なく入っただけで、やましいことは何もしてないですよ?」
大輝は早口で言う。
よく見れば、葵は手に折りたたみ傘を持っていた。天気予報でも予告できなかった雨に、よく対応したものだと密かに驚かずにはいられない。
「五回もシてきただと? 大輝、見損なったぞ。こんな奴の色香にほだされて。お前は女なら誰とでも寝るのか」
うんうん、と、隣の明日香が力強く頷く。
「違いますって。勘弁してくださいよ。本当に何もなかったんですから。真由先輩からも説明してくださいよ」
「やだなぁ、大輝くんも照れちゃって。ラブホから出てきた所を見つけられちゃったわけだし、この際、正直に告白しようよ。うん、大輝くんはすごかったよ。ボク、初めてなのに何回もイかされちゃった。途中でゴムが切れちゃったのに、まだシたりないって、結局、ボクの子宮にたっぷり膣内射精決めてくれちゃったよね。赤ちゃんできちゃったらどうするんだい?」
真由は頬を染めてお腹をさすった。
その様子を見て、葵も明日香も絶句して、ただ口をパクパクさせるだけだった。
「ちょっ、真由先輩、何デマを飛ばしてるんですか! 嘘ですからね、ほんと、嘘ですから! 指一本触れてないって神様に誓って言えますから。信じてください」
大輝は真っ青な顔で両手を振りながら弁解するのだが、残念ながら大輝の主張は葵たちの耳には届かなかった。
「もう、大輝くんったら照れちゃって。男らしくないゾ。こんなとこ見られたら、どうやっても誤魔化しようもないんだから、ボクとラブラブだって公表しちゃおうじゃないか」
そう言って真由は、葵たちに見せつけるように大輝の腕に抱きつき、大きな胸を押しつけてきた。
「ちょっ、真由先輩、さすがの僕だって怒りますよ?」
大輝はできるだけ憤然と言おうとするのだが、当たっているおっぱいの感触に頬はどうしても弛んでしまう。
「破廉恥です! 部長、いったいこんな所で何してたんですか!」
と、突然ながら新たに乱入してきた女子がいた。
こちらは葵とは違い、全身びしょ濡れだった。そう、ちょうどホテルに入る前の大輝たちと同じように。
不意な闖入者に大輝は驚く以上に困惑していたが、すぐに彼女が誰なのか思い出した。
「あれ、副部長さんですよね?」
「それはこっちの台詞だよ。瑞樹こそどうしてこんな所にいるんだい?」
ここは繁華街のはずれの、ラブホテルや風俗店が立ち並ぶ地域だった。普通の高校生が歩き回る場所ではなかった。
「それは、部長が怪しい男と一緒に変な方向に歩いているからじゃないですか。後を付けたらラ、ラブホテルなんかに入っていくじゃないですか。出てくるのを待ちかまえてたって不思議じゃないです」
「うーん、じゃあ、ボクたちを見つけたのはどのあたりからだい?」
「それはもちろん、駅前の商店街に決まってるじゃないですか」
「びしょ濡れになってラブホの方へ行こうとするボクらを、たまたま商店街で見かけたから、後を付けたってことかな?」
「そうですよ。それの何がいけないんですか?」
「おかしくはないよね。でも、瑞樹はいつ雨に濡れたんだい? ボクらは公園でゲリラ豪雨にあって、雨がやむのを待ってからここに来たんだけど」
「あっ」
商店街を歩いている頃は晴れていた。瑞樹が大輝たちと同じようにびしょ濡れになっているはずがない。
そのことを指摘され、瑞樹は失敗したことを悟り、絶句した。
「商店街にずっといたなら、そんなに濡れるはずがないよね。お店の中に逃げ込めばいいんだから。そんなびしょ濡れになって、商店街に行くなんてこともないだろうし。さて、ボクたちを見かけたのはどこだい? そして、びしょ濡れになったのもね?」
「どういうことなんですか?」
いまだに事情がよく飲み込めていない大輝が訊ねた。
「そこの葵みたいに、最初から尾行でもしてない限り、ずぶぬれになったままラブホまでついてくるのは考えにくいってことだよ」
「あっ、そういうことですか」
仮にそれ以前のタイミングで大輝たちを偶然見つけたとしても、普通にデートしているだけにすぎない。本来、中立派の瑞樹がわざわざ尾行する理由はないだろう。
「こんなことになってるなら、葵に二重尾行を頼んでおくべきだったよ。道理で妙に視線を感じるわけだ。まさか三人から見られてたなんて」
「ん? ちょっと待ってください。本来は犯人……、副部長さんをおびき寄せるつもりだったんですよね?」
「そうだネ。いや、本当に来るとは思ってなかったんだよ。ただ普通に大輝くんとデートを楽しむための口実だったんだけど」
「で、なんで葵会長まで尾行してたんですか?」
「それは当然だろう。大輝は生徒会のもの。つまり、私の所有物だからな。真由に頼まれて貸してやったが、粗相をしないかどうか監視するのは当然だろう」
なんとなくあちらこちらの謎が氷解してきて、大輝はやっと合点が行った。
「ボクは知らなかったけどネ。まぁ、そっちはこの際置いておいて。まさか、瑞樹が仕掛け人だとは気づかなかったよ。君はボクのことなんか興味ないと思ってたけど」
「そんなことあるわけないじゃないですか! 水泳部に部長のファンじゃない人なんているはずがありません。でも、部長やみんなのために、私はあえて部長を好きじゃない振りをして、副部長の役を引き受けたんですよ。
それなのに部長は私のことなんかちっとも構ってくれないし、挙げ句の果ては外に男を作ってデートですって? 馬鹿にするのもいい加減にしてください!」
大輝と葵、そして明日香は互いに顔を見合わせる。
真由は困ったような顔をして、頬を指先で掻いた。
「ああ……うん、ごめんなさい……。まさか瑞樹がそんな風に思ってくれてるとはつゆにも思わなくてサ」
目尻に涙を貯めている瑞樹を、真由はおいでおいでと手招きして抱きしめた。
もう限界だった瑞樹は真由の胸に抱かれると、大声をあげて泣きじゃくった。
真由はそんな彼女をよしよしと慰めつつ、大輝たちの目の前で唇を重ねる。
大輝はもちろん、葵や明日香も頬を赤らめて目を丸くしてそれらを見た。
「まぁ、そういうわけだし、瑞樹もびしょ濡れだから、もう一回ホテルに行ってくるネ」
真由はそう言って、瑞樹の肩を抱きながらホテルへと消えていった。
その後どうなったのかはわからないが、大輝相手に晴らせなかった欲求を彼女相手に存分に解消したに違いない。
元々、事件の解決が目的だったために、これでお役御免となって、めでたしめでたしと大輝は言いたいところだが、なんとなく振られた格好になって釈然としないものはあった。
しょげている大輝の肩を葵が叩き、三人一緒に退場することになった。
一応、駅前の喫茶店で大輝がケーキをご馳走するはめになったのだが、これはまた別の話だ。
後日談というか、今回のオチ。
真由と瑞樹が仲直りしたことで、ギスギスしていた水泳部は元通り、真由のハーレムに戻ったようだ。
元々、水泳部は、ハーレムからハブられている副部長のことを気遣ってやれない部長が悪い派と、部長は何も悪くない派で、部内が二つに分かれていたようなのだが、瑞樹が改めて真由のハーレム内に入ったことで全ての問題が霧散した。
ほかの数名の中立派も、この際に全員、瑞樹に同調してハーレム入りすることになった。
水泳部は、リーダーシップと事務能力の高い瑞樹が、新ためて作られた真由のファンクラブ会長に就任したことで、より部員同士の仲は良くなったようだ。
これでよかったのかなー。
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